彼の人を想う


広間へ行く時に既にジャージを着ていた鈴と、最初から内番服を着ていた大倶利伽羅を除いた者達が内番服へ着替える為に部屋へと戻り、広間には鈴と大倶利伽羅だけが残った。
湯気の立つ湯呑を片手に持ち、彼はじっと鈴を見詰めていた。

さり気無くではなく、少々鈍い鈴ですら気づく程、あからさまに。

勿論、鈴も気付いていた。

だが、どうすれば。
どう言えば分からず、その視線に気付かないフリをし、お茶を啜った。

大倶利伽羅と二人っきりになるのは、随分と久し振りな気がした。
最後に二人で過ごしたのは、三日目のあの時以来。
しかも、その時に頭にキスをされた。

出逢って早々に唇を奪われたが、その時とは違うキスに戸惑ったのは、記憶に新しい。
あれから、一人になった時、あのキスの事を考えたりしたが、彼が何を想って、何を考えてあんなキスをしたのか全く分からず、悶々としたまま過ごしている。

今だってそうだ。
何で自分をそんなに見ているのか分からない。

それとさっきの事。
どうして名乗り出たのだ。

ただ切るだけ。
自分には何て事無く、血だって怖くないし、躊躇ったりしない。
切る場所をちゃんと見極めれば、痛みは最小で済む。

だから自分一人で出来たのに大倶利伽羅は自分がやると言い、譲らなかった。
彼は引く事をせず、本体を使い、自分の体を切った。

その前の彼の表情も、考えれば少し引っ掛かる。

どうしてあんな表情をしたのだ。
悲しそうな、辛そうな、泣きそうな。

どうして、そんな表情を。


「いっ…、っ、」


考える事に集中し過ぎたせいか、うっかり切った方の腕を握り締めてしまい、痛みで声を出してしまった。
痛みが最小の場所を切ったとはいえ、正直なところ、痛いものは痛い。

紙で指先を切るだけでも痛いのに、腕の皮膚。
しかも薄い所を切れ味の良い刃で切ったのだ。
痛みも当然強い。

薬研にきちんと手当てはしてもらったが、さっき握り締めた時に傷口が開いてしまったようで、じわり、と血が滲んでしまった。
幸いにも処置道具は、まだ広間に置かれたままだった。

鈴は道具箱を手元に持って来るとジャージの上着を脱ぐと、巻かれた包帯を見た。
真っ白だった包帯には、赤がじわりと広がっていた。

包帯を外し、赤に染まったガーゼを取ると、傷口から、血がたらり、と筋を作って垂れた。
それは運良く、外した包帯の上に落ち、鈴は机の上を汚さずに済んだ事にホッと息を吐いた。
包帯やガーゼを外す時に、ちゃんと傷口を抑えるモノを用意するべきだった、と、後悔もしたが。

その時だった。
大倶利伽羅が慌てたように鈴の側に寄り、タオルを鈴の傷口にグッと圧し当てた。


「痛むか…?」

「っ、ええ、少し、だけ」

「こんなに流れるものなのか?」

「いえ、ここまでは…、先程腕をちょっと握ってしまって…、それで開いただけですから」

「そうか…」


傷口を圧迫しながら、鈴にそう訊ねた彼の声は、小さく、焦ってるようにも聞こえた。
ちらり、と、横目で彼を見ると、彼は目を細め、まるで自分の事のように辛そうにしていた。


「あんたは本当に無茶をする」

「そう、でしょうか?」

「ああ…、それと俺の斜め上の行動ばかりする」

「申し訳ないです…」

「普段からそうなのか?」

「…、何が、でしょうか?」

「現世に居た時もこんな無茶をしていたのか?」


彼の質問に鈴は現世に居た時…、手入れ師になる前の事を思い出した。

何か無茶な事をしただろうか?
男兄弟で育ったからか、行動は少々、男っぽく、女性らしさは少ないかもしれない。
だが、そもそも無茶とは一体、どのレベルの事を云うのだろうか。

プールで溺れていた子供を救助した時の事?
街を歩いていた時、引っ手繰り犯を辞書の入ったバッグで思いっきり殴って潰した事?

