さぁ、天高く祝砲を。




 係船柱に腰かけて、からっと晴れた青空を阿保みたいにポケっと口を開けながら眺める。視線をおろせばこれまた真っ青な海が視界を占めて、わーすげーきれー、なんて場違いにも間抜けな感想を抱いた。
 いやそんなほうけてる場合じゃねえ!
 なんで俺、こんなザ☆港にいるん!?俺の住んでる場所海なし県なんだが!!??
 そも、図工の時間に「今日は校庭で風景を描いてみましょ〜」と先生に言われ、画板とスケッチブックとペンケースを持って、外履きに履き替え昇降口から出ただけ!なんですけど!?なのになんで港にいるのですか俺は???
 頭を抱えて考えても答えは出ない。「雲梯の上から一緒に描こうぜ!」と言ってくれた友達もどこにもいない。周囲をチロチロと見回しても知り合いの顔一つない。どころか日本人らしい顔が全くない。
 ないない尽くめで泣きそうだ。ようやく高学年になったっていうのにギャンギャン泣きそう。これで実はドッキリでした〜、なんて言われた日には相手のみぞおちに右手をめり込ませる自信がある。頭突きでもいい。
 唯一のより所である画板、スケッチブック、ペンケースを抱きしめて小さく小さくうずくまった。

 段々と行き交う人も減って、太陽も海の向こうへと沈んで空がオレンジ色になってきた。カァカァ鳴くカラスに、聞き慣れた鳴き声だからかちょっとホッとしたりする。見上げた先にいたカラスが想定よりもデカ過ぎて絶望するまでワンセットだったけど。
 俯きぐしぐしと顔を乱暴に拭いながら、これからどうすればいいんだろうかと考える。
 よくて日本の港町。悪くて外国の港町。最悪異世界の港町の可能性までさっきの鳥のせいで出てきた。
 …………どうしろっつーの??
 熟考したところでいい考えなんて一切思い浮かばない。周りの人間に声かければいい?それで全く分からない言語で返されたら俺どうすればいいの?どうしようもなくない?小学五年生だって泣くときゃ泣くんだぞ?いいのか?ギャン泣きだぞ!

「ん?どーした、この島じゃ見ねェ服だな。どっかの商船に乗ってきたガキか?」

 頭上から降ってきた声にのろのろと顔を上げる。ぼさぼさの黒い髪と立派な黒いひげの大男が俺を見下ろしていた。

「辛気臭ェ顔だな。なんだ?迷子か?」

 きつい目つきに乱暴な口調のくせして、雰囲気は優しかった。わざわざ屈んで俺の高さにも合わせてくれた。話し始めない俺の頭をポンポンと叩くように撫でてくれた。
 ……もう泣くしかないじゃん!??
 我慢してた分赤ん坊かと言うほどギャンギャン泣いて、つっかえつっかえ事情を話して、またギャンギャン泣いて体中の水分を目から出し切った。たぶん目は真っ赤だし瞼はパンパンに腫れてると思う。大男の顔もろくに見えない。
 でも泣いたらちょっとすっきりした。まぁなるようになるだろ、と覚悟とも諦めともとれる気持ちでいると、大男に両手で頬をぶにゅっとつぶされて上を向かされる。

「だったらおれの船に乗ればいいじゃねェか!!」

 なにがどうしてそれが良いことだと思ったの??
 太陽も負けを認めるにっかり笑顔で大男はそう宣い、俺を肩に担いでえっさほいさと自分の船?に向かう。いや俺まだ何とも言ってないんだけど!?
 抵抗しようにも力勝負で勝つには無理に決まってる。見てこの二の腕、俺の腹回りくらいない??言葉で抵抗しようにも、「あの、」「舌噛むから黙っといた方が良いぞ!」「うす……」これである。好意の忠告だもん、黙るしかないじゃん。
 これはもう腹括って海の男になるしかないかな……。
 諦めてドナドナされていると、一隻の船の前で足が止まる。どうやら大男の船に着いたらしい、と顔を上げれば思った以上に立派な船がそこにあった。へー、すげー、と間抜けな感想を抱きつつ視線を上へ上へと移動させていけば、畳まれた帆よりも高い位置ではためくドクロマーク。……あれって海賊旗ってやつじゃない??

