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「やーほー」
「ん?レインさんですか。おはようございます。さっきガイさんの悲鳴が聞こえたんですが、何かあったんですか?」
「ん?カノンノに手を出した制裁にネタばらしを♪」
「?」
「ほーそうですか。今やっと気づきましたか」


朝食を終えてキールと一緒に機関室に行くと、ジェイドがチャットにこれまでの経緯を説明していた。俺に気付いたチャットがにこやかに挨拶をしてきて、さっきの悲鳴についてたずねてきたからそれには満面の笑みでこたえておく。
ジェイドがすごくイイ笑顔をしていた。
そういやジェイドは俺が女ってことに最初から気付いてたよな。流石。


「ジェイドの言葉を立証してきたぜ」
「面白かったでしょう?やれやれ、ガイも哀れですねぇ」


あんたが言うか。
言葉の時点で矛盾してんぜ、旦那。


「――――そういえば、あんたたちを襲ったのは海賊だったのか?」
「いいえ。我々の船を襲ったのは、『ナディ』というテロ団体ですよ」


キールの言葉にジェイドは額に手を当て、深い溜め息をついた。


「海賊よりも性質タチが悪い…」
「ナディ…?あ、聞いたことあるよ。マナ、だっけ。世界樹が生み出した、全ての生命の源」


ルカの言葉にピク、と体が震えた。
クロートが小さく鳴く。それに気付いたのは、俺だけだった。


「そのマナを信仰する宗教団体はたくさんあるけど、『ナディ』はちょっと過激というか、何というか…」
「その通りです。『ナディ』はマナ消費の抑止を訴える、環境保護団体です。我が国グランマニエは、マナによって発展した世界有数のマナ消費大国ですからね。大量消費が国際問題にされつつある一方、民衆はマナに依存しきってますから、ナディもさぞ活動のし甲斐があるでしょう」
「近年マナ減少が危惧されていることについて、よく大学で議論されたもんだよ。中には入れ込みすぎで、テロ活動に参加するヤツもいたもんさ」
「うわぁー…その集まりがナディみたいなもんか?」
「その通りです。まさしくナディは、テロ組織と言えますね」


キールがうんざりしたように言う。俺はそれに顔を引き吊らせ、ジェイドは苦笑を顔に浮かべた。


「国で反国家組織として認定されかねないほどに、ね。何しろ、マナの大量消費の批判を唱えるあまり、文明そのものを後退させようと画策している人達ですからねぇ」
「まー確かに昔やってたことに戻れってことなんだから、理論的にはできなくも無いだろうけども…現実的じゃないよなぁ、っていうか根本的な解決になってないし」
「まったくだな」


俺の世界観で言えば、地球上から石油製品を無くすのと同義である。
いやー、ぶっちゃけ現代社会でそれは無理だろ。人々の生活に浸透しすぎてるし、今更前の不便な生活に戻れなんていったらそれこそ暴動ものだ。

俺の言葉にキールが賛同し、今まで黙って聞いていたチャットが口を開いた。


「…それで、あなた方がテロの標的にされたというワケですか」


ジェイドが頷く。
その様子だと、グランマニエ以外のマナ消費大国も標的にされたとみてあながち外れてはなさそうだ。


「現在我が国では、マナに替わるエネルギーの開発に着手しておりまして。近隣諸国に理解及び協力をお願いする為、ルークが『親善大使』として各国を遊説して廻っているところです。我々はそのルークの、護衛任務中なんですよ」
「大変だねぇ…」
「そういえばレイン、カノンノはどうしたの?一緒だったはずじゃ…」
「んー?」


ふとルカが俺を見た。
今まで一緒にいたカノンノがいないことから、不思議に思ったのだろう。
俺は薄く笑みを浮かべ、目を細めた。


「パニールのとこ」