思い出せば出す程、どれもが無茶な行動に思えてしまい、彼の問い掛けに答えられずにいた。


「…、あんたのそれは、昔からか」

「そう…、みたいです…」


いつまで経っても口を利かない鈴に大倶利伽羅は、はあ、と息を吐き、呆れたようにそう言い、鈴はしゅん、として落ち込んだ。

子供の頃の遊び相手と云えば、兄と兄の友人たちだった。
毎日、兄達と走り回り、泥だらけになり家に帰ると良く母親に呆れられたものだ。

唯一の女子供だったのに泥だらけになって帰る鈴に母親は落ち込み、少しでも女の子らしくあるようにとした。
可愛い服を与えてみたり、女の子らしい習い事をさせてみたりしたが、鈴は相変わらずだった。

だが、年を重ねると兄は、妹の鈴と遊ぶ事はなくなり、鈴も鈴で同じクラスの女の子と遊ぶようになった。
だからと言って、鈴は兄を嫌ってなかったし、兄も鈴を疎んでもなく、家では相変わらずの仲の良さで両親は鈴達の関係を疑う程だった。

結局、子供の頃の環境故に鈴は少々、兄譲りの勢いがあり、女性らしからぬ行動をしてしまう。


「もういいだろう」

「ありがとうございます、」


鈴の傷口を圧迫していた大倶利伽羅が一度タオルを外し、傷口を見ると先程より出血はなく最後にタオルを軽く押し当て、血を拭った。
そして、鈴に消毒液を渡し、タオルは血の付いた面を内側にして畳み、机の上に置いた。

大倶利伽羅に渡された消毒液と処置道具の中からガーゼやテープ、包帯を取り出すと手早く傷口を覆っていった。


「平気か?」

「傷口、ですか?」

「いや、体の方だ」

「ええ、今は平気です。昨夜はぐっすり眠れたので体も軽いですし、怠くもありません」


突然、大倶利伽羅が鈴にそう訊ねた。
一瞬、何の事か分からなかった鈴は思った事を彼に訊くと、傷口の方ではなく、体の方だったらしい。

それに対し、鈴は素直に答えた。
嘘偽りなく、本当の事を。

彼、大倶利伽羅には隠し事は出来ない。
ほんの些細な動揺でも悟られてしまう、さっきみたいに。

実際、体に不調を感じていないのは事実だ。

鈴は知らない事だが、昨夜は粟田口のお蔭で、ぐっすりと質の良い睡眠をとれた。
睡眠をちゃんととれれば、大抵の不調はどうにでもなる。

昨日は霊力の枯渇で倒れ、寝入る前までは、正直、体が重くて仕方なかった。
だが、今朝、堀川に起こされ、起きてみると昨日とは比べ物にならない程、体は軽く、今なら三徹ぐらい出来そうなぐらいだった。

そう、素直に答えたのに大倶利伽羅は、どこか不満そうで隠しているなら容赦はしないと言っているような瞳でこちらを見ていた。
正直に、本当の事を云ったのに、こうも信じて貰えないとは思ってもみなく、鈴はどうしたものか、と眉を下げた。