「あんた海賊か!?」
「おう!」
「おう!じゃねーよ!!」

 思わず頭をぶっ叩いたが、全く気にせずかんらかんらと笑うばかり。えー……、俺海賊になんの……?まじ?腹括るしかない感じ?あと何回腹括ればいい?

「おれはロジャー海賊団船長のゴール・D・ロジャー!これからよろしく頼むぜ、ガキんちょ!!」
「俺の名前はヤイロ!ガキはやめてくれよ、……船長」
「!おお、ヤイロだな、よろしくな!」

 これが一生涯敬愛することになる船長と出会った三十年前の出来事。俺がまだ十一歳の時のことである。

□□□
 そして現在四十一歳。ちょっとドジって捕まって、インペルダウンに連れて来られた。

 もういい年のオッサンだが、ちょっと人様に言えないような肩書が一つや二つありつつも、どうにかこうにかのらりくらりと躱して隠れて隠して逃げてきた。
 けれどまァ、ここらが年貢の納め時だったと言うか何と言うか、やらかしたことに後悔は全くと言っていいほど無い。
 だって海軍に所属する、しかも大佐の位持ちが、一般の子どもにぶつかられてアイスでズボン汚されたからっつって容赦なく蹴り上げたんだぞ?は??そこはおれのズボンがアイス食っちまったっつってアイス五段分のお小遣いあげろ???
 気が付けば、武装色で強化した脚で件の大佐を蹴っ飛ばしていた。球蹴りしようぜお前がボールな!!

 で、まぁ、逃げるタイミングを見誤り、現行犯逮捕となったわけである。
 はぁ〜〜〜????知らねェ〜〜〜〜!!!!おれ悪くねェ〜〜〜しッ!!!!!
 連行される間、開き直ってボロッくそに海軍をこき下ろしてやりながら歩いてやった。黙れっつって殴られもしたけど、残念ながら世の中には鉄塊っていう便利な武術があってな?殴ってきた拳の方が血を吹き出すし、木の棒使おうが鉄の棒使おうが向こうの方が先に曲がるので意味がない。武装色か超人武術身に付けてから出直していただいて。まぁ、鉄塊してる間は動けないから、その間だけは静かになるので殴られ続けたが。
 だがしかし。怪我した子どもの為に憤り、捕まった後は公の存在の在り方に抗議するも振るわれる暴力には黙って耐えるオッサンを見て、一般市民は海軍に対しそれはもうつめた〜い視線を向けていたのでヨシとしようと思う。
 出来ることなら新聞にすっぱ抜かれて全員降格しろ!!

 で、インペルダウンである。
 インペルダウンって世界中の凶悪な犯罪者を突っ込む場所であって、おれみたいなちょっとやんちゃした一般市民()を入れておくような場所じゃないと思う。でも、おれが蹴っ飛ばした大佐という肩書だけのクソが、まァ〜〜〜〜あッ、いいとこの血筋だかなんだかで。熱い希望でここに連れてこられたわけだ。
 世の中腐ってんなァ。
 昔々好奇心で作った知人のビブルカードが反応しているので、もしかしたら望んでもないのに同窓会inインペルダウンが開催されるかもしれない。望んでもないのに。
 やだァおうち帰りた〜い。ダラダラ歩いて連行されていればやにわに騒がしくなる周囲に、おや?と片眉を上げる。どうやらインペルダウン内で騒動が起こっているらしい。

