げーむだとおもってる。
私はこの世界がゲームだと思っている。
別に死んでも残機があるとか、失敗したらリセット出来る、なんて意味でそう思っている訳じゃない。
原因は、視界に浮かぶ沢山の半透明の四角いウィンドウだ。ステータス画面?って言うやつ?まぁ正式名称なんてなんでも良いか。
それは私にはくっ付いていないけど、今まで会った人たち全員にあった触れない何かだ。
これは物心ついた頃には既に見えていて、四角の中にはその人の名前と年齢と、軽く職業が映っている。お父さんなら名前と年齢と職業欄には小説家。お母さんなら名前と年齢と職業欄に主婦/元女優。お兄ちゃんなら名前と年齢と職業欄に高校生/探偵(たまご)。
……このイケメンがドヤ顔で推理披露してるのにまだ(たまご)とか、可愛さ狙いかな……。
あとは、その相手をじっと見てると四角が大きくなって、もっと詳しく情報が分かる。誕生日とか血液型とか身長、体重、好きなもの、嫌いなもの。
もっと凝視するとその人の生い立ちまで見られるんだけど、不審者扱いされるから数回しかしたことがない。実の妹に対して「こっち見んな、キモい」はないと思う。顔は母似だから見苦しくないし。ご近所さんからは、あらあらますます可愛くなったわねぇ、って頻繁に褒められるし。
褒 め ら れ る し 。
取り敢えず、この半透明の四角いのはテレビゲームではよくあるやつらしい。というのを、中学の友人の無駄話で知った。私はゲームはテトリスくらいしかしないからよく分からないが、あーるぴーじーでよく遊ぶその友人が言うには、あったら便利なもの、なんだそう。
確かに、人の名前を覚えなくても良いから便利。好き嫌いが分かるのもめっちゃ便利。趣味を知らない人にプレゼント送る時とか。
ゲームによくある物体があるなら、この世界はきっとゲームなんだよ。と、結論に至ったのは、丁度中学二年生の時だった。
今もそう思い続けてるのだから、その時期特有のアレじゃないはずだ。きっと、多分、恐らく、大丈夫……だといいなぁ。
この世界がゲームだとして、ジャンルは何だろう。
パズルゲームはない。空から急に棒とか凸とか凹が落ちてきても困る。
スポーツゲーム、はお兄ちゃんならいける。サッカーが無駄に上手かった。そのくせ高校に上がったらやめていたので、宝の持ち腐れってこのことだと思う。使わないなら運動神経切れてる私に寄越してくれれば良いのに。
クイズゲームもお兄ちゃんなら余裕。きっと得意気にさっさと謎を解いてクリアしていく。推理ゲームだって同じ。
恋愛ゲームも、お兄ちゃんならありそう。顔面良いし。肩書きも中々だと思う。周りの人たちも顔面偏差値結構高いからな……。画面キラッキラして目が潰れそう。お兄ちゃんは攻略する側でもされる側でも頑張れるよ。私は立ち絵の無い名前だけの妹役やっとくからどうぞどうぞ。
──もう全部お兄ちゃん主役じゃん。
だったら何で私にこの半透明の四角見えてんの?お助けキャラでもやれば良い?それこそ同級生の男子の友人がやるべき役どころなんだけど、妹がそれするの?ただのお節介ババァじゃない?
そんなことを考えてたからか、ある日から半透明の四角に追加機能が出来た。
名前の横にくっ付くハートマーク。
お兄ちゃんの名前の横にはなかった。でもお兄ちゃんを迎えに来た幼馴染みのお姉さんの名前の横では、満タンピンクのハートマークがチカチカしていた。
あ!好感度のパラメーターか、これ。
しかもお兄ちゃんが主体らしい。お兄ちゃんに付いてないってことはそう言うことでしょ?
お父さんとお母さんのを見てみたら、星マークでほぼ満タンの黄色だった。ほぼって所がミソだよね。家族を攻略したら何か変わるんだろうか?激甘になるのかな。今でも結構甘いと思うけど。
私?私はたまに無性に脛を蹴りたくなる。膝カックンでも良い。私のテストの答案見て目線逸らした時とか特にそう思った。別に私の頭は悪くない。上の、ちゅ、げ……。
……いや別に普通だし。
なるほどこの世界はお兄ちゃんの為の恋愛ゲームか。
でもこれ既にクリアしてない?幼馴染みのお姉さん、お兄ちゃんに完ボレじゃん。おめでとう、伝説の木の下で祝言でもあげさせれば良い?
