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「―――――大丈夫か、ルーク」
「岸に辿り着くまでに、右肩を外しちまったみたいだ。けど、利き手じゃねーし…大丈夫だって」
右肩を押さえ、地面に力なく横たわる赤髪の青年。
その傍らにつくのは、金髪の男だ。苦しそうに息をする青年を心配そうに見下ろして、苦々しげに溜め息をつく。
「……いや、お前は動かない方がいい。全く、ジェイドもティアもどこにいるんだ」
「…ガイ、心配だ。探しにいってやってくれないか?」
首を持ち上げ、青年は男――――ガイに頼む。だがガイはそのルークを再び地面に寝かせ、眉を寄せた。
「ここにお前を置いていったらヤバイだろ!何とかしてやるから、もうちょっと寝て―――」
その時だった。
道の先の方から、微かに人の気配を感じたのは。
ガイが目を鋭くさせ、腰の刀に手をかける。
微かだが確実に聞こえてくる話し声は、複数のもの。こちらに向かってきている。
「…もう追い付かれたか」
「ガイ…」
「大丈夫だ、ルーク」
お前は俺が、守ってやる。
―――その同じ頃。
「――――ってわけでさぁ、ルカってほんっと意気地無しなのよねぇ」
「ソレ今さらだろ、イリアー」
俺達は呑気にお喋りしてましたとさ☆
要人保護の緊張感の欠片もねぇな。
「っつーかよぉ、レイン」
「あ?んだよリッド」
くい、と帽子の鍔を持ち上げ、俺はリッドを振り向いた。リッドは頭の後ろで手を組みながら、俺の頭を指差す。
「お前、なんで今日に限ってそんな格好してんの?」
今更ながらに指摘された、いつもと違う俺の服。白いシャツにレザー生地のベスト、黒い細身のパンツ。どことなくメンズもののソレに疑問を感じたらしいリッドに、俺は普段は被らない帽子をとり、くるくる回しながら笑った。
「似合わないか?」
「いや、似合うけど。男みたいじゃね?」
「俺、心は男寄りだから…」
「ソレはソレでどうかと思うぞ?」
フッ、と少しクールを装って言うと、お前バカだろって視線をイリアとリッドからいただいた。カノンノは小首をかしげながらニコニコ笑っていたが。
うん、やっぱり可愛いよカノンノ。
「確かに言動は男っぽいけど、ちゃんと胸あるし。…あたしより大きいし」
「イリアさんんんん!!?」
一応男がいる前で何を言い出すんだね君はぁぁぁぁ!?
じとりと恨めしそうな目で言うイリアは、多分俺の胸が羨ましいんだと思います。カノンノも心なしかソレ聞いてちょっぴりガッカリしてるし。
いや、そんなの気にしなくていいんだよカノンノ?カノンノは色気じゃなくて可愛さで勝負できるからね?
まぁ、カノンノに色目使うような虫(身の程知らず)がいたらこの俺が直々に鉄槌を下すけどな♥
ま、今回は俺自身サラシ巻いてるから胸ないけど。
「…なぁ、俺達ホントに今から要人保護に行くんだよな…?」
「今更だよ、リッド」
あれー…?って感じの目をして明後日の方を見たリッドの肩に手を置き、俺はにっこりと微笑んだ。
緊張感がないのは本当に今さらだと思うんだ。むしろこのメンバーの辞書に緊張感という言葉はあるのだろうか。少なくとも敵とかと対峙するまではなさそうだ。キールらへんが煩そうだけど。
っていうかリッド君この話題について心底どうでもよさげだね!?大丈夫かい男の子!?