「囚人の脱走だ!!」
「クソッ、数が多い!全員で対処に当たれ!!」
「こいつはどうします?」
「その辺に繋いでおけ!ここにいる犯罪者共に比べれば雑魚だ、後でどうとでもなる!!」
「は!」

 はぁ〜い、雑魚でェ〜す。
 マジで適当にその辺の柱に手錠と鎖で繋がれたんだが。雑魚を舐め過ぎでは?
 そもそも、ただの雑魚が武装色と鉄塊使えると思っとるんか?え、おれが引きこもってる間に世の中の戦闘力の底上げヤバいくらいにされたんです??いつからこの世は修羅の国になったのか。結構前からだったや。根っからの平和な国の方がレア。
 まぁ、普通に報告漏れだろうなぁ。いろいろと雑だもん海軍。
 マリージョア級のプライドが傷付いたし単純にムカついたので、バキッと手錠を外して自由になる。擦れてちょっと赤くなった手首を摩っていると、おれがいる地上階まで脱獄囚であふれてきた。おお、本当に大量に脱獄されてんじゃん。鉄壁が聞いて呆れるぜェ〜〜。
 丁度いいと、お揃いの囚人服だったおれもこの騒動に紛れ込んだ。インペルダウンエアプだけど勘弁してね。


 勢いや流れに乗るのと、身を任せるのじゃあわけが違う。主体性の問題ってやつ。もしくは責任の置きどころとかそういうの。
 おれがしたのは、なあなあで事の成り行きに身を任せた方だった。なんかあったら先導した奴に全部ひっかぶせよう、という魂胆。
 そうしてどうなったかって言えば、わけも分からぬまま軍艦乗って空から氷の海に強制ダイブ体験である。なーんで??
 落ちた所だけでも氷が割れてたおかげでマジで九死に一生。日頃の行いが善いからだな。
 ぶくぶく海に沈んでいく中、同じく海に沈んでいこうとする赤っ鼻を掴んで一緒に脱獄した魚人に引き上げてもらう。ゼハゼハ呼吸するおれの隣で、赤っ鼻は息が止まっていた。嘘だろ……。
 大慌てで心臓あたりを思いっきりぶん殴ってやると、盛大に水を吐いておれと同じくゼハゼハ呼吸を始めた。いい仕事したわ〜。そのまま近くにいたらうるさくなりそうだったのでさっさとずらかれば、おれの代わりに近くにいた奴が「もっと丁寧に助けろハデバカヤロー!!」とハデに怒られていた。相変わらず元気な奴である。ごめんやん。

 やんややんやと騒がしいので祭りかなとそわつくが、聞けばどこかの海賊の公開処刑前らしい。花火の一つでも上がるかと上がったテンションがダダ下がる。処刑ってだけでもテンション下がるのに、わざわざなんで公開すんの?すんなし見んな?

 周りが「キャプテンバギー!」の名前を連呼するも、上がらないテンションのままおうち帰りてェなぁとぼんやり空を見上げる。
 そんな風にうだうだと脱獄囚の中に紛れ込んでいたのが悪かったのか、どでかい船の上に立っていた立派な白いひげがいかしている海賊側のトップと目が合ってしまった。あ、やっべ。
 急いで身体ごと視線から逸れて、隠れるようにしゃがみ込んだが時すでに遅し。心臓をドンドコぶん殴るような大声が、こっちの気持ちをガン無視しておれの名前を呼んだ。黙れ黙れ、呼ぶんじゃねェよすっとこどっこい。

「小僧!おれを無視するたァずいぶんじゃねェか!!」
四十しじゅうのオッサンを小僧呼びする方が随分でしょーよ。相変わらずお元気なよーでナニヨリデスネ!」
「ロジャーんとこの小僧はどいつもこいつも、相変わらずクソ生意気で元気だなァ!」