_ _ _
今日も今日とて満タンのハートマークを眺めながら、憎まれ口を言いつつ満更でもないお兄ちゃんとのツーショットを、二階の自室から見送った。
二人は今からトロピカルランドでデートをするんだって。お兄ちゃんは「遊びに行くだけだ」って言ってたけど、年頃の男女が二人きりで遊園地に行くなんてデート以外の何ものでもないじゃん。
あれでいて奥手の純情のロマンチストだからな……。我が兄ながら先は長い。
先は長い長いと予想していたけれど、まさかお兄ちゃんが失踪するとは思ってなかった。
長いどころか距離も遠くなるとか、何それ。
「失踪届け出した方がいいかなぁ」
「だ、大丈夫じゃろう。わしが聞いた話によると、とある難事件の解決に時間がかかっているだけじゃと言っとったぞい」
「お兄ちゃんがすぐに解決できないとか、腕が落ちたのかな……、たまごだもんね……」
隣家の阿笠のおじさんに相談したら、汗をかきながら捲し立てられた。何か隠してるらしい。じっと見てたらその内分かるけど、どうでもいいやと家に帰った。
帰ってきたら、探偵(たまご)じゃ無くなってると良い。探偵(ヒヨコ)くらいには成長してるかな。将来的には探偵(ニワトリ)かなぁ。(チキン)の可能性も捨てがたい。
今日の夕飯はチキンライスにしよう。めずらしくお腹が空いた。
_ _ _
あれだけ好感度MAXなのだから、それはもう心配しまくってるだろうな、と気が向いたので様子を見に幼馴染みのお姉さんの家にお邪魔した。
お兄ちゃんの失踪から会ってないから、どのくらい振りだろう。結構会ってない気もするし、そんなでもない気もする。
そんな彼女には、小さい子どもができていた。
「……え、誰との子?まさか兄との子?」
「なっ!?ば、馬鹿なこと言わないでよ!
……あら?この子は阿笠博士の遠い親戚で、新一たちの遠い親戚でもあるって聞いたけど……」
「親戚ぃ?」
心当たりのない言葉に、何やら顔を青くする小さい子どもを見下ろす。「だから、それは、あのっ」なんてまったく意味のない言葉を発してはいるけど、幼馴染みのお姉さんも不思議そうな顔。
ちらりと小さい子どもの半透明な四角を見た。
名前は江戸川コナン。なんて妙ちきりんな名前だろう、ミステリー好きなご両親だったのかもしれない。私の両親は分別があって良かった。
年齢は7才。職業は小学生。
なんてことはない、いつも通りのよくある普通の表記だ。名前と年齢と職業の横に、うっすらと別の記載さえなければの話だけど。
「……あぁ、産まれた時に会ったっきりだから分からなかった。コナン君、だよね。久し振りって言うより初めましてって感じかな」
空気を読んでそう言ってあげれば、幼馴染みのお姉さんは「そんなに昔じゃ覚えてなくても無理はないわよね」なんて安心して胸を撫で下ろした。その隣の小さな子ども、江戸川コナン君は、目を白黒させて金魚みたいに口をパクパクしてる。
間抜け面だったから記念に写メった。そしてお母さんに送った。
「そういえば、阿笠のおじさんがコナン君に会いたいって言ってた。蘭お姉さん、連れてっても良い?」
「博士が?じゃあ、お願いできる?」
「ら、蘭姉ちゃん、ボク行きたくないよっ」
吹き出すかと思った。
いや、正直吹き出した。
睨み付けてくるコナン君を蘭お姉さんから任されて、手を引いて帰宅する。下の方から物言いたげな視線を寄越されたけど、私はだいたい空を眺めながら歩いたから視線が合うことはない。
「阿笠のおじさん、こんにちわー」
「おぉ、君から進んでうちに来るとは珍しいのぉ。それに、コナン君も一緒とは……」
玄関で出迎えてくれた阿笠のおじさん。
私と一緒にいるコナン君に、と言うよりもコナン君と一緒に現れた私に対して、彼は素直に不思議そうな顔をする。それに食って掛かったのはコナン君だった。
