01
「オマエ、これ以上生意気な態度を続けるようなら海に捨てるからな」
「はいはい、できるものならどうぞ?」
いやまさか、目が覚めたらマジで大海原とか、無しじゃん?
私の身の上を話すなら、ハリポタ原作世代転生原作終了済、で概ね理解してもらえると思う。原作組の同級生をしていたものだから、すったもんだの紆余曲折の後に卒業した。
そんな私の現状。右も左も前も後ろも、海海海海。
真っ青な海のど真ん中で、魔法使いには必需品の杖を持ち、愛用の布団とトランクケースと一緒に、小舟の中で揺られている。
……なぜ……?
まぁ何故も何も、昨日の大伯父との喧嘩が原因だろう。売り言葉に買い言葉が積み重なり積み重なり積み重なり……。普段“キミ”とかすかしている癖に“オマエ”と言った時点で結構お怒りだなとは察してはいたけれど、でもまさか本気で実行するとは思わないじゃん……。いっそその場でクルーシオされた方がマシ、ではないです。口喧嘩を原因に耐え難い苦痛を体験したくはないかな。
服の着替えが置いてあるのと、布団は慈悲のつもりだろうか。しかしふかふかの布団が敷かれていなければ、多分こんな海しかない場所に流れるより前に目が覚めていたはずなので怪しい所。とりあえず、いそいそと着替えてみた。つい先日卒業したばかりの学校の制服だった。コスプレかよ。
「……ここはどこ……」
布団の上で三角座りし、真っ青な空を見上げながら呟く。あ、カモメが飛んでる。
ポケットやトランクケースの中を検めたが、ここ数年肌身離さず連れ添ってきた携帯電話はどこにも見当たらなかった。助けも呼べねぇ。陸地はどこ。このままじゃ漂流するしか道がない。漂流、遭難、転覆、溺死。……死かぁ。海に捨てるにしても生存の道は残してほしかったな、なんて。
「エンジンもねぇ、オールもねぇ。風波に任せてぐーるぐる……」
オラこんな船旅嫌だ〜。
実は余裕だろって?そんなわけがない。
さっきからお腹が空腹を訴えてぐぅぐぅ鳴っているし、照り付ける太陽で干からびそう。あと本気で海に捨てられたっていう事実が精神をグサグサぶっ刺してガリガリ削っている。泣きそう。意地でも泣きませんけど。
天気雨かなぁ〜、とグスグス言っていたら、割かし近い位置で波の音とは違うザブンッという音がした。こう、水の中から何か出てきました、みたいな……。
ちらりと視線をそちらに向けたら、何かがいた。私の乗っている小舟なんか一飲みでペロリとできそうな、大きな口にギザギザの歯がびっしり並んだ恐竜?のような、何か。
「いや、は?ちょっ、はぁ!?」
こんな魔法生物、図鑑でも見たことないが???
理解不能の出来事に半ギレになる。顔も不機嫌だし声も荒げてはいるが、正直者な身体は盾にもならないトランクケースを盾代わりに抱えて、少しでも距離を取るべく小舟の端へと後退った。来んな本気で。
もっと距離をとるためにも小舟を動かしたいが、この舟にはエンジンも無ければオールもない。仕方なく手で水を掻き、ばっちゃばっちゃと小舟を動かす。ちょっと動いたところで波の力の方が強くて元の位置に戻るしかないのだが。しないよりはマシ、の精神。
小さくてか弱い生き物の悪足掻きを、大きくて強大な生き物は少しばかり興味深げに眺めて、眺めて、眺めて。とうとう飽きたらしくその大口を開けた。
「いや飽きるな!?まだ本気出してないんで!私の戦いはこれからだ!!?」
訴え空しく、閉じた口が小舟と布団を半分かっ食らう。
傾く船に意味がないと分かりつつ縋る自分の顔は、それはもう海に勝るとも劣らず真っ青だったに違いない。……カナヅチに海はあかんでしょう。食われて死ぬか、溺れて死ぬかのDead or Die。こいつぁシヴィー!!
先生の次回作にご期待ください──☆
「……──のぉ、…………ッ!!」
なにか聞こえた。
_ _ _
知らない天井だ。
人生で言ってみたいセリフ自分ランキングトップ10には入る台詞は、喉がカッスカス過ぎて「しぁ……ぞ、だ」くらいのものだった。目覚めてすぐそんなにペラペラ喋れませんて。
いや、でも本当に知らない天井だな?茶色、多分木製の天井だ。ぐるりと視線だけ動かせば、全体的に茶色いので木造の部屋らしい。ついでに言うと、天井どころか部屋自体知らない所だった。多分。なぜか視界がぼやけてうまく見られない。
「目が覚めたのか?」
掛けられた子どもの声に、視線をそちらに向ける。自分が寝かされていたらしいベッドの横に、角の生えた、身長からして子どもが立っていた。コスプレですか……?もしくはそういう魔法生物がいたかな?
