彼女は捻じれた魔法使い……?




□twstは約一年前、reは指輪争奪戦後の未来編前。
■■■
 ジャンニ―ニが簡単に異世界に渡る装置を開発したぞ。

 そんな雑な説明と共に、どどん、と人数分の黒い棺を並べられた。それを見た沢田綱吉、獄寺隼人、山本武、鵲総志の四人は絶句するしかない。リボーンはいつも通り得意げな顔で笑っている。
 良いから入れと問答無用で押し込もうとするリボーンに対し、綱吉は絶対に嫌だと抵抗する。幾分か粘るも力負けし、押し込まれ、そのまま蓋を閉められると綱吉の入った棺は静かになった。……中で一体何が起こったのだろう。
 しかし例え怪しかろうが怪しくなかろうが、そして本人の意思であろうとなかろうと。綱吉が先陣を切ってしまったのなら、残った3人の行動はまあ決まったようなものなので。
 獄寺は「待っていてください10代目!」と率先して棺に入るし、残った二人もいそいそと棺の中に寝そべった。

 並盛中学校の風紀委員会室。
 普段であれば向かい合わせのソファーが置かれている場所に、今日は黒い棺が二基置かれている。
 その上に何食わぬ顔で、いつも通りの場所で向かい合わせに座る鵲スイと雲雀恭弥。その傍らに控えた草壁哲也は、何か言いたげにソワソワと落ち着きがない。
 パラリパラリと紙の捲れる音のみが聞こえること数分。各々が自身の名前をサインし、生徒会長の印と風紀委員長の印を押すと、草壁にその書類の束を渡した。書類の内容は、委員長と生徒会長の短期間臨時委任に関して、である。
 無言で中に寝そべる恭弥の棺の蓋をスイが閉め、後はよろしくとスイも棺に入り自分で蓋を閉めた。
 一人残された草壁は言いたいことも言えず、溜め息を吐く。取りあえず、まずはこの書類をくまなく読み、過不足なく役目を全うしなければならない。戻ってきた委員長に咬み殺されないように。


■■■
 ナイトレイブンカレッジの学園長であるディア・クロウリーは困っていた。傍目に見てそうと分からなくても、とてもとても困っていた。
 嫌な予感がして訪れた鏡の間。そこの床に並ぶ、本来であればない筈の六基の黒い棺を目の当たりにして、クロウリーは顎に手を当て首を傾げる。
 これは一体どういうことか。今期の入学式はとうに終わっている。寮分けに不満を持った新入生が一暴れしたり、新入生が入学早々決闘を挑み勝利し新しい寮長になったり、予定外の編入生を迎えたりなどの珍事も記憶に新しいが、所詮は終わったこと。そろそろ皆さん慣れた頃ですしやっと落ち着いた学園生活(NRC基準)が送れるでしょう、と思った矢先のこれである。

「追加の編入生、ではありませんしねぇ」

 そのような予定が無いのは、学園長であるクロウリーが一番知っている。ならば一体何なのか。取りあえず棺の蓋をノックすべく側にしゃがみ込む。

「もしもーし、棺の中の貴方、どなたですか?」

 コンコンコンコン。軽快なノック音。
 反応は無く、上半身を傾けて蓋に耳を欹てるも特に何の音も聞こえない。
 困りましたねぇ、と上半身を起こし、もう一度ノックすべく手を上げた。ら、その蓋が眼前間近まで迫って来ていた。おやおやおかしいですねぇ、なんて感想を抱く暇もなく、蓋と共に吹っ飛ばされる。

 蓋を吹き飛ばしたのは、棺の中から伸びる脚だった。黒い学生靴を履き、黒いスラックスを纏っている。そうしてのそりと起き上がり姿を現したのは、不機嫌顔の雲雀恭弥。礼儀とは言え、四度のノックは五月蠅かったらしい。そりゃあ木の葉の落ちる音で起きる男だもの。
 雲雀はぐるりと周囲を見回して、次いで左隣に並んだ棺の蓋を押し開けた。
 中に寝ているのは呑気な顔(当社比)の鵲スイ。胸の前に手を置く、まるでファラオのような寝姿という予想外の光景に一瞬思考も動きも止まるも、素早く持ち直した雲雀は愛用のトンファーを構えて、迷いなく打ち下ろす。

「……寝起きに飛んだご挨拶をどうも」
「狸寝入りの君には丁度いいよ」

 撃ち込まれた衝撃で砕けた棺の中、間一髪で起き上がったスイは低い機嫌で雲雀を見下ろした。別に狸寝入りしていたわけではなく、起きると面倒臭そうな雰囲気を察知した為目を閉じたまま機会を待っていただけだというのにとんだ言い掛かりである。
 睨み合うこと幾許か。いつもであれば並中で見慣れた鬼ごっこが始まる所だが、今はそんな時ではないと両者ともに弁えている。
 ノロノロと動き出したスイが、残った四基の蓋を開けていく。
 まず目を覚ましたのは弟である総志。てっきり四人のみかと思っていれば姉も一緒と分かり一喜して、離れた場所に座る雲雀を視界に捉えて一憂した。
 次に目を覚ました山本は、手を開いて閉じて、起き上がって跳んだり捻ったりと軽く体を動かす。最近のゲームはリアルなのな、と心中感心する彼は、異世界に渡れる装置を“そういう売り文句の最新ゲーム機器”だと思っている。
 山本にそう遅れず跳び起きた獄寺は、周囲に浮かぶ棺に目を輝かせた。マジで異世界だ……。今までのメンバーの中で一番年相応の一番純粋な反応を見せてくれた。山本はその点リアリストである。
 残るは綱吉一人。なのだが、中々起きそうにない。スイが中を窺うも、スヤスヤと鼻提灯を浮かべて心地よさそうに眠られては無理に起こすのも憚られる。自然に起きるまで待ってあげようじゃないか。