「おい博士!こいつに話したのは博士か?オレには他の誰にも話しちゃいかん、とか言っておいて、博士がバラすなんてどういうことだ!?」
「な、何のことじゃ。わしは何も言っとらんぞ」
「じゃあなんでコイツは、今日初対面のはずのオレの名前がコナンだって分かったんだよ!博士が、蘭の所にいるコナンについて教えたからじゃねーのかよ!」
「バカ言っちゃいかん!彼女には蘭くん同様、新一は難事件に掛かりっきりでしばらく帰れないと説明したぞ。蘭くんにお世話になっとるコナンについては、正直説明し忘れとった」
「……本当に、新一とコナンの関係は喋っちゃいねーんだな?」
「当たり前じゃ」
以上、私の目の前で繰り広げられた会話です。
どうやら半透明な四角の誤作動ではなかったらしい。恐る恐る私を見るコナン君を改めて見て、彼の隣の四角を再確認する。
江戸川コナンの横にはうっすらと工藤新一と書いてあるし、7歳の横には17歳、小学生の横には高校生/探偵(たまご)と目を凝らせば見える薄さで表示されていることに変わりはなかった。
「どうしたの、玄関先で騒がしいわね」
三者三様で見詰め合う中、ちょっと大人びた可愛い声が上がる。声のもとを辿れば、赤茶髪の可愛い女の子が立っていた。
「え。阿笠のおじさんがまさかの幼女誘拐……」
「ひどい誤解じゃ!!」
「焦るところが更に怪しい……」
「弁解せねば君は直ぐに自己完結するじゃろう!!」
「だてに十五年お隣さんしてませんね」
スマホ片手の悪ふざけに、全力で弁明する阿笠のおじさんが面白くて笑った。ニヤニヤと。
足元のコナン君から「悪い顔してんなー」とお言葉を頂いたけど、私の顔は悪くない。「造形の話じゃねーよ」なんて呆れるコナン君は可愛くないので、連写してお母さんに送り付けた。
「初めまして、隣の家の娘です」
「初めまして。博士の家に居候しているわ」
お互い軽く会釈して挨拶する。
自己紹介しないのかよって顔で見てくるコナン君。でもどうせ、教えられるのは偽名なんでしょ?もしかして最近流行ってるのかな、幼児化して偽名名乗るの。
「お隣は無人だと思ってたわ」
「いつも居たよ。基本、私は部屋から一切出ないけど」
「オメーの部屋だけ風呂トイレ台所完備だもんな」
「何でコナン君が知ってるの?私のストーカーなの?え、怖い、通報しよう」
「し!新一兄ちゃんに聞いたから!!」
自問自答したってこと?
阿笠のおじさんとの会話の内容から、自分から進んで私に事情を説明するつもりは一切ないらしいのは分かっている。別に良いけど。知りたければ勝手に知るし。
ジロジロと不躾にコナン君を見ていれば、半透明の四角が大きくなっていく。ちょっと詳しい部分を流し読めば、オレの名前は工藤新一、のネタバレから始まって、真実はいつも一つ!のドヤ顔で締め括る自己主張の激しさに遠い目になった。
そんなだから変な組織の変な薬を飲んで変な副作用で幼児化するんだよ……。
そして事情を知って協力してるのが、目の前の阿笠のおじさんと、同じ薬を飲んで小さくなった居候の女の子、灰原哀ちゃん。西の高校生探偵 服部平次って誰だっけ。あとで検索しよう。怪盗キッドも知ってるとか情報緩いなぁ。私に危険が及ばなければ良いけど。
なんだか知らない間に、イージーモードのゲームがベリーハードモードに変更されていたようだ。
まぁどの道、元の姿に戻って、改めて気持ちを確認し合えた蘭お姉さんとくっつくんでしょ?
もしくはそのまま成長して歳の差が十もあるけど光源氏的なハッピーエンドに持ってくか、そこの可愛い女の子と仕事の相棒兼私生活でもパートナーとか言い始めるんでしょ?
それとも別の同級生のかわいこちゃんと精神的歳の差が激しいカップルとか選ぶ?
