行き場のないシロと共に過ごし始めて1週間が経った。少しずつ体力も戻ってきて、ご飯も普通に食べられるようになった。怪我も腕の火傷を除けば、もうそろそろ完治する。火傷の痕は残ってしまうが、シロは特に気にする素振りを見せなかった。
「おっ、シロ!もう動いてて大丈夫なのか?」
「シャチだ!おはよう、もう大丈夫だよ!元気!」
「あんま無理すんなよ?」
「うん、ありがとうペンギン」
ペンギンとシャチに頭を撫でられシロは嬉しそうに笑った。自身を助けてくれたベポとはもちろん、ローの元にしょっちゅう出入りするペンギンやシャチともすぐに打ち解けたシロ。どうやら愛嬌がある子らしく、笑顔も絶やさない。そんなシロをペンギンとシャチは大層可愛がり、ベポもよく懐いている。仲良く群れるその光景は少し騒がしいけれど、悪くはないなと思うぐらいには、シロたちのことを受け入れていた。
「キャプテン、これ今日の収入」
「その呼び方ヤメロ」
「キャプテン!」
「……今日はいつもより多いな」
「今日はお客さんが多かったんです。だからいつもより多めにくれたんだ!」
1ヶ月も経った頃シロは町にある喫茶店でバイトを始め、そのバイト代の半分をローへ渡していた。最初は全額渡そうとしたのだが、ローが自分のために使えと言ってくれたので半分だけ渡してもう半分は貯金している。
「夜ご飯グラタンでいい?喫茶店の店長さんに使わないオーブンもらってきたから」
「あァ。食費はまだ間に合ってるのか?」
「うん!まだ大丈夫だよ」
喫茶店のバイトが終われば晩ご飯の準備をする。料理なんてしたことないに等しかったけれど、喫茶店の店長に教えてもらったり意外に器用なペンギンに教えてもらったりして、それなりに出来るようになった。
ローとベポ、時々ペンギンやシャチと仲良くご飯を食べてベポと一緒に後片付けをすれば、勉強の時間だ。ローはシロへ自分の持っている医術をすべて叩き込もうとしていた。
以前町の不良たちと喧嘩してボロボロになり帰ってきたペンギンとシャチの手当てをするシロの手際の良さに感心したのがキッカケで、シロは医者に向いているんじゃないかと思ったのだ。
ローが手際の良さを褒めて、医術を学ぶ気はないかと問えば、シロはすぐに頷き、そして悲しそうに笑った。
「よくね、ある男の子の傷を手当てしていたんだ。怪我が絶えない子で…いっつも傷だらけだったの。臆病者のわたしには、こうやって手当てしてあげることしかできなかった…」
助けてあげたかった。止めたかった。でも、仕返しされるのが怖くて、痛いのは嫌で、その一歩を踏み出せなかった。
「……じゃなくて!キャプテンは立派なお医者様だものね!教えていただけるなんて光栄です、ふふ、よろしくお願いします」
閉じ込めていた後悔があふれ出しそうになったことに気が付いたシロは慌てて笑みを取り繕う。けれど、いつも見せてくれる笑顔とはあまりにもかけ離れていて、痛々しさすら覚えた。