〔〜 Re:D〕
[newpage]
9✂- - - - - - - -
「トットムジカ……!!」
エレジアの国王であるゴードンの慄き呻くような言葉に反応して、シャンクスは身構えた。彼の視線の先にいるのは、古びた楽譜を手に持ち歌う愛娘の姿。歌う内容な恐ろしげで、どこか物悲しい。
この歌に何かあるのかと様子を窺うが、どれだけ経ってもこれと言った変化はない。
ウタは変わらず楽しそうに歌っているし、周囲の人間たちもその歌に聞き惚れている。問うようにゴードンへと視線を投げれば、彼も彼で不思議そうに首を傾げ、歌い終わったウタに戸惑いながらも拍手を送っていた。
そのまま滞りなくウタを送り出すパーティーは執り行われ、夜は更ける。
陽が昇り、補給も済ませたレッド・フォース号がエレジアを発った。そのたぐい稀なる歌の才能を讃えられたウタも乗せて。いつも通りの船出、いつも通りの航程。
――そのはずだ。
「浮かない顔してどうした、お頭」
「ベック……。いや、何か忘れてる気がするんだが、それが何なのか思い出せなくてな」
船縁に寄りかかりながらジッと海を見詰めていたシャンクスに、ベックマンが声を掛ける。受け答えはしてくれるようだが、それでも気もそぞろな様子で視線が合うことはない。
ここにヤソップなどの根の明るい船員が混じれば「お頭も年かァ?」とからかう言葉の一つも飛ぶところだが、あいにくと居合わせているのは根が真面目な副船長・ベックマンのみ。自身も心当たりがないか考えてみるも、とんと思い当たる事柄も無くお手上げだった。
「案外、寝て覚めれば思い出すんじゃねェか?」
「……そういうもんかね」
「そういうもんさ」
何の解決にもならない軽口。
その場ではその遣り取りだけで会話は終わった。
月も照らさぬ星ばかりの夜。
深酒をして眠りに就いていたシャンクスは、バチリと目を覚まし飛び起きた。頭を抱え、つい先ほどまで見ていた夢をぐるぐると脳内で繰り返す。
「――……、思い出した」
夢に見たのは炎に飲まれる音楽の島、エレジア。
あの時。古ぼけた楽譜をウタが手に入れ、歌ってしまったあの時。本来であればあの島は滅ぶはずだった。そう、トットムジカの脅威が降りかかり滅んでしまったのだ。
それがどうだ。そんな事件は一切起こらず、国王に預けひとり置いていくしか出来なかったウタは今もこうしてレッド・フォース号に乗り、赤髪海賊団の音楽家で世界一の歌手になるのだと変わらぬ夢を描いて笑っている。
エレジアを訪れる前と変わりない。
──たった一人、息子であるディーンの姿がないことを除けば。
「ディーン!どこだ、ディーン!!」
寝床から飛び出したシャンクスは、真夜中だという事も関係ないとばかりに船内を走る。
すわ敵襲かと驚いた船員が各々の寝床から顔を出すも、どうやら海も甲板上も静かで、騒いでいるのはシャンクスだけで理由も分からないと知ると顔を合わせて肩を竦めた。「ディーンって誰だ?」「知らね」そんな船員の会話は聞こえないふりをした。
シャンクスが駆け込み、勢いよく開けたのはディーンの小さな部屋。バンッ、と大きな音を立て開け放った扉の向こうは、記憶と違い乱雑に物の置かれた倉庫だった。
そんなはずはないと、しゃがみ込んで頭を抱える。
確かに物は多くなかったが、子どものサイズに合わせてベッドや机や本棚を揃えて、ウタがお揃いがいいとねだって渋々置いたぬいぐるみがあって、気に入りだという小難しそうな本やナイフや玩具、途中の島で拾った意味の分からない石ころのコレクションがあって、それで……。
こんなにもハッキリと思い出せるのに、目の前にはその一つもない。
「……ディーン……」
こぼした名前を自身以外知らないのかと、頭を抱えていた手を拳に変えて額に強く当てる。
