〔〜 Find out〕




 なぜ言葉を尽くさねェのか。
 気が付くとフーシャ村に置いて行かれることが決定していた。俺の意思は無視で。俺の意思は無視で!
 その結論に至った理由なんかの説明は一切なく「これがおまえの為なんだ」でゴリ押しされた。年齢二桁手前でいきなり野に放たれるのが俺のためって何??圧倒的に言葉が足りねェ。
 俺も俺で状況に頭がついていかず、何も言えずにただただ頷いてしまった。九歳児の俺の首まだ据わってなかったんかな。

 ウタのことに関してはルフィもろくな説明をされず、オカシラと絶交宣言までしてケンカしたらしい。気が付いたら副船長が間に入って納得したのか妥協したのか仲直りしていたが。
 そんな簡単に折れんじゃねェ!幼さを武器にして根掘り葉掘り聞いてくれるって期待したんだぞ俺は!!

 赤髪海賊団がフーシャ村を発つ日、俺は見送りに行かなかった。どんな顔で見送れと?
 別に船を降りるのはいい。いやよくはねェが。でもウタに関して一切説明がないことに俺は苛立っている。エレジアに向かったまでは覚えているが、その航程の後、到着してからの記憶がスッパリないのだ。気が付けば全身傷だらけで帰りの船の中。さっぱり訳が分からねェ。だから他の船員に聞くしか手段は無ェのに、オカシラから口止めされてんのか誰も何も喋りもしねェ。
 誰も彼も気まずそうに視線を逸らして、俺と同じように怪我してる癖にそれも隠す。唯一答えてくれるオカシラの答えは「ウタはエレジアで歌手になるんだ」とそれだけ。それを信じると思ってんの?
 俺だけ忘れてる。俺だけ隠されてる。俺だけ嘘を吐かれてる。
 そんな状態でどう見送れって?中指でもおっ立てて見送るか?お゛?

 ……そんなわけで、激情に任せて無残な姿となった枕と一緒に、いつの間にやら手配されたフーシャ村の中の小さな家で留守番をしている。
 顔を合わせたら、感情に任せて何かやらかしそうで外には出られなかった。絶対いらねェことまで喚いて、絶縁状を叩きつけるか叩きつけられる羽目になるやつだろ。
 分からないことだらけだが、本当に『俺の為』を考えての行動だってのをさすがに察してはいるのだ。それが本当に俺の為になるのかは置いておくとして。納得はしてねェ。
 せめてちゃんと言葉で説明してくれればいいものを、あいつらときたら『言わなくても分かってくれる』『いつか理解してくれる』とかほんとそれ、もう、やめてくれ……。苛々し過ぎで言語野が疲れたからかろくに言葉も出ねェわ。
 だったら俺のこの感情も察してくれ。
 もう、ほんと、地味に疲れた……。

 さすがに左腕無くなった時は見舞いに行った。誰もいない時にこっそり。見舞う相手は麻酔打たれてて意識なかったけど。はァ〰〰。ウタはいなくなるわ養父の片腕は無くなるわで、……なんかもう、ほんと、この人生嫌いになりそう。


 赤髪海賊団出港後、言語野の回復を待って旅に出ることにした。
 俺は和解してないのに和解できたルフィと一緒にいるとか気まずいし、たぶんそろそろガープ中将?だっけ?主人公のお祖父ちゃんである海軍将校が現れて面倒くさそうな気配を察したので。
 この年齢で一人旅するのも少し不安ではあるが、どこかの世界では十歳で成人・旅立ちが認められているんだから数か月早いくらいならいけるだろ。ニアピンニアピン。いけるいける。まァ俺にはピッカピカチュと鳴いてくれる相棒がいないから、デカめの商船にでも潜り込んで地味に移動しよう。

 とりあえずエレジアに行きたい。

10_ _ _
 それなりにデカイ船ならそれなりにデカイ島のそれなりにデカイ町に行く。その推測が正しいかどうかは知らないが、俺は忍び込む商船で当たりを引いた。乗った時と同じようにこっそりと降りた港町は栄えていて、人も物も多かった。
 先立つものは金。ひとまずここで働く場所を探して、旅のための金を貯めよう。

 俺は生きるのに器用な方なので、飲食店での住み込みの仕事がすぐに見つかった。嘘です、なかなか働き口が見つからなくて、ちょうど野垂れ死にそうになってたのが今働いている店の裏口だったっていう奇跡的なご縁です。
 拾ってくれて看病してくれた上に、行きたい場所があってそこに行くための旅費を稼ぎたい、と言ったら住み込みで雇ってくれた。厳つい顔のオッサンのわりに優しい。
 オッサン改め店長は、ひとりで店を切り盛りしているようだった。
 でもたぶん奥さんはいたし、俺と同じ年くらいの子どももいた。店長の部屋に家族三人の写真があったから間違いない。宛がわれた部屋には使われていた形跡のある子どもサイズの家具もあった。つまりは、まァ、そういうことだろう。
 俺を雇ってくれたのは、その子どもを重ねたからだと思う。
 たまに、俺が働いてる姿見ながら泣きそうになってるし。その度に背中さすってなだめるけど絶対泣くし。だからって無視するわけにもいかねェし。

「なんだァ、ディーン。またオヤッサン泣かしてんのかい」
「泣かさなくても勝手に泣くんだよ。いらっしゃいダンさん」
「おう。オヤッサン、いつもの頼む」
「ぐずっ、おうよ。ディーンは皮むきの続きしてくれ」
「あいあい」
「はい、だ」
「はい!」

 新人の俺に任せられる仕事は皮むきや皿洗いや配膳やらの雑用ばかりだ。不満はない。どちらかと言うと地味な作業ばかりで落ち着くが、思い起こせば船の上でたまにやってた手伝いと似た作業だからなのかもしれない。たまに口調を矯正される点は違うが。
 港町で海も近いからか、住んでる男たちの気性も赤髪海賊団に似てる気もする。おかげで馴染むのにそう時間はかからなかった。
 ……今頃どのあたりを航海してるだろう。もうグランドラインに入っただろうか。子どもが乗っていない分楽な航海だぜとか思ってんのかな。勝手に考えといてアレだけど、なんか苛ついてきたワ。
 荒れた気持ちのままジャガイモの皮むきをしていたら、様子を見に来た店長に拳骨を落とされた。

