3


***


「――私は、リフィル・セイジ。ナパージュ村で学者をやっていたの」


なんとか落ち着きを取り戻したリフィルが机を挟んでジェイドと向き合いながら言う。
俺が紅茶を二人の前に置くと、リフィルはありがとうと微笑んで視線をジェイドに戻した。


「ラルヴァについてお話しできることは、実はあまり多くないわ。…というのも、ラルヴァはナパージュで開発されたものではなく、ある時突然、村に導入されたものなの。ラルヴァの生成方法や、その性質について詳しく分析もされないままに使用され始めたのよ」
「…そこまで急いで、ラルヴァに飛び付く必要があったんですか?」
「…元々、マナの恵みが少ない村だったの。強力なエネルギーであるラルヴァは、すぐに村民に歓迎されたわ」


ジェイドの言葉に、リフィルは若干瞼を伏せながら言う。
苦い顔をしているのは、それでもラルヴァの危険性を危惧しているからなのだろう。


「…村はラルヴァによって豊かになった。しかし、まだ得体の知れないモノであることには変わりないわ」


その言葉に、ジェイドが頷く。
新たに発見されたエネルギー。どこの誰が開発したのかも未だ不確定だ。安全性も考慮されていないままに強大なエネルギーを使うことが、どれ程危険なことなのか。

安全性や供給性の確認を怠るのは命取り。それは、少し考えたらわかることだろう。

だが、それすらも霞んでしまうほど村はラルヴァを欲した。
マナの恵みが、均一でないあまりに。


「その通りよ…私は、ラルヴァの安全性を確認してから使用する様に提案し続けたわ。――でも、村民は簡単にラルヴァを受け入れ、すでに依存しきってしまった。私の話にまったく耳を貸さずにね。挙句の果てには、ラルヴァの研究に邪魔が入る始末よ」


ラルヴァに依存しきってしまった村民にとって、それに待ったをかけるリフィルは確かに邪魔者以外の何者でもないだろう。
おそらくこの先、たとえ村に戻ったとしてもラルヴァの研究が進むのかと言われたら、答えは確実に否。
それをわかっているらしいジェイドは、にこやかに笑みを浮かべてリフィルに向けた。


「では、こちらでラルヴァについての研究を進めてはいかがでしょう?もちろん、必要な資材や資金、人材をこちらで提供するよう掛け合ってみますが」


…その人材ってのは、もしかしなくとも俺らの事か。
資金はジェイドの事だし、確実にグランマニエから引き落とすんだろう。職権乱用とはこの事か。


「いやですねぇ、これは立派なビジネスですよ」
「心読むな」
「顔に出ているんですよ、レインは分かりやすいですねぇ」


顔を隠せる兜か仮面でもかぶろうかと本気で悩んだ一瞬だった。


「それなら、ここで働かせてもらえないかしら?私も、私の教え子達も、元々はギルドに所属していたの」
「それは、船長が喜ぶでしょう」
「だな」


子分が増えるのは大歓迎だろうしな。


「貴女と年が近い子もいるから、仲良くしてあげてね」
「アイアイサーッ!」


そんな慈愛に満ちた聖母のごとく微笑を向けられたら断れるわけないだろう!少なくとも俺には無理だ!
敬礼つきで返事をした俺に笑みを浮かべ、リフィルはありがとうと言った。


「では、今後ともよろしくお願いします」
「こちらこそ」