06




 幼稚園生活の始まりである!

 朝は我が家の玄関までノリアキ君が迎えに来てくれて、仲良く手を繋いで登園&登校。誰にも見えていないだろうけど、私たちの前では手を繋いだハイエロファントグリーンとクイーンも一緒だ。手を繋いだと言うか、持ち上げられたと言うか。
 ちなみに、背後からノロノロとついてくる父親はシンプルに言って不審者だった。幼稚園の徒歩での登園には親が付き添うのが義務のようで、お母さんが「朝からいい運動になるわね〜」とお父さんを見つめた瞬間にこの状況は目に見えていた。普段から規則正しい生活をしないから……。
 日中は幼稚園で過ごし、先生の言うことを聞くよいことして過ごしている。ただでさえ中途半端な時期の入園生。理由を説明されているのかされていないのか、先生たちはちょっと私に遠慮気味だ。毎朝の父親の不審者具合のせいもあるかもしれない。なので、よいこにするのが得策かな、と。
 よいこにするのは先生の言うことを聞くのはもちろんだが、おもちゃの取り合いをする子どもがいれば行って仲裁してやり、一人寂しく遊ぶ子どもがいれば行って一緒に遊んでやり、お友達に意地悪をするガキ大将くんが暴れていれば行って成敗してやり、転んで泣く子どもがいれば行って慰め先生の所まで連れて行ったりもする。……うーん、雨ニモ負ケズ幼稚園児。
 帰りは流石に小学生よりうんと早い時間なので、幼稚園のバスに乗り、家の近くまで送られて行く。

 とても充実した幼稚園児ライフだ。そういえば前世でも、高校に入学したあたりから「幼稚園児に戻りたい……」と頻繁に言っていた気もする。夢が叶っちゃったな……。
 今なら合法的に幼稚園児やれるね!合法的に幼稚園児やれるとは???

 今日も今日とてノリアキ君と手を繋ぎ、警察に通報されないか不安な父親を伴っての登園だ。繋いだ手をブンブン振るとノリアキ君に迷惑がかかるので、心を静めて大人しく歩く。代わりにクイーンがハイエロファントの蔓の上をピョンピョン跳ねて遊んでいた。そうだね、とても楽しいもんね。

「まぁちゃん、大丈夫かい?」

 隣を歩くノリアキ君が、おずおずとした様子で尋ねてくる。何に対する『大丈夫』なのか分からず、私は首を傾げた。

「なにが?」
「それは……、その」
「うん?」

 なんとも歯切れの悪いノリアキ君である。言い淀みながら歩いていた足を止めて、正面で向かい合うと私の繋いでいなかった方の手も握った。ちらりちらりと私を見、遅れている父を見、前方でこちらをうかがうハイエロファントとクイーンを見、私に視線を戻した。視線の意図が分からず、反対側に首を傾げた。

「何か、無理はしていない?体調が悪いのを隠していないかい?」
「そんなことないよ、だいじょうぶ、だいじょうぶ」

 眉尻を下げた八の字眉毛の、心配そうな顔のノリアキ君。でも言われているみたいに、無理をしているつもりはないし、体調に悪いところなんてないと思う。それどころか、からだはポカポカ温かく、気分はふわふわと心地がいい。
 ……おや???
 思い至った瞬間、視界がぐるりと回った。同じようにぐらりと傾くクイーンと、珍しく慌てて駆け寄ってくる父親、倒れそうな私の両腕をぎゅっと引っ張る驚いた顔のノリアキ君を順に視界に納めて。
 ──失神した。


 大慌ての父親に抱えられて帰宅し、意識のない私を見たショックでお気に入りのティーカップを割った母親も一緒に病院に行った。らしい。気がついたら自室のベッドでおでこに冷えピタ、頭に氷枕、身体にあったかい布団を数枚装備させられていた風邪っぴきの私です。
 ノリアキ君は、気を失った私を父親が運ぶ前に登校させたらしい。よそ様の子どもを勝手に休ませるわけにもいかないものね。
 それが昨日の話。