「いっだァッ!!何すんだこっちは刃物持ってんだぞ!?」
「皮の剥き方が厚いんだよ!食い物ムダにすんな!」
「それは俺が悪ィ」

 言われて皮の入ったカゴを見れば、皮つきフライドポテトが作れそうな出来だ。これは確かにもったいない。
 しょうがないのでそれは別に取っておき、昼過ぎの休憩の時に洗って焼いて塩振ってまかないとして食べた。まァまァ美味い。せめてもう少し油足して揚げ焼きにすればもっと美味いと思う。でも、油がもったいねェ!って怒られるからしない。
 どこかに油が大量に出せる悪魔の実とかねェかな。ギトギトの実とか。全身油人間。火薬との相性悪そう。うん、まァでも人から出た油を調理には使いたくはないからやっぱりムリだな。

12_ _ _
 部屋の窓辺に置いた、小銭が詰まったデカイ瓶を眺める。十二歳の俺が一抱えするくらいの大きさのそれは、あと少しで目一杯まで小銭が貯まりそうだ。
 この町に来てからの二年とちょっと、頑張って働いて給金を貰い、たまに懸賞金もかかってないような木っ端海賊や山賊を、気配を消しつつ懲らしめて小金を巻き上げた成果がこの瓶の中の金である。血と汗の結晶だ。血は主に俺のじゃなくて木っ端たちのだが。
 真面目に働くより、チンピラ賊どもからカツアゲした方が儲けが良かったのはここだけの話。
 一応店長には瓶の中身の貯まり具合からバレて、説明して、「無茶しないならいい」との許しを貰っている。そもそも賊に喧嘩売る時点で十分無茶では……?やめよう、考えても大事な収入源が減るだけだ。

 この瓶が貯まったら、この町を出る準備を始める。俺がこの店で働き始める時に、そう店長に宣言していた。
 おかげで気付かない内に瓶の大きさを徐々に徐々に大きくされていたんだが、結果的には余裕をもって旅に出られるから良かったんだろう。

 ああ、早く貯まらねェかな。
 まずはエレジアの場所を調べなきゃいけないが、ネット検索も出来ないこの世界じゃ人に聞くか本で調べるか、最悪行き当たりばったりになる可能性もある。
 行き方だって調べなきゃならない。商船や、観光船や、連絡船があればいいが、何もないなら自分の船を買って航海だ。そうなると航海術も身につけなきゃならなくなるが、やって出来ないこともないだろう。基礎は元の船で教えられている。途中で金が足りなくなれば働くか、力量に合った海賊から巻き上げればいい。
 ──そうして、ようやくウタに会える。
 きっと、オカシラが気を回し過ぎて空回りして、勝手に置いてきたに違いない。きっとそうだ。
 あれだけ「赤髪海賊団の音楽家になる!」って言ってたあいつが、急に自分から船を降りて歌手になるなんてあるわけがない。あいつは赤髪海賊団と一緒に、赤髪海賊団の音楽家で、世界一の歌姫になると豪語するようなやつなんだから。

「どうしたァ、ディーン。今日は妙にふわふわしてんなァ。いいことでもあったのかァ?」
「まぁね。もうすぐ目標にしてた金が余裕もって貯まりそうなんだ」
「あァ?なんだオヤッサン、瓶デカくすんのやめたのかい」
「ばか!バレるだろうが言うんじゃねェ!!それにあれ以上デカイ同じ形の瓶がなかったんだから仕方ねェだろ!」
「いや俺知ってたし」
「バレてた……ッ!」

 思ったより顔にも態度にも出ていたようで、常連のダンさんがそんな俺を指摘した。ふわふわってなんだ。

「そうかァ、じゃあディーンは旅に出るんだなァ」

 さみしくなるなァ。ダンさんの言葉に、店長まで涙目で鼻をすすり始めた。別れを惜しんでくれるのはうれしいが、ちょっと気が早い。

「ところで、どこに行くんだい」
「おぉ、そういえば聞いたことなかったなァ」

 眉尻下げて笑いながら、俺の旅先に話を向ける。たしかに、今まで行きたい場所があるとは言ってきたが国の名前までは伝えたことがなかったかもしれない。

「エレジアに行くんだ」

 嫌な、間。

「……エレジアってェと、音楽の国のエレジアかい?」
「ああ!二年くらい前に家族が、姉ちゃんが行ったっきり帰ってこないから、俺が迎えに行ってやるんだ」
「二年前……」

 ダンさんと店長が、何とも言えない表情で顔を見合わせる。
 どうしてそんな表情をするのか。俺はモヤモヤする気持ちを抑えて、二人が話してくれるのを待った。……待たなきゃよかった。

「エレジアは滅んだ国だろう……?」

 何言ってんの?
 店長もダンさんも、冗談にしては内容が悪過ぎる。まったく笑えませんけど?いや逆に笑い飛ばした方がいいか?
 一向に真面目に受け入れようとしない俺に、店長が奥に引っ込んで紙の束を持ってきて俺に渡す。それは三年前の新聞で、でかでかと記載されていたのはエレジア壊滅の文字と、その惨事を引き起こした主犯の顔写真。オカシラの手配書にも使われているそれと同じものだった。
 分からない。分かりたくない。こんな記事は嘘っぱちだ読む価値もない。オカシラたちがそんな事するわけがないんだ。あの人たちは海賊だから、きっとある事ない事書かれて、誰か別の奴の罪を擦り付けられたに違いない。
 それならウタはどこに行った?エレジアが壊滅したんなら、船に乗ってなかったウタは、どこに……?
 嘘だ、と言いたかった。それなのに開いた口からは何の音も出ない。それでも強く拒否する気持ちのまま体は動いて、ろくに読んでもいない新聞は手で払い落されて床に散らばった。
 訳が分からない。
 分からないけど、とにかく、ここにはこれ以上いたくなかった。

