07
十一月に入り、寒さがいや増した。学校を囲う山々は灰色に凍りつき、談話室から見上げる湖も冷たい鋼のように張りつめている。十二月にもなればこの湖にも氷が張るのだろうか。
それでも実家にいた頃よりは温かいな、という感想を抱く。一応防寒として厚手のタイツをはくけれど、それだけだ。
下がっていく気温とは反対に、寮生の気分を上げるイベントごともある。クィディッチ・シーズンの到来だ。私のテンションは上がらないけれど、ドラコのテンションは上りに上っている。
特に明日の土曜日にはグリフィンドール対スリザリンの試合が待ち構えているので、猶更だった。
「ポッターの初試合らしいが、きっとみんながマットレスを持って彼の下を右往左往するだろうさ」
「いっそいつでも地面をふわふわで覆いつくしてくれればいいのに」
「……それは見栄えがよくないだろう」
いい案だと思ったのに、ドラコには渋い顔をされてしまった。ゆめかわな感じにすればいいと思うんだけどな。雲っぽいふわふわを敷き詰めて、所々に星とかペガサスのふわふわのクッションやぬいぐるみを置けば見た目かわいいじゃない。
安全性も増すと思うし、女子からの賛同は得られそうだけどな。まぁ少数派だろうし真面目に案として出すつもりはないが。
考えるだけは楽しいので、ぼんやりとゆめかわなクィディッチ風景を思い浮かべて廊下を歩く。
……迷子になった。もうそろそろこの状況にも慣れてきた自分がいる。おかしいな、さっきまで目の前をドラコたちが歩いていたはずなのに。
都合がいいことに今は休み時間なので、次の時間に間に合うようにミセス・ノリスに助けてもらおう。最近お世話になってばかりなので、お礼のおやつを弾まなければいけないなぁ。
「あらぁ、ヤスハ一人なの?」
「やあ、イリナとイオン」
「迷子?」
「迷子ぉ」
前方から見知った誰かが歩いてきたと思ったら、イリナとイオンだった。私が一人=迷子の図式が成り立つくらいには私を理解してくれているらしい。悲しいったらない。
「次の授業って僕たちと合同だったよね?よければ一緒に行かない?」
「優しい……。よろしくお願いします」
「部屋では一緒だけれど、校内で一緒にいられるのって珍しいわよねぇ」
「ヤスハはいつもドラコがお世話してるからね。あまり近寄れないよね」
「お世話されてます」
否定はできないので大人しく頷いておく。よくよく考えなくても、普段から移動も授業も食事もドラコが一緒にいてあれこれと世話を焼いてくれているのだ。大伯父からマルフォイ氏、マルフォイ氏からドラコへと、よろしく頼むね、が伝わったにしてもすごくお世話になってしまっている。
……迷子に慣れたなんて言ってる場合じゃあないんじゃないか……??せめて自力で自寮に帰れるくらいにはならないと駄目な気がする。
改めて自分のお世話され具合に肩を落とせば、それに気が付いたイオンが「ホグワーツは広いから仕方がないよ」と慰めてくれた。「二ヵ月もあれば大体の子は地図を覚えてるわぁ」とイリナが言ったことでまた凹んだが。
中庭に通りかかると、前方から少し歩き方が不自然なスネイプ教授が歩いてきた。
「スネイプ先生こんにちは」
「こんにちわぁ」
「…………ああ」
会釈だけで済ませる私とは違い、イオンもイリナも笑顔で挨拶したので驚いた。強いな。スネイプ教授も挨拶されるとは思っていなかったようで、どう返事すべきか迷った後に無難な、一言だけを返して通り過ぎていく。
