父がジェルマ王国に行っている間、兄であるベルからジャッジと父の関係を聞いた。

若い頃、ジャッジと父はとある研究チームに所属していたこと。そこで“血統因子”解明の場に立ち会ったが、その発見はあまりにも危険すぎるということで研究者たちは世界政府に拘束されてしまったこと。しかしジャッジと父だけがそれを逃れ、ジャッジは“血統因子”理論の実用化に成功し息子たちを改造したこと。

難しい話ではあったが、ベルがかみ砕いて説明してくれたのでなんとなく理解できた。

父はジャッジの暴走を止めることが出来なくて、ずっとずっと後悔していたらしい。感情を奪われた子どもたちを見るたび心を痛めていたと、ベルは言った。

この国は、この島は“ジェルマ66”の名に守られている。だから父もジャッジに逆らえなかった。イチジの許婚になることも、本当は反対だったのに。

ベルの話はそこで終わった。ふと外を見れば真っ赤な夕焼けで、随分と話し込んでいたのが分かる。

「…お父様、遅いね」
「ああ…きっと、すぐに帰ってくるよ」

すぐに帰ってくると言った父はまだ帰ってきていない。念のためといつもより護衛を多く引き連れて行ったために王宮はいつもより静かで、何故か不気味さを覚えた。

何故か、嫌な予感がした。ぶるりと身を震わせベルの腕に抱きつく。ベルも何かを感じ取ったのか、緊張した面持ちでシロの肩を抱き寄せる。

やけに静かだった廊下が一気に騒がしくなった。荒々しい足音が、シロの部屋に近付いてくる。それに怯えたシロがベルの背中に隠れるのとほぼ同時、部屋の扉が勢いよく開いた。

「ベル様!シロ様!この島からお逃げください!」

部屋に飛び込んできたのは、父と共にジェルマ王国へ行っていたはずの護衛隊長だった。顔は血まみれで、左腕はなくなっていた。シロは声にならない悲鳴をあげ、ベルに抱きつく力を強める。

「その怪我…一体何があったんだ…?」
「ヴィンスモーク・ジャッジが……ジェルマ66が!!我が島に攻撃を仕掛けてきました!」
「何だと!?!父上は!?」
「ッ…ジェルマ王国でヴィンスモーク・ジャッジに、」

その先の言葉を、今まで聞いたことのない轟音がかき消した。王宮が揺れている。焦げた匂いがする。開かれた窓から、たくさんの悲鳴が聞こえてくる。

「もう、王宮にも砲弾が…!ベル様、シロ様!早くお逃げください!南の港に小さな船を用意しておりますので、火の手が回る前に王宮から逃げてください!貴方たちだけは、どうか!生きてください…ッ!」


生きてください、と叫んだ護衛隊長の血が混ざった涙を、シロは今でも鮮明に覚えていた。

シロは、この日のことを何年も何年も後悔し続け、そして恨み続けた。

ヴィンスモーク・ジャッジという救えない人間を。

そして、父が殺されてしまうキッカケを起こしてしまった自分自身を。



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