つい先程、自分は無茶をする人間だと、暗に言ってしまったばかりだ。
大倶利伽羅に信じて貰えないのも無理はないのかもしれない。


「……、本当、だな?」

「ほ、本当です…!体も怠くありませんし、頭もスッキリしています!!」」

「嘘はついてないな?」

「ついてません…!!」


鈴は大倶利伽羅の言葉に必死になって肯定した。
その必死な姿の鈴を見て、彼は嘘をついていないと分かったのか、苦い表情を浮かべつつも頷いた。


「嘘じゃないなら…、お前が強がっていないなら、それでいい」


泣きそうな。
そんな表情を浮かべ、そう言った。
その時の大倶利伽羅の声は、安心したような、そんな声だった。
心の底から安心したような、そんな声。

そんな大倶利伽羅に鈴は疑問を感じずにはいられなかった。

どうして。
どうして、そんな安心したような声を…、泣きそうな表情をするのだ。

出逢って五日目の良く知らない人間にどうして。

彼は…、大倶利伽羅は、自分が習ったり、調べて知った事とは違う事ばかりする。


「ど、う…、して…、」

「……、?」

「どうして…、そこまで、私を…、気にかけてくれるんです、か?」


ずっと思っていた事が、ふいに口から出た。

鶴丸から助けてくれた事に始まり、今日に至るまで、鈴の側には大倶利伽羅が居た。
隣に居ずとも、彼の視線はずっと、その身に感じていた。

どうして、そこまで自分を気に掛けるのだ。

鈴のその問いかけに、大倶利伽羅は目を大きく見開いて、鈴から視線を外した。
その表情は困惑しており、鈴はそんな彼から目を離せなかった。

無意識。
彼の今までの行動は、もしかすると無意識だったのではないだろうか。

鈴はそう思ったが、それは違った。
大倶利伽羅は全て考えて、計算して行動していた。

どう、行動すれば、鈴の側に居られるか。
どうすれば周りに鈴の側に居て当然だと思われるのか。
それを考え、全て行動していたが、どうして鈴にそこまでの執着に近い事をするのか、彼自身にも分かっていなかった。
鈴に対して、初めに抱いた、あの感情以外、何も分からなかった。

そもそも、その感情すら、何故抱いたかすら、分かっていない。
鈴に似た人間に出会った事は、あっただろうか。

それはない。
会っていたなら覚えている筈だ。

こんな霊力の持ち主は、一度会ったら忘れる筈がない。
それだけに余計分からなかった。

鈴に抱いた感情も、鈴にした行動も、あの口付けも、理由を問われても分からなかった。


「伽羅ちゃん?どうかしたの?」

「っ、み、つただ…、」

「キミも…、どうかしたの?」

「い、いえ…、何でもありません、」


大倶利伽羅が“何か”を言おうと口を開けた時、内番服に着替え終わった燭台切が、不思議そうな表情を浮かべ、広間へと戻ってきた。
燭台切が戻って来た事で、大倶利伽羅は咄嗟に口を閉じ、鈴はハッとして笑みを浮かべ燭台切にそう返した。

そんな二人の様子を見て、聡い燭台切が気付かない訳もなく、何かあった事に気付いた。
だが、気付きはしたが、敢えて核心部分に触れる事はしなかった。

流石に気まずい空気は流れているが、これはきっと時間の問題だろう。
多分、自分以外の者が来たら多少はマシになるだろうと、そう考えた。

この気まずい空気のまま、暫く時間が経った。
誰も口を開かず、時間だけが流れていたが、一度部屋に戻り、内番服に着替えた刀剣男士達が、続々と広間へと戻って来た。

最初の方に戻って来た刀剣男士も広間に戻って来た途端、不思議そうに首を傾げた。
何だ、この気まずい空気は、と、言わんばかりにそんな視線を燭台切に向けたが、彼は困ったように眉を下げ、首を横に振った事で、この空気を察し、その空気をスルーした。
そして、その次、またその次と戻って来た刀剣男士も前に倣い、この空気をスルーし、この事には一切触れず、燭台切は誰にも気付かれないよう、ホッと息を吐いた。


「皆、戻って来たよ」

「はい、えっと…、畑へ行きましょうか」


燭台切が最後に戻って来た石切丸に気付き、鈴にそう声を掛けると、鈴はハッとし、そう口にすると立ち上がった。
鈴のそれを見て、他の者も鈴と同じように立ち上がり、鈴を先頭にしてゾロゾロと畑へと足を運んだ。

畑へ着くと、昨日買った苗のポットには、ビニールが被せてあり、日光が直接当たらないようにされてあった。
一体誰がやったのか全く見当がつかなかった。
昨日、鈴が倒れてからは、彼女に殆ど付きっきりだったし、それ以外は掃除に食事にと畑の事は頭からすっかり抜けてしまっていた。
当然、苗の保管の事も、綺麗さっぱり忘れていたぐらいだ。

