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 と、言うことが七年前と三年前にあったなぁ。
 七年前って言ったら、まだ小学二年生じゃん。若い若い。性格あんまり変わってないけど。
 目の前に並ぶ三つの背中より一つ上かぁ、なんか不思議な感じだなぁ。

「お前、黄昏てないで誤解を解けよ!」
「へ。なにかありました?」

 お前なぁ!と叫ぶタレ目のお兄さん。その横にはサングラスのお兄さんも立ち並んでいる。
 そんな二人を威嚇するように、それでもって俺を守るように、二人と俺の間には少年探偵団の元太くん、光彦くん、歩美ちゃんの三人が立ちはだかっていた。守るようにって言うか、完全に俺を守ってるみたいなんだけど。小学一年生に庇われる中学三年生ってどうよ。

「カツアゲは犯罪ですよ!」
「え、かつ揚げって犯罪なのか?」
「違うよ元太くん、そっちじゃないよ!」
「喝上げ、つまり恐喝行為のことですよ!」
「なんだぁ、そっちか〜」
「ぷふ……っ」
 あ、やばい。和みすぎて思わず吹き出したら、お兄さん方二人から睨まれちゃった。どうにかしろよって言う空気がビシビシ伝わってくる。仕方ないなぁ。

「ありがとうございます、三人とも。でも大丈夫ですよ、その二人は昔からのお友達なんです。
 待ち合わせに少し遅れて怒られていたのが、みんなにはカツアゲされてるように見えたんですね」

 三人の頭をそれぞれ撫でて伝えれば、三者三様、驚きの声を頂いた。
 それは俺に友達がいることに対する驚きかな?それともタレ目のお兄さんとサングラスのお兄さんがあまりにもチャラくて柄がちょっと……、な感じだからかな?前者だったら俺は泣くよ?

「そっちのタレ目のお兄さんが、萩原研二さん。その隣のサングラスを掛けたお兄さんが、松田陣平さん。こんな見た目ですけど、二人とも優しい人お巡りさんですよ」
「えぇ?!警察の方だったんですか!?」
「嘘ぉー!」
「ほんとかぁ?おまわりには見えねーぞ?」

 疑われる警察官。頭上の彼女は笑い転げてヒーヒー酸欠気味である。

「あんまり疑ってくれるなよ、これでもこいつは刑事なんだぜ?俺は畑が違うけどな」
「おいっ」
「刑事さんなら歩美たち知ってるー」
「もしかして佐藤刑事や高木刑事とお知り合いだったりしますか?」

 悪い人じゃないと分かった途端、興味が惹かれてぐいぐい行く少年探偵団。そんな子供たちにタジタジになる松田のお兄さん。一歩引いて面白そうに眺める萩原のお兄さんは、中々子供のあしらい方が上手なものだ。

「ねぇ、鴎士兄ちゃん」
「はいはい、なんですかコナンくん」

 出たな無邪気に見せた打算一杯笑顔の眼鏡少年。さっきまで我関せずで哀さんと離れて見ていたくせに。

「鴎士兄ちゃんってどこに住んでるの?今日はあっちのマンションから出てきたけど、この前は電車に乗って帰ってたでしょ?」
「コナンくんは俺に興味津々なんですねぇ」
「ボク、鴎士兄ちゃんともっと仲良くなりたいんだー!」

 えへへー、て笑っても誤魔化されないからな。それで誤魔化されるのはふやけきった顔で喜んでいる彼女くらいなものだ。

 コナンくんはあっちのマンションと言ったが、そのマンションからここまで結構距離がある。歩いて十分か十五分くらいだろうか。いつから見てたの?この前の電車での帰宅に関しては、交通手段を誰にも伝えず駅に近いわけでもない適当なところで別れている。あの後ストーキングしてきたの?
 最近の小学生は怖い。
 そもそも君みたいな主要人物は、俺みたいな通行人の一人じゃなくて、同じく主要人物である人たちと交流を深めるべきだと思う。例えばあっちで絡まれてるお兄さんたち。警察関係者でイケメンなんだから、それはもう物語の登場人物として肩書きは十分、画面に華を添えるにも十二分。
 なので何とぞ、俺ではなくお兄さんたちにからんでほしいです。でもそんなこと言えるわけないんですよね何故ならモブだから。