これで、からかい半分、であるなら呆れるところだが、二人にそんなつもりはないようだった。そういえば魔法薬学の授業も嫌いじゃないって言っていたものな。
なんとなくその黒い背中を見送っていると、スネイプ教授は中庭の何かに気が付いたようでスタスタとそちらへと進んで行った。行く先を目で追えば、ベンチで体を寄せ合い本を読むハリー・ポッターたち三人がいた。目敏いな。
どうやら本を没収されてしまったらしい。あの様子からすると減点もされていそう。ご愁傷様である。
その日の夜。談話室での宿題も終えて、就寝の挨拶をドラコたちとした後にこっそりと寮を出た。ちょっと大広間まで行って、ちょちょっと寮に戻る。真夜中の迷子訓練だ。
「大広間通り過ぎてないかい?」
「どうしてミアがいるのかな……」
「ヤスハがなかなか部屋に来ないから、探しに来てあげたんだぞ!」
当てどもない私をよく見つけられたな。
大きく胸を張る得意満面なミアが「オレの第六感が輝いたのさ!」と宣うが、スルーしていいだろうか。いいよ。ありがとう。
今日の訓練は失敗ということで、スリザリンの寮へ向かおうかと考えた時、前方からハリー・ポッターが歩いてくるのが見えた。
「あ、ポッターだ」
「マーティン。それにクロダテも?」
「こんばんは」
ハリー・ポッターはミアを見て、それから私を見て首を傾げた。まぁ時間も時間だし、寮が違う人間が一緒にいたら不思議にも思うか。
「こんな時間に一人でどこに行くんだい?」
「職員室だよ。昼間、スネイプに没収された本を貸してもらおうと思ってね」
「スネイプぅ??」
ミアが一気に顔を顰めた。その顔は可愛くないのでやめた方がいいと思う。
最初の授業でやらかして以来、ミアはスネイプ教授に問題児として目を付けられたようで、普段からチクチクと言われてあまり好きではないらしい。それでもハリー・ポッターほどチクチクされてはいないのだけど。
「敵陣に一人で行くのかい?グレンジャーとウィーズリーは?」
「二人にも心配はされたけど、断ったんだ。勝算があるからね」
ニヤリと口角を上げるハリー・ポッターに勝算の詳細を聞けば、職員室なら他にも教員がおり、他にも先生がそばにいるなら断れないだろう、ということらしかった。はたしてそんなにうまく事が運ぶだろうか。
「あのスネイプじゃ、不安じゃないか?そうだ、オレたちもついて行くよ。ヤスハはスリザリンだし、勝率が上がるんじゃないかな!」
さっきから敵陣だ勝率だと、ミアはいったいなんの戦いをしているのだろう。期待に満ちた視線を送ってくるミアを呆れの気持ちで見遣り、何か言いたげなハリー・ポッターに目を向けた。
「言われてみれば確かに不安だけど……、クロダテを巻き込むわけにはいかないよ」
「一緒に行くくらいかまわないよ?」
この後は寮に戻るだけで特に用事があるわけでもないし、今の時間なら咎められるほど夜遅いわけでもない。ミアが手助けしたいというなら付き添ってあげるぐらいしようじゃないか。
快諾した私にハリー・ポッターは少し驚いた顔をして、すぐに破顔してお礼を言う。そこに入学したばかりのげっそり顔はなく、年相応にふっくらとした頬をしていた。虐待まがいの親戚の家とは違い、毎日三食好きなものを好きなだけ食べられる学校生活の成果である。
虐待まがいの対応をしてしまう親戚の事情も分からなくはないけれど、だからと言ってその事情が免罪符になるわけでもない。どんな事情があるにせよ、虐待は悪である。