私は誰でも良いよ、どの子もそれぞれ可愛いの知ったから。
なんにせよお兄ちゃん、いや、今はコナン君か。
コナン君なら、悪いエンドは迎えないんじゃないかなと思っている。コナン君のハイスペックさ加減で、ハッピーエンド以外を迎えるはずがない。
私は黙って、その終わりを待てば良いのだ。
「阿笠のおじさーん。私、久し振りに暖かい手作りのご飯が食べたい」
「哀くん、すまんが……」
「分かったわ博士。二人も三人もそれほど変わらないもの」
「久し振りにって、最近は何食ってたんだ?」
「趣味で作り続けてる忍者食の兵糧丸。作るの楽しいし、栄養価は高いし、日持ちもするしで便利。一杯あるから一個あげようか?」
「バーロー、誰がそんな怪しいもんもらうかよ」
「じゃあ私が貰っておくわ。初めて見るものだし」
「美味しいよ」
「嘘つくなよ不味かっただろーが」
「なんでコナン君が知ってるの?」
「新一兄ちゃんに聞いたから!ってオメー、絶対気付いてるだろ!!」
何のことだろうか?最近の小学生はキレやすくて困る。
***
■個人情報ダダ漏れ女子
工藤家第二子長女
名前:工藤 真唯
年齢:15歳
職業:高校生/引きこもり
若い頃の母親そっくり、から明朗さと快活さを引いてやる気を無くした感じ。髪はストレート。
家族のことは嫌いじゃない。普通に好き。
でも兄の脛はいつか蹴る。
半透明の四角については父親だけが知っている。
子どもの妄想かと思えば、色々と知っちゃいけない内容までボロボロ言い始めて焦った。
誰にも言っちゃいけないよ←なんで?
危ないからね←なんで?
知ってはいけないことまで知ってしまうだろう←だから?
……面倒ごとは嫌だろう?←わかったー。
パパは娘の将来が心配だよ。
半透明の四角のせいで引きこもり。
外に出ると視覚がうるさい。歩く時は自然と上を向く。上空を飛ぶ飛行機くらい距離があれば何も見えない。
高校は通信制。
友達はネットの向こう側にいっぱいいる。
中学あたりからゲームに詳しくなり始めた。
お兄ちゃんの周りは偽名ばっかりだなぁ。
■妹に脛を狙われている
言わずと知れた主人公。
一つ下の妹の事情はまったく知らない。
たまに何かをジッと見てるし、よく空を眺めてるし、誰かと話す時も顔以外の少しずれたどこかを見ていることが多いので、変な奴だと思っている。
妹と趣味は合わないが、嫌な顔せず話は聞いてくれるので嫌いじゃない。
■ピンクハート満タン
言わずと知れた戦えるヒロイン。
工藤家長女のことは、新一の妹、程度の認識。
妹の主な生息地が自室か書斎の為、会う機会は非常に稀。
外で見掛けた時ですら、珍しいなとジロジロ見ちゃうのに、家に訪ねてきた時は今日は槍でも降るのかしらと不安になった。
■幼女誘拐疑惑(誤)
便利で不便、な博士。
お隣の工藤家とは長い付き合いなので、長男も長女も自分の子や孫のごとく可愛いと思っている。
が、長女の方は真顔でとんでもない冗談を言うし、冗談と思って流していると冗談で済まない事態を招こうとするので若干苦手。
それでも可愛い近所の子。
■胃袋を掴みに行く(本意でない)
言わずと知れた頭脳派ヒロイン。
工藤家に調査に赴いた際、一度として出会さなかったことを喜べば良いのか恐れれば良いのか。引きこもりと言うことは調査の最中もずっと家にいたと言うことになるわけだが……。考えると頭が痛い。
味をしめた妹が頻繁にご飯をたかりに来る。
その内ポロっと「志保さんはー、」とか言われて警戒度が上がる。妹はやらかしたことに気付かなそう。
_ _ _
幼児化してようが変装してようが偽名を名乗ろうが、すべては半透明の四角様の言う通りなので意味を成さない。
名前をうっかり忘れた時とか、うっかり別の名前言い掛けたりするのでうっかり目を付けられる。
あの工藤新一の妹なのだから何かあるはず、とか言われても別に何もないよ。容姿以外は平凡オブ平凡だよ。
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