3
女は歌った。
「いつまで、ねてるの?」
歌が、聴こえる。
耳を抜けて頭に直接響くような、そんな声。
透き通った綺麗な音。不思議な旋律の歌が、聴こえる。
現実的では無いメロディー。非現実な空間。
何かが鼓動を打つような空間に、私は一人で立っていた。
風もないのにフワリと広がる白のワンピース。右も左も上も下も前も後ろもわからない。そんな空間に、立っていた。
幽霊ってこんな感覚なんだろうか。
軽く手を握ってみても、感じるものは無い。確かに手は動いているのに、変なの。
それ以前に、ここはどこだ。
ほんのり光を帯びる体、地面という感触はなく、ただふわふわと浮いている。
訳がわからない。
歌は、やまない。
「 」
その時、黒一色だった空間にポツリポツリと光が灯り始めた。それらは闇全体を照らすほど明るくはなかったけれど、それでもひとつひとつが強い輝きを放っていた。
赤、青、黄、ピンク、白、緑………
たくさんの色をした光の珠が、ふよふよと闇の空間を浮遊していた。
『あ…れ…』
ふと、今まで自由気儘に漂っていたその光たちが、何かを合図にしたように一斉にこちらに吸い寄せられるように飛んできた。
その光のひとつに手を伸ばすと、それはなんの抵抗もなく私の手に吸い込まれた。
思わず、目を瞠る。
それを合図にしたように、光たちは次々と私の体に飛び込んできた。そしてその光を吸収する度、私の体を包んでいた光は少しずつ、輝きを増していく。
私の周りをクルクルと、螺旋を描くように飛び交う光を体に吸収する度、暖かく、意識がぼんやりしてきてしまう。
すると、私の足元に一際強く輝く光球が現れた。それは輪を描くように広がり、何かの陣のように光を放つ。ゆっくり、それが私を囲んだまま上昇してきた。
そこで、ふと違和感に気づく。足元を見ると、その輪が通過したところ――――今の状態なら脚――――に、何やら不思議な模様が浮き出ていた。そしてそれはゆっくりと、光の粒子を放って分解されたかと思うと、また再び形を戻していく。
何故だか、恐怖はなかった。驚きこそしたものの、不思議と大丈夫だと心が呟いているのを感じた。
そこでふと、私は視線を横にずらす。
様々な光が私の中に入っていき、または囲み、または分解され、再構築されていくなかで、1つだけ。たったひとつだけ、それはそこにあった。
紫色の、掌に収まるような小さな光。だがその光は、この空間で異様なまでの存在感を放っていた。この暗闇の中で、現れた全ての光が私に集ったというのに。
その光だけはそこで停止し、ただじっと、私の中に光が吸収されるのを見ていた。
『………………お前、は……』
来ないの?と呟き、私はその光に向かって手を伸ばす。
だが
『――――――っ!!』
バチッ、と。
たった一回、それは電光に似た自身と同じ色の火花を散らし、私の手を拒絶した。
たった一回の拒絶。だがそれが、永きにわたる拒絶だと思ったのは―――
《――――――く、…るな…さ、ゎ……な―――!!》
悲痛な声が、頭に響いた気がした。
あぁ、もしかしてお前は、まさか。
『…お……ま……………』
もう一度、朦朧としてきた意識の中手を伸ばす。
ビクリと、何かが震えたような気がした。
だが、あと少しで触れられると思った所で――――フッと瞼が落ち、同時に伸ばされた腕も力を失い闇に落ちた。
(唇が無意識のうちに僅かに動き、その名を紡いだ)
女は歌った。
「やっと、おめざめ?」