だから、この場に居る者がした訳ではないのは確かだった。
皆が同じ表情で、きょとん、と、保管された苗を見ていると、あ、と、堀川が何かに気付いた。


「これやったの、僕の兄弟かもしれないです」

「兄弟って…、どの?」

「あー、山伏も山姥切も畑弄り好きだったな、確か」

「うん、だから兄弟かな、って…、後でお礼言わなきゃ」

「そうだな、」


綺麗に保管された苗のポットを見て、堀川が優しく嬉しそうに笑みを零した。
まだ、鈴の前に姿を見せる程、鈴の事は信用はしていない。

だが、何か手伝いたいと云う気持ちはあるらしく、こうして影ながら手伝ってくれた。

出来るなら、自分の口から彼らに直接お礼を言いたい。
だが、それは、今は控えた方が良いのだろう。

山伏と山姥切への礼は堀川に伝えて貰った方が、彼らにも良いだろうし、きっと自分にも良い筈だ。

鈴はパンっ、と軽く手を叩くと、その音に刀剣男士達の眼が一斉に彼女へと向いた。


「さ、早く植えましょう!」


鈴のその言葉に短刀達は我先にと苗のポットの側まで来ると、どれから先に植えるか、頭を突き合わせて相談を始めた。
残りの者は、用意した軍手を手に嵌めたり、どの野菜か分かるように買ったプラカードを手にし、そこに野菜の名前をペンキで書いたりとそれ程、役割分担は決めていなかった筈だが、上手い具合にする役割がバラけた。

この本丸の刀剣男士は刀派関係なく仲が良いと云うのは、これを見れば明らかだった。

この場は、彼らだけで十分だろう。

鈴はその場から少し離れ、縁側の所にある花壇の前まで来ると、片方に輪がある棒を花壇の手前の二隅へと挿した。
グラつかず輪っかが見えるギリギリまで土の中へ深く挿すと抜けないかを確認し、それが終わるとある物を手に持ち縁側に腰を下ろした。

今回の畑仕事、鈴は裏方に回る事を決めたいた。

自分は此処の住人ではないから。
一時的に滞在しているだけで、あと数日もすれば、また別件の本丸へ行く事になる。
自分は彼らの傷を治し、彼らが以前と変わらぬ生活が出来るよう、手助けする立場だ。
だから今回、野菜の苗や種を植える作業をするのは、彼らだけでやってもらおうと考えた。

今、鈴が始めようとしている作業も、あくまで補助のようなもの。

今回、育てる野菜を決めた時に鈴が案を出したのが、へちまとゴーヤだった。
余り手の掛からない上、食べる事が出来て、尚且つ、他の事にでも使える便利な食べ物だ。

少し癖のある野菜だが、へちまは味噌と豚肉と炊くと非常に美味しい。
乾燥させたへちまは、体を洗うスポンジにもなるし、掃除道具にもなる。
後は、夏の強い日差しを遮る、グリーンカーテンとしての効果もあるし、ゴーヤだけでは物足りないだろうから、と、同じウリ科のへちまを選んだ。

そして、鈴が始めようとしているのは、グリーンカーテンに必要な、網棚作り。
雨風に曝されても千切れないよう、太い線にしようと、買った紐を編み込もうとしていた。

グリーンカーテン向けの物を買ったから、そう簡単には千切れないだろうが、念のために。
編み込むと云っても、細いミサンガぐらいで大して難しくはなく、今からだと昼までには編み込んで、網棚を作るところまで出来るだろう。

よし、と、自分に気合を入れ、鈴はその作業に取り掛かった。

手早く、隙間のないように、きっちりと。
でも、早いスピードで作業に没頭していた鈴。

鈴は学生時代、ミサンガ作りにハマった事もあり、こんな単純作業は得意な方だった。

鈴は、一度作業に没頭すると周りが見えなくなる。
集中力の凄さ故なのだが、文字通り、周りの様子がシャットアウトされ、気付かないのだ。
今みたいに目の前に覗き込むように誰かが立って居ても。

その誰か、が、鈴が初めて会う刀剣男士だったとしても。


「何を…、しているんだい?」

「グリーンカーテンの網だ、な…、を…?」

「へえ…、そうやって作るのかい?」

「い、え…、これは、あの、強度をです、ね…」

「壊れないように、だね」

「は、はい…、」

「ご苦労様だねぇ…、僕もやっても良いかい?」

「は、はいっ…」


声を掛けられ、その声に鈴は反応し、俯いていた顔を上げ、その者を見た瞬間、ピシリと固まった。

右目を隠すような長い翠の髪。
長いその髪を後ろで少し高めに結い上げ、白装束を左肩に掛けた彼は、神剣に憧れている、にっかり青江の姿だった。

彼は驚いている鈴を全く気にせず、至ってマイペースに会話を進め、動揺している鈴を押し切り、鈴の隣に腰を下ろした。
そして、鈴が手に持っていた紐を取ると、先程まで鈴の手元を興味深そうに見ていたからか、迷う事無く紐を編み込んでいった。