 誰もおれの姿も名前も知らなかったくせに、一斉に視線がこちらを向いたもんだからすっ呆けることも出来なかった。一気に注目浴びるとか恐怖体験以外の何物でもないんだが?
 開き直って返事をすれば、それらの視線は驚きを含んだものに変わる。どうもこんにちは、海賊王の元クルーです。もうバギーで慣れとけよお前ら。
 まぁバギーもバギーで、おれの顔見て顎が外れそうなくらいびっくりしてたみたいだけど。気付いとらんかったんかい。久し振りィー、と朗らかに笑いながら手を振ったら、めっちゃしかめっ面で両手の中指立てられた。めちゃんこ嫌われてんじゃん、笑うしかねェ。わはははは。

 白ひげに声を掛けられたことと過去の肩書一つ追加で価値が上がったようで、向かってくる海兵の数がグンと増えた。いらねェことしやがってあのひげェ……。
 怨嗟の念を呻きながら、向かってくる海兵を右に左に蹴り飛ばす。たまに脱獄囚が混じってんのは何なの?おれみたいな善人倒してもなんの箔付けにもならんが?いい加減うぜェんだわァと適当に蹴っ飛ばしたら、向かった先には青色に燃える懐かしい顔のパイナップルヘアーな鳥がいた。

「あーらら」
「……あーらら、じゃねェよい!危ねェだろーが!!」

 そう元気に怒鳴られるが、ぶつかってきた脱獄囚はそのまま相対してた海兵に擦り付けたんだからどーでもよくない?ケガもしてないし。
 反省の色が見えないおれに「相変わらずふざけた野郎だよい」と不満たらたらの舌打ちを一つして、マルコは別の海兵へと飛んで行った。多分あれは将校。
 今が戦争真っただ中じゃなけりゃ、すぐにでもおれに飛び掛かりたかっただろうに、大人になったなァ。昔なら状況関係なく攻撃してきただろうことを考えると、素晴らしい成長度合いである。だから、おれの方に下っ端海兵いなして流してきてんのは錯覚だよな??な???


 壁に囲まれたり破壊光線撃たれたり溶岩が降ってきたり足場が解けて海になったりと場面はコロコロ変わるものの、することと言えば蹴っては踏んで蹴っては踏んでの単純作業。
 いつまで続くんだこの作業、と辟易していると、ちょっと遠くからチャブルチャブルと個性的な喋りが聞こえたものだから、興味が引かれるままにそちらに向かう。
 ぎゅうぎゅう犇めく地上は移動に不便で困る。
 人にもまれてようやく辿り着いて目に入ってきたのは、ずったずたのボロボロな青年の死に体の姿だった。知り合いでも何でもないおれでも、さすがに心配しながら駆け寄ってしまう重傷度合いだ。
 側にいたでっかい顔の人に威嚇されたけど。敵意満々過ぎだろ、笑う。

「何の用ヴァナタ!?」
「いやいや、完全な善意だよ〜。今にも死にそうじゃないか?コレ大丈夫か?」
「大丈夫なわけがないわよ!全身大怪我どころか、監獄で毒も浴びてるのよ!?」
「おれに怒られても困るんだよなァ」

 でっかい顔のでっかい声で怒られるけど、そんなことおれは知らんしな!
 でも毒か……。少し考えて、ちょうどいいもんがあるじゃねェかと引っぺがしたものを、ズタボロ青年の口に素早く突っ込んだ。

「毒も体力も飯食えば回復するもんな!食え!美味いから!とりあえず牛丼とマーボーカレーいっとこう!!」
「どういう組み合わせ!?いえ、それよりもどこから料理が出てきたっチャブルの!!??」
「美っ味ェ〜〜〜〜!!……うおぉ〜〜〜!!?治ったァーーーー!!!」
「治るの!!???」
「そりゃあ(物語印のレシピだもん)治るよォ〜」