「起きろダメツナ」
「ぐぇっ!」

 しかしスイの優しさは、問答無用で踏み付けるリボーンによって無かったことにされた。あまりの痛さに悶える綱吉を気にすることもなく、腹部でワンバウンドして鮮やかな着地を決めるリボーン。思わず拍手を送ってしまった総志に対し、スイは静かに睨みつけて黙らせた。
 半泣きになった綱吉を、慌てて駆け寄った獄寺が支えて立ち上がらせる。そんな二人と並ぶ山本は、仲良いのなとズレた感想を漏らしたが誰にもツッコまれることは無い。唯一と言っていいツッコミ要員の綱吉がそれどころでないので。
 飽きてきたスイの横には満足げな総志がちゃっかり位置取り、そんな彼が威嚇の視線を向ける先には恭弥が、棺の上に片足を抱えて座っている。こちらも飽きてきたようで欠伸をひとつ。

「(なんとも自由な子どもたちですねぇ)」

 自校の気風を棚に上げて、部屋の隅でぼんやり立っていたクロウリーは独り言ちる。蓋が顔面にぶつかったことなどなかったかのように、傷一つなく綺麗な状態だ。実際、ぶつかる前に魔法で逸らしたので怪我するわけもない。
 うーん、いつになったら気付いてもらえるんでしょう。私も暇ではないのですが。
 ちょろりちょろりと正体不明の人物たちの周りをうろつくも、あちらの視線が自身に向けられる様子はない。認識阻害の魔法は使っていないんですがねぇ。影も薄くはない筈ですが。

 放置するわけにもいかず、どうしたものか、と悩むクロウリーのマントを、随分と低い位置から誰かがクイクイと引っ張る。その方向へ視線を落とし、そこにいた人物を認識して、クロウリーは驚きのあまり跳ねた。キュウリを置かれた猫のように。
 そこでようやくクロウリーの存在に気が付いた並盛後輩組の四人も、小さく肩を跳ねさせて地味に驚く。ちなみに先輩組二人は気が付いていたがシカトしていただけなので驚かない。良く跳ねるな……、程度の感想は抱いたが。

 子どもたちのことなどすっかり頭から追い出して、クロウリーは自身のマントを引っ張っていた相手に会わせて床に座り込む。そうして唇をわななかせ、驚嘆の声でその人物の名前を呼んだ。

「あなたはリボーリン大魔法士!!」
「ちゃおっス」

 そこにいたのは、魔物づかいツナのリボじいを思い起こさせる魔法使いらしい格好をした、ふさふさのヒゲを生やすリボーン。とても分かりやスイ仮装だが、しかし彼は変装の名人らしいので、彼が彼だと正しく認識しているのは綱吉とスイの二人のみである。
 クロウリーは憧れの人物に会ったファンのように、テンション高くリボーリンに詰め寄っていた。彼のグレートセブンに比肩する方とお会いできるとはうんぬんかんぬん。
 今度は並中六人組が置いて行かれる側となった。
 いつもであれば「怪しい奴!10代目、下がっていてください!!」とダイナマイトの十や二十ほど爆破していそうな場面だが、ファンタジーな異世界の為、獄寺もただ成り行きを見守っている状態だ。そばに控え、直ぐにでも庇える位置取りは忘れていないので、さすが右腕。

「ほうほう、なるほど。こちらの六名はリボーリン様のお弟子さんで、是非とも名門校である我がナイトレイブンカレッジを体験してみたいと。
 ……いいでしょう!かの有名な大魔法士の弟子ともなればさぞかし優秀なはず。こちらも学ぶことも多いでしょうし、喜んで受け入れようじゃありませんか!私、優しいので!!」
「ありがとな」

 羽根のようなマントをばさりと揺らして両手を広げる喜色満面のクロウリーに対し、リボーリンは短く感謝を述べる。

「そうと決まれば、まずは寮分けを行いましょう!そちらの闇の鏡の前に立って、名前を言うだけです。簡単でしょう?」

 自分たちを置いて話が進む中、急にグルリと振り向いたクロウリーに綱吉、獄寺、山本、総志の四人は思わず一歩引いた。気持ち的にも若干引いている。

「ああ、申し遅れました。私はここナイトレイブンカレッジの学園長を務めるディア・クロウリー。怖くないですよ、そんなに緊張しないで」

 怖くはないが、怪しさはある。満点の怪しさだ。空気が読めるいい子なのでそんなこと口にしないが。

 さぁさぁさぁ、と促され、示された大きな丸い鏡の前に立つ。団体行動を嫌がる雲雀は、両腕をそれぞれ鵲姉弟に引っ掴まれて無理やり連れて行かれた。
 そんな状態も長く続かないだろうと、まずは雲雀を鏡の前に立たせる。途端、鏡面に浮かび上がった大きな顔のようなものにトンファーを打ち付けようとするのを、スイと総志が間一髪で止めた。
 背後でクロウリーが「大切な魔法道具に対してなんてことを!」と悲鳴を上げているが無視でいいだろう、未遂だし。