青江は、どうやら手先が器用らしい。
初めてとは思えない手付きで、ゆっくりではあるが、紐を編み込んでいた。
目を丸くしている鈴を余所にマイペースに。

そんな青江に鈴は、どうしていいか分からず、畑の方へ目を向けた。
すると、そこに居た皆が、同じ表情を浮かべてこちらを見ていた。

畑に居た彼らは、当然、青江が鈴の前に立って、鈴の手元を覗き込んでいる姿を見ていた。
だが、どうすれば良いのか分からなかった。

自分達が青江に何かを言って、青江を刺激し、もし、鈴に斬りかかりでもしたら。
そう考えてしまえば、何も出来なかった。

困惑している鈴を助けてあげたい。
でも、助ける事が出来ない。

そんなモヤモヤした想いで、鈴と青江の様子を見ていたが、少し会話したかと思うと、青江は何故か鈴の隣に腰を下ろした。
そして、流れるように自然に鈴と同じ作業を始め、そこでやっと鈴がこちらを見た。

一体、何故この状態のなったのか理解出来ていない鈴は、こちらに向かって助けを求める視線を送る鈴に畑に居た者達は、どうしたものかと顔を見合わせた。

青江は至って普通だ。
寧ろ、少し機嫌が良い程で鈴がしていた作業を楽しそうにしている。

この青江が鈴に何かするとは思えず、それだけに鈴と青江の間に入るのは、どうも気が引ける。
せっせと周りの様子等、気にする事無く、紐を編み込んでいる青江は、どう考えても、鈴にとっても、自分達にとっても無害だ。

そんな時だった。
頭を乱暴にガシガシと掻くと、その足を鈴と青江の方へと進める者がいた。


「伽羅坊?」


驚いた様子の鶴丸を横目に大倶利伽羅は、鈴と青江の方へ向かうと、はあ、と、深く息を吐いた。


「部屋から出て平気なのか?」

「僕の事、かい?」

「青江しか居ないだろう、こんな事を訊くのは」

「…それもそうだねぇ。うーん…、楽しそうだったから、かな」

「そうか」

「僕も…、混ぜてくれるかい?」

「…、なら、その傷を治してもらえ。畑仕事やら掃除やらするのにその体では、動きづらいだろう」

「彼女は、ちゃんと治してくれるのかい?」

「俺達を見れば分かると思うが、?」

「……、そうだね」


青江の前で立ち止まると、心配そうに青江にそう問いかけると、青江は顔を上げ、穏やかに笑みを浮かべると、大倶利伽羅の問い掛けにそう答えた。
隣で交わされる会話を鈴は、大人しく訊いていた。

その会話で分かった事は、青江はただ単純に皆と共に過ごしたい事だった。
そとの様子が気になり、部屋から出て、鈴のしている作業を見て、自分もやりたくなっただけ。

それが分かり、鈴はホッと息を吐いた。

今日の手入れは、今朝から参加した七振りしか予定していなかった。
当然、今日する予定の手入れ方法の仕込みは、七振り分しか用意していない。

鈴はチラリ、と青江を横目で見た。
確かに傷は目立つが、この状態の青江一振りなら、今まで通りの手入れ方法でやっても問題はないだろう。

チラリ、と、鈴へと視線を向けた大倶利伽羅に気付いた鈴は、大丈夫、と、頷き笑みを浮かべた。


「ちゃんと治してもらわないと、深く挿したり出来ないからねぇ……、畑仕事の事だよ?」

「元気そうで安心した…、」

「そうかい?」


青江の発言に深く項垂れ、そう零した大倶利伽羅に青江は満足そうにふふ、と笑みを浮かべた。


「手入れをお願いしたいけれど…、先に石切丸達をするんだろう?」

「え…、あ、はい…、」

「なら僕は、彼らの後でお願いするよ」

「そう…、ですか?」

「ああ。傷のある身体でも、これぐらいなら出来るしね」


石切丸達の後で良い、と、そう言った青江に、鈴はしょんぼりと肩を落とした。
それを見た青江は、困ったように眉を垂れ下げ、編み掛けの紐を少し持ち上げ鈴に見せると、鈴の頭を数回ポンポンと撫でた。