 ズタボロからボロ程度に回復し、びょんっと跳ねるように起き上がった麦わら帽子の青年はでっかい顔の人にもおれにも目もくれず、雄叫びあげて処刑台へと駆け出して行った。元気だなァ。若いって素晴らしい。
 でっかい顔の人も疑問符だらけの顔のまま、麦わら帽子の後を追って走り出す。おれは追う予定もないので手を振って、襲い掛かってくる海兵たちを蹴り飛ばすだけの簡単なお仕事に戻った。簡単すぎて欠伸が出るな。いつまでやってりゃいいんだろうか。


 ガラガラと処刑台が崩れていく。
 処刑されるはずの海賊が無事に解放されたらしい。一気に海賊側が沸いたもんだから、ちょっと驚いて肩が跳ねた。
 あとは海軍から逃げきれば勝ちだ!逃げ道を作れ!と海賊が叫ぶので、飽きてたおれも便乗して海へと走り出す。
 おれたちが乗ってきた船は空から落ちた時に大破してるから、それに関しても便乗させてもらおう。もしもの時は最終手段もあるし大丈夫大丈夫。まぁどうとでもなるだろう。
 これで海賊側からすれば大団円だ!
 ……と気を抜いたんだけどなァ。

「今から伝えるのは……!!最期の“船長命令”だ……!!!」

 船長を置いて逃げろという命令に、海賊どもの慟哭が辺りに蔓延する。大団円とは程遠い命令内容だ。とは言っても、白ひげ海賊団でもなければ傘下でも同盟でもないおれには全く関係のない命令だ。そう、まっっっったく関係のない命令なんだが、内容が悪い。
 ……おれ、処刑場で船長が死ぬの地雷なんだよね!!

「あーあ!しかたねェなぁもう!!」

 自棄になって叫びながら、左手首あたりの皮を剥ぐ。
 突然のグロ展開に周りにいた奴らが騒めくが、血が噴き出す様子もなければ皮膚を剥がされたはずの手首も無傷と分かると揃って首を傾げた。今って戦争中のはずなのに結構余裕だよなおまえら。
 おれは右手に剥いだ皮、に見せかけたカードを持って空に掲げる。表面に描かれているのは青い目の真白い龍。

「出でよ!ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン!!」

 喚ぶと同時に、カードに描かれた絵がぐわりと盛り上がる。
 そうして現れたのは、海や空の色を反射するすべらかな真白い表皮に、この世のどんな宝石よりも美しい青い瞳を持った巨大な龍。鋭い牙が並んだ口を大きく開け、天高く吼えた。あぁぁ〜〜!!いいなァ、心臓によく響く!!!
 喜び勇んでその背に飛び乗れば、強大な翼をはためかせて空に舞い上がる。
 遠くなる地上から「あれは悪魔の実の……!!」と誰かのご親切な説明が周囲にされていたが知ったことじゃねェ。そんなんどうでもいいと思えるくらい、トラウマ抉られて切れているし久し振りのこいつの登場にテンションは爆上げだ。

「おらァ!死にたくなけりゃあ上手に避けろよ海賊海兵脱獄囚ども!!
 青眼の白龍ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴンの攻撃!滅びの爆 裂 疾 風 弾 っっバァァストッ ストリィィィムッッ!!!!」

 技名を叫べば、おれのテンションに応えるように白龍の口からエネルギー弾が放たれる。叫ばなくったって放たれる。連続して地上に降り注ぐ脅威に、海賊海兵脱獄囚の誰もかれもが逃げ惑う。
 あぁぁ〜〜〜!!楽しいぃ〜〜〜〜!!!!