「まぁちゃん……」
「だいじょうぶ。だいじょうぶなので……」

 いつもであればノリアキ君と手を繋いで元気に登園!している時間よりもちょっと前。私の部屋の開けられたままのドアの前に、心配げなノリアキ君が立っている。ほんと、熱があってふわふわする以外はまったくもって大丈夫なので。
 部屋に入ってこないのは、「風邪がうつったらノリアキ君も大変になるし、まぁちゃんも悲しんじゃうと思うの」と私の母親に言われたからだ。でも我が家には来る。部屋の敷居は跨いでいないのでオーケーの精神のようだ。
 でも言うことがきけないのがハイエロファント君で、ベッドの横に立って、熱でひぃひぃ言う私の頭を撫でている。うーん、感覚があるような、ないような、冷たいような、温かいような。

「僕がもっと早く気づけていればよかったのに……」
「だいじょうぶなので……」

 それを言うとうちの両親はまったく気がつけていなかったわけなので、全然気にしないでほしい。なんならそのことで花京院家に両親が謝罪と感謝に赴いた。と言いたいのに、熱で頭はくるくるぱーだし、舌もろくに回らないので「だいじょうぶなので」以外、上手に言えそうにない。それすら呂律が回っていない可能性すらある。
 あー……、ハイエロファントまでしょんぼりし始めちゃったな……。
 どーおーしーよーおーかーなー???と悩んでいれば、お母さんが部屋まで来てノリアキ君を学校に送り出してくれた。「大丈夫だからね。大丈夫大丈夫」その通りです、大丈夫なんです。
 なおも心配げな顔で足取り重そうなノリアキ君に、布団の端から手を出して小さく振る。いってらっしゃいの言葉の代わり。ノリアキ君も小さくだけど「いってきます」と言ってくれたので通じたようである。
 以心伝心とか、友達ランク上がっちゃうな。
 ノリアキ君もお母さんもいなくなって静かになると、お父さんが顔を覗かせてきた。きょろきょろ周囲に視線をやりながらベッドに近づいてくる。

「風邪ってつらいのかい?」
「……?、つらい……」
「寒気を感じるっていうけど、まぁちゃんは熱い?寒い?」
「あつい……」
「体調が悪いと人恋しくなるっていうけど、まぁちゃんは、」
「もうッ!熱出して苦しんでいる子どもに質問攻めしないでちょうだい!!安静にってお医者さまにも言われたでしょ!」
「いやいや、理解しないと看病もできないと思ってであって、別に知識欲のためじゃあなくて、あー……」

 心配して様子見に来てくれたのかと思えば、己の知識欲を満たすためだった。珍しく怒るお母さんに襟首掴まれて、引きずられて退場していく。お父さんって体調崩したことなさそうだものな。大怪我なら頻繁に負うけど、病気になったところは見たことがない。
 ノリアキ君は登校し、父も母も退室して、途端に部屋が静かになる。
 早く治さないとなぁ、と天井を眺めていれば、頬のあたりにふわふわとした感触がした。ピヨ。ヒヨコが力なく小さく鳴く。私と一緒で元気がない。

「……クイーンのためにもげんきになるよ」

 ひよこに「おやすみ」と囁いて、沈むように眠りに就いた。

_ _
 夢を見た。
 前世の私を俯瞰する、夢を見た。
 今の私とは違う顔で、今の私と同じくらいの年齢の私。少し成長して、小学生の私。中学生の私。高校生の私。それらの日常のなんてことない風景を、コマを飛ばすように見せてくる。学校生活のワンシーンであったり、家での家族とのやり取りのワンシーンだったり。その側には友人や、きょうだいや、両親がいるけれど、どれも顔がぼやけてよく見えない。
 それでも毎日楽しかったことを覚えている。学校は授業も嫌いじゃあなかったし、友達と仲良かったし、クラス仲も悪くなかったし、きょうだいとはたまに喧嘩するけど仲が良かったし、両親とだって、仲は悪くなかったと思うし。
 部屋の中で寛ぐ私を見て、あー最後まで読めてない漫画あったな、なんてことも思う。今生では最後まで追えるだろうか?そもそもまだ始まっていないし、前世より時代が前なのがネック。作者より年上になる可能性出てきたな……。前世と今世の生年月日の差は何年だっけ???