「汝の名を告げよ」
「…………雲雀恭弥」
「汝の魂のかたちは……、ディアソムニア」

 むっすりとした雲雀を意に介さず、闇の鏡が告げた寮はディアソムニア。
 後方に控えたクロウリーが感心したように声を漏らすが、魂のかたちや寮分けに関して理解していない並中メンバーは特に反応を示さず、何か始まったなと思うだけだ。それを察したリボーリンが、簡潔に魂のかたちと寮分けに関して説明する。

 ナイトレイブンカレッジには七人の偉人に倣った七つの寮が存在している。この学校に入学した者は、まずは闇の鏡の判断でその魂のかたちに相応しい寮に振り分けられる、らしい。時折、何でソイツ/俺がそこの寮なの?ということもあるそうだ。

「ディアソムニアは“高尚の精神”だな」
「「「ああ」」」
「他に、妖精族が多く在籍してるのも特徴だぞ。総じてプライドがたけーんだ」
「「「なるほど」」」

 分かりみが強い。孤高のプライドだもんな。

「じゃあ次はオレの番な」

 部屋の隅に移動した雲雀と入れ替わり、山本が前に出る。
 「10代目を差し置いて!」と獄寺がひと悶着起こしそうになるも、「トリを飾ってもらえばいいじゃん」の総志の一言に事なきを得た。

「汝の名を告げよ」
「山本武!」
「汝の魂のかたちは……、スカラビア」

 全員の視線がリボーリンに向かう。

「スカラビアは“熟慮の精神”だぞ」
「ハッ、野球バカが熟慮の精神ね」
「いやいや、野球は駆引きと読み合いのスポーツだし、山本それなりに似合ってるよ」
「はは、総志サンキューな」

 熟慮の意味が分からず、スイに尋ねた綱吉だけは曖昧に笑った。熟慮の意味が分かる時点で、オレからしたらみんな頭いいよ。

「それなら次は自分かな」

 わいわい盛り上がる四人をそっとしておいて、スイが闇の鏡の前に立つ。

「汝の名を告げよ」
「鵲スイ」
「汝の魂のかたちは……、イグニハイド」
「はいはいはい!オレは鵲総志!!」
「…………、ハーツラビュル」

 突然の割り込みに、然しもの闇の鏡も一瞬顔を顰めた。が、自身の役目を全うするところは流石闇の鏡である。
 しかし、その判断が不満だったらしく、割り込んだ総志は闇の鏡に詰め寄った。生身の人間相手であれば胸倉を掴んで凄んでいただろう。代わりに鏡面に勢いよく、べったりと、両手の平を押し付けられたが。

「なんで!?なんでオレ等が違う寮になんの?姉弟だよ?魂のかたちなんて血縁なら似てるでしょ??」
「汝の魂のかたちはハーツラビュル」
「さっきより判定早いじゃん???」

 やだやだ同じ寮じゃないとやだ!と駄々をこねる十四歳。
 その様子を完全に傍観者として眺めているクロウリーは、今年にいましたね、ああして駄々をこねる新入生が。あんなに可愛いものじゃありませんでしたけど。と生温かい視線を送っている。どこかで大きなウツボがくしゃみをして、見慣れない動作に陸上生活一年生たちが目を白黒させていた。

「イグニハイドは“勤勉な精神”、ハーツラビュルは“厳格の精神”だな」
「勤勉、ね」
「何か言いたそうだな恭弥クン」
「別に。無断で長期休学する君にお似合いだよ」
「どうもありがとう。君も似合ってるね。孤高の浮雲、高尚の精神」

「厳格なんてコイツから一番縁遠い言葉じゃないですか、ねぇ10代目」
「えぇ、オレに振るの?」
「……ハッ!つまり厳格の精神から強く外れれば変更もやむを得なくなるのでは……?」
「総志は一旦落ち着こーな」
「そもそもルールは破る為にあるわけでして!」
「落ち着け」

 キメ顔で世迷言をのたまう総志は、スイの裸締めで落とされた。

「トリは10代目ですんで、先にオレが行きますね!」

 対10代目の笑顔を振りまき、綱吉に見送られて獄寺が闇の鏡と向かい合う。

「汝の名を告げよ」
「獄寺隼人だ」
「汝の魂のかたちは……、ポムフィオーレ」

 先程の笑顔とは打って変わって、凄むように闇の鏡を睨む。次に待つ綱吉と同じ寮にしろと言う圧力を掛けている心算であるが、結果が出るかはさてどうかな。

「ポムフィオーレは“奮励の精神”だ」
「スイさん、奮励って?」
「……すごく努力することだよ」
「へー、獄寺らしーのな」
「沢田に関する努力は全て空回りだけどね」
「聞こえてるからな鵲弟!」

 さて待ちに待った10代目の順番である。自分がイジられていることを横に置いて、さぁどうぞ10代目!と獄寺が綱吉の背を押した。

「汝の名を告げよ」
「さ、沢田綱吉」
「汝の魂のかたちは……、…………」

「いや大分ためるじゃん」
「さすがは10代目!たかが一つの寮に絞れる器じゃありませんね!!」
「出たよ獄寺の過剰評価」
「なんだと!?」
「まーまー、ケンカすんなって」