「ディーン!!」


 ……衝動のままに店を出て、走って、走って、右も左も分からず迷子になっている俺です。二年ちょっと住んでいたって知らない道はあるんだよ。
 疲れ切るまで走り続けたおかげで気持ちは落ち着いたが、その後のことを全く考えてなかった。どの面下げて帰ればいいか分からないし、そもそも帰り道は分からないし、帰るための体力も残っていない。どうにか見知った道に出られないかとフラフラうろついたが、俺の足はもう生まれたての小鹿のようでこれ以上動けそうもなかった。
 往来のど真ん中で座り込むわけにもいかず、ほぼ這うように路地に入る。ここならまァ、座っていても邪魔にはならない。
 建物の壁を背にした三角座りの体勢で、膝に額を押し付けて座り込む。グリグリグリグリ押し付けて、被っていたニット帽もずれて落ちたが気にする余裕もない。帽子が無くなったところで、頭部の三角耳が久し振りの外気に触れて少し寒いなァと思う程度だ。

「(……オカシラ……、……ウタ……)」

 この場にいない人のことを考える。もしかしたら、この世にすらいないかもしれない姉のことを考える。なんだか胸のあたりがやけに寒く感じて、もっと小さく体を縮こませた。

 遠くの喧騒が耳に届き、顔を上げる。
 大通りを、みんながみんな同じ方向へ走っていた。何人かが後ろを振り返っては、悲鳴を上げたり走るスピードを上げたり蹴躓いたりと忙しい。その行動や表情から、何かから逃げているようだと察した。この世界で逃げなければいけない相手と言えば十中八九海賊なんだが。
 ……俺も逃げなきゃなァ……。
 そう考えているのに、体が動こうとしてくれない。足も尻も地面から離れたくないらしく、結果として逃げる人たちをボケっと眺めるだけの間抜けな子どもの出来上がりだ。いやほんと、逃げなきゃいけないとは思うんだけど。
 ついに誰もいなくなり静かになった大通りに、次に聞こえてきたのは獣の唸り声だった。

「ガルルルルルル……!!」
「(ライオンじゃん……)」

 海賊じゃなかったのかよ。動物園くらいでしか見たことのない大型の肉食獣に、思わず身体が固まった。驚いた心臓ばかりがバクバクと大きく動いている。
 瞬きすることも出来ない両目で、ジッとライオンの動きを見た。獲物を追い駆けているわけでも、獲物を探しているわけでもなく、ゆったりとした動きで大通りをただ歩いている。俺の存在にもまだ気付いてないようだ。今日ほど自分の気配の薄さに感謝したことはない。
 今からでも逃げ出すべきか。このまま息をひそめて通り過ぎるのを待つべきか。……もし逃げるなら、大通りに飛び出すより、入り組んでいる路地を進むべきだろうか。
 荒くなりそうな呼吸を意識して落ち着かせて、大通りに向けていた視線を路地の奥の方へ向ける。知らない道だ。別の道に続いているならまだしも、行き止まりに当たったらと考えると二の足を踏んでしまう。やっぱり大人しくしていた方が──。

「ガルルル……」

 背後のすぐ近くから獣の唸り声が聞こえて、それで。
 ……俺の目の前が真っ暗になった。


「どうしたリッチー?なに咥えて……、人間のガキィ!?
 腹減ってるならちゃんと餌やるから、そんなモンはペッ!しなさいペッ!変なモン食って腹壊したらどうすんだッ!!
 ……ん?餌じゃなくて子分にするって?こんなおかしなガキをかァ?あ゛〜……、まァ、船長次第だな」


「あ゛ぁ?リッチーの子分だァ?こんな珍妙なガキをおれ様の船に乗せようってのか?
 ほぉーん……、ミンク族とはちげェな。動物系の悪魔の実か?まァいい。おれ様の船に乗るってんなら、まずは見習いからだ!ハデに働け新入りィ!!」


「よーし新入りィ!まずは甲板掃除からだァ!ハデにきれいにしやがれェ!!
 ……なに?終わっただァ〜?ウソつくんじゃねェぞ、そんなすぐに終わるような広さじゃあ……、終わってんな。それなら次は調理場の手伝いを!って、それも終わらせただとォ!?元々船で育ったから慣れてる?……慣れてるにも限度があんだろ……」


「敵船が来たぞ、ハデに暴れろ野郎共!!食料も宝も根こそぎ奪え!!この世の財宝はすべて、このバギー様のものだからなァ!!!」
「お任せくださいバギー船長!
 リッチーも子分にいい所を見せたくてやる気十分だなァ!」
「ガルルルル……ッ!!」

「じゃあ新入りはおれたちのあとに……っていねェ!」
「逃げたか!?」
「こんな海のど真ん中でどこに逃げんだよ!空か!?」
「バッカ!人間が空飛べるわけねェだろ!!あれ見ろ、もうとっくに敵船に行ってんじゃねェか!!気配無さ過ぎんだろあいつ!」
「おれたちも急げ急げ!新入りに後れを取ったとあっちゃあ、バギー船長に殺されちまう!!」

「ぎゃははははは!大漁大漁、見た目のわりに相当に貯めこんでやがったぜ!よーし野郎共、新入りの歓迎もかねて宴だァ!!ハデに騒げ!」
「「「おォォ〰〰〰ッ!!!」」」


「そろそろ補給を兼ねて島を襲うかァ?おい、ここから一番近い島は……、あ?なんだリッチー。……宝の地図だとォ!?どこで手に入れてたんだそんなもん!子分?あの新入りか!他にも持ってるようなら全部寄越せと伝えてこい。
 野郎共!財宝を探しに行くぞ、ハデに気合入れろォ!!!」
「「「おォォ〰〰〰ッ!!!」」」