…え?何?そこの岩陰で桃真珠見つけた?グッジョブ。しっかり採取しておくように。
「…にぃ」
「っと、お喋りはここまでかな」
ピタ、と足を止め、俺はクロートを撫でる。前方に二つの気配を感じた。
「さ、行くよー」
にこりと笑い、皆を振り向く。
しばらく進むと、薄暗い洞窟の奥に一人の青年が見えた。
短く切った朱い髪に、白い上着の青年――――
ジェイドに聞いた通りなら、コイツがその要人なのだろう。
右肩を押さえながら背中を壁に押し付け、こちらを睨む青年にカノンノが反応した。
「あなた、怪我をして…」
カノンノが彼に向かって行くのを見ながら、俺は訝しげに眉を寄せた。
おかしい。あと一人、いない。
アイツを置いて何処かへ行ったか?いや、あの過保護のことだ。そんなことはしないだろう。
…それに確か、コイツらはオレ達のことを敵と勘違いしていて――――
――――まさ、か
「カノンノ!待て!」
気付いた俺は、青年に駆け寄るカノンノの背中に声を張り上げた。
リッドとイリアが驚いたのを尻目に、俺はカノンノに手を伸ばす。
カノンノが驚いて足を止めた刹那、殺気が広がった。
「カノンノっ!」
「え…」
同時に岩影から飛び出した、影。
その手に握られたギラリと輝く刃を認識した俺は、地面を蹴った。
自らに振り下ろされる刃を、カノンノは呆然と見上げる。
俺は目一杯手を伸ばして、そして
「―――アイスウォール!」
カノンノと刃の間に、氷の巨壁を出現させた。
ソイツは一瞬で身を引き、俺はカノンノの体を引き寄せて大きく飛び退く。
それは同時だった。
「カノンノ、無事か!?」
「う、ん…」
片腕に抱いたカノンノの顔を覗き込めば、彼女は戸惑いがちに頷く。その様子にホッと息をつき、俺は腰から剣を抜いた。
「…くっ……なかなか早い反応だな…」
「随分手荒な歓迎じゃねぇか。不意打ちなんて卑怯な手を使ってくれんね」
明らかに怒気を含んだオレの声に、カノンノが不安そうに俺を見た。
さすがの俺もここまでやられちゃあ、ちょっと我慢の限界かな?
んん?俺は身内がかかわると普段より格段に沸点低いよ?
「ち、ちょっと!あんた達、グランマニエの要人なんでしょ!?」
今まで呆気にとられていたイリアが叫ぶ。
その言葉に、刀を持った彼は冷や汗をかきながら笑った。
「もう追ってきやがったな……だが、」
キラン、と輝く刀を、彼は俺達に向けた。
「ルークを渡すわけにはいかないな!」
あっこれ説明する暇無いわ。
「頼む、リッド!」
「キャッ!?」
刀を構えて突っ込んできた彼に、俺はカノンノをリッド達の方へ突き飛ばす。
間一髪でリッドが彼女を抱き留めたが、それを確認する間もなく同時に俺は彼の刀を受け止めた。
「…分かりやすい反応だな。やっぱりアイツがグランマニエの要人で間違いないんだ?」
「ルークを連れてはいかせないぜ!」
「ガイ!」
ガイと呼ばれた彼は、ギリギリと俺を圧していく。やはり男と女じゃ力の差が明白。持久戦に持ち込まれるのはこちらが不利だ。
「あーっもう!あたし達どうすりゃいいってのよ!この距離からじゃレインまで巻き込むわ!あたし銃だし!!」
「この状況じゃ…レインの邪魔になりかねないだろうな…」
「レイン!」
なんか俺一人でやる流れだなこれ。
援護無い?無いの?アッ回復はしてくれるって?ちくしょうその立てられた親指、野郎だったらへし折ってたぜイリア…。
「よそ見してる場合か?」
「!」
その声にハッとする。
ガイは刀を振り払い、俺を弾き飛ばした。空中で体制を整え、地面に降り立つ。ふと見れば、クロートはいつの間にかカノンノ達のところにいた。あーんにゃろ。
「チッ」
再び降ってきた刃を受け止め、俺はコートの懐から爆弾を取り出す。ガイの顔が歪んだ。
「気を付けろよ?」
ニヤリと笑った直後、爆弾は俺の手の中で爆発。俺達を包むように白い煙が飛び出した。