 外野がワイワイ騒ぐ中、当人は生きた心地がせず顔色を悪くし冷や汗を流し震えていた。相応しい寮が一つに絞れないのではなく、一つとして相応しい寮が無いのでは?
 伊達に長年ダメツナと呼ばれてきたわけではない。そりゃあ殺し屋で赤ん坊な家庭教師が現れてからは多少マシになったような気もしなくもないけれど、魂のかたち、という何ともスピリチュアルなことを持ち出されるとよく分からない。
 これでどこにも選ばれない場合どうなるのか。追い出される?お情けでどこかが預かってくれる?それとも実は第八の寮が存在していたり?……ないの?そう。

「(追い出されるのは嫌だ追い出されるのは嫌だ追い出されるのは嫌だ追い出されるのは嫌だ追い出されるのは嫌だ……!!)」

 必死だなぁ。鵲姉弟は揃ってそう思ったが、それに付随する感想はそれぞれ可愛いなぁと面白いなぁなのでとても個性が出ている。

「………汝の魂のかたちは、サバナクロー」
「よかった……っ!!」

 誰とも被らなかったのは不安だし、サバナクローがどういった場所が分からないのも不安だけれど、とりあえず選ばれただけ良かった!これで追い出されずに済んでみんなといられる。
 胸を撫で下ろして元の場所に綱吉が向かうと、ふと目が合ったリボーリンがニヤリと笑った。心なしか、帽子の鍔の上にいるカメレオンのレオンもニヤニヤしている。

「サバナクローは“不屈の精神”だぞ」
「なるほど、よく死んでも死にきれないって言ってるもんな」
「同じ寮でないのは残念ですが、10代目にぴったりです!」
「確かに、ツナらしくていいと思うぜ」
「あ、ありがとう」

 べた褒めである。テレテレと頭を掻く綱吉も悪い気はしないらしい。

「サバナクロー寮にいるのはほぼ獣人だ、弱肉強食の世界だぞ。……ダメツナなんてすぐ食われちまうだろうな」
「んな!?やっぱりサバナクローはイヤだぁー!!」

 追い出された方がマシだ!とまでは叫ばなくとも、どうにか寮を変えられないかと闇の鏡に迫っている。それに託けて、獄寺は10代目と同じ寮になれないか打診をし始めるし、諦めの悪い総志も姉と同じ寮になりたいとまた騒ぎ始めた。
 そんな、ぎゃいぎゃいワイワイと騒ぐ様子を眺めて、騒がしい動物園を思い浮かべるスイと雲雀は完全に傍観のスタンスでいる。山本は山本で「今日も元気なのな―」と笑顔で見守るだけであるし、クロウリーも影を薄くしつつ巻き込まれない位置を守っているようだ。
 この状態で誰が収集を付けるのか。

「だ、ま、れ」

 一音ごとに一撃ずつ。
 いつの間にか元の格好に戻ったリボーンによって、三人は鎮静された。

「さぁ!それでは有意義な学園生活を送ってくださいね!!」

 締めはとてもよい笑顔のクロウリーである。


**
 並中六人組がリボーリン大魔法士の弟子という身分でNRCに体験入学してから、数日が経った。さすが名門校、生徒の質も高いらしく、特に問題が起こることもなく平和な学校生活を過ごせている。

 などと言うことは無く。

 綱吉は初日から同寮生によるカツアゲに数回遭ったし、それを見付けた獄寺は逐一相手を爆ぜさせるべくダイナマイトに着火した。
 まぁ漏れなくダイナマイトは全てジャン二―二による改造済だが。材料も道具もないので新しく作ることも出来ない。お陰様で、茶色いチビに絡むと銀髪のガラの悪いのが大道芸を披露するという訳の分からない噂が驚きの速さで流れて、一時的に綱吉が絡まれる頻度が上がった。

「あ゛ぁ゛〜〜ッッッ!!!」
「落ち着いて!獄寺くん、落ち着いて!!」

 追い払うどころか事態を悪化させている現状に、ストレスが溜まる一方の獄寺は自身の髪を掻き乱す。その様子をやべぇなと判断した綱吉が必死に宥めるも、いつ爆発するか分かったものじゃない。ダイナマイトの代わりの“何か”を見付けないことを切に願った。


 逆に山本は持ち前のコミュニケーション能力を発揮し、スカラビアに随分と馴染んでいる。昨日は寮生に野球を教えて遊んだぜ!みんな運動神経良いのな!!と元気よく話され、絶賛食物連鎖の最下層に置かれている綱吉は乾いた笑いを浮かべるしかなかった。

「今日は宴?をするらしーんだけどさ、色んな人誘って良いって言ってたしツナたちも来いよ!」
「寮で宴!?何か祝い事でもあった?」
「特には何も言われてないけど、オレたちより少し先に編入した新入生が宴好きらしーのな」
「確か、熱砂の国の大富豪の息子、だったと思います。なんでもこの世界トップレベルの商人の家らしく、宴は全て自費で開いてる、なんて噂もありますね」
「情報集めるの早いね……」
「10代目の右腕として当然っす!」

 他のメンバーがつかまらなかったのでとりあえず三人だけで参加したら、主催者らしい噂の大富豪の息子、カリム・アルアジームから盛大に歓迎を受けて三人は固まった。
 学内で、象。スケールが違う。

「よく来たな!歌って、踊って、存分に楽しんでくれ!!」
「お、お邪魔します」
「お前がヤマモトの言ってたツナだな!ご馳走もたっぷりあるから、腹一杯食ってくれよ!」
「あ、ありがとう……」

