「くそ、こっちも通れない!」
燃える王宮の中を、シロとベルは逃げ回っていた。
絶え間なく砲弾を撃ち込まれているせいで、炎はあっという間に王宮を包み、至る所が崩れ、逃げ道が奪われていく。
「さすがに飛び降りるには高すぎる…!それに、シロを抱えてなんて、」
「お兄さま、それならわたしを置いていって!」
「ダメだ!一緒に逃げるんだ!」
「でも、どこから逃げれば、」
「っ、天井が…!!」
崩れ落ちる天井に、シロは動けない。咄嗟にベルがシロを抱き抱え、床を蹴った。
※
あの子の泣き声がする。
どこからか聞こえてくるそれを頼りに、レイジュは崩壊寸前の王宮を走った。
「ッシロ…!!シロ!!?」
積み重なった瓦礫の下に、シロの顔が見える。その上には彼女を守るように誰かが覆い被さっていた。
「ベルさん……!」
それは、シロの兄だった。
「待ってて、今、瓦礫をどかすから、!」
もう時間はない。もうすぐこの王宮は崩れ、島ごと炎に包まれるだろう。
父は本気だ。本気で、この島を消そうとしている。
弟たちは“初陣”という形で、王宮に残っていた護衛隊や、街の人間たちを始末する任務を与えられている。それはレイジュも同じだったけれど、護衛隊を始末するふりをして、シロを探し回っていた。
どうしても、この子だけは、助けたい。
生きていてほしい。
こんなところで、死んでほしくない。
「レイジュちゃん……」
「なに、ベルさん!いま瓦礫どかしてるから、」
「助けるのはシロだけでいい」
「っ、なんでそんなこと…!」
「本当は分かっているだろう…?もう、おれはダメなんだ」
思わず唇を噛みしめる。
ベルの身体は、瓦礫に潰されていた。庇われたシロはなんとか無事のようだが、ベルは。
「……ごめんなさい」
「どうして君が謝るんだ、」
「っごめんなさい、ごめんなさい…!」
「謝る必要なんてない。助けに来てくれてありがとう、シロを頼んでもいいかな?」
頷いて、嫌だと泣きじゃくるシロの身体を引きずり出し、腕にしっかりと抱える。
「シロ、レイジュちゃんと行くんだ。生きるんだ。お前だけは、生きてくれ」
「いやだよ、いや…!!!」
「ごめんレイジュちゃん、行ってくれ」
「……ぜったい、守るから、安心して、」
「うん、ありがとう。南の港に船が用意してあるらしいから…シロを頼んだよ」
もう一度頷いて、駆け出した。
泣いてはいけない。
1番辛いのは、シロだから。
「いい!?飛び降りるから、しっかり捕まっててよ…!!」
返事はなかったけれど、きゅ、と弱々しい力で服を握りしめられたのが分かった。シロの頭を抱え込むようにして、ガラスの割れた窓から飛び降りる。
「南はどっち!?」
「地下道が、あるの、」
「案内できる?」
「うん、地下道が無事なら、港まで行ける」
よく見ると、シロも怪我をしている。
けれど、手当てをしている暇ない。早く逃がさないと、島が燃え尽くされる前に、見つかる前に。
真っ暗な地下道をひたすら走る。
それは数分、数十分のようにも感じられた。
「っ、港は、ここね…!?」
ジェルマが攻撃を仕掛けた港とは反対側の、整備も進んでないような港に、小さな船が一隻だけ浮かんでいる。
「1人で行けるの…?ううん、行くしかないんだわ、お父様に見つかったらきっと殺されてしまうから、」
傷だらけで血まみれのシロを船に乗せ、船を繋ぎ止めていた縄を解く。
「ごめんなさい。わたしに出来るのはここまでだわ、そろそろ戻らないと怪しまれる」
シロはふるふると首を横に振った。
「今から身勝手なこと言うけど、黙って聞いてほしいの。このままどこの島へ行くのか分からないし、そもそも無事に辿り着けるかも分からないけれど…シロ、どうか死なないで」
「生きて、シロ、生きるのよ」
涙がこぼれた。
それでも構わず、続けた。
「あなたはわたしのこと恨んでるかもしれない。でもわたしはあなたのこと、本当に大切に思っているの!だから、どんなに苦しくても生きていてほしいの…ッ!」
同じように涙をこぼしたシロが頷く。ぼろぼろ涙を流しながら何度も何度も頷いて、最後に恨んでないよと首を横に振った。
そろそろ時間だ。もう戻らなければ。
掴んでいた縄を離して、船を力一杯押せば、波に乗ってゆっくりと動き出した。それを確認したレイジュはすぐに背を向けて、いま来た地下道を走り出す。
無事にどこかの島へたどり着きますように。
そしてまたいつか、あの子が笑える日が来ますように。幸せだと思える日々がやって来ますように。
かけがえのない存在であるシロの生きる未来を、泣きながら祈った。
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