それに鈴はきょとん、としたが、次の瞬間、その顔をふにゃり、と緩め、その表情を見た青江は、少し目を見開き、咄嗟に大倶利伽羅を見上げた。


「……、成る程…、キミ達が気に入る訳だ」

「青江も時期にそうなる」

「ふふっ、それは楽しみだねぇ」


青江と大倶利伽羅が一体何の事を言ってるのか、今一ピンとこなかったが、何か悪い事を言われている訳ではなさそうだ。


「あおえーー!!!ちょっとこっちきて!!!」

「おや、呼ばれたね」

「……、行って来たらどうだ?」

「…ああ、そうするよ」


畑の方から加州が大きく手を振り、青江を呼んだ。
素っ気ない反応だったが、その表情を見ると嬉しそうに笑みを浮かべており、大倶利伽羅の言葉もあって、ゆったりとした足取りで、加州達の方へ向かった。

その場に残ったのは、鈴と大倶利伽羅だけ。
皆に囲まれ、嬉しさを隠す事無く、皆の輪の中心に居る青江をその場から見ていた。


「先程はありがとうございました」

「…別に大した事はしていない」

「でも、どうしていいか分からなかった時に来て下さいました」

「他の奴が動かなかったからな」

「でも、大倶利伽羅様は来て来て下さいました」

「…、青江の様子が気になっただけだ」

「…、…そうですか」


鈴の言葉に否定的な返答をする大倶利伽羅に最初は戸惑った彼女だったが、次第にその表情には笑みが浮かんでいった。
大倶利伽羅の声はぶっきらぼうではあったが、鈴の言葉に間髪入れず、寧ろクイ気味に言葉を返し、彼らしくないそれに鈴が彼を見上げると、彼は頬をうっすらと赤く染めていたからだ。

照れ隠しでクイ気味に、そして否定的な言葉を返していたのだ。


「青江様とは特に仲が宜しいんですね」

「青江の言葉遊びは苦手だがな」

「でも、それが青江様らしさ、ですよね」

「…、まあ、あれがないと青江とは言えないのは確かだ」

「そうですね」


はぁ、と、わざとらしく溜め息を吐いた大倶利伽羅に鈴はくすり、と笑いを零した。
目線の先には、何やら手荒い歓迎を受けている青江が居て、でも青江は先程よりも嬉しそうにそれを受け入れていた。


「…さっき…、」

「はい?」

「さっきみたいに困ったら直ぐに俺を呼べ」

「大、くり…、伽羅…、様?」

「分かったか?」

「え、あ…、はい?」


鈴にそう言い、鈴の頭を数回撫でると、彼もまた、畑の方へ行った。
そして輪の中へ入ると青江に何かを言い、何やら彼の頭を軽く小突いていた。

そんな彼らを見て鈴が思うのは、先程の大倶利伽羅の言葉だった。

あれは一体、どうゆう意味なのか。
どのような意味で捉えたら良いのか。
鈴は胸の中に小さなシコリが出来てしまったような感覚になり、鈴の心はモヤモヤとしたモノに覆い隠されたしまった。


「お姉さーーーーん!!」

「っ、は、はい!!」

「青江さんが言いたい事あるって!!」

「青江様…、が?」


大きな声で乱に呼ばれ、小首を傾げつつ皆の所へ向かった。
そして、何故か、青江と向き合うように立たされてしまった。


「ちょっと良いかい?」

「は、はい」

「…、僕はにっかり青江。宜しく頼むよ」

「っ、は、はい…!」


す、と、差し出された手に鈴は、きょとんとした。
だが、次の瞬間、表情がパァッと明るくなり、その差し出された手を包み込むように握り締めた。


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