「白ときたら黒だよなァ!?出でよ!レッドアイズ・ブラックドラゴン!!」

 今度は右手首側の皮膚、に擬態させていたカードを空に翳してもう一匹の名前を呼ぶ。
 空を旋回するように現れたのは、太陽光を反射し黒く輝く表皮と、獰猛さを凝縮したような赤い瞳を持った巨大な龍。白龍に並び立つと、指示を出す前から炎を吐き出して地上の奴らを攻撃した。あわわ、おれのテンションが上がっているばっかりに……。

「もう一発いってみようか!
 深紅眼の黒龍レッドアイズ・ブラックドラゴンの攻撃ィ!黒☆炎☆弾!!」

 まぁ止めねェんですけども。
 ばかすかと撃たれるエネルギー弾と炎に、地上からは悲鳴ばかりが上がっている。ぎゃははと愉快に笑っているのはおれだけだ。ああ、あの時もこうやって全っ部ぶっ壊せばよかったなァ!

「いい加減にしろよい!」
「あだっ」

 ひとを足蹴にして楽しい気分に水を差したのは、両腕を青い炎の翼に変えたマルコだった。痛ェなと頭を摩ると手の平にちょっぴり赤色が付いた。鉤爪が刺さったか?そりゃあ痛いはずだわ。
 おかげで頭に上っていた血は引いたので感謝感謝。

「すまんすまん。芸術が爆発する様が楽し過ぎてテンション爆上げしたわ」

 一応手加減したぞ?と地上を指差せば、確かに人がいない場所ばかりが爆心地のような有様になっているのを認めてくれたようで、マルコは渋い顔で「そーかよい」と納得してくれた。納得してくれたんだよな?だったらおれの顔面掴んでる鉤爪も離してくれんかな??刺さってんだよなァ〜〜〜!!!
 なんなら退路に邪魔になりそうなやつもぶっ壊したんだけど!?「……変なところで冷静なのは昔から気持ち悪ィよい」って本当に引いた顔で言うのやめてもらえます??

 先に我に返ったのは海賊側だった。二十云年前の交流は無駄じゃない。
 わらわらと動く海賊たちには脱獄囚も混じっていて、赤っ鼻のバギーもギャンギャン騒ぎながら飛んで先導している。なんか持ってんなと思えば、ぼろっぼろの麦わら帽子の青年と、負けず劣らずぼろっぼろのセンター分けパーマの青年だった。
 まだ隣にいたマルコが同じ方向を見て「エース……!無事だったかよい!」と喜んでいるので、たぶんエースという名前で白ひげ海賊団の一人だろう。どっかで聞いた覚えがある気もするが、まぁよくある名前だしな!

 海軍が正気に戻る前にさっさと帰ろう。というかおれが威嚇しとくからさっさと生きてる奴ら全員連れて帰ってくれ。そしておれはこのまま飛んで帰る。
 これでようやく帰れるなァ、と肩を回して終わったつもりでいたのに、白ひげは尚も帰らないと言う。
 マルコや他の懐かしい顔が説得を試みるも、白ひげは白ひげで懸念があるんだか矜持なんだかよく分からんことを言ってその場から動こうとしない。そもそも帰れないように自分で道も絶ちましたしねェ??でも怪我も病気も酷ェんだからさっさと帰ってくれんか。ほらまた血ィ吐いたしよォ……。
 まぁ、誰が何を言おうがおれには知ったこっちゃねェんだが。

 ベリベリベリッとまた皮膚を剥いで、表面を白ひげに向ける。

「おいでませ!メルフィー・キャシィちゃん、メルフィー・ラッシィちゃん!!」

 龍を喚んだ時とは違い、軽い破裂音の後に飛び出して来たのはパステル調の可愛らしい子猫と子アザラシ。
 緊迫した状況に合わない可愛らしい生き物がふよっと飛んで白ひげまで辿り着く。自身の手の平よりもちまくてこまいふわふわの生き物に抱き着かれた白ひげは、どうすればいいのか分からず動きを止めた。ぎゅっと抱き着くメルフィーたちはきりっとした表情で、やったれ、とおれに合図を送る。

