懐刀の底力
手入れ師である鈴は、広間でぐったりと横になっていた。
そんな鈴の周りには心配そうな表情で短刀達が側におり、鈴の体の一部に手を当て、自分達の神気を鈴に注いでいた。
鈴の霊力不足を補うこの行為には、理由があった。
脇差一振り、打刀四振りへの連続した手入れ。
五振りの刀剣への手入れは鈴にとって、苦ではない。
だが、それが酷い中傷以上の打刀四振りは、鈴にとっても厳しいモノがあった。
しかも、連続での手入れであった為、鈴の霊力は急激に減り、霊力不足に陥り、意識はあるものの、自力で座っていられない程だった。
そんな状態になってしまった鈴に責任を感じた新撰組の刀である加州達は様々な案を出した。
「お姉さんの体温も下がって冷たいし、俺の足の間に座らせて、俺が後ろから抱きしめたら良いんじゃないかな?!」
こう言ったのは、加州だった。
名案だ、と言わんばかりにそう言った加州に一部を除いて"何言ってるんだ、こいつ"と、そんな意味を込めた視線を送った。
だが、加州を含め一部の者は、その視線に全く気が付かなかった。
その一部の者とは、加州と同じ新撰組の刀達で、その加州の言葉に唯一、賛成している刀達。
他の刀を余所に自分達だけ話しは盛り上がり、周りの様子は目に入っていないようだった。
だが、相手は加州や大和守、堀川。
この面子では、口を出すのも忍びなく、多少モヤモヤした気持ちで見守っていたのだが、話しは不穏な流れになってしまった。
原因は大和守の一言にあった。
「清光じゃ体薄いし筋肉も少ないから、あまり役に立たないんじゃない?」
「あー…、それもそうねー…」
「確かに僕の兄弟は筋肉量が多いから体温が高いかもしれないです」
「うーん…、筋肉…、じゃあ和泉守か長曽袮さんかぁ」
「俺は構わんが…」
「そねさんが良いって言ってんだから、そねさんで良いんじゃねーか?」
その言葉で話しが纏まろうとした瞬間だった。
そんな事許すか!!と、まず短刀が食いついた。
それに続くように左文字は、圧力のある目力で新撰組の刀を睨んだ。
伊達や三条は、笑っていたのだが、目が笑っていなかった。
その様子に気付かない程、新撰組の刀は鈍くない。
瞬時に彼等にとっての地雷を踏んでしまった事に気付いた。
気付いた事は気付いたが、その地雷が何かには、気付かなかった。
気付いたからには、謝るしかなかった。
さっき自分達が言った事は流してくれ、と、必死になって訂正した。
そのお陰か、無事にその場は治まりつつあり、ホッと一息ついたが、問題は今にも死んでしまいそうな顔色で柱にもたれ掛かっている鈴だ。
いつまでも、こんな風に脱線している訳にもいかず、あれこれと考えている現状に痺れを切らした刀がいた。
金髪の髪を靡かせ、持ち前の機動で鈴に駆け寄ると、彼女を抱き上げ、その場から走り去ってしまった。
金髪の刀剣、乱の突然の行動に何が起こったのか、情報処理出来なかった、他の刀剣男士。
だが、はっ、と我に返ると、乱の後を追うと、鈴の側に座り、自分の神気を鈴に分け与えている、乱の姿があった。
そんな乱を見て、いち早く行動に移したのは、粟田口の短刀達。
乱に倣い、今の状況になった。
大人の姿をしている刀達は、短刀とは違い、何をしていいのか分からず、オロオロしていた。
だが、時間が経てば冷静にもなり、やるべき事を見付け、行動に起こした。
鈴が起きれるようになった時に何か口にする物を、と、燭台切が厨へ向かうと、大倶利伽羅、宗三、江雪も向かった。
残った者は、浴室の掃除へと向かい、以前は洗濯担当をしていた堀川が昨日出した汚れ物の事を知ると目をキラキラさせ、洗濯室へと駆け出して行った。
その場に残った者も堀川の手伝いに向かったり、浴室へ向かったりと広間から出て行った。
最終的に広間に残ったのは、横になっている鈴と短刀達。
ぐったりしている鈴を見た時の大人の姿をした刀に、思わず笑みが零れたのだが、それを知るのは自分達しかおらず。
内緒、と、口元に人差し指を当て、鈴の頬を優しく撫でた。
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