 そんな軽く考えられたのも、景色がガラッと変わり、雨の降る夜道を歩く自分を見るまでだった。
 帰りが遅くなり、家路を急ぐ自分。歩き方が下手で、足首の後ろに泥が跳ねている。間違えて水たまりに踏み込んで、靴も足もびしょびしょだ。
 私の背後に、傘も差さない見知らぬ女が近付く。その手に持つのは本来であれば台所にあるべき包丁で、刃先は私の腰のあたりに向けられている。
 覚えている。私はあの女を覚えている。
 友達の顔も、きょうだいの顔も、両親の顔すらも忘れてしまったのに。あの女の顔だけはしっかりと覚えている。水を含み重く垂れさがる長い髪。雨で半端に流れた化粧。血走った目は大きく見開かれて、ふらふらとした足取りのまま私の背後にぴたりとつく。
 特に音はなかった。グサリ、なんて効果音は現実にないらしい。
 女が離れると、その手も、包丁も、血にまみれて真っ赤に染まっていた。私はよろめきながら濡れた地面に膝をつき、そのまま倒れ込む。手放した傘がころりと転がった。
 地面に、雨水と一緒に血が流れる。
 側溝へと、赤々とした太い線が流れていく。
 ああ、死ぬなぁ。これは死ぬ。
 私を殺した女の隣で、私も私を見下ろした。
 濡れた髪が邪魔で、顔は見えない。唇が何度が開いて、閉じて、こちらに伸ばされていた手が、力なく地面に落ちる。女はそれをしばらく眺めて、足早に来た道を戻っていった。
 置いていかれた私を見下ろす。冷たい雨に打たれたまま放置されて、流れる赤い線はもう細い。
 どんな顔をしていたのだろう。興味が引かれて触れようとした手は、前方からの水音混じりの足音に驚いて引っ込めた。
 学生服の男の子たちだ。倒れている私に気がついて、駆け寄ってきて私に声を掛ける。肩を揺らすが、反応がない。男の子たちの内の一人がスマホを取り出しどこかへ電話を掛けている。しばらく待つと救急車とパトカーのサイレンが聞こえてきた。

 風景と音が遠くなる。終わってしまったんだなぁ、とぼんやり思う。
 あと少しでも遅くあの道を通っていれば。
 そもそもあの道を選んでいなければ。
 あの日、外に出ていなければ。
 もしも服装や、持ち物が異なっていたなら。
 いっそ生活圏が異なっていたなら。
 もう終わってしまったことで意味もないのに、たらればを考えてしまいきりがない。

 ああ、でも、そうか。

「私は外が怖いんだなぁ」

 思い返してみれば、私は通園している間ずっと緊張していた。道を歩く間は後ろが気になって、いるのが不審者のようだけど父親だとわかると少しばかり気が緩む。人と関わるのも少し及び腰になって、けれどそれで悪意をもたれるのも怖くて気を張って。
 つまり気疲れで体調を崩したらしい。
 踏んだり蹴ったりで可哀想なじぶん。
 だからと言ってこれはどうすれば改善するのだろう。トラウマの克服だなんて、したことがない。外に出続けていれば、嫌でもそのうち慣れるだろうか??荒療治ではあるが。

「ノリアキ君にはもう迷惑かけたくないなぁ」

 あんな八の字眉毛でしょげた顔、もうさせたくはないので。

_ _
「──……、あ」

 意識が浮き上がるのと一緒に、意味のない声が出た。寝言のような、寝言でないような。
 部屋が薄暗いので、どうやら昼もとうに過ぎて夕方らしい。フワフワとした意識のまま部屋の中を見回していれば、ベッド脇にうっすらと緑色に光るハイエロファントがいた。縦筋の入った黄色い目がこちらを見ていて、何か言いたげだ。
 ジッと彼の眼を見ていると、廊下の向こうから軽い足音が一つ近付いてくる。この家で私以外の子どもと言えば一人しかいない。