「シャンクスもディーンを知ってるんだね」
自分の記憶の中にしかいないのか、妄想かと自分で自分を疑いそうな中、背後から掛けられた言葉に俯けていた顔を上げた。
そちらにいたのは隣の自室から顔を覗かせ、ふわァ……、と大きな欠伸をこぼし眠たげに眼を擦るウタ。シャンクスによる一連の騒ぎで目を覚ましてしまったらしかった。
「……ディーンはね、ディーンは、ウタの世界にいるんだ。ネコみたいな耳と尻尾があって、わたしと同じくらいの男の子で、わたしがあっちに行くといっつも一緒に遊んであげてるの」
喋りながらも両手を伸ばして、ウタはシャンクスに抱っこをねだる。シャンクスは半ば放心したまま両手でウタを持ち上げ、床に座り込んだ胡坐の中に乗せた。
一生懸命に話す娘の言葉を聞き漏らすまいと、シャンクスは口を挟まず耳を傾ける。
ウタワールドにいるディーンは、間違いなく己の息子であるディーンだと確信できた。しかし何故、なぜ、この場ではなくそちら側にいるのか、シャンクスには分らない。情報が足りないと思うも、唯一の情報源となりえるウタはすでに夢うつつで、うつらうつらと舟をこぎ始めていた。それでも一生懸命ディーンについて教えようと、落ちてくる瞼を何度も何度も無理やり上げながら、ぽつぽつと自身が知るディーンについて話してくれる。
そんな娘を無理やり起こし続けて根掘り葉掘り話をさせようなんて、シャンクスの選択肢の中にはなかった。
膝の上で穏やかな寝息をたてるウタを抱き締めながら、ひとりっきりで部屋を眺める。傍から見ると、物置部屋で子どもを抱えて何をしてんだ、と呆れられそうだなとシャンクスは苦笑した。
「一人で笑って何してんです、オカシラ」
「ほっといてくれ、おれ自身よくわかってねェんだ」
「そう言うならそうしますけど、せめてウタには毛布掛けてくださいよ」
「毛布ならおれにもくれ」
「あいあいオカシラ」
背後から話しかけられ、相手を後ろ手で追い払う。すんなりといなくなった誰かは毛布を抱えて戻って来て、振り向かないシャンクスにウタの分の毛布も渡してまたいなくなった。
ゆらりゆらり、揺り籠のように揺れながら時間が過ぎる。
太陽が昇ったらしく、通路の端の窓から光が差し込んできていた。段々と音が増える船内に、船員たちが起きて活動を始めたのだとぼんやり考える。
そろそろウタを部屋に戻して、自身も部屋に帰るべきかと思案するシャンクスの背に声がかかった。
「うぉ!?……なんだお頭か。こんな物置部屋の前でなにしてるんだ?」
ホンゴウだった。どうやら朝食のためにウタを起こしに来たらしい。
シャンクスの膝の上に目当てのウタが寝こけているのを視界に入れて、「風邪引いたらどうすんだ」とちょっとした小言が降ってくる。そんなホンゴウに対していつもであれば軽く笑ってわるいわるいと謝るのに、目の前のシャンクスはぼけっと部屋の中を眺めたまま「そうだな」とだけ小さく答えた。ホンゴウの眉間に僅かにしわが寄る。シャンクスの様子がどこかおかしいのは明白だ。
顎に手を当て首を傾げつつ考えて、答えが出ないままホンゴウはシャンクスの隣にしゃがむ。大丈夫かと声を掛けようと様子を窺い、想定していたよりも随分と穏やかな表情に言葉を飲み込んだ。
「……ん゛〜。……おはよ、シャンクス、ホンゴウ」
「ああ、おはようウタ」
「おう、おはよう」
ちょっと不機嫌そうに唸りながら、ウタが目を覚ます。しぱしぱと何度か瞬きを繰り返し、ゆっくり周囲を見回してベッドの中でないことにこてりと首を傾げた。
その動きがあまりに幼くて、可愛らしくて、シャンクスとホンゴウは思わず頬を緩める。衝動的によしよしと頭を撫でれば、少し力加減を間違えてしまったようでウタから「やめて!!」と怒鳴られてしまった。まぁそんな反応すら可愛いだけなのだが。
