オマケ



おまけ@

「それにしても、長い銀色の髪の人なんて珍しいね!」
「そうね。私も、一人くらいしか心当たりがないわね」
「いいですねぇ〜、僕たちなんて一度も見たことないですよ。ねえ、元太くん」
「え、そんな珍しいの?」

 おっと口調が。

「鴎士兄ちゃんはよく会うのか?」
「いやいや、よくは会わないけど、何人かそんな人がいるのは知ってますよ」
「へぇ〜……。例えばどんな人なの?」
「例えばですか、えーと」

 おいこらコナンくん、訊いておいてあからさまに胡散臭そうな顔をするんじゃない。まったく、この子の猫は着脱が激しすぎる。
 心が折れそうになる表情から視線を逸らして、左上の虚空を見上げつつ人物像を思い浮かべた。そうですね、と口を開けば、何だかんだと興味があるらしく、子供たちの視線が自分に集まったのが分かる。

「声の大きいイタリアンマフィアの人とか」
「え?」
「元軍医で眼帯のお医者様とか」
「は?」
「重火器の扱いのうまい双子の、あ、これはカツラでしたから違いますね。他だと、」
「ねぇちょっと待って?」
「なんですか?コナンくん」

 話を止められて首を傾げれば、コナンくんはなんですかって……、と青い顔をしながら驚けばいいのか呆れればいいのか怯えればいいのか、一体どう表せばいいのか複雑そうな顔で口を開けたり開いたりと忙しい。
 俺の視線の左上方では、お姉さんが真っ赤な顔で吹き出していた。こいつは一人でも楽しそうだなぁ。

「え〜と、鴎士兄ちゃんは、その人たちと知り合いなの?」
「知り合いではないです」
「知り合って“は”いないんだ〜、そっか〜。はは、は……」

 乾いた笑い声をあげるコナンくん。
 この人なんなんだよ……、と言われても、ただの一般人のモブです。何回も言わせるなよ恥ずかしい。

──会話の流れ的にも話し方としても、二次元の可能性は頭に浮かばないもんねー。この子が相手じゃ、仕方がないね、名探偵。


おまけA

 わざと足音を立てて真正面から近付いてきた長身の男に、ソファーへと優雅に身体を預けていた金髪の女は、それはそれは愉快そうに声を掛けた。

「ご機嫌ナナメね、ジン」
「……チッ。用件は大方予想がついてるだろう」
「さぁ?まったく心当たりがないわ」

 大袈裟に肩を竦めて見せれば、長身の男、ジンは益々不機嫌そうに舌打ちを繰り返す。まだ懐に手がのびていないだけ余裕かしら?と、ジンと相対する女、ベルモットは内心で笑みを深めた。
 ジッと見つめ、睨み合うこと暫く。視線を逸らさず、先に口を開いたのはジンだった。

「ひとつ前の仕事、ガキが一人現れた」
「あら、そうなの?」
「とぼけるな、テメェの差し金だろう」
「言い切るのね。それだけの証拠があるということかしら?」
「違えば他を当たるだけだ」

 これが他の幹部であれば、眼光鋭く睨まれて、その内の何人かは慌てたようにぺらぺらと弁明をしただろう。言われた内容が正しくとも、逆に間違っていようとも。
 しかし相手はベルモット。彼女は溜め息を一つ吐いて、首を横に振るだけだった。

「チッ、外れか……」
「残念だったわね、ジン。……本当に、今回の件は私とは関係ないのよ?」

 念を押すところが逆に疑わしい。しかしここで言葉を重ねても意味がないと、ベルモットの性格を少なからず知っているジンは言葉の代わりに舌を打った。
 無駄足だったと内心で悪態を吐きつつ、空いているベルモットの隣に多少の隙間をあけて腰を下ろす。ギシリとソファーが軋んだ。

「ねぇ、ジン?」
「…………なんだ」
「その子供、どうして探しているの?」

 当然の疑問を投げ掛けただけ。さりとて、常から仕事を見られれば一般人だろうが消してきたのだから今回も、と予想はしていた。
 しかし、思っていたよりも返答までに間があった。怪訝に思いジンを見れば、いつも通りの人を殺していそうな顔をしている。そもそも実際に、何十人と手に掛けているのだが。
 いつもと変わらない表情でありながら、やはり未だに答えを口にしないジン。何かあるのか、とベルモットが勘繰ってしまうのは仕方のないことだろう。

「ジン?」
「ハッ、テメェには関係無いことだ」

 ここまで来てそう言うのか。呆れた心持ちになり、ベルモットはジンに向けていた顔を正面に戻す。しかし思考はジンが会った子供に関して働き、そしてその子供を探すジンの様子へと向かった。
 ……いえ、そんなまさか。自分は思っている以上に疲れているらしい。至った推論を頭を振って消そうとしているベルモットを、ジンは面倒臭そうに見下ろした。

「……ジンがお稚児趣味だなんてそんな……」
「殺すぞ」

 考えていたことがついつい口を突いて出る。隣のジンから確かな殺気と銃口を向けられ、咄嗟に冗談よとベルモットは必死とは見せずその実必死に誤魔化した。
 その後、ジンの人探しが中止になったと聞いたベルモットは「え、まさか図星……?」と疲労が回復していないらしい頭でぼんやりと思う。今度は声に出さなかった。

──なぁ〜んてやり取りがあったりしたりしてー。ふっふふーん。



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