「クソぉ〰〰……、ここもハズレか〰〰……。次だ次ィ!!」
「「「了解です、バギー船長!!!」」」


「大〰〰当たりじゃねェ〰〰か〰〰ッ!!これだから海賊はやめられねェ!野郎共ォ、祝いの宴だァ!!」
「「「了解です、バギー船長!!!」」」

「……なァ、これで新入りが見つけたお宝の地図、何枚目だ?」
「十以上は数えてねェよ。おれ東の海だけでこんなに宝あるなんて知らなかったぜ?」
「当たりはずれが三:七くらいだけどな。けどたまの当たりがデカいから、船長の機嫌がいいのなんのって。バギー船長お宝好きだけど、そもそも宝を探すって行為自体も好きだもんなァ……」
「有人島入っても、懐に余裕あるから略奪じゃなくて普通に補給してるしな」
「まァおれも、お宝探してる方が好きだし」
「おれも」「おれも」
「暴れたきゃ、襲いかかってくる敵船やっちまえばいいしな」
「そんでまた新入りが宝の地図掘り出してくる、っていうな」
「宝の引きも強ェ、腕っぷしも問題ねェ、雑用の手際だって申し分ねェ。今んとこ、文句の付け所がねェなあいつ……」
「ハデ好みのこの船にしちャア、だいぶ地味だがな!」
「違いねェが、飯と酒がうまけりゃ問題ねェ!楽しい海賊生活にかんぱーい!!」
「「かんぱーい!!」」


「おい新入り、なかなか刃物の扱いがうまいじゃねェか。ここはひとつ、おれが剣技の手ほどきでもしてやろうか」
「何言ってやがる!新入りはリッチーの子分、つまりはこのおれの子分だ。てめェの出る幕はねェんだよ」
「ふんッ、新入りと猛獣使いのてめェとじゃ戦い方が違うだろう」
「そう言うなら、新入りは曲芸師でもねェだろ」
「おれは剣士でもある!」
「剣ぐらいおれだって使えるんだよ!」
「「ぐぬぬぬぬッ!」」

「よーし新入り、あのお二人は放っておいて洗濯の続きするかー」
「うちの船長は衣装持ちだからな、扱いも丁寧にしねェとなー」
「「巻き込まれたくねェからさっさと行くぞー」」


「ガルル!ガルルルルル!!」
「   」
「新入り、おまえ頷いてるがリッチーの言ってる内容分ってんのか?……分かってねェのかよ!?適当な奴だなおまえ!!」
「ガルッ!?」
「ほらもう、リッチー分かってもらってると思ってたじゃねェか。ショック受けてしょげちまってかわいそうに……」
「ガルル……」ぐるるる……
「腹減っただけかよ紛らわしいな!!」

「あれはモージさんの猛獣コントショーだ」
「適当なところで抜け出せよ。でないとそのままリッチーについて語りだすからな、語り始めると長ェぞ」


「バギー砲、用ォ〰〰意!!」
「バギー玉セット完了しました!」
「よし、撃てェ!!!」

「今日もド派手に町が吹き飛んだな!だがまだまだバギー玉は改良できる、威力もこんなもんで満足するつもりはねェ。もっとハデに、いやド派手に……」

「久し振りに島襲ったなァ」
「……でも知ってるか?あの島、住んでるやつら全員追い出した山賊が乗っ取って、山賊どもの根城になってたらしいぜ。なんでも海軍も手を出せねェくらい強ェとか」
「は?船長知ってんのかそれ」
「いや〰〰〰?「新作バギー玉の試し撃ちがしてェ」って船長がぼやいて、新入りが海図引っ張ってきて指差してここにしようって推しに推されて決めてたようだから、バギー船長は知らねェんじゃねェかなァ?」
「つまり新入りは知っていたと」
「山賊に根深い恨みでもあんのかな」
「船長によく似たイイ笑顔で眺めてんもんなァ〰〰。聞こえねェはずの高笑いまで聞こえるぜおれは」


「よーし野郎共!

 宝探しだ!!
 宴だ!!
 敵襲だッ!!

 ──ハデに暴れろォ!!!!」


□□□
18_ _ _
《──みんな、こんばんは。ウタだよ》
「……う、た?」

 不寝番の夜。なんとなしに聞いていた電伝虫から懐かしい声と名前が聞こえてきて、思わず言葉が口を突いて出た。
 同じく隣で不寝番していた船員が「ししし新入りがしゃしゃしゃしゃしゃべったァッ!!!??」と真夜中にもかかわらず大声で叫んでいたことは横に置いておくとして。
 この船に乗ってから声が出ず話せないまま、まさかの六年経っているのでこの反応も当たり前と言えば当たり前だろう。

 目を白黒させる横のそいつは無視して、電伝虫から聞こえる声に耳を澄ます。思い出すしかなかったウタの声が、楽しそうにしゃべって、笑って、歌っている。
 生きてる。生きてる。生きている。
 身体の底から湧き立つような、心臓をギュッと握られたかのような、手も足も落ち着いていられないような、この激情をなんと言えばいいだろう。今すぐ感情のままに走り出してしまいたいけれど、こんな夜中に甲板の上でそんなことをすれば寝ている船員たちを起こしてしまうだろうし、何より折角のウタの声を聞き逃してしまっては意味がない。
 動き出してしまわないように自分で自分を抱き締めて、ジッとウタの声に聞き入った。

《──そろそろ眠くなってきちゃった。今日はここまでだね。それじゃあみんな、また今度。おやすみ!》

 プツン、と放送が切れる音がして、静かな夜が戻ってきた。……訂正、不寝番だったはずの隣の相方から聞こえるデカイいびきだけが良く響く夜が戻ってきた。
 瞼を閉じたまま動かなくなった電伝虫を抱えて、静かに、静かに、夜空を眺める。きらりきらりと輝く夜の空で、瞬いていた星が一つ流れた。

 月が沈んで、太陽が昇る。
 急いで見張り台から降り甲板を駆けた。船内から船員がゾロゾロと出てくる中、何人かが俺の方をチラチラと見てきたのは昨日の夜の騒ぎを聞いていたからだろうか。声を掛けてこようとする人も何人かいたけれど、話し掛けられる前にその脇を通り過ぎて船内に駆け込んだ。

「船長ッ!!」

 ノックする間も惜しくて、走ってきた勢いのまま目的の船長室の扉を飛び込むように開けた。部屋の化粧台の前にはいつものピエロメイクをする前のスッピンの船長が座っていて、鏡越しにとんでもなく迷惑そうに歪めた顔を俺に向けて「……マジでしゃべってやがる……」と呻くように呟く。どうやらすでに誰かに聞いていたらしい。出来たらもっとハデに驚いてほしかった。
 普段のハデ高テンションが嘘のように「ノックぐらいしてから入りやがれ、バカ野郎が」とだけ注意された。それは確かにそうなので、ちゃんと頭を下げて謝る。返されたのは呆れたような短い溜め息だけだったけど。