ホンゴウは先に食堂に向かい、残ったシャンクスとウタは顔を洗って身だしなみを軽く整えてから遅れて向かう。
小さな娘と手を繋ぎ進む船内は穏やかだ。ウタも機嫌がいいようで、鼻歌交じりに、跳ねるように通路を進む。さらに時折くふくふと我慢し切れないように笑うので、その理由が気になったシャンクスはウタに訊ねた。
「ウタ、何か良いことでもあったのか?」
「うん!ふふふ、あのね、わたし友達が増えたんだ!」
「友達?」
まさかの内容に、シャンクスは首を傾げた。
友達が増えることは良い事だが、タイミングがおかしい。現状、赤髪海賊団がいるのは海の真っただ中で船の上。エレジアからフーシャ村へと帰っている最中であり、友達が出来るとすればエレジアでのことになるだろう。しかし、エレジアを発って既に数日経っている。友達が出来たと喜ぶには、あまりにも間を置き過ぎてやいないだろうか。
不思議に思うシャンクスにウタは気付いたようで、それでも尚、喜びに跳ねるように口を開く。
「エレジアにいる子じゃないよ、ウタワールドにいる子!」
「……ああ、そっちか」
納得、……納得していいんだろうか?
思い返せば、シャンクスが知っている中でウタの友達と言える存在はフーシャ村にいるルフィだけだ。シャンクスたちが海賊だからという理由もあるだろうが、それでもウタに友達が一人だけと言うのはいかがなものか。しかも夢の世界に友達を作り上げてしまったらしいと聞いてしまえば、真剣に悩む必要がありそうだ。
本格的に考え始めて足を止めてしまったシャンクスを見上げ、ウタは繋いだ手を揺らしながら更に爆弾を落とす。
「その子の名前、トットムジカって言うんだって!」
ディーンが連れて来たんだけど、一人きりで寂しそうだったから友達になろうって!
***
■オカシラさん
娘の新しいお友達に盛大に頭を悩ませる未来が待っている。
船員たちから「昨日は盛大に寝ぼけてたッスねェ」って言われて苦笑いする未来も待っている。
-アイデアロールに失敗しました。-
■ディーンくん
ウタとは色違い左右逆の半々髪。
目つき悪めの男の子。
運動は出来るが活発ではない、本を読むほうが好き。
でもウタに誘われればそちらが優先。
本人もよく分かっていないが、諸々の優先順位の上位に常にウタがいる。急に離されたがための依存だと思われる。
□ネコネコの実??種モデル:シュレディンガーの猫
そもそもこの世界はシュレディンガーが分からないので、彼でなければただの『猫の身体能力を得る』程度のもので終わっていた。
居たり居なかったり出来る。
シュレディンガーの猫と言うかシュレディンガー准尉。
隠れるのにちょうどいい。
覚醒すると世界の改変が可能。
『あったかもしれない世界』『あるかもしれない世界』を今の『ある』世界にくっつける感じ。
ひとりでまどマギしてる。
まどかちゃんでほむらちゃんで杏子ちゃん。
独りぼっちは寂しいもんな。
だから友達になろうぜ!!!!()
トットムジカはさやかちゃんか?違うか。
最初の世界線で死に際「死なずに幸福になる世界もあるはず」と思ったら時間も巻き戻れるようになった。
ハナガキタケミチしてウタの幸せを模索している。
自分がいない方が楽なのでレッド・フォース号からバイバイした。
現在はウタワールドでトットムジカと一緒にキャッキャしてたりする。
たまに家族の世話をみる。
***19_ _ _
響く歌声とともに現れたのは異形の魔王、そして予定外の四皇の一角の登場により、マリンフォードでの戦争は終結された。
