オマケ



おまけ@

 七年前。爆弾の凄さを改めて認識して、衝撃やら高熱による体調不良で意識をぶっ飛ばし、目が覚めたら病院だった。
 いつものごとく、お目覚め一番に視界に入るのはお姉さん、だと思ったんだけどなぁ。

「お、目が覚めたか?」

 いたのはタレ目のお兄さんだった。それなら彼女はと視線をうろつかせれば、お兄さんの背後で浮きながら静かに驚いて焦っている俺を見てクスクス笑っていた。
 話を聞くと、俺はマンション爆破事件から二日ほど寝たままだったようで、実は爆発の衝撃が原因で意識が戻らないのでは?と気にしたお兄さんが、ちょくちょく様子見に来ていたらしい。医者は、それとは関係ない、ときっぱり否定はしたそうだが。
 事件の後処理とか、よく分からないけどきっと忙しい中でそんな迷惑をかけて申し訳ない。謝れば、子供がそんなこと気にするもんじゃねーよ、と笑ってくれた。
 心までイケメンかよ。
 しかも爆弾事件で住む場所が無くなったと思われた当初は、何故か「俺の所に住むか?」なんて提案までするもんだからビビった。普通、小学生が住む場所無くしても保護者の親がどうにかするって考えるはずだろうに。なんで保護しようとしたんだお兄さん。

 いくら「実家が別にちゃんとあるから大丈夫」と説明しても納得してくれなくて、仕方なく退院して帰宅するついでにお兄さんに同伴してもらった。実家じゃないけど。
 そしたらそれはそれで、なんで小学生がマンションで一人暮らししてたんだ?と新たなツッコミどころを用意してしまったわけだが、世の中には色んな“家庭の事情”があるんですよ……、で強引に誤魔化した。誤魔化しきれたとは思ってない。
 それから何やかんやと交流は続き、アドレスの交換をしたり、ほぼ一人暮らしの俺を気に掛けて日常生活で困ったことは無いか聞いてくれたり、外食に連れてってくれたりしてくれる。最近じゃあ、外食だけだと体に悪いから、と言ってうちの台所で食事を作り始めるお兄さんがいたりする。
 ……保護者より保護者らしいな。
 しかし代わりに、気が付けばお兄さんの私物が家に増えてきたんだが、これはどういう状況だ?まぁ、お兄さんに知られている家は爆破されたあの部屋と、私物が増えてきたその家の二ヶ所だけだから別に良いけど。

「もういっそ同居でもしちまえよ」
「お、いーねぇ」
「無責任な言葉はやめていただけますか?」

 三年前から萩原のお兄さん経由で仲良くしてもらっている松田のお兄さんが、面倒臭ぇと言わんばかりに吐き捨てた。萩原のお兄さんは無駄に乗らないでくれ。

「で、俺も一緒に住む」
「ハウスシェアか。有りだな」
「無ぇですよ」

 酔ってんのかな、この人たち。ファミレスで食事してるだけで、アルコールは一切摂取させてないんだけどな。

「もしもそんな事しようとしたら、俺は別の場所に移り住みますからね。今の家は好きに使ってもらって良いですし」
「じょーだんだよ、冗談」
「そうだな。本当にそうする時は、お前に気付かれない内にいつの間にか住み着いてやるよ」
「なるほど。……俺も二人も笑いながら話してますけど、内容ギリギリアウトですよ?わかってます??」

 そんな事をしても喜ぶのは、毎日イケメン見れて至福、と頬を染めて宣う彼女だけだから全力で阻止しよう。

「ところで、なぁ鴎士?」

 萩原のお兄さんに名前を呼ばれた。レア過ぎて怖い。

「電車使って家に帰ったんだって?確か今住んでる場所は徒歩圏内だと思ったんだけど、どこの家に帰ってたのかお兄さんにも教えてくれないか?」
「黙秘権を行使します」
「もしかして、家に帰らないで深夜徘徊してたわけじゃねーよな。俺たちこれでも警察官だからな?」
「保護者は把握してますので、お構い無く」
「そういう問題じゃねーんだけど?」

 困った顔で笑われたって、俺は口を割らないんだから!そもそもお兄さんに教えている家だって、本宅じゃなく別宅の一つなわけだし。
 俺がなにも言わないと分かって、萩原のお兄さんは諦めたのか肩を落とした。

「あーあ、最初の頃はまだ可愛いげがあったのにな」
「今の年齢で可愛いとか言われても、俺にそっちの趣味はないのでお兄さんとの付き合い方を改めさせていただくことになりますね」
「可愛さじゃない、可愛いげの話だ!」

 そんな可愛いげのない奴と未だに交流を持つんだから、俺の周りには変わった人間しかいない。
 もちろん、変人の筆頭はお姉さんだから。私関係ないしー、て視線逸らしても意味ないからね。満場一致でお姉さんは変人。頼むから自覚して!