「それで。朝っぱらから何の用だ」

 下げた頭を上げて、船長を見る。鏡面を向いて化粧をしながら、けれど視線は鏡越しでもしっかり俺に向けられていた。

「船長、俺、この船降りる。エレジアにいるウタに会いに行くんだ!」
「…………はァァ????」

 素っ頓狂な声を上げながら、船長の口紅が耳元まで真っ直ぐ伸びていった。

_ _ _
 夕暮れの海を小舟で進む。
 みんなの説得は結構大変だった。そもそもの前情報が向こうにないものだから、女に会いに行くために船を降りると突然言い出した下っ端、と大顰蹙ものだったので。それはそう。
 端折っても良いことはないだろうと二歳の時に姉共々海賊に拾われて、育てられて、十年前に姉と別れ別れになってしまって、と順を追って説明した。電伝虫から聞こえた声と名前が姉だったと言い終えた頃には、なんと甲板が涙の海状態。みんな情緒豊かだなァ。他人事のような感想を呟けば「おまえの話だからだろーが!」と軽くどつかれた。ほんと、みんな人情に篤いよなァ。
 船長だけがちょっと難しい顔で俺の話を聞いていて、終わった時に何か言いたそうに口を開いたけど、たぶん本当に言いたいことは飲み込んだんだろう。一寸間が開いた後に「行き方は分かってんのか?」と至極真っ当な質問をされた。まァ俺からの答えはノーだったので「向こう見ずのスットンキョーめ!!」とお叱りと拳が飛んできたが。
 そのまま文字通り飛んできた手でグリグリと米神を押されて苦しんでいる間に、船長の指示の下あれよあれよと小舟と食料とその他必要な品、それから目的地であるエレジアまでの航路が示された海図まで用意された。あまりの手際の良さにびっくりである。そんなタイミングよく必要な海図があるとかある??もしかして船長、未来予知が出来る方で???
 俺から始まった話のはずなのに、すっかり当人は置いておかれて食料その他と一緒に小舟に積まれどんぶらこと海に流されてしまったわけだが。

「新入りの門出にィ!!かんぱァ〜い!!!」

 本人のいないところで送別の宴を開くのはやめていただいて。
 遠くなる船からは宴の騒ぎと、男泣きが聞こえてくる。あっさり送り出してくれたくせに、実はちゃんと惜しんでくれてたんだなァ。六年一緒にいて惜しんでくれなかったら悲しいどころじゃなかったんで良かったワ。
 ……餞別に名前くらい言っておきたかったなァ。何年経っても新しい船員増えても新入り新入りって、最初の頃に名前を紙に書いて教えたのに一回も呼んでくれねェの。

「……まァ、また会った時にでも言えばいいか……」

 手土産に宝の地図でも持ってあいさつしに来よう。
 手を振るのも違う気がして、持たされた水の入った皮袋を掲げてひとくち呷った。


 という事で、何回目かの陽が沈み始めた海を流れる小舟の上である。
 無計画に流されているわけじゃなく、きちんと海図を読んでの航海中だ。ちょっと情報が古いらしく書かれたままとはいかなかったけれど、そこはこの数年で齧った航海術が役に立つ。
 ……この海図、たぶん襲ってきた敵船からの戦利品だなァ。端の赤黒いシミ、インクじゃなくて血だと思う。気にしやしないが。
 海賊稼業をして気付いたけれど、俺は結構引きがいい。宝の地図の当たりとか、食料や備蓄が心許ないなと思ったタイミングでの会敵が補給したばかりの敵船だったりとか。
 手の中のエレジアの海図も、きっと『こうなることを見越して』の引きに違いない。陸じゃあそこまでじゃなかったんだけどな。

 夜の航海は危険だけれど、順調にいけば日が完全に沈む前にはエレジアに着く。そろそろ島影が見えてもいい頃だと目の上に手をかざして遠くを見れば、……──目的地が見えた。

 波や風に任せていられるかとオールを漕いで、ようやっと辿り着いたエレジアはどう見ても『滅んだ』という言葉通りだった。人の気配なんて一切なく、石造りの住居は崩れて瓦礫となり、雑草が悠々と生い茂っている。こんな島じゃなかった、と訴えてくるのは覚えていないはずの昔の記憶だろうか。
 もっと、音楽の島の名にふさわしく音が溢れていて、人が賑わって……。

 思い出せそうで思い出せない記憶に顔を顰めつつ島をうろついている間に、すっかり沈んだ太陽に代わって月が顔を出していた。デカい月だ。
 立ち止まった途端、それなりに長い船旅と、上陸してからは歩きっぱなしで随分と疲れていたことを思い出す。適当な大きさの瓦礫にどっかりと座り込めば、今ならこのまま眠れそうだった。
 ウタを探すのは陽がのぼってからでもいいだろうか。
 ……というか、ウタってエレジアにいるんだろうか。
 あ、と思い至ると頭から血が下がる感覚がした。生きてる!とテンションが上がった勢いで出てきたが、そういえばあの配信の中で現在地については喋っていなかった、ような?最後に別れただろう場所がエレジアだったからここまで来たけれど、復興しているなら未だしもこんな滅んだままの国にいつまでもいるかと考えれば答えは否だ。普通なら近くの島に避難しているだろう。
 お゛あ゛〰〰……、しくったァ〰〰……。
 頭を抱えて蹲る。電伝虫は船の備品だから持って来れるわけもなく、更新情報を手に入れたくても今この場では手段がない。途中立ち寄った島に戻るしかないか……?