激しい戦いの末、喪われたのは名も知らない海賊や海軍の多過ぎる命たち。けれどその中に、ポートガス・D・エースの名もエドワード・ニューゲートの名も含まれていない。
本来であれば死んでいた二人は、片や腕一本をマグマに焼かれて失い、片や命はあるものの中も外も重症の重傷で海賊稼業強制引退、という代償を払う破目にはなったが、まァ、生きているだけ儲けものだろう。
「赤髪海賊団残留プラスASL幼馴染みルートだとこうなんのか……」
やんやと騒ぐインペルダウンの脱獄囚に混じり、海軍から奪った軍艦の上でぽつりと呟く。
白黒ボーダーな囚人服の集団の中、暗色の猫耳パーカーマントのフードを目深に被り、レッド・フォース号に乗るウタへと視線を向けた。当たり前だが向こうから視線が返されることはない。
ただ赤髪海賊団に残すだけじゃあ、ウタもウタの能力もあまり表に出したくないシャンクスの行動は原作とそう変わらなかった。けど、ウタがルフィだけじゃなくポートガス・D・エースと幼馴染みという関係性が加わると、がらりと変わる。たとえ十年関わりが無かろうと、友人の命の危機には単騎だろうが駆け付けようとするのがうちのウタだ。そしてそんな単騎出陣を絶対に許さないのがあのシャンクスである。
いくつになっても娘に過保護な父親だなァ。感心すべきか呆れるべきか悩むところだ。
そんな親馬鹿でも実力に間違いは無いんだよな、と戦場に現れた時の赤髪海賊団を思い出す。
いやまァ、初手にトットムジカ光臨されたらそりゃあね?とも思わなくはないが、それでも四皇の一角とされるだけの『スゴ味』があるッ!ことに違いはない。スゴ味というか覇気というか。思わず「すげー」なんて知能の低い感想漏らしちゃったし。周りの脱獄囚さんたちもぱっかり口開けた間抜け面で頷いてくれたからみんなそうだったんだろうけど。
何はともあれ後は、キャプテン・バギーにお供します!な脱獄囚さんたちに便乗すればオールオッケーなんだが、そうもいかない状況に困り果てていたりする。
回想途中から、ぐるぐると俺の腹部に回り始めた鍵盤のような腕が一本。そう、トットムジカが俺を掴んで離してくれないのだ。
いくらウタが離してとお願いしても聞かず、赤髪海賊団が撃っても斬っても元に戻り、関わりたくない脱獄囚は俺から一定の距離をとって様子を見ている。俺も距離を取りたい……。
「もー!いい加減にしなよトットムジカ!」
「 」
「いやいや、って首振ってもダメなものはダメなんだよ!?」
ウタがお怒りである。まるでオモチャ買ってとワガママを言う子どもとお母さんみたいな二人のやり取りに、現実逃避を兼ねて和む。のん気に和んでられる状況じゃないのは百も承知だけど、この行動をされるのも仕方ねェのよ。
──トットムジカさん、諸々の記憶全部持ってるもん。
全部も全部、幼少のウタを利用してエレジアを壊滅させた初回からずっと、俺がカチャカチャ増やしまくった道程を全部だ。
最初こそ元凶死ねの気持ち一杯で即行破るか燃やすか沈めるかしていたが、途中から俺の顔見るだけで楽譜が飛んで逃げようとするもので何かあるなと調べたら、そうだった。そんなの関係無ェと破り捨ててもよかったが、ウタがトットムジカも寂しかっただけと言っていたのを思い出して踏み止まれた俺は偉い。
寂しけりゃ何しても良いわけじゃないが、ウタが受け入れて、理解してくれた未来を知っているんなら、まァ、一考してやってもいいかなと。そう考えてめでたく『トットムジカお友達ルート』も解放されたわけである。
ついでに俺もオトモダチ認定されたのは喜んで良いんだか悪いんだか。まだ完全には許してねェからな。
とりあえず今の、引っ掴んだままぶんぶん振り回されているのは確実に喜んでいられる状況じゃあねェなぁ!おま、ウタワールドで散々遊んでやったでしょう!!??