「おはよう、まぁちゃん。調子はどうだい?」
「おはよう、ノリアキ君。朝よりずっといいよ」

 予想通りの人物がドアから顔をのぞかせる。キョロキョロと左右を確認した後、足音を立てないように部屋の中まで入ってきた。

「あーあ。入ってきちゃダメだって言われなかったかい?」
「平気だよ。まぁちゃんが内緒にしてくれたらね」
「しかたがないなぁ」

 うーん、口の前に人差し指を立てて内緒だよと言われて断れるはずがないんだよなぁ。
 ノリアキ君はベッドのそばまで来ると両膝をついて、横たわる私と視線を合わせる。ぬるくなった冷えピタを剥がしてくれて、新しいものを貼ってくれる優しさ付きだ。もう元気だと思っていたけど、額が心地よいと感じるからまだ本調子ではないらしい。
 視線を外し時計を見ればおおよそ十六時半を指していた。ノリアキ君の登校から下校までぐっすり。いっぱい寝たなぁ。
 段々とはっきりしてきた意識に、そういえばノリアキ君が静かだなと思って視線を戻す。少しつり上がった両目がジッとこちらを見ていて、ちょっとびっくりした。

「まぁちゃん、もう元気?」
「ノリアキ君とお話しできるくらいには元気だよ。どうかしたの?」

 こちらの様子をうかがうような話出しに、何かあるのかなと思って会話を促す。横向きに寝転がり直し待てば、ノリアキ君は何か言おうと口を開け、しかし何も言わずに口を閉じて明後日の方向を見、難しい顔をしながら俯いた。どうしたどうした、そんな可愛い顔をして。
 俯いて下がってしまった頭に手を乗せ、左右に行き来させる。よいこよいこというやつ。
 それを何度か繰り返すと、撫でていた手をノリアキ君にとられて、ベッドの上で両手で握られた。ぎゅうぎゅうと力強く握られるが痛くはない。子ども体温で少しポカポカする。
 またうつらうつらとしそうになったところで「まぁちゃんは、」とノリアキ君が話し始めて意識を持ち直す。

「まぁちゃんは幼稚園が嫌いなの?無理して行っていたのかな?」
「嫌いじゃないよ。ノリアキ君と同じ幼稚園だし」

 欲を言えば一緒に通いたかったけれど。年の差のせいなので仕方がない。
 どうしてそんな質問をされるのだろう?毎日楽しく通園していたはずなのになぁ。若干眉尻が下がり、顔も下がり始めたノリアキ君を見つめて、会話の続きを待つ。

「お母さんたちと、おばさんたちが話しているのを聞いたんだ、まぁちゃんにはあの幼稚園が合わなかったのかもって。だから疲れて、それでこんな風に熱が出たのかもしれないって」
「……なるほど??」

 気疲れで熱が出たのは確かだけれど、別に幼稚園のせいではない。私以外の誰も知らない、勘違い女のせいなので、たとえ別の幼稚園や保育園に通っていたところで結果は変わらなかっただろう。
 でも。それにしてもノリアキ君がそんな顔をする理由ではないだろうに。自罰的な子どもなのかな。
 少し緩んだノリアキ君の手を、今度は私が力を込めて握る。

「あのね」
「……うん」
「幼稚園が嫌いだとか、悪いわけじゃないんだよ」
「本当かい?」
「うん」

 顔は下を向いたまま、視線だけがこちらを見上げた。まだまだ元気になるには足りないようだ。

「毎日ノリアキ君と一緒に行くのは楽しいよ。ハイエロファント君も一緒だし、クイーンも。なんだかんだ言って、毎日ついて来てくれるお父さんも嬉しい」
「そう?」
「そうだよ。幼稚園の先生にね、ノリアキ君のことを聞くのも好きだよ。幼稚園の壁に、卒園生の写真が何枚か飾られているの。そこからノリアキ君を探すのも楽しいよ」
「そんなことしてるのかい?本当に楽しい??」
「楽しいよ。ハイエロファントを見つけた時は、ちょっとテンション上がるし」