「────、」
「え」

 聞こえた声に跳ねるように立ち上がって、勢いのままに走り出した。
 声のする方に走って、走って、走って。海岸で歌う人影が見えた。昔のまんまの紅白頭、長さは変わったけど変わらない織姫みたいなうさぎみたいな髪型、離れた場所までよく届く歌声も変わらない。

「ウタ!!!」

 走り辿り着くより先に、叫ぶように名前を呼んだ。
 肩を揺らして勢いよく振り返るウタの表情が、強張ったものから、探るようなものに変わって、少し考えた後、大きく目を見開いて驚いた顔で固まる。距離がおおよそ1メートルほど手前で脚を止めれば、震える指で俺を指差した。

「……え、待って。まさか、……ディーン?」
「そのまさかだ!!」
「う、嘘だァ〜。ディーンはそんなに元気よくないよ」
「ようやく家族に会えてテンション上がんねェわけないだろ!どうしても疑うってんなら、あー……、あ!これ!この耳が証拠だ!!」

 もう答えが出ているくせに疑うウタに、頭の三角耳を見せつける。ここ数年隠してもいない猫耳だ。だって船長も誰も何も言わないし何もしてこないし、そもそも親分が俺を拾った理由これだったし。確かに同じネコ科だけど。
 さすがにズボンの中の尻尾は見せられないが、意識せずとも動くこの三角耳はどう見ても本物だろう。
 ほら、と頭を差し出せば、恐る恐る伸ばしてきた手が俺の耳に触れた。ちょっとくすぐったいけど今は我慢だ。

「……ほんとに、本当にディーンなの?」
「嘘なわけあるかよ。本物の俺だ。
 別れてから結構経ったし、お互い成長したのは確かだけど。ああ、身長も俺の方が姉ちゃんよりだいぶ高くなったみたいだな!」
「あは、昔はふざける時くらいしかお姉ちゃんって言ってくれなかったくせに」
「そこはこれからもウタって呼ぶから安心してもらっていい。……自分で言っといて段々恥ずかしくなってる」

 ウタの手が離れたところで上半身を起こす。改めて見たウタは瞳一杯に涙を溜めていて今にも大泣きしそうだ、と考えた時にはもう決壊していて、ボロボロと大粒の涙が流れ始めていた。
 大声上げて泣かないあたり、昔のウタとちょっと違う。昔のウタならこれでもかと大きく声を上げて、すぐにシャンクスの名前を──。……ああ、そうか。もうどれだけ声を張り上げたって、名前を呼んだって駆け寄って来てくれる相手がいないから、だからこんな泣き方をするのか。
 眉間に皺が寄るのが分かって、こんな顔を久し振りに会った家族に見せたいわけじゃないと頭を振るう。
 そうして、ちょっと考えてから腕を広げてウタに声を掛けた。

「ウタ、俺の名前呼んでくれ」
「?……でぃ、でぃーん?」
「ん」

 鼻声で聞き辛かったけれど、確かに呼ばれた名前に距離を詰めて抱き締めた。ちょっと恥ずいので、どこかの誰かみたいにギュッと力一杯は無理だが。ウタはいきなりのことに驚いたのか身体をビクッと跳ねさせて、肩口あたりにある顔を動かしてチロッとこちらの様子を見る。見んな見んな。
 きっと真っ赤になってるだろう俺の顔が見えたようで、グスグス泣きながらもフヘヘと情けなく笑う。笑われると余計に恥ずかしいんですが???もう離れようかなと動くが、今度はウタが両腕を俺の背中に回して遠慮なくギュウギュウに抱き着いてきた。

「ぐえ、ジミに内臓出そう」
「あははは、そこまで力込めてないよ!」
「無自覚ゴリラじゃん」
「…………」
「あ、待ってお姉さま、すみませんでした、まじでギブギブギブギブ」

 徐々に込められる力が増す腕に、本気で内臓出るかと思った。
 満足したのか、やっと離してくれた頃には俺の息も絶え絶えで、浜辺に転がる破目になって大変情けない。ぜーはー荒い呼吸を繰り返す俺の横でしゃがむウタは、とても楽しそうに笑っていたのでどうにかこうにか留飲を下げる。

「……会いに来てくれてありがとう、ディーン」
「ん、どういたしまして」

 一度諦めかけたのは、言わない方が良さそうだ。


 ウタと再会をひとしきり喜び合った後、紹介したい人がいると手を引かれて連れて行かれたのは大きなお城で。まさか彼氏の紹介でもされるのかと心臓に負担を強いられていたら、九年間お世話になったというもう一人の生き残りであるエレジアの国王を紹介された。正直な感想はフランケンシュタインの怪物だったが、いい子の俺は本音のお口にチャックして、きちんとはじめましての挨拶をした。これから一緒に暮らすのにイメージダウンは頂けない。
 不思議そうな顔をされたのは、たぶん昔に一度会って挨拶しているからだと思う。この島にいた間の記憶がないことを伝えれば、納得と一緒になぜかホッとしたような顔をされた。わけがわからん。

 それから、ゴードンさんお手製の夕飯を一緒に食べながら、今までどんな風に過ごしていたのかを話した。
 まずは俺からと、陸で三年海に戻って六年の話をすれば「海賊に捨てられたのに!」とウタに激昂されて驚く。そのままハラハラと泣き始めたので背を摩りつつ、事情を知っているだろうゴードンさんをうかがえばポツリポツリと話されたのは俺が忘れてしまったエレジア壊滅の経緯だった。
 驚くというより、衝撃的だった。でもそれと同時に、疑問にも思う。
 あの、主人公に大きな影響を与える立場である赤髪海賊団が、財宝欲しさに娘であるウタを利用した……?メタ目線で申し訳ないが、なんとも腑に落ちないものの、今はそれよりもウタのことだ。なおのこと労わるように背中を優しく撫でさする。

「大変だったな、ウタ」
「……ディーンだって大変だったでしょ」
「いや、まぁ、俺としては最初の時点で赤髪海賊団よりウタの安否に重きを置いてたって言うか。捨てられる前に気持ち的に自分から離れてたから、別に。うん」
「ありがとう、ディーン。……ごめんね、私はディーンはシャンクスたちと一緒にいると思ってたから……」
「いいよ、気にすんな。別れた時はまだ船にいたし、それにウタの方が絶対大変だったんだし」
「ん……」

 ますますしょんぼりするウタに、こんな筈じゃなかったと焦る。俺は励ましたかっただけであって、更に気落ちさせるつもりは微塵も無いんだが……!!