一頻り遊んで満足したトットムジカから解放されて、俺は今レッド・フォース号の甲板で四つん這いになり荒い息を整えている。下手な絶叫マシンより絶叫させられたお陰で息も絶え絶えだ。後で覚えてろ。
「大丈夫……?」
「だ、だいじょうぶ……おェ……」
背中を摩ってくれるウタの優しさに泣きそう。不審人物扱いされそうだから絶対泣かねェけど。
「随分トットムジカに好かれてたな」
「好かれてたかァ?それにしちゃあ、ブンブン振り回して大分雑な扱いだったじゃねェか」
「ううん。トットムジカもずっと遊ぼう遊ぼうって上機嫌だったよ」
「遊ぼうって……。まァ遊んじゃいたが……」
遊んでたって言うか遊ばれてたってやつ……。まじあいつあとでしめる。
グロッキーで倒れ込む俺は、いつの間にか周りを赤髪海賊団の大幹部に囲まれていた。間違ってもうちのお姫様に手ェ出すんじゃねェぞって布陣だと察する。大丈夫ですそんな邪な気持ちは1ピコも無いです。
未だにぐわんぐわん回る脳みそに顔を顰めながら、いつまでもだらしない姿を見せるわけにもいかずフラフラとよろめきながらも立ち上がる。三半規管の頑丈さとストレスへの耐性は自信があったのに、それを上回るトットムジカのお遊びよ……。
立ち上がったもののまだふらりと足元が覚束ない俺の肩を支えてくれたのは、なんとホンゴウさんだった。うお……、おひさしぶりです……。
「大丈夫か?」
「だ、いじょうぶです。ありがとうございます……」
「うちのトットムジカの所為ってのもあるが、無理はするなよ?」
「うっす」
うっす、てなんだ。もっとマシな返事しろ!
「なんだホンゴウ、やけに親切じゃねェか」
「原因が原因だ、当たり前だろ」
「おれたちが頭痛と吐き気で苦しんでた時は足蹴にしたくせに!」
「二日酔いだろーが!原因を考えろ当たり前の対応だ!!」
やいのやいのと大幹部たちが騒ぎ合う。何度見ても変わらねェなこの人たち。あー、ホンゴウさんの拳骨が落ちた。
苦笑交じりにその光景を眺めていると、そそっとウタが隣に並び立つ。何か俺に用があるらしい。保護者センサーに引っかからない程度の距離で顔をそちらに向け何か用かと尋ねれば、そんな俺の気遣い空しく内緒話がしたいらしいウタは口元に手を当てて俺の耳元で話し始めた。不可抗力なので睨まないでください。
「あなたもインペルダウンから逃げてきちゃった人なの?」
「いいや、俺も一応海賊ではあるけどまだ捕まってないから。まァ、捕まっても入れられるのはあの場所じゃないと思うけど」
「やっぱり!あんまり海賊っぽくないもんね!」
「一応とは言ったけど、これでも生まれてほぼすぐ海賊暮らしなんだよなぁ……」
「え、そうなんだ。私もね、赤ん坊の頃にシャンクスたちに拾われて、ずっとこの船にいるの」
「……俺も。俺が入った宝箱が拾われて、そこから大体ずっと海の上」
「私もだよ!!」
それはそうだろうよ。
ウタの中で、「宝箱仲間だね!」とよく分からない仲間意識が爆誕したようで、俺の両手をとってぶんぶんと上下に振られる。テンションのままに振られるので力加減も何もされてないが、その程度で痛がるほど軟な鍛え方はしていない。そのまま、幼少期の船上生活あるある、みたいな会話で盛り上がり、それに比例して強まる腕を振る力。増える回数。確かに鍛えてはいるけど、下手したら肩外れるかもしれん。耐えろ俺の両肩……!!
