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静かに歩いて歩いて、結局俺がやって来たのは船の外だった。
今回は物品の買い出しに行くとかで、珍しく港に船を停泊させていたのだ。
大国グランマニエの所属船。船自体が大きいため長期間の停泊は出来ないが、それでも以前に比べると大分ありがたいのは事実だ。


「よっと」


一番低い窓から飛び降りる。
早朝の港に人気はなく、そこらに突っ立った柱に海鳥がとまって羽を休めているだけだった。


「うわー、なんかこういうのいいかも」


元いた世界では、こんなことしなかった。
朝早く起きたとしても外には出なかったし、第一外に出ようという思考すら思い付かなかった。
…そう考えると、俺って大分引きこもりだったかな?

あーあ…と内心苦笑しながら、俺は一人港を出た。
この時期でも早朝の風は冷たく、短いズボンにより曝された足を容赦なく吹き付ける。
コートを持ってきて良かった、と思った。
日中になればまた温度は上がってくるんだろうけれど。

東の空が薄紫に染まっていく。太陽が近づいてる証拠だ。
それを眺めながら、俺はポケットに両手を突っ込んだ。




「――――!」

「――――!――――!!」




「…?」


ふと、どこかから声が聞こえた。…大分遠いらしい。今の静かな状態でも耳をすませない限り聞こえないくらい微かな声だ。
なんだろう、と首をかしげ、俺はそちらに足を向ける。こんな朝早くから、何を叫んでいるのだろうか。
聞き耳をたてながら、俺は町の中を進む。幸い寝間着代わりといっても俺の格好は普段着でもなんら不自然ではない格好なので、誰かに会っても問題はない。
歩きながら手首にくぐらせていたヘアゴムで髪を結い、俺は歩く足を早めた。


声を追って辿り着いたのは、港からそう離れた所にない町の郊外の森だった。
こんなに近くに森があるのか、と内心驚きながら俺はその森に足を踏み入れる。
が、ふと立ち止まってその場にしゃがみこんだ。


「………こいつは、」


地面に残るのは、草を踏み荒らしたような跡。
その周囲を探すと、ぽつりと小さな血痕があるのが見えた。


「これって…戦闘痕、ってやつだよな」


周りの木々を見回すと、何か鋭利なもので傷付けた痕があるのを見つけた。
俺は一気に瞳を鋭くさせ、緊迫した面持ちで周囲の気配を探った。