「んんん……ッ。それに!それに、本当に陸でも海でも、いい人たちの世話になれたから大丈夫なんだよ」
「海賊がいい人なわけない!!」
「おあー……」

 怒鳴るように声を荒げ、テーブルを拳で叩く。並べられた食器がガチャガチャと鳴って、反対に俺たちは口を閉ざして静まった。
 ウタから向けられる視線だけが、うるさいほどに感情を訴えてくる。ぐるぐると綯交ぜになったそれは、怒りだとか寂しさだとかだけでは表現しきれない、きっと本人ですら分かり切れていないものだ。そんなもの娘に抱え込ませてさァ、シャンクスは何してんの?

「……シャンクスたちが、赤髪海賊団が本当にウタを利用してこの島を襲ったって言うなら、確かにそれは最低で最悪の奴らだよ」
「そうだよ!海賊なんてみんな最低なんだから!」
「うん。うん、でもさ、『海賊みんな』って一括りにするのは言い過ぎなんじゃないか?」
「はァ!?ディーンは、ディーンは忘れたから、そんな風に言えるんだよ……ッ」

 激するままに涙を流して、背中に添えていた俺の腕を強い力で掴む。ギリギリと立てられる爪に腕が痛むけど、おくびにも出さず離させることはしない。
 黙って肯定してやればいいのは分かってる。置いて行かれたウタの気持ちを考えれば「そうだ、海賊なんか悪い奴らばっかりだ」って同調してやるのが今は一番いいんだろう。それでも、俺のためにも全部を否定してほしくないと思った。自分勝手だけど。たぶん、いつかのウタのためにも。

「いいやつだっているんだよ。本当に少しだけど、中にはいい海賊が確かにいるんだ。
 例えば白ひげ海賊団ってのがいて、その名前で他の海賊を牽制していくつかの島を守ってる。魚人島とか、政府も軍も守ってくれないような場所を、海賊が守ってるんだ」
「守る?海賊が?」
「荒事に慣れてて、船を持って自由に海を渡れて、懸賞金って言う目に見えてわかる力もある。そんな海賊だから出来る守り方もあるんだ」
「でも!……でも、シャンクスは……」
「……赤髪海賊団は違ったんだろ」

 腕を掴んでいた手から力が抜けていき、気付けばお互い縋るように手を繋いでいた。
 しばらく無言が続いて、先に口を開いたのはウタだった。

「ディーンがお世話になった海賊はどっちだった?」
「…………イイカイゾクダッタヨ……?」
「ねぇ!なんでこっち見て答えないの!?」

 恐る恐るといった風に問い掛けられた内容に、俺は目も口も閉じて顔を背けながら答えるしかない。当たり前に不満なウタは、繋いだままの手をぶんぶん振り回して苛々とした気持ちをぶつけてくる。
 だって!あの船長たちどっちかって言うとあんまりいい性格してないし!俺がいる間は良い感じに財宝探しの冒険主体の航海に誘導して、たまにくる破壊衝動?みたいなのは世間的に悪党に分類される奴ら探して発散させていたけど、俺がいなくなった後のあの海賊団はたぶん駄目な方に行くと思う……。良くも悪くも海賊らしい海賊だったので。でも今それを言ったら色々台無しになる……。

「うぅん……。そこまでのネームバリューも無い、宝探し大好きサーカス団だった、なァ?」
「海賊団なの?サーカス団なの?」
「船長がピエロで、猛獣使いとライオンと曲芸師と色々いる海賊団」
「なにそれ、変な海賊!」
「俺を拾ったのはそのライオン」
「ふぅん。同じ猫だし、仲間だと思われたんじゃない?」
「たぶんそう」

 顔を見合わせてくふくふ笑う。ようやく笑ってくれて気が緩んだ。
 俺の話はそこまでで切り上げて、続けて気を取り直したウタが、エレジアでどんな風に過ごして来たのかを話し始めた。歌手になる勉強はゴードンさんの下で続けていたようで、そこだけは嘘じゃないようだとホッとする。
 途中、迷った様子のウタにシャンクスに関して知ってることはないか訊ねられたけれど、残念ながら俺の思い出もウタの頃とほとんど変わりがない。付け加えられたとして左腕のことくらいで、しかしいくらなんでも久し振りの父親の情報としては伝え辛過ぎる。

 語り明かした夜を越え、数ヵ月振りのベッドでの安眠を妨害したのはウタの絶叫だった。
 城中に響き渡るそれに驚きながら飛び起きて、部屋を飛び出しウタがいるらしい場所に向かう。途中でゴードンさんとも合流し、駆け付けた先ではウタが床に蹲って顔を覆って震えていた。絶叫はやんでいるものの、小さな声でブツブツと呟く様子はどう見ても尋常じゃない。ゴードンさんと顔を見合わせて、そろりとした動作でウタに近付き声を掛ける。

「ウタ?どうかしたのか?」
「キャーッッ!!??」
「うわ、うるせ」

 再度悲鳴を上げて振り返ったウタの顔は真っ赤だった。何なら涙目だ。その手には大きめの電伝虫が乗せられていたので、もしかしたらこんな朝早くから誰かと通話中だったのかもしれない。それにしたって、あの叫びようはそうないと思うけど。
 とりあえず座り込んでしまったウタに合わせて屈み、どうしたのかと問い掛ける。

「ディーン、どうしよう……」
「なにが?」
「昨日の様子、配信しちゃった……」
「昨日の様子?」
「……うん」

 昨日、昨日?と無意味に繰り返しながら、思い出したのは昨夜の海岸での出来事。何もおかしなことはしていない、してはいない、がッ!……は?いや、ライブ状態で家族との再会シーン見られるとかなんの公開処刑だよ??ほんと!!待って!!!まじで止して!!!!

「恥っずッッ!!!!」
「ディーンだってうるさいじゃん……」

 誰か俺を埋めろッ!!!