にっこにこのウタにされるがままにしていると、繋いでいた手をチョップで切られた。それも力一杯。器用なことに俺の手だけ狙って。
やったのは怖い顔したシャンクスだった。さっきまで旧友に絡みに行ってたくせに。
現役四皇のチョップとか、俺の手大丈夫?ちゃんとくっ付いてある??あるにはあるけど、ジンジン痛むから後で腫れる可能性が高いわ。
「ちょっとシャンクス!?」
「うちの娘に気安く触らないでもらおうか……」
「圧が強い。視線だけで殺されそう。娘大好きすぎじゃん。これが世界最強のパパ」
「誰がお義父さんだ!!!」
「もう!シャンクスいい加減にしなよ!!」
あまりの衝撃に、ついハッシュタグ製造してしまった。
ハッと気を持ち直せば、今にも掴み掛かってきそうなシャンクスはウタにぽかすか叩かれて、幾分冷静なベックマンに羽交い絞めにされている。この二人がいなければ、ぼんやりしている間に海に投げ捨てられていた可能性すらあるね。能力者の俺が死ぬやつ〜。やめてほしい心の底から。
おれの娘に近付くんじゃねェオーラをひしひしと感じたので、一歩二歩と距離を置く。ウタが一瞬しょんぼりとして、気落ちした分だけシャンクスを殴る拳に上乗せしていた。心臓付近を強く殴るのは本当に危険だからやめとこうな?
代わりと言ってはアレだが、次に近付いてきてガシリと肩を組んできたのはヤソップだった。
俺と視線が合ってにかりと笑う顔は人好きのする雰囲気を醸し出してはいるが、それと当人がこちらを好いてるかは別の話だからなァ。このまま首絞められて、牽制ラウンド2となってもおかしくはない。
「うちのお姫様に気に入られておまえも大変だな!」
「あ〜、近くに同年代とかいなさそうですもんね」
「まぁな。幼馴染みと呼べるやつらはいるが、全員海賊でそうそう会えるもんじゃねェ。そこに同年代の、しかも境遇の似てるやつが現れれば、はしゃいじまうのも仕方ねェよ。なァ?」
「あ〜……」
もう「あ〜」しか言えねェ。案の定牽制ですよ。ウタに近付くために嘘吐いてんじゃねェだろうなてめェこの野郎、ってことですよ。
いやでもホント、嘘じゃねェし。今だって俺は『今回』拾ってくれた海賊と同じ船に乗っている。
「ディーン!」
どうやって逃げようかなァ、と悩む俺の名前が呼ばれる。
声の主は、レッド・フォース号と並航する海軍から分捕った軍艦の上で脱獄囚の群れに囲まれる、俺らの船長。同じく分捕った海軍コートの正義にバツ印まで書いちゃって、全力で喧嘩売るそのスタイルもよくよくお似合いだ。
宝石と『だけ』が入った宝箱を拾ったのは、なんとバギー船長だった。……なんとも何も、俺がそうしたんだけど。だって何度思い出してもあの六年間は楽し過ぎた。
ウタの幸福は確かに最優先事項だけど、俺もちょっとバカをやらかしたい。その点で言うとバギー海賊団は、いい感じに海賊らしく馬鹿で抜けてて享楽的で暴力的で、つまりはとても楽しいのだ。俺って結構海賊向きだったのでは、と悩んでしまうくらいには馬が合う。一般人を襲うのを全力で阻止したのが最初の数年だけで、あとは勝手にピースフル海賊団だったのも大きい。
このままだともしかして麦わら一味との接触イベント無し?と思っていれば、うちに恨みを持った海賊団がうちの名前を騙って町を襲い、そいつらをやっつけに赴けば麦わら一味と遭遇し、なんやかんや偽物どもはさっさとぶっ飛ばしたもののルフィの麦わら帽子でひと悶着。そして始まる小さなバギーの大冒険……。