 すこぶる明るく友好的なカリムに、綱吉はタジタジだ。サバナクロー寮内での対応との雲泥の差に心が痛くなる。オレもスカラビアの子になりたい。
 そんなカリムの従者、ジャミル・バイパーの隙の無い右腕っぷりに、獄寺が対抗心を燃やして綱吉の精神的疲労度が増した。オレに毒見とか必要ないから!
 食べさせられる頻度の高いポイズンクッキングは、見た目で即時判断可能である。


 ハーツラビュルに組み分けされた総志も、何だかんだ言いながら上手くやっている、……わけもなく、やはり寮に行ってからも駄々をこねた。
 あまりにも煩いものだから、

「明日までに女王の法律をすべて覚えられたら、あちらの寮長に転寮の打診をしてあげようじゃないか。
 でも、覚えられなければ以降の文句は一切許さないよ。もしも諦め悪く言い続けるようであれば、お分かりだね?」

 と、新入生でありながら寮長の座を獲得したリドル・ローズハートから言外に「おとなしくだまれ」をされた程だった。
 しかし残念なことに、総志は無駄に物覚えがいい。そこに姉のことが加わるとなるとそれはもう驚異的で、自己の能力を十二分に発揮する勢いになる。つまり翌日には、本当に女王の法律810条を覚えてみせた。

「嘘だ!」
「ほんとですー。試してもいいぜ」
「……256条は」
「“夜8時過ぎに蜂蜜入りのレモネードを飲んではならない”」
「339条は」
「“食後の紅茶は必ず角砂糖を2つ入れたレモンティーでなければならない”」
「703条!」
「“クロッケー大会で2位だった者は、その翌日女王に紅茶をいれなくてはならない”
 ……女王の法律って飲み物に関する縛り多くない?」

 まさか本当に覚え切れるとは思っていなかったリドルも、約束は約束なので相手側の寮に打診した。したが、イグニハイド寮長から「陽キャの気配を感じるので無理」と一蹴。
 てっきりすんなり転寮出来ると楽観視していた総志は、上げて落とされたとさめざめと泣いた。これ見よがしにリドルの前で。そんなことをしたところで「約束は守ったよ」と切って捨てるのがNRCである。


 そんな弟の痴態など知らぬ存ぜぬスイは、まぁまぁ快適にイグニハイドを満喫していた。
 寮の気質故か、部屋は完全個室制。必要以上に関わり合わず、用がある時は専らネットを経由する。優しいことに、初めて寮に来た時に携帯電話をパカパカ開いて見せたら「今時それはない」と中古だがこの世界のスマホもくれた。優しい。
 そんな中でも困っていることの一つは、今のところ会話をした同寮生が寮長のみなことだろう。寮内でもすれ違うことはなく、校内にいても教室以外では見付けることが出来ず関わり合うことが無い。イグニハイド寮生は幻だった……?

「うっわイグニハイドじゃん、陰気寮が堂々と道の真ん中歩いてんなよ、陰気がうつる」
「ぎゃはは、言い掛かりヒデェWW」

 代わりにこう言った不良にはよく絡まれるので、スイは何となく見当たらない寮生の性格と待遇とその結果を察した。
 それはそれとして。
 絡んできた不良には指導が必要なようなので、付近に誰もいないことを確認の上で並中風紀委員会式の指導を行っている。実力主義の序列に厳しい獣人には特に効く指導方法である。たまに魔法でやり返されるが、当たる前に殴るか魔法石ないしマジカルペンを弾き飛ばせばいいので問題ない。壊さないのは優しさである。

「問題ありますよ!」
「大丈夫、今のところ怪我は一度もしてない」
「それでも危ないじゃないですか!」
「恭弥に追い掛けられるより危なくない」
「ひば、ヒバリさんと比べたら、そりゃあただの不良なんて平気でしょうけど……」
「そう、大丈夫、大丈夫」

 怪我の心配をしてくれる綱吉を、スイは大丈夫を繰り返して丸め込む。仕舞いには、スイさんなら大丈夫か……?と全く根拠もなく信用させた。

「……あ、獄寺くんだ」

 外廊下で話し込む二人は、中庭を挟んだ向こうに身内を見付けて話を中断させる。今日も元気な10代目の右腕 獄寺隼人だ。
 どこかに向かっていたらしい獄寺は、視線を感じたのか目付き鋭くこちらに振り向き、綱吉を視界に捉えると忠犬よろしくコロッと表情を変え方向も変え駆け寄ってきた。近くまで来てようやくスイの姿も視界に入れたようで一瞬顔を顰めるも、すぐに10代目専用の笑顔を浮かべる。

「お疲れ様です10代目!また変な奴らに絡まれてませんか?」
「あはは、いつもありがとう獄寺くん。今はスイさんといたし、誰にも絡まれてないよ」
「そうですか!お前もたまには役に立つじゃねーか」
「ははは」
「獄寺くんっ。スイさんも受け入れないで怒ってくださいよ!」

 獄寺の物言いが尊大であるのも慣れてしまい、スイは目の笑っていない笑顔で受け流す。認めていることには変わりないのでまぁいいかなと思っている。

「ここにいて良いの?どこかに向かってたよね」
「ああ、別に気にするほどのことじゃないです。寮の上の学年の連中の呼出しからバックレてる途中なんで」
「呼出し!?」
「はい。何度か呼ばれてますが、テーブルマナーの講習を下級生にしてるようで、オレにも参加するよう言って来るんすよ」
「そういう呼出し……」