そもそも、預ける先をそこにしたアルバス・ダンブルドアにも非があるのでは。非しかねぇな。大伯父も、善人面してとんでもないことをしでかすジジイ、と苦虫千匹噛み潰したような顔で言ってたし。
「行くなら早く行こうか!遅くなると他の先生にも怒られちゃうからね」
「うん」
「はいはい」
出発―!と先陣をきるミアに続いて職員室へと向かった。
職員室に到着して、ハリー・ポッターがドアをノックした。しかし答えはなく、もう一度ノックするもやはり反応がない。
ハリー・ポッターはミアを見て、二人揃って私を見た。
「ヤスハ、中を見てみてくれよ」
「どうして私が……」
「気配を消すの得意そうだし、見つかってもスリザリンだからさ!」
ジャパニーズNINJAのイメージで私に提案してる??日本人みんな忍者なわけじゃないからね。やるけども。
ドアを少しだけ開けて、中をうかがう。中にいたのはスネイプ教授とフィルチ先生だった。
スネイプ教授のガウンは膝までたくし上げられており、片方の足がズタズタの血だらけだ。フィルチ先生は治療の手伝いをしているようで、包帯を手渡していた。
「忌々しいやつだ。三つの頭に同時に注意するなんてできるか?」
スネイプ教授がそういうのが聞こえた。あー、あったあった、こんなこと。これ私が聞いてよかったのかな、と思ったけれど、背後の二人にも聞こえていたようで「三頭犬のことかな?」「どうしてマーティンもあの部屋のことを知ってるの!?」とやり取りをしている。必要なことは伝わっているようでよかった。
しかしこの雰囲気は割って入れるものではないので、本を返してもらうのは諦めてもらった方がよさそうだ。そっとドアを閉めようとして、
「クロダテ!」
……見つかった。怒りに顔を歪めたスネイプ教授がガウンをおろし脚を隠している隙に、背後の二人に隠れるように合図する。三人で怒られるより、私一人で怒られた方が何かと楽だ。
開き直ってドアを開け、「失礼します」と声を掛ける。フィルチ先生の足元にいたミセス・ノリスが、にゃー、と鳴いて挨拶してくれた。可愛い。満点。
「どうした、また迷子か。ミセス・ノリスに案内を頼もう」
「違うんです。いつもお世話になってすみません」
選択肢ひとつに絞るほど迷子になってすみませんフィルチ先生。でも今日は違うんです。
善意からミセス・ノリスを貸してくれようとするフィルチ先生から視線を外し、いまだにいらいらとした様子のスネイプ教授に向き直る。ちらりと脚へ視線を遣れば、更に眉間の皺を増やして怪我をした方の脚を私から遠ざけた。もう何も言うまい。
「えーと。ハリー・ポッターから没収した『クィディッチ今昔』を返してほしくて来ました。次に私が借りる予定だったんですけど図書室に返却されてなくて、きいたらスネイプ教授に没収されたとか」
「…………。そこの机に置いてある、勝手に持っていけ」
「ありがとうございます」
たっぷり溜めた後の返答に、ドアに程近い机のお目当ての本をさっさと持って職員室を後にする。
十歩ほど進んだところで横合いから手が伸びてきて、通路の陰に引っ張り込まれた。ミアだ。奥にはハリー・ポッターもちゃんといて、私の手の中にある本に目を輝かせている。
「はい。もう没収されないようにね」
「ありがとうクロダテ!」
ひったくるように取られたけれど気にしないでおく。それだけ嬉しかったということと、何かしら考えなければいけないことがあるようだし。
ミアとハリー・ポッターが寮に帰るのを見送って、暗い廊下にひとり残る。
うーん、ここからスリザリン寮は右だったっけ?