ちなみに俺はビッグトップ号に残留した。たまに様子は見てたし、なんとなく誘導はしたけど必要な大冒険かなって。アルビダ姐さん仲間にしたかったってのもある。
「帰るぜ、ディーン!いつまでも遊んでねェで、道案内の仕事きっちりこなしやがれ!!」
「了解、船長!!」
呼ばれりゃ駆け付けるのが船員の務めだ。
出し惜しみせず能力を使って、レッド・フォース号から軍艦上、船長近くの船縁へと跳ぶ。勢い付かせてしまったせいでヨロリとよろけた俺を、船長から切り離された右手が腕を掴んで支えてくれた。やっさしィなァ〜。
にまにましながら近付き感謝を言えば、笑ってんなと頭をド突かれる。確かに、足滑らせて海に落ちて死ぬ、なんて間抜けなことになりそうにはなったけど、そんな殴らなくてもいいじゃん。ムスッと不機嫌を隠さず見上げれば、今度は切り離されたままの右手でガシガシと荒く頭を撫でられた。飴と鞭が上手だよね船長。ちなみにこの間、船長はずっと腕組みしていて一歩たりとも動いていない。
「バギー!!!誰だそいつ!!??」
「「うわ、うるさ」」
レッド・フォース号の船縁から身を乗り出し叫ぶシャンクスに対して、船長と台詞がハモる。なんなら怠そうに片耳を塞ぐ動作もシンクロした。
隣で「なんだアイツ……」と船長が面倒臭そうに呟く。この後に考えられる返答としては『てめェに関係ねェだろうがアホシャンクス!』とかそんなもん?たぶん両手中指おっ立てて怒鳴ると思う。
まァ、シャンクスの相手は船長に任せて航海士と航路の相談でもしようか、とこの場を離れようとして、いきなり襟首を掴まれてたたらを踏んだ。
その拍子に、ずっと被っていたフードが取れて視界が開ける。
開けた視界の先、いつの間にか向こうの船縁に大幹部が勢揃いで並んでいて、その内のウタと目が合った。俺と同じ紫の目が大きく見開かれて、驚いたように口を開く。
「ネコミミはえてる!!?」
「おうおう、騒ぐな騒ぐな」
「かわいい〜!!!」
「ウタさん??」
ウタのテンションが想定以上に上がっていて笑うしかない。
「ネコミミ触りたい!」「シッポもある!?」「かわいい!!」「もう一回お話ししよう!」と身を乗り出し俺を自船に誘ってくるが、周囲の大人が落ち着けとウタをわちゃわちゃ宥めに掛かっているのもまた面白くて笑ってしまう。
さすがに「一緒の船に乗ろうよ!」には笑えなかったが。
「ごめんなァ!俺これでもバギー海賊団の特攻隊長やってるから!!」
「なんでェ……っ!?」
「めっちゃ嘆かれてる」
萎れた花みたいになってんじゃん。面白さに共感してもらおうと、ずっと俺の襟首掴んだままの船長を振り返り見上げる。てっきり笑ってるものだと思った船長は、口角を釣り上げたピエロメイクに似合わず、何とも言えない苦い物を食べたような顔をしていて、ちょっと驚いた。
なんでそんな表情をされるのか分からず首を傾げる。
訊ねようとした言葉は、それより早く首に回された腕に潰されて呻き声になって口から出た。
ご存知ないかも知れませんけど、船長も結構な馬鹿力なんですよね!俺なんか船長の機嫌下げること言いました!?
腕をタップする俺を無視して、船長はレッド・フォース号に向かって切り離した両手で中指を立てる。最後まで喧嘩売るスタイル、嫌いじゃないぜ。
「じゃあなアホシャンクス!