 綱吉は胸を撫で下ろす。
 ここで生活して、何度か遠目にポムフィオーレ寮生を見てきた綱吉の感想は「すごく上品な集団がいる」だった。そんな所に分けられたはずの獄寺から“呼出し”なんて不穏な単語が出て驚いたが、内容はマナー講習のお誘い。抱いた感想に違わず上品だ。

「でも獄寺隼人くんにマナー講習の必要あるかな?」
「あるわけねーだろ。粗方のマナーは実家で身に付けたからな」

 元大富豪マフィアの御曹司は伊達じゃない。

「なので、そんな無駄なことに時間割くより少しでも長く10代目のお側にいますから、心配しないでくださいね!」 
「オレのこともそこまで気にしなくていいんだけど」
「何か言いましたか10代目!」
「な、なんでもないよ……」

 本当に聞こえていないのか、それとも聞こえていないフリをしているだけなのか。押しの弱い綱吉の小さな抗議は、押しの強い獄寺には届かない。慰めるようにスイは綱吉の頭を撫でた。思ったより手触りが良い。


 ディアソムニアに分けられた雲雀は、いつもと変わらず自由に過ごしていた。
 と言っても、並中では風紀委員長としての業務を熟しつつ授業にはほぼ姿を見せない状態で自由に過ごしていたわけで、その風紀委員長としての仕事がない今となると本当に朝から晩まで自由に過ごしていることになる。たまに受ける授業以外での目撃情報となると、学園の高所で昼寝をしていただとか、学園の高所で鳥に不思議な歌を教えていただとか、学園の至るとこで不良をボコボコにしていただとか。

「変わらな過ぎて逆に安心する」
「そう、よかったね」

 NRCには屋上が無い為、高所の屋根の上でスイと雲雀は絶賛サボり中である。箒もなくどう辿り着いたのかは本人たちしか知る由もない。
 元々スイにサボるつもりは無かった。しかし、あまりにも授業に参加しない雲雀の捜索+連行を教師に指示され、仕方がなく見付けたまでは良かったものの、連れて行くのが面倒臭くなりその場に留まって今に至る。教師からしたらミイラ取りがミイラになってしまった状態だろう。スイの突発的な“面倒臭い”を知っている並中組からすれば、当然の成り行きだが。
 仰向けに寝そべり目を瞑る雲雀の隣で、スイは体育座りで空を眺める。おそらきれい。

 なぜか小動物に好かれる雲雀のおこぼれに与り、寄ってきた鳥やらリスやらとスイが戯れていると、下方から言い争う声が聞こえてきた。屋根から落ちない程度に縁に寄り見下ろせば、中庭に人だかりが出来ている。
 その中心は、見慣れた茶色い頭と銀色頭、黒が二つの計四人だ。それを囲むのは、獣の耳や尻尾が生えたガタイの良いNRC生が数人。
 また何か揉め事を起こしているのだか巻き込まれているのだか、どちらにせよ大変だなぁ。などと他人事に考えつつ、スイはゆったり見物することに決めた。


 綱吉は白目をむいていた。
 情けないことこの上ないが、最初はいつも通りただのカツアゲだったのだ。そこに獄寺が駆け付け、タイミングが良いんだか悪いんだか山本と総志も通り掛かり、綱吉を後ろに庇っての言い合いが始まった。
 獄寺が怒鳴り、山本が飄々とかわし、総志がノリノリで煽る。綱吉はただ青い顔で震えていた。止める努力はしたのだ、届かなかっただけで。
 今度はそこに、ヒバリに“咬み殺された”不良生徒が加わって事態が悪化した。

「見ろよこの傷、ヒバリの所為で酷い目にあったぜ!」
「テメェらのところの不始末だ!詫び入れてもらおうか!!」
「え、爆笑なんですけど。今の聞いた獄寺ぁ?」
「ちっ、ヒバリの野郎のとばっちりか。アイツに負けたからって10代目の手を煩わせるんじゃねーよ」
「ほんと、雲雀なんかに負けたからってなんでこっちくんの?八つ当たり?腹いせ?カッコ悪ぅい」
「名門校とか言っても、ザコの考えることはどこも同じだな。コスイんだよ、ダセェ」
「珍しく二人とも息合ってるのな」

 発した言葉に倍の煽りが返ってきて、同じ理由で加勢した生徒は揃って顔を赤くし憤慨する。綱吉の顔は反対に真っ青だ。可哀想。

「クソっ、大魔導士の弟子だからって生意気なんだよ!」

 言い合いに勝てないと分かり、不良生徒の先頭に立つ一人が、マジカルペンを綱吉に向けて構えた。反射的に四人の身体が強張る。
 勝てる予感に不良生徒の口元が緩むも、視界を遮るように降ってきた影に思考が止まった。

 降ってきたスイの着地点、そこにあったマジカルペンを狙い違わず足の先で踏み付ける。衝撃で手放されてしまったマジカルペンは、そのままスイに踏まれて地面に埋まった。軋むような音が聞こえたのは、魔法石からかペン部分からか。

「物理までなら見守るけど、魔法を使うようなら看過しない」

 綱吉たちを守るように立ち言い放ったスイに、総志が一人歓声を上げる。スゴイ!カッコイイ!ツヨイ!ステキ!ワッショイワッショイ!総志の語彙は死んでいる。
 突然現れたスイに、不良たちは顔を合わせた。中にはスイの“指導”を受けた生徒もいたようで、「あいつ容赦なく魔法石狙って来るから嫌なんだけど」と尻込みしている。
 魔法石は魔法士にとって大事な物であるから、それを壊されたくないのは当たり前だろう。