「……例えばの話。両親が不仲で別居していて、でも離婚してるわけでもない場合、どちらの親とも仲の悪くない子どもはどちらと暮らすべきだと思います?」
「え?」
「その決定を親がせず子どもに委ねた場合、決めきれずに双方の家を行き来するのはおかしなことでしょうか?どう思いますか、コナンくん」
「……ご、ごめんなさい。ボクそんなこと知らなくて……」
「別に良いんですよ、例えばの話なんですから」

 申し訳なさそうに項垂れるコナンくん。その隣で哀さんが小さく、ばかね、と追い撃ちを掛ける。
 いや本当に良いんだよ謝らなくて。数ヵ所の住居を行き来する理由として有り得なくない例えばの話を一つ挙げただけであって、別に俺がそういう立場だってわけじゃないから。嘘は言ってない。彼らが勝手にそう解釈して勝手に勘違いしただけ、俺はまったく悪くないね!

──狙ったくせにー。
「(だって説明するの面倒臭いんですよ)」

 これもまた例えばの話。
 小さい頃から引っ越したい引っ越したいと訴える子どもに対して、本当に引っ越すのは手続き諸々が面倒だがその気分を味わえるようにと、子どもに甘く懐に余裕があった親は複数箇所に様々な住居を用意した。しかし引っ越しがしたいと望む理由を聞かないものだから、子どもの希望に一切かすりもしない、引っ越ししてでも離れたい場所を中心とした近場に複数箇所。当初の願いはまったく叶いはしなかったが、けれど勿体ない精神で子どもはその住居を転々としているのだった。
 嘘のような本当の、例えばの話である。
 どっちの例え話が信じやすいかと言えば、身近に近い例のある両親別居説だと思った。
 それにあながち嘘でもないし。

「おーい、そろそろ行くぞー」
「分かりましたー。
 すみません、コナンくん。呼ばれたので失礼しますね」
「ううん。またね、鴎士兄ちゃん」

 またねと言われたが、俺としてはまたねしたくないので軽く会釈だけしてコナンくんから離れる。哀さんには小さく手を振ってみたら、仕方がないわねと言いた気に手を振り返してくれた。哀さん良い子。

「バイバーイ、鴎士お兄ちゃんたちー」
「次は一緒に遊んでくださいねー」
「じゃーなー」

 他の少年探偵団の三人にも挨拶をして別れた。元太くんはもう少し言葉を学んでくれないかな、今後苦労しそうだから。

「それにしても、子どもに好かれてるのは意外だったな」
「あの子たちが特殊なだけですよ。交友関係に警察関係者が大分含まれてますからね、あの子たち」
「それを言ったらお前もだろ」
「……そうですね?」

 自分で言っておいて何だが、そう言えばこの二人警察関係者だったわ。改めて認識して、驚く俺に萩原のお兄さんは呆れたように笑って、松田のお兄さんは呆れたように溜め息を吐く。同じ呆れるでも反応が違っているのが面白い。

「子どもと仲良くするのも良いけど、同じ年の友達も作れよー?ぼうずと知り合って長いが、クラスメイトと一緒にいるところ見たことねーぞ」
「良いんですよ、俺は空気なので」

 言ったら頭を軽く小突かれた。
 俺の細胞が死ぬのでやめてください。

「お前たまに本当に空気みたいになってるから、洒落にならねーんだよ」

 突然のディスりが俺を襲う。
 溜め息を吐きながら頭を撫でるな。松田のお兄さんまで撫で始めるな。犬を撫でるみたいにわしゃわしゃするんじゃない!
 払い除けたくても、地味に身長差あるし現役ポリスマンの筋肉だから拒否しきれない。もやしっこなめんなホント止めてくださいヘアスタイル乱れる。別にこだわりないけど。
 さっき別れたばかりの少年探偵団、もう一回出動していただけませんか。



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