おれ様の息子をてめェの娘にやるつもりは微塵も無ェから、派手に安心して二度と顔見せるんじゃねェぞ!!!」
「……、…………???…………息子ォ!??」
たっぷり驚くシャンクスを尻目に一方的に啖呵を切るだけ切って、船長は「死ぬ気で引き離しやがれェ!!」と憧憬で目をキラキラさせる脱獄囚たちに指示を出す。
ふーん、息子ね。ふぅん。……生まれ拾われてこれまでで、初めて言われたんだが??まァ?ちょっと嬉しくないこともないし?引き離すことに手を貸すことに吝かじゃないこともないこともない。
操舵手が「潮の流れまでキャプテン・バギーの味方をしてますぜ!!」と叫ぶ通りに、レッド・フォース号はみるみる小さくなっていく。
知ってはいたけどウタが元気そうだし、後ろ髪を引かれるものは全くない。せめて手を振るくらいさせてほしいもんだが、船長にがっちり止められてるんで無理だったのだけちょっと不満ではある。
「……なんだァ、間抜けなツラしてんじゃねェぞスットンキョーが」
「船長ほど愉快な面はしてねェんだよなァ」
「だァれが愉快な赤ッ鼻だ!!殺されてェのかアホガキィッ!!!」
「言ってねェ〰〰〰」
そんなわざわざ外堀埋めつつ物理的にも捕まえとこうとしなくたって、今回の俺はずっと船長に付いて行くのになァ。
頭がもげそうなくらい乱暴に頭を撫でられながらも気にせず笑えば、最後に一発頭を殴られて解放された。わざとらしく肩を怒らせて前を進む背中に、口角を上げたままバレないように溜め息を吐く。速足で追い付いて横に並べば、ちらりと視線を向けられて、化粧で分かりづらいが満足そうな笑みを浮かべた。
まったく、素直じゃねェパパである。
「さァ船長!バギー海賊団が俺たちを待ってますから、早く会いに行ってやりましょう!!」
「当ったり前ェよ!おれ様の無事な顔を見せてやらねぇとなァ!!」
_ _ _
「そんな感じで野郎共!おれがバギー海賊団副船長、モージだァ!!」
「うおおおモージ兄さ〰〰ん!」
「おれは参謀長カバジ!!」
「うおぉおカバジ兄さ〰〰ん!!」
「そして俺は特攻隊長のディーンでーす!よろしく!!」
「うおぉぉ若頭ァ!!!」
ヤクザか???
***
■ループ二桁後半のディーンくん
幸福とは……?の答えが見付からずぐるぐるしている。
多分どこかのウタさんに「ディーンにとっての幸せも見付けてね」と言われて自分のことも考えるようにはしている。
幸せかは分からないが、バギー海賊団にいるのは楽しいので何回かパターンを変えて所属していたりする。
インペルダウンには収容されていなかったが、船長の様子を見にちょくちょくお邪魔していた不法侵入者。
いたりいなかったりの対象は自分のみなので、船長を脱獄させることは不可。
代わりに必要な物を届けたりしていた。
爆弾の材料とか、食料とか、娯楽品とか。
無断でインペルダウンの探検もしていたので、看守や囚人の中で怪談噺の一つとして噂されていたりする。脱走者かと思って追い駆けたらいなかったとか、ついさっきまで会話してたやつが一瞬目を離した隙に消えてて他の誰にも見えてなかったとか。
■船長
認められる、必要とされることに無自覚でも自覚有でも飢えてそうと1082話で思ったので、子どもが出来たらいいパパになりそうだなと思いました。ちょっと執着強めかも知らんが。
無自覚承認欲求ありの、でも仕方がないねで他に譲ってしまうディーンとの相性は良い。
クロスギルド設立後、ディーンが鰐と鷹に喧嘩を売るのをやめてほしいなと切々に思っている。(船長への待遇緩和を要求しているのであまり強く止めない)(うちの息子なら負けはしても死にゃしねェだろと考えているので)
■オカシラ
もう息子に関する記憶はゼロ。
一番救われない人かもしれない。
でも息子としては記憶ゼロの方がオカシラが幸せそうに見えてしまうので、今後何度繰り返しても思い出すルートは存在しないんだなぁ。
***ONE PIECE –FILM RE:D-
蛇足ですが“宝箱の片割れ”をGoogleさんで英訳したら“broken treasure chest”になって、さらに和訳したら“壊れた宝箱”になりました。
(ᐢ⸝⸝ó̴ ̫̭ ò̴⸝⸝ᐢ)コワレチャッタナ
11/22
-
≪ /
□ /
≫ -
-
Main /
Top -