ひとまず歩いてみようと足を踏み出して、ふわふわの毛玉が脚に触れて動きを止めた。迷子の強い味方、ミセス・ノリスだ。
「……先見の明がおありで」
にゃーおう。
夜が明けて、晴れ渡った寒い朝が来た。
スリザリン寮は地下なので、大広間の窓から見える湖の様子からそれをうかがい知る。水の中を通って差し込まれる陽の光がゆらゆらと揺れて室内を照らし、趣がある光景だ。
土曜日の今日は授業がお休みで、着替えて談話室までは来たもののいまいちやる気が出ない。二度寝でも決め込もうかな、と考えていると制服姿のドラコが談話室に入って来た。
「おはようヤスハ、どうして私服なんだい?」
「おはようドラコ。だって今日は休日だよ?」
「クィディッチの応援があるじゃないか!」
談話室の二人掛けソファに悠々と座りつつ迎え入れれば、ドラコから不可解そうな顔で問い掛けられた。何を当たり前のことをと答えるも、その答えもドラコにとっては信じられないものだったらしい。
クィディッチ。クィディッチねぇ。
ハラハラして心臓に悪いだけだし、できることなら見るのも遠慮したいんだけどな。
「それって強制参加?」
「まさか応援しないつもりか!?」
まさかと言われても、まさにそのつもりなのだけど。そもそもスポーツの試合に対する応援なんて、前世の高校時代に学校行事で野球の応援に行ったぐらいしかない。個人的に行った回数はゼロ。世界的なオリンピックでさえ、結果だけ見て頑張ったんだなぁと感想を浮かべるだけだった。
せめて、友人の雄姿を見守ろう、ぐらいの理由がないと気が進まない。ドラコがチームに入れるのっていつだっけ。来年?じゃあ来年から応援するね。
「私は図書室で読書でもしようかな。ドラコは応援頑張ってね、向こうの女子が一緒に行きたがってるから声掛けた方がいいよ」
「ひ、一人で図書室に行けないだろう?」
「迷子になってもミセス・ノリスが助けてくれるから大丈夫」
「まず迷子にならない努力をした方がいい」
「う゛っ」
急に痛いところ突くじゃん。
胸を押さえて苦しがるふりをしつつ、足早に談話室から自室へと戻った。女子寮までは追ってこれまい。
談話室を横切る際中、たくさんの視線をいただいた。主に女子。ほぼ女子。理由はどうせ、ドラコと馴れ馴れしくしてんじゃないわよ、といったものだろう。女の子の嫉妬は怖いのだ。まぁ家柄は最高級で、血筋も良くて、魔力の質も良くて、顔も悪くないし、成績はいいし、性格はちょっと難ありだがこれから教育していけばいい話だし。モテない方がおかしいか……。
でも友達にまであからさまに嫉妬するってどうだろう。付き合い始めたんならこちらとしても配慮するけど、今の段階でどう配慮しろと。
うーん、めんどくさ。
十一時頃になると、学校中から人の気配がなくなった。みんながみんな、クィディッチの試合を見に行ったのだろう。なるほど、確かにクィディッチは魔法界で人気の競技らしい。
しかしそんな人気競技を観戦するつもりのない私は、ミセス・ノリスと一緒に図書室からの帰り道を歩いていた。
手には三冊の厚みのある本を抱えている。可能であるなら、大伯父に手提げバッグへの検知不可能拡大呪文の付与を検討してもらいたい。ホグワーツの図書館にある本はどれもこれも大きくて重いので、そのまま持ち運ぶには不便が過ぎる。
「ミセス・ノリス。このまま一緒にお昼ご飯はどう?」
にゃあ゛―ん。
「フィルチ先生と一緒に食べる予定なの?うーん、残念です」
なーおぅ。
残念、振られてしまった。
そろそろ試合が始まる頃だろうか。ドラコたちは勿論のこと、ミアもイリナもイオンも観戦しに行ってしまったため、久し振りの一人きりだ。試合にどれだけ時間がかかるか知らないが、もしかしたら昼食も一人かもしれない。ミセス・ノリスにも振られてしまったし。
大人しくスリザリン寮まで送ってもらって自室にいようかな。
「ぶぁ、」
「む……?」
廊下の角を曲がった瞬間、黒い壁にぶつかってしまった。適度に弾力のあるそれにぶつかった反動で後ろへとたたらを踏み、持っていた本と一緒に床に尻もちをつく。
どさどさっ、と本の落ちた音に血の気が引く感覚がした。図書室の本を落とすとか、ページの一枚でも折れたり破れたりすればどうなることか。
慌てて本を拾い集め、すべてのページを確認する。破れなし。折れもなし。多少汚れてはいるが、服の袖で拭えば大丈夫だろう。
「なぜ立たないのだ。……立てないのか?」
無事だった本を抱えたまま、床に座り込む私に頭上から心配げな声が降ってくる。顔を上げて見上げると、そこにいたのはいつも通り真っ黒い姿のスネイプ教授。ぶつかった黒い壁の正体は彼らしい。
スネイプ教授は顔を上げた私を認めた瞬間、分かり辛いながらも顔を顰めた。私、先生に何かしましたっけかねぇ???