「問答無用で帰って来いや!頼んだ、うきうきメルフィーズ!!」

 さっきの破裂音が続けざまに響いて、まるでポップコーンの調理中のよう。ポンポンポン鳴る度に、飛び出すのはパステル調の動物たちだ。
 それらみんなが白ひげに向かい、背中や足元にぎゅうぎゅうと抱き着く。白ひげからもマルコからもその他大勢からも物言いたげな視線を向けられるが、何回も言うけど知ったこっちゃねェんで。
 そもそも撤退のタイミングで大人しくみんなで帰ってさえいれば、こんな場にそぐわねぇファンシー退き口を繰り広げなくっても良かったんだし。

「撤退!」

 大きく息を吸い、ポリス笛を長く長く吹き鳴らす。
 その音に合わせてメルフィーたちが可愛い声を上げ、白ひげを持ち上げた。さすがメルフィー!可愛い上に強い!かっこいい!すてき!あとでもふもふさせてくれ!
 私欲を抱きつつも、笛をピッピッと調子よく鳴らして先導する。
 担がれ運ばれる白ひげが珍しく困った顔の情けない声でおれの名前を呼んでいるが知ったこっちゃねェ。マルコたちも「おやじぃ……!」と現状に理解が追い付いていないながらも追いかけて来ているので問題ない。帰れ海の野郎共!

 先に逃げていた海賊がかっ払った海軍の軍艦の一つに、メルフィーたちが白ひげを船へと投げ捨て白ひげ海賊団が喜びに涙と洟をだだ流していた頃。
 海軍側ではピンク頭がなんかやらかしてたし、遅れて登場した赤頭の海賊がこの戦争を終わらせていた。遠目でも察せるくらいにはなんか大物らしい。オーラが違うねオーラが。おれにはわかるよ。
 一言二言と威圧だけで海軍黙らすとかスゴイじゃーんと感心してたら、目が合い、すごくいい笑顔で名前を呼ばれて手まで振られた。おわ、ファンサまですんのかよ。余裕だな。
 ……いや違うわ、あいつシャンクスだわ。立派になってくれてオッサンは嬉しぃ……。

 でも厄介ごとの気配を感じるのでおれは帰りますね!!
 お疲れさんの気持ちを込めて、最後にもう一発ずつ爆裂疾風弾と黒炎弾を空に向かって打ち上げる。遠くでマルコとバギーの怒鳴り声が聞こえた気がしたが気のせいに違いない。シャンクスの楽しそうな笑い声はしっかり聞こえたんだけどなァ!
 メルフィーたちは数時間経てば消えると思うので、それまではアニマルセラピー代わりにしてくれて構わんぞ。

□□□
 凪の海域にポツンと浮かぶ無人島。
 島内の小高い丘の上に建てたログハウスの横でイーゼルを立てていると、ニュース・クーが一羽飛んできた。遠くまでご苦労様の気持ちを込めたお駄賃と料金を払い、新聞を一部もらう。ばさりと開いて一番に目に飛び込んできたのは、昨日の出来ごとであるあの戦争。
 情報は新鮮さが命だが、さすがの速さだモルガンズ。

「はーん。“海軍大敗”、“インペルダウン大量脱獄”、“落ちる信用”、“蘇る悪夢”、“現れる海賊王の遺志たち”ねェ……」

 さすがに隠蔽しきれなかったらしい。
 海軍も大変ねェ、なんて他人事を気取る。まぁ他人事ですし。
 中には海軍とは関係のない記事もあるにはあるが、やっぱりおれには関係ない。海賊王の遺志とかなんじゃそりゃだ。身バレした息子くんのことか、赤髪か、赤ッ鼻の青髪か?もしかしたら懐かしい麦わら帽子をかぶったあいつのことを言ってるのかもしれない。
 いやァ、でも誰もそんなこと考えてねェんじゃねェかなァ。

 他に目を引く記事もなく、適当にその辺に投げて置く。
 中断していた作業を再開し、イーゼルにキャンパスを設置すれば準備は完了だ。たまには格好つけて描いてみようと買ってみた道具だが、なかなかどうして、やる気が変わるな!腕捲りしつつひとつ気合を入れて、絵の具の乗ったパレット片手に筆を走らせる。

 描き上がったのはピンク色のドア。何の変哲もない、ただのピンク色のドアの絵だ。
 ここまで用意しといて描くのがこれ?と何も知らなければ失笑ものだろうが、知ってる奴ならおれの気合の入れようにも納得してくれるだろう。なんたっておーばーてくのろじーだぞ!