「お、覚えてろよ!」
「秒で忘れるー」
「一昨日きやがれ!」

 テンプレな捨て台詞を吐く不良たちを、総志はにこやかに手を振り見送り、隣で獄寺は中指を立てた。


「スイさんどこから来たんですか!?」
「上から」

 不良もいなくなり身内のみとなって落ち着いたところで、綱吉はスイに詰め寄った。詰め寄られたスイは何食わぬ顔で上を指差す。「上……」と四人はつられて顔を空に向けた。空が広がるばかりである。

「……は?ちょっ、待て待て。テメーまさかこの屋根のどれかから飛び降りてきたわけじゃねぇよな?」
「あっちの屋根から来た」
「ははは!あの高さはオレでも難しいのな!」
「す、スイさん!骨とか大丈夫ですか!?折れてませんか!!?」
「大丈夫大丈夫」
「100点満点の身のこなしだったのう」
「危ないから!これは褒めちゃダメなやつだから!!」

 信じられないものを見るような獄寺と、少し引き攣った笑顔の山本。綱吉はスイの身を案じつつ必死に注意し、総志はおや?と怪訝な顔でメンバーを見回した。
 えーと。オレと、姉ちゃん、獄寺、山本、沢田に……、何か知らない美少年。誰コイツ。総志は90度に首を傾げる。
 綱吉とさほど身長の変わらない美少年の、ラズベリーレッドの瞳と総志の目がぱちりと合った。悪戯がバレてしまったと言うように、愉快気に細められる目と弧を描く口元。……美少年じゃなくて美少女だった……???総志は宇宙猫の顔で固まった。

「おい、なにアホ面さらしてんだ?」
「……はっ!沢田の隣に美少女がいた!!」
「ここにはオレたち以外いないよ、……あっ、次の授業!遅刻したらリボーンに殴られる!!」

 慌ただしく中庭から駆け出す四人と、その後をノロノロと付いて行くスイ。それらを上空から眺めていたリリア・ヴァンルージュは、にこにこと笑みを浮かべている。

「リボーリンの弟子は面白い子どもたちじゃな」

 さぁて、わしも授業に向かわねば。
 瞬きの間に、その場から姿を消した。


___
 これから始まる異世界学園ライフ。
 骸君もちゃっかりオクタヴィネルでモブに憑依してスクールライフ送っているでしょう。
 学外に出るとRSAの了平君に会えるよ!



***
≪文章に出来る気がしないもの≫

 避ける雲雀、追うフロイド。

「待てよー、エイちゃ〜ん」
「((((……永ちゃん……!!??))))」

 翻るブレザーがエイの泳ぐ姿に似てるから。
 矢沢○吉ではない。
 フロイドが気まぐれ過ぎて、途中でいなくなるので対応したくない雲雀。

 綱吉・獄寺・山本・総志の中で、雲雀をサバナクローとオクタヴィネルには出来るだけ近付けない同盟が組まれている。
 サバナクローは一触即発が過ぎる。
 オクタヴィネルは綱吉の勘(骸センサー)。
 実のところ総志はどうでも良いと思っているけれど、雲雀に何かあると教師陣がスイを駆り出すので同盟に加わっている。

___
「ツナも食事に毒の危険があるのか!あれは厄介だよなー」
「食事に毒って言うか、食事が毒って言うか……」
「ん?どういうことだ?」
「作った料理が全部毒になる人がいるんですよ」
「へぇ、すごいな!そいつのユニーク魔法かなんかか?どんな風になるんだ?」
「料理してる途中からすでに色は全体的に紫色で、ひどい悪臭で、味はこの世のものと思えないような……」
「うーん、あんまり暗殺向きじゃないなぁ!」

 物騒な話をなんてない顔でする。
 その人が自称右腕の身内(姉)と分かるとバイパー君から信じられないものを見る目が向けられる。今は美術と家庭科の家庭教師になったと知ったら正気を疑われる。
 アジーム家にそんなことしたら、たぶん一族郎党消える。

___
 廊下でスイを見かけた綱吉。
 声を掛ける為近付こうとすると、陰に別の生徒がいることに気が付く。腕章は灰色と薄紫、オクタヴィネルの生徒だ。その生徒を視界に入れた途端、何とも言えないゾワリとした感覚が肌を撫でる。
 思わず陰に隠れて、綱吉はスイの様子を見守る。
 それから二言三言談笑()して離れていくオクタヴィネル寮生を見送って、綱吉は詰めていた息を吐く。

「何をしてるのかな綱吉くん」
「うわぁ!!?……す、スイさん、気付いてたんですか……」
「まぁね」

 綱吉は盗み聞きがバレていた気まずさから目を泳がす。
 対してスイは、まぁ推しのすることなのでとても寛容。別に見られても聞かれても困るようなことは無いので。いや多少は困れ。
 視線を右に左にうろうろさせた後、意を決して綱吉は真っ直ぐスイを見た。スイは何を言われるのかな?と首を傾げる。

「あの、さっきの人ってもしかして……」
「なぁ〜に、こんな所でコソコソしてんの〜?カクレクマノミみてぇ」
「ひぃぃ〜〜っ!?」
「うわ出た」

 身長の割に神出鬼没なにんまりフロイド・リーチの登場に、決した意も引っ込ませて怯える綱吉。面倒臭い気配を察知したスイは、いかにして綱吉とこの場を切り抜けるか考え始める。