 ふふ、と小さく笑うと、ノリアキ君は困ったような顔ではあるものの笑顔を見せてくれた。なんでも「他にもこの子が見える人がいるかもしれないと思って、たまに一緒にいたんだ」ということらしい。

「幼稚園では結局誰もいなかったけど、まぁちゃんとおじさんがいたから良かったなって思うよ」

 今度は困った風でもなく、ふにゃりと嬉しそうに笑ってくれる。そうだよね、しかもお隣さんですしね!私も嬉しくなってくふくふ笑えば、いつの間にやらいたのか、クイーンも嬉しそうに小さな羽根をバタつかせていた。うんうん、嬉しいね。
 そこで話が終われば良かったのだけれど、ノリアキ君が「じゃあ何が嫌で熱が出たの?」と話を蒸し返してしまったのでそうもいかない。
 もうよくない??……よくないか。

「うーん。……嫌というか、怖いから?」
「怖い?何が?」
「外が、かなぁ??外を歩くのが怖い。怖くて、緊張して、疲れて、それで熱が出たんだと思う」
「そうなんだね」

 詳しく言うわけにもいかなくて曖昧な返答になってしまったけれど、ノリアキ君は理解するように頷いてくれた。慰めるように頭を撫でるまでしてくれて、不覚にもちょっと泣きそうになる。
 そうなんだよ、外は怖いんだよ。
 何も悪いことをしてないのに、いきなり命を奪われたりするのだから。
 うっすら浮かぶ涙は瞬きで誤魔化して、でもねと笑顔を装備する。でもね、頑張るしかないからね。平気じゃなくても、平気であるように努めないと生きていけないからね。
 だからもう大丈夫なのだとノリアキ君に笑いかけようとして、ぎゅっと握り直された手に意識が向く。幼い私の手を、ノリアキ君の手と、ハイエロファントの手が握っていた。込められる力は強いけれど、痛くはない。
 そろりと彼の顔を見れば、真っ直ぐな視線とかち合う。少し紫がかった、特徴的な色の目だ。

「それなら僕が、僕たちがまぁちゃんを守るよ」
「え?」

 急に何を言うのだろうか?きょとりとする私を置いて、ノリアキ君はこれはいい案だと言いたげに何度も頷いて見せる。

「怖いものから、僕とハイエロファントグリーンがきみを守る。まぁちゃんが外を歩くのが怖いというなら、ずっと隣を歩いて守るよ」

 自信に満ちた笑顔だった。まさしく彼がヒーロー。え、この世界って僕アカですか????
 ふざけたことを考えながらも、熱がぶり返してきたのか、目の辺りが熱くて視界がぼやける。何度瞬きしてもそれは治らなくて、枕と接する肌が冷たさを感じることで、涙が溢れているのだと分かった。さっきはどうにか耐えられたのになぁ。
 ぼろぼろぼろぼろ。絶え間なく流れ始めた涙に、ノリアキ君が驚いた様子で拭おうと手を伸ばしてくる。手が濡れて汚れてしまうのになぁ。そんな所も優しいんだものなぁ。
 なかなか止まらない涙を乱暴に拭って、ようやくはっきりした視界にノリアキ君とハイエロファントをおさめる。あの女のことを考えるとまだ少し怖いけど、彼らのためにもやっぱり頑張らないと、と改めて心を決める。頑張って外に慣れよう。
 すん、と鼻を啜って、心配そうなノリアキ君に向けて笑顔を作る。情けない笑顔だろうけど、笑顔は笑顔だ。

「ありがとう、ノリアキ君、ハイエロファント君」

 どうにか伝えたお礼に、ノリアキ君は「どういたしまして」と微笑んだ。うーん、ぐうかわ。
■■■
 翌日、ノリアキ君も風邪を引いて寝込んだのは当然の結果である。
 原因の父親が母親ズにコッテリと叱られたのも、当然で、自業自得だった。

 翌日、ノリアキ君が熱を出して寝込んだ。それはそう。改めて一緒に登園・登校できたのは三日後のことだった。


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20251208



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