「クロダテか……」
「はい、クロダテです。ぶつかってしまい申し訳ありません」
「……いや、次からは気を付けたまえ」
「はい」
返事をしてから立ち上がろうとして、目の前に手を差し出されていることに気が付いた。お手か?とボケたことを考えつつその手のひらに本を抱えていない左手を乗せれば、意外と強い力で引っ張り上げられた。
筋肉ついているんだなぁ。粘度の強い薬品を混ぜる時には腕の筋肉必要だもんな。某魔法学校の自称普通の男である未来のパティシエも筋肉凄いしなぁ。錬金術は台所から生まれたというが、薬学も調理に通じているのかも知れない。
「ありがとうございます」
「……いや」
お礼に対してそっぽを向かれても気にしてはいけない。スネイプ教授はツンデレなのだ。本人に言ったら烈火のごとく怒りそうなので口が裂けても言ってはいけないが。
しかし、もっとデレが分かりやすければなぁ。最愛の忘れ形見に誤解され続けることもなかったのになぁ。……憎いあんちくしょうの忘れ形見でもあるから難しいところか。
「なんだね?」
「いいえ、なんでもないです」
「ふん。用もないというのに、あまり人を注視するものではない。不興を買いかねない」
「肝に銘じます」
ツンが強ぇ〜。私だから笑顔で応対できるけど、大半の子どもからも大人からも嫌われるでしょうコレ。スネイプ教授こそ不興を買うのでもうちょっとマイルドになってほしい。
まぁでも立ち上がるのを手伝ってもらったし、人生のアドバイスらしきものも頂いたようなので、ちょっと私からも親切心を出してもいいだろう。
スネイプ教授の視線が私から外れ、向かっていただろうクィディッチ競技場へ向いた瞬間に小声で呪文を唱える。守護の呪文だ。杖もないし動作もないのでそこまで強固ではないが、火傷をしても軽いもので済むだろう。
「何か言ったかね?」
「いいえ、なにも言っていません」
否定したのに、それでも疑わし気な表情を向けてくるスネイプ教授。嘘なので疑われも仕方がない。
「スネイプ教授、クィディッチの観戦に向かっていたのでは?そろそろ始まりそうですが大丈夫ですか?」
「まだ開始時間まで余裕がある。……クロダテは行かないのか?」
「私はクィディッチに興味がありませんので。来年ドラコが参加し始めたら考えます」
「そうかね」
訝しげに見られているのは、魔法界にいながらクィディッチに興味がないのが珍しいからか、それとも来年のドラコのチーム参加を確定として話しているからか。
それ以上は会話を続けるつもりはないようで、通り過ぎ際に「迷わず自室に戻るように」とだけ言っていなくなった。
すみませんね、毎度毎度迷ってばかりで。
「スネイプ教授も、お怪我には気を付けて」
このくらいの意趣返しは許されるだろう。
試合も終わった頃かと、時間を見計らって談話室に上がれば当たっていたようで、室内は子どもたちで溢れていた。雰囲気はお通夜のように陰鬱としていて暗い。
原作通り、対戦相手であるグリフィンドールに負けてしまったらしい。肩を落とすスリザリン生の中にドラコを見つけて、絡まれたら怒るか嘆くか、どちらにしても面倒臭そうだったのでそのまま自室へとUターンした。
部屋にはルプの二人が戻ってきていた。戻ってきていないミアは、同寮生たちと祝勝会でもしているのだろう。
「お帰り、二人とも。試合はどうだった?グリフィンドールが勝ったみたいだけど」
「ポッターがスニッチを掴んで勝利さ。初試合で大きな成果だよ」
「掴むんじゃなくて飲み込んだのだけどねぇ」
「へぇ」
