鈍色の箱庭に(2)
「どうも」
手をひらひらさせながらそいつは言った。
朔羽は警戒の色を濃くする。
「……あの…」
「助けにきたよ」
「…え?」
予想外の言葉に呆気に取られる。
──自分のことを、知っている?
「なんで……」
もしかしたら、過去も知っているのかもしれない。
探るように、ゆっくり言葉を口にした。
「…なんで、助けに来たの?」
「あれ、来ない方がよかった?」
「そういうわけじゃないけど」
「じゃ、行こうか」
男は朔羽の手を取り、廊下へ向かおうとした。
「ちょっと待って…!」
朔羽は慌てて掴まれた手に力を入れ、踏みとどまった。
このままでは真実がはっきりしない。
まだ何もわかっていない。
「あなたは、何者なの?」
男の後ろ姿を見上げながら問うた。
進むのをやめた男は静かに息を吐いた。
「…あ、そうか。忘れてるんだった」
今までの声色とは違い、低く、鋭く突き刺すようだった。
朔羽はその声が他人とは思えなかった。
「僕は──貴女がつくりあげた、貴女を助けるための存在ですよ」
淡々とした口調だが丁寧なものになっていた。
朔羽に背を向けたまま続ける。
「貴女は僕に全ての力を使った。貴女がこの建物に閉じ込められるときに“助けて”と強く願ったことで僕が生まれました」
記憶がじわりと滲むように広がる。
曖昧だった過去が確かな記憶によって埋まっていく。
「そして貴女がもう一度強く願うときまで眠っていました。あ、この格好は──」
男はわしわしとアフロのかつらを掴みながら振り返る。
「僕がつけたオプションです。貴女に笑ってほしかったから」
「……笑えないよ」
朔羽は素っ気なく言うが、内心は嬉しかった。
思い出された記憶の中で微かに光っていたもの。
力も記憶も、自分の全てを懸けて願ったもの。
最後に託した希望。
本当に、来てくれた。
思わず顔が綻びる。