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「お天気、晴れてよかったね!」
「そうだな」


俺の手を引きながら満面の笑みを浮かべるカノンノに、優しく微笑む。
右肩に乗ったクロートが、くあ…っと大きなあくびをした。


「でもレイン…そのほっぺた、本当にどうしたの?」
「気にすんな。こんなんがあっても俺のイケメン度は変わらない…」


カノンノの問いを見栄を張りつつすっぱり切った俺だったがしかし、右頬にはられた大きな白い絆創膏のせいでやっぱりイマイチ格好がつかない。
ちなみにこれは大体想像がつくと思うが、朝のお咎めとしてクロートからいただいた引っ掻き傷だ。なんかまだヒリヒリする。…キールに絆創膏貼ってもらったけどさ。
早朝のユーリとエステルの一件から数時間後、俺達アドリビトムの面々はいくつかのチームに別れて予定通り街へ出て備品の買い出しを行っていた。
俺とカノンノは、二人で食料品の買い出しをしていた。…といっても人数が人数なため、俺達だけで全ての食料品を買い込むわけではない。もちろん。確か、食料品以外のものを買ってくるチームってジェイド・チャットチームだけだった気が…。子供と年寄り(自称)に重たいものは禁物、だそうだ。…チャットはともかく、あの鬼畜大佐は平気そうなんだけど。
ちなみにパニールは船に残って洗濯物だ。直前まで手伝ってきたから、後は干すだけだろう。それが終わったら、パニールはフリータイムだ。いつも頑張ってるんだから、それくらいは休んでもらわなければ。


「んーと、林檎とレモンと…」
「(果物ばっかだな)」


海沿いの市場で品定めをしながら、ひょいひょいと言われたものを手に取っていくカノンノ。
その姿はさながら主婦だ。そう言ったら怒られそうだから口には出さない。


「うー…おじさん!これもうちょっと安くならない?」
「うーん…仕方ねぇ、お嬢ちゃん可愛いからおまけしてやるよ!」
「やったぁ!」
「………………」


うん、主婦だ。


「えーと、次は…あぁ、小麦粉か…かさ張るなぁ……」


だいぶ値引きしてもらってほくほく顔のカノンノから視線を外し、俺はパニールから渡された買い物リストを見やる。だが頼まれたものは仕方がない。カイウスやリッドは体力バカ(ルビア&ファラ談)だから米とか大分重いもの任されてたし。あの時の二人のげっそりした顔はしばらく忘れられない。
売り場にやって来た俺は、小さく溜め息をついた。



***



「頑張りますねぇ」
「うおわっ!?」
「あ、ジェイドさん」


買い出しも一段落つき、近くのペット同伴OKの喫茶店で休憩がてら昼食をとっていたら、いきなり背後にジェイドが生えた。にょきっと生えた。その表現がぴったりなのだ。
俺は思わず手にしていたジュースのグラスを落としかけ、クロートはびちゃりとミルクの器に顔を突っ伏していた。なんかクロートが白猫になったんだぜ、顔面だけ。


「ジェイドさん、どうしてここに?」
「いやぁ。一人街をぶらついていたら、見知った美少女が見えたものですから」


唯一平然と、まったく動じないでジェイドに訊ねるカノンノは大物だと思いました。
そしてジェイド、そこでカノンノを口説かない。そんな意思を込めてジェイドを見るが、なぜか溜め息をつかれた。何故だ。人の顔見て溜め息つくな。


「ところでお二方。もう買い出しは終わったんですか?」
「ああ、ひとまず一回船に戻ろうってことになってな。ジェイド達は…………ってあれ、チャットは?」


猛烈なスピードで前足を操り顔を洗い始めたクロートを横目で見ながら、俺はふと小さな船長の姿がないことに気付く。周りを見回しても、あの派手な大きな帽子は見当たらない。
あれ、そういやこいつさっき、『一人街をぶらついていたら』って言わなかったか…?

…まさか。


「…ジェイド?」
「なんでしょう?」
「…まさかお前、チャットだけ放置してきたなんてことは…」


そう言うと、ジェイドはふぅ…と溜め息をついた。


「心外ですね。私がそんな薄情なことをすると思いますか?」


アンタならやるよ。


「何かおっしゃいましたー?」
「いえ何も。(即答) うん、そーだよな、いくらジェイドでもあんな子供を一人見知らぬ町に放置なんてそんなこと、」
「やはり私に子守りは無理だったらしく、途中で出会った単独行動中のガイに押し付けてきました」
「おぃいぃぃぃいいぃいい!?」


お前何やってんの!?いや二重の意味で何やってんの!?チャットまだ子供だよ!?しかも女の子だよ!?
何故女性恐怖症に押し付けてきたし!お互いが可哀想だわ!

…ガイが他のチームに合流できることを切に願おう。ええ本当に。