状況を上手く理解できないながらも、目が覚める前の最後の記憶が海に投げ出された場面だったので、きっと漂っているところを助けてもらえたか、上手いこと漂着した場所の病院に担ぎ込んでくれたか、まぁそんな感じだろうとあたりを付ける。礼を言うべく上半身を起こせば、「まだ寝てなきゃダメだ!」と止められてしまって元の横たわった体勢に戻った。残念。
「あの、助けていただいたみたいで、ありがとうございます……」
「気にすんな。あのままだと海王類に丸呑みにされるところだったぞ」
「かいおうるい……」
「どこか痛かったり具合の悪いトコはあるか?」
「いえ、大丈夫です」
子どもが持っているのはカルテだと思う。この病院の息子とか?親の真似っこをしているのかな、聴診器ペタペタしてくるし。かわいいねぇ。
きっとここのお医者だろう親御さんが来るまでは付き合ってみるか、とされるがままに診察()してもらう。息を吸ってー、吐いてー。指示に従って何かする度にカルテを記入していく様子は、本当にお医者のようだった。将来はいいお医者になるぞぉ。
そのまま今度は詳しい問診が始まった頃、ドアの向こうからドタバタと大きな足音が聞こえてきた。看護師さんに、こら!走らない!と怒られる奴。どこの病院にも元気な患者はいるんだな、と他人事に捉えていたら、バンッ!と大きな音を立ててこの部屋のドアが開いた。他人事じゃなくなっちゃったや。
「目が覚めたのか!?」
さっきも聞いたなこのセリフ。
現れたのは帽子、麦わら帽子をかぶった男の子だった。なんか、すごく、陽の気を感じる。友人の一人からも頻繁に感じる輝く何かをビシバシ過剰にぶつけられている気分。思わず両手で顔を覆ったのは仕方がない。
突然顔を抑えたので、子どもと麦わら帽子くんから「大丈夫か?」「どっか痛ェのか?」と心配されてしまった。いいこか。
麦わら帽子君に見守られながらの問診を終え、お医者()から立って歩いても大丈夫の許可を頂いた。じゃあ早速、とベッドから立ち上がって一歩歩いたところで躓く。自分的にはおっとっと、程度の軽い気持ちだったのに「あぶねェ!」と額に手の平を強めに押し付けられたのでどうしたのかと思えば、あともうちょっとで棚の角に勢いよくぶつかるところだったらしい。確かにあぶねぇ。
気を付けようと気持ち新たに立ち上がるも、歩く度に右に左にフラフラと体が傾ぐ。いや何だこれ。酔っぱらいの千鳥足か?
このまま歩くのは危ないと判断し、近場の棚?手触り的に木製の棚、に手を置いて立ち止まる。ベッドに戻るにしても危ないのでどうしようかと迷っていると、「おれに任せろ!」と麦わら帽子くんが元気よく挙手をした。嫌な予感しかしねぇんですが。
チベスナ顔の私の背後には、多分すごくいい笑顔の麦わら帽子くんがいると思う。陽属性の友人がそうだからきっとそう。
任せろ!と宣言した途端、背後から両脇に手を差し込まれ抱え上げられながら屋内を連れまわされている現在。幻聴だろうが、ナーンッツィゴンニャー!ババギー、チババー!の掛け声さえ聞こえてきそう。ねぇなんでこうしようと思い至って行動に移したの?