_ _ _
「みんな〜、ウタだよ」
「ついでのディーンで〜す」
「もう!その『ついで』って言うのやめなよ!ディーンの話を楽しみにしてる人だっているんだからね!」
「やァだよ。どうせ十回しか俺は出て来ないし。
 あと三回、おまけの俺の存在許してねェ〜」
「ディーン!!」

 怒った怒った。わははは。……そう、ヤケクソである。
 世の中やさしい人が多いようで、俺たちの感動再会映像を勝手に見せられた上にそのまま放置されたのにもかかわらず、お祝いの言葉を大量にもらった。恥ずかしさでもう一度絶叫した。ゴードンさんの鼓膜が死んだ。
 しかしその後の話し合いまでは聞かれていなかったようで、というか映像電伝虫自体が浜辺に置き忘れられて、ノロノロ自力で帰って来てくれたから間に合わなかったんだけど、そこは幸いだったなと思う。
 というのも、ウタの配信を聞いて反応を返してくれるのが大体ただの一般人。その中でも声の大きいのはウタの海賊嫌いに強く同意する、海賊による略奪行為の被害者たちだ。
 彼ら彼女らがウタの歌を聞いて、幸福な夢を見て、ただただファンであるだけならまだ良い。けど、ウタの歌を聞いて、勝手に『救世主』なんて祭り上げるやつらがそれはもう大量にいる。まァ、海賊嫌いのウタが作詞した歌の内容のせいでもあるけれど。
 そんな中で、実は海賊に育てられていました、なんて言った日にはこれでもかと非難が殺到するに違いない。
 容易に想像がつく手の平返しに、考えるだけで血管が切れそう。
 うちのウタは!ただの女の子で!ただの音楽家で!べらぼうに歌のうまいただの歌手なので!救世主とかジミに重いだけの称号を与えないでいただきたい。

「……んー、そろそろ眠くなってきちゃった。じゃあ、いつも通りディーンと交代するね。おやすみ、みんな!」
「はいはい、おやすみ。ということで、ここからは俺の時間ね。物好きな人以外はウタと一緒におやすみしような」
「ディーン!!」
「わははは。怒られた」

 ウタが眠くなると、配信のメインが俺になる。
 これは誤配信後に、ウタのきょうだいの俺の歌や話を聞いてみたいという、それはもう物好きな人間が何人かいたので、多くても十回だけと回数を決めて始めたことだ。
 ちなみに、エレジアに来るまでの六年ほど海賊をしていたことは最初に言ってある。これで苦情しか来ないならそこまでのつもりだったのに、なんとあの海賊団で数少ない善行を受けた当事者が何人かいたみたいで、逆に感謝の言葉を貰ってしまった。いや、問答無用に「海賊なんか死ね!」って人も確かにいたけど。
 なので、と言うのも少しおかしいが、とりあえず十回だけウタの配信に間借りしている現状だ。

「まずはウタの寝かしつけからしようか」
「いつも言うけど、わたしそこまでこどもじゃないんだからね……」
「うんうん、そうだなそうだな」
「きいてくれてないやつじゃん……」

 眠さでもう呂律も回っていないウタをいそいそと寝袋に突っ込む。俺の配信が終わったら、そのまま抱えて部屋に連れて帰れるのでとても便利だ。
 お互い隣り合って座り、胡坐をかく俺の隣で三角座りのウタがこちらの肩に頭を預けてきたタイミングを見計らって、息を吸う。

「――……Twinkle,twinkle,little star,
 How I wonder what you are……」

 俺は歌をほとんど知らない。知ってるのはウタが歌う歌と、よく聞いていたビンクスの酒と、遠い記憶の童謡がいくつか。長い歌詞を覚えるのは得意じゃなかったし、声を大きくして歌うのもあんまり得意じゃない。カラオケ行ってもタンバリン叩いて遊んでたな、とぼんやり思い出す。
 遠くなり過ぎた記憶を振り返りながら短い歌を歌いきる頃には、ウタは静かな寝息を立てていた。

「……よし、今日も静かに話そうな。と言っても、もう何話して良いかわかんないんだけど」

 元々よく話す方でもないから、こういう場を設けても一人で何を話して良いのか毎回さっぱり分からない。
 店長の所で学んだ料理や暮らしの知恵の話はすっかりしたし、なんちゃって賞金稼ぎしていた時の山賊海賊チンピラ海軍に対する愚痴も延々話したし、ライオンに拾われて入った海賊団のバカ話と冒険譚も前回までで十分話した。
 全十回じゃなく、七回にしとけばよかったな。ラッキーセブンで縁起も良いし。

「んー……、あ。今日は俺の話じゃなくて誰かの話をしよう。物語って言うほど長くは無いし、小さい子ども向けの話だから、まァ飽きたりつまらないと思ったら聞くのやめてくれればいいから」

 無理くりネタをひねり出す。浮かんだのは小学校の教科書にも載っていた話だ。
 それじゃあ、と喉の調子を確認しつつ、ずっと昔の記憶を掘り起こしてスッと息を吸う。

「――……エルフのことを、話します」

_ _ _
「えー……、なんか不評ではなかったみたいなので、今回と最後も短い物語を話して終わりにしようと思います。ウタ伝いに聞いたからあんまり詳しく感想知らないけど。わははは」

 感想を伝えてくれたウタも不思議そうな顔をしていた。今までの反応とガラッと変わったからなァ。やっぱり動物が絡むと共感性上がるのかなァ。
 ……うん。気持ちを切り替えて、今回はちゃんと事前に思い出して書き起こしておいた物を取り出す。もっと時間があれば、せっかく映像越しなんだし紙芝居にしても良かったかもしれない。言ったところでもう遅いんだけど。
 んんっ、と喉を鳴らして咳払いをひとつ。

「──……ある国の野外動物園に、みなしごのライオンがいました」

_ _ _
「うん。長かった十回も今日が最後という事で。
 まったく出て来なくなるけど、変わらずこの島にはいるしウタの裏方に徹するつもりではいるから。そろそろウタの衣装考えたり作ったりしたいし、この島の農牧も頑張りたいし。あとは、たまには舟出して賞金首狩りに行くこともあるかもしれないけどね。
 ……じゃ、最後のお話な」

「──……空には、星がきらきらと光っていました」


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