「えー、んん、ごほん」

 絵に手を当て、喉の調子を整える。
 いざ!と初代の声真似しつつドアを取り出し、ノブを捻って開けた先は昨日振りの陰気臭さ。インペルダウンの下層も下層、第六階層。存在すらも揉み消したくなる極悪犯の退屈極まる幽閉場所。

「ハローバレッド、ごきげんよう。二十五年振りだな!」
「……は?」

 あ、ごめんな。彩度低めな監獄でいきなりド派手ピンクは目に痛かった?

「何はともあれ、まずは景気づけに一発撃ち上げても?」

 おれがにんまり天井を指差すと、背後に控えた白と黒の龍も天井へ大きく開いた口を向けた。


***
■迷い込んだヤイロ君、四十一歳児。
お察しの通り転移者である。
カードゲームは遊ぶより眺める派。
外見年齢が二十代後半で止まっているモブ顔童顔。
みんなが驚いた四割くらいは年齢が原因。
精神年齢もその位かもっと若い。
ビジョビジョの実を食べたさすらいの画家。
自前でドッキリテクスチャー出来る程度の腕前。
二十二年振りに手配書が更新された。
手配書が出てしまったので今後の職業は考え中。

■しばらく放心状態の白ひげ海賊団たち
でも弱り目を狙う輩はいっぱいいるし、怪我人も大勢いるのでいつまでも放心はしていられない。
↑メルフィーたちがお手伝いしてくれます。
オヤジは病気の悪化もあるので本当にしっかりと療養してもらいたい。
↑メルフィーたちが視覚的癒しをくれます。
二週間後にメルフィーたちがポンポン消えてペットロスになる未来が待っています。

■赤っ鼻のバギーくん。
ヤイロとは昔、敵船から奪った宝石を取り合った仲。
ただしヤイロにとっての宝石の使い道は絵の具にすることなので、宝石は即座に粉々にされた。あまりのショッキング映像に思わずヤイロをぶん殴ってしまったことは、反省はしても後悔はまっっったくしていない。
ヤイロの絵画が高額で取引されていることを後々知り、バギーズデリバリーとしても後のクロスギルドとしても資金集めの一環として交流を持った方がいろいろ得かもな、とは考えるものの、材料になるお宝たちのことを思うと多分また殴り合いの喧嘩になるし負けると思うので二の足を踏み続ける。

■赤頭のシャンクスくん。
なんか知らんが旧知に逃げられたので追いたい。
が、副船長や大幹部にやんわりと止められるのでやめた。
ヤイロの能力は面白いので好きだし、よく分からない所で思い切りがいいのと本人無自覚の無邪気なヤバさも面白いので好き。あいらいくゆー。あいにーぢゅー。あいうぉんちゅー。
二十二年前に仲間にしたかったけど雲隠れされた後だった。

■医者と女帝の下で療養中のルフィくん。
祝☆エース奪還!の喜びでお祭り騒ぎ。
ぼんやりとしかヤイロのことは覚えていないが、戦場で食べた牛丼とマーボーカレーのあの味が忘れられないんだ!!!
恋焦がれすぎて女帝がとても不機嫌。
次に会って「あの時の牛丼のやつ!」と気付かれた場合、その場に女帝がいると、詰む。

■ハローバレッド。
……は?
☆そしてスタンピードへ!……ヤイロ君を添えて──!


***



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