昔々の記憶を引っ張り出して、一番最初のクィディッチの試合風景を思い浮かべる。ああ、はいはい。猛スピードで逃げるスニッチを追いかけて、勢い余って食べちゃったんだったか。
これでハリー・ポッターはさらに一躍時の人になるわけだ。盛り上がったなら次は下がるんだろうが、何があったかな……。
自身の椅子に座り、考え込み始めた私にイリナがずいっと顔を近づける。ちょっとびっくり。
「結果も大事だけれど、話題に上がるのは試合が終わる少し前よ」
「ああ。ポッターの箒が大暴れしたんだ。今にも振り落とされそうで、気が気じゃなかったよ。スリザリン以外」
「まぁ、スリザリンは嬉々として落ちろ落ちろと願うだろうね」
「よく分かってるじゃないか」
想像できてしまう自寮の行いに呆れれば、イオンは愉快そうにニヤリと笑った。何も面白くなんてない、残念なばかりだ。
「あれは箒に仕掛けがしてあったか、もしくは呪いだと思うわぁ。きっと後者ね」
「試合はつまらなかったし、犯人捜しの方が楽しそうだと思ってイリナと競技場を眺めていたんだけど、それらしいのは二人いたよ」
「それらしいって言うのは?」
私の疑問に、一度イリナとイオンは目配せをし合ってからこちらに向き直る。
「「呪う相手から目を離さないこと」」
「……なるほどね」
「まぁ場合にもよるけど」
イオンはいくつか呪う方法を呟いて、「今は関係ないから横に置いておこう」と朗らかに笑った。実は彼、ちょっと闇深いんじゃないだろうか。今後の付き合い方を考えちゃうなぁ。
「そのうちの一人がスネイプ先生だったのだけど、急に発火してぇ」
「もう一人のクィレル先生にぶつかって転がして、ポッターは無事にスニッチを捕まえて勝利!」
「わぁ、まとめ方だけ雑ぅ」
めでたしめでたし、と話を締めくくられたので、一応小さく拍手を送っておく。犯人に間違われて着火されたスネイプ教授にとってはバッドエンドでしかないが。
火傷してないといいな。していたら、守護の呪文をかけた私の腕が悪いということにもなってしまう。これが大伯父なら、杖なし動作なし呪文なしでも完璧な守護を授けるだろうに。もうあの人は魔法使い以上の何かだ。
「……なに?」
じっとこちらを見つめる二対の視線を無視するにも限度がある。諦めて二人に話を振れば、ずずずずずいっと近付いてきた。すでに近距離にいたイリナはほぼ密着していると言っていい。
「スネイプが、マントに着いた火を踏み消しながら言ってたよ」
「距離があっても、小さい声でも私たちは唇の動きで読めるの。ちょっとした特技ね」
「表情から感情を読むのも得意かな。でもあれは、誰がどう見たって憎々しくて苛立たしいって顔だったけれど」
色々と嫌な前置きが多い。
読唇術を身に付けているのもだし、表情から心を読むのも嫌だ。そしてこの話しぶりだと、スネイプ教授の憎々しくて苛立たしく思う相手って私ですよね?何かしました??
「なんて言ってたの?」
「なんて言ってたと思う?」
「いやな返しだなぁ〜」
このまま知らなくてもいいかな、と逃げの姿勢をとったがそれをこの二人は見逃さず、要らないというのに親切に教えてくれた。
「「クロダテめ、こうなることを知っていたな!」」
「濡れ衣です……」
知ってたけど知らなかったんです。善意の忠告だったんです。信じてください。届きもしない言い訳を心の中でしていくが、相手に届くわけもなく。
こうしてスネイプ教授からのヘイトが募っていくのだなぁ。みつ○。
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