ドタバタドタバタ。右に左に駆け回り、最後にドアを蹴破る勢いで飛び出せば外だった。急に明るくなった視界に顔を顰める。
段々と慣れてくる視界に、まずは巨大なマストと張られた帆が見えた。
船だ。
抱いた感想は単純なもので、その次はやっぱり空が青いとかそういう現実逃避じみたものだった。逃避させろ、頼むから。現在進行形で誕生を祝われる獅子の子状態も忘れたい。
「あらルフィ、その子目が覚めたのね」
「おう!チョッパーがもう大丈夫だって言うから連れて来た!」
「連れて来るにしても、……もう少し別の運び方はなかったの?」
「ない!」
無くは無かったと思います。
甲板にいたオレンジ髪の女の子は私と似た常識を持ってくれているらしく、迷いない麦わら帽子くんの返事に頭が痛いのジェスチャーをした。私も同じ動作をしたら「なんだ?頭痛ェのか?」と心配してくれるくらいにはいい子なんだけどな……。
いい加減下ろしてくれないかと口を開こうとして、その前にどやどやと人が集まってきた。その数五人、じゃないな。遠目に二人ほどいるので合計七人だ。誰よりも高い位置にいるから人数把握がしやすいね。
私の足が床に付いたのは、「いい加減下ろしてあげなさいよ」とオレンジ髪の女の子が麦わら帽子くんの側頭部に良い感じの平手を見舞ってようやくだった。
「かいおうるい?から助けていただいたそうで。ありがとうございました」
「おう!気にすんな!」
とりあえず深々と頭を下げてお礼を言う。かいおうるいの変換が上手く出来ないが、あのデカイ恐竜みたいな生き物だとは見当がついた。あんな巨大生物をやっつけたんだか追い払ったんだか知らないが、どちらにせよ凄い労力だっただろう。すごい。こなみかん。
「それにしても、どうしてあんな海の真っただ中に、あんな小さな船に一人で乗ってたの?」
「え、あー、まぁあの、多分……」
「たぶん?」
「喧嘩した伯父さんに流されたんだと……」
「ケンカしたからって実の家族を海に流すのか!?どんだけ盛大なケンカしたんだよ!?」
「……ぐぅっ」
「レディに対してデカイ声出すなウソップ!!」
「てめぇの声も十分デケェよ」
「おうちにかえりたい……」
私だってマジで海に捨てられた事実にまだ傷心中なんだよ!目から海水だって出てくるだろっ、まだギリギリ踏ん張って膜張る程度だけど。
俯き呻く私に、オレンジ髪の女の子と長い鼻の人と金髪の人がアワアワしながら声を掛けてくれる。まるで子ども扱いのようだが、日本人平均より少し高い164cmの私に比べれば彼女彼らの身長はいくぶん高い。最低でも170cmはあるんじゃあなかろうか。ついでに日本人の平たい顔は幼く見えるらしいのでさもありなん。
一応学校も卒業した十八歳の矜持をとるか、この状況で安全に保護されるためにも打算をとるか。顔を伏せたまま悩んでいれば、視界の先の腹部に肌色のものがぐるぐると巻き付いて、ギュッと締め付ける。
肌色の先を辿れば麦わら帽子くんで、何かが不満と分かる声音で「泣かすな」と皆さんに言ってくれる。いや別に泣いてないし泣かされてませんしそんな事実は一切ありませんけども。
そんなことより、この腹部にグルグルと巻き付くものは何だろうか。
ペタペタと触るとまるで人の皮膚のようだ。ちょっと摘まんで引っ張ってみると、みょんと伸びる。ゴムか?それにしては中が詰まっているというか、どこかで触れたことがあるような感触と言うか。
思い出しつつペタペタ触っていると、背後で麦わら帽子くんが急に「くすぐってェ!」と笑い出した。なんだなんだと驚いていれば腹部のグルグルが離されて、それは麦わら帽子くんの元に戻っていった。彼の腕へと、勢いよく。
「……腕?」
「おう!」
「その腕、伸びて、巻き付いてましたよね?」
「ああ!おれは“ゴム人間”だからな!」
指さし確認する私の目の前で、彼はニッと笑いながら自身の片頬を摘まんで伸ばす。グイィッと伸ばされる頬は柔らかいとかそんな次元じゃなく、正しくゴムのように伸びていた。
スコンッ、と脳内の思い出すべき事柄が入れ替わる。
海、大型の船、麦わら帽子、ゴム人間。勢いよく見上げた先の帆には陽に透けて見える、麦わら帽子をかぶったドクロのマーク。まさかここはワン、
――バシンッ。至った考えを止めるべく、額と目元に被るように手の平を叩きつけた。とてもいい音が響いたし、周りからはどうした大丈夫かと安否を問われるが構っていられないので。
これ以上考えたくないと思いつつも、それでも脳みそがグルグル働いて現状を突き付けようとしてくる。
「むぎ、麦わらの、ルフィ……?」
指の隙間から覗き見た先。ピンホール効果か何なのか、先ほどまでのぼやけた視界と打って変わった鮮やかな視界の中で、麦わら帽子くんが百億万点の笑顔を浮かべていた。
□□□
11/14
-
≪ /
□ /
≫ -
-
Main /
Top -