「はぁ?怯えすぎでしょ。俺まだ何もしてないじゃん?」
「(まだってことは何かするつもりだこの人!!)」
「おい何か言えよ」
「ヒェ……っ」

 先程までのにっこり顔をガラリと不機嫌顔に変え、フロイドは綱吉に手を伸ばした。
 その腕を、スイが掴んでくるりと一回転。
 190cmの長身が、綺麗に弧を描いて静かに床に倒される。
 ぱちくりと大きく目を開いて固まるフロイドと綱吉。
 何かされたが何をされたか分からないフロイドは真顔ですっくと立ち上がり、今度はスイに向けて腕を伸ばす。それをもう一度掴んで、くるりと同じように転がした。気が付けばフロイドは天井を眺める状態になる。

「なにこれ面白ぇー!!」
「うわ喜んだ」
「もう一回やってぇ〜」

 なにやら遊具と勘違いしていないか。
 一度目は綱吉の防衛、二度目は自己防衛のための行動をまさか喜ばれるとは思わず、ランランと目を輝かせるフロイドにスイは少なからず怯む。怯んだところで、腕を伸ばされれば反射的に掴んで転がしてしまうのだから、幼少から染みついた慣れとは恐ろしい。
 早く飽きてくれないかなと願いつつ、ねだられるままコロンコロンと転がす。
 ついには「俺もやる〜」などと言うものだから、綱吉に被害が行かないようスイは自身の腕をフロイドの前に突き出した。そう簡単に出来ることではないので大丈夫だろうと高を括っていたが、予想に反して回る視界。無様に転がりたくない一心でどうにか着地したが、回らされたことに変わりはない。
 ショックに固まるスイを置いて、「アズールとジェイドにもやろぉ〜」と跳ねるようにフロイドは去って行った。

「……スイさん大丈夫ですか?」
「だいじょばない……」
「(これは重症だ)」

 この後、推しによる懸命な励ましに持ち直す。
 のち、鍛え直す一環として総志が頻繁にクルクルされることになる。

 たぶんアズール回しは成功するけどジェイド回しは失敗→ガチ喧嘩。
 そして冒頭のオクタヴィネル寮生は忘れられる。

___
 なんやかんや仲良くなったイデアが珍しく談話室に現れたので勉強を教わるスイ。

「いやこの問題すら分からないとかミドルスクールからやり直した方が良いレベルなんだがwww」
「はぁ、まぁ、現役ですので」
「……ん??……せ、拙者の聞き間違いだとは思うけど。ハハ、いま現役とか言った?」
「ミドルスクールって中等教育機関で間違いないですよね?」
「なんでナイトレイブンカレッジ通ってるの!?」
「リボー……、リンの指示なのでなんとも……」

 偶然立ち聞きしたイグニハイド寮生によって秒で拡散される。


 ハーツラビュルのなんでもない日のお茶会。
 トレイのうまうまタルトから実家のケーキ屋の話になり、総志の家族の話になる。

「んー、うちの親はあんまり家にいないから何してるかも知らないんだよね。気付いた時には、姉ちゃんが親代わりに世話してくれてたし」
「トモキには姉がいるのかい」
「三人兄弟か。その様子だと仲が良さそうだな」
「は?いやいや二人姉弟ですけど」
「え?だってイグニハイドにも兄弟がいるんだよね?」
「うん。だから、イグニハイドにいる姉ちゃんと二人姉弟」
「姉……?」
「うん、姉」
「姉!!!???」
「うわうるせ」

 厳格を重んじるハールラビュルから学園長への談判が開始される。


 そうして学園長室に集められた並中組(雲雀は欠席)と、なぜかスイに連れてこられたタブレットイデア。ちょっと手近にあったのでつい。
 別に色々と隠していたわけではないんですよ。

「てっきり極端に女子の少ない共学校なのかと……」
「ナイトレイブンカレッジは!れっきとした男子校です!!」
「知りませんし。何も言われないので性別の件は把握されているとばかり」
≪……受け入れた学園長が把握してないとかガバ過ぎでは?≫
「シュラウド君っ、言いたいことがあるならタブレット越しではなく直接言いなさい!」
「知ってただろリボーン!」
「……スピー」
「寝るなーっ!!」

≫男子校だと、
気付いてた ⇒ 山本・雲雀・スイ
なんとなくそんな気が薄々してた ⇒ 綱吉
気付いてなかった ⇒ 獄寺・総志
 ⇒慣れない環境にいる10代目のことが気が気でなくてそれどころではない。
 ⇒魔法関連に関わる姉が格好良くてそれ以外些末なこと。

「いや、でも。こんな綺麗どころ集めたような学校で、この顔面でわざわざ女を主張する必要性を感じなかったですし……」
「必要ですよ!?」
「そうですか?」
「そうですよ!」
「そうですか……」

 異世界の価値観分からんな。


 戻るかそのまま続投するかはリボーンの気分次第。
___
ハーツラビュル 厳格 総志
サバナクロー  不屈 ツナ
オクタヴィネル 慈悲 骸
スカラビア   熟慮 山本
ポムフィオーレ 奮励 獄寺
イグニハイド  勤勉 スイ
ディアソムニア 高尚 雲雀
ロイヤルソードアカデミー 笹川了平



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