おまけA

 とある暇な日。またお兄さんたちと会っている時に、また少年探偵団と遭遇した。何かの話の流れで、怖い話をしてください!と光彦くんにお願いされ、萩原のお兄さんは少し考え込んだ後、そう言えばと口を開く。

「仕事であるマンションに行った時の話だけどな」

 仕事って爆弾処理だよな、と思ったけれど、まさかそういう怖い話じゃないだろうと口は出さず思うだけに留めた。

「そのマンションはある事件の関係から住人全員に避難指示を出していたんだが、子供が一人だけ逃げ遅れていたんだ」
「えー!その子大丈夫だったの?!」

「あぁ、大丈夫だったから心配すんなよ。
 でもその子ども、どうやら避難指示は聞いてなかったみたいで、部屋から出てきたのは“ドアを強く叩かれたから”らしいんだ。けどその場にいた俺たちは、もしかしたら住人が残ってるかも、なんて少しも思ってなかったから、部屋のドアを叩いた奴は一人もいなかった」

「それはおかしくないですか?その子の勘違いではなかったんですよね?」

「勘違いで済むノック音じゃなかったそうだ。そもそもノック、なんて優しい音じゃなくて、ガンガンッ、ガンガンッって殴りつけるような強い音だったらしい。
 それで、その事件の現場検証のために何人かでその部屋の跡を見に行ってみた。事件の影響でひどい有り様だったが、立ち入れないほどじゃない。
 そうして子どもが住んでいた部屋を確認しに行くと、部屋のドアには確かに誰かが殴りつけた跡みたいなものがあったんだ」

「ドアをぼこぼこにされたってことか?ひでーことするぜ!」

「はは。まぁ事件自体が、周りをボコボコのボロボロにするようなやつだったんだけどさ。
 最初は、俺たちがその場に来るまでに不審者がいたんじゃないか?って話が出たんだけどな、その場にいた内の一人が、そのドアの異様さに気が付いた。真っ青な顔して、震えながら指差して言うんだよ、「殴られてるの室内からじゃないか?」て。
 俺たちも改めてドアを見た。蝶番の様子から、確かにその跡があるのは室内側だった。
 まさかその子どもが嘘を吐いていたのか?なんて考えは出てこなかった。跡がある高さは子どもじゃあ到底届かない場所だったし、調べた結果その部屋に住んでいたのはその子ども一人だけだって言うのは事前に知っていたから。
 ……じゃあ一体、誰がそんなに強くドアを叩いていたんだろうか?
 これは後の調べで分かったことなんだが、そのマンションは数年前に火事が起きてたらしくてさ。幸い火の元の一部屋で済んだそうなんだけど、丸焼けになったその部屋にはその当時住んでいた男性の遺体が残っていたんだ。場所は玄関のドアの前。そのドアには、男が思い切り叩きつけていたんだろう拳の跡が残っていたらしい。熱で歪んで開かなくなったドアを、外にいるかもしれない誰かに助けてほしくて、最期の最期まで叩いていた跡が」

 て言う話!そうお兄さんは明るく締め括った。
 話下手だから怖いか分からねーけど、と最後に付け足すが、大丈夫、この場で一人は間違いなく滅茶苦茶怖がってる奴がいる。つまり、そう、俺だね?
 とある事件のマンションで逃げ遅れた子ども、なんてまるっきり俺じゃん。ドア叩かれたたんですー、て説明した覚えもある。通りであの後、もう一度事情を聴きに来たポリスマンたちが不思議そうな顔してたわけだよ……。
 そしてそのドアにまつわる話、俺今初めて聞いたんですけど?は??
 松田のお兄さんに肘打ちされた萩原のお兄さんが、俺の顔を見て「あ、やべ」という表情になる。まんま言葉にもした。どうやら俺に教える予定のない話だったらしい。
 このうっかりさんめ!最悪なうっかりしやがって!!言葉のチョイスの割に、俺は今非常に怒っている。恐怖を怒りに変換しないと平常心を保っていられる気がしない。

 心霊現象なんて今さらじゃない?私見てよー、と俺の目の前に来て自己主張するが、お姉さんはホラ、もう心霊?なの?と疑問符がつく何かだから。

 その日は萩原のお兄さんの奢りで夕飯を食べた。
 思い付く限りで一番高級そうな、銀座の寿司屋でたらふく食べた。懐を擦りながら悲しそうな顔をしていたが、要らんことを言った自分自身が悪いと認識できているからか文句は言われなかった。
 少年探偵団たちまで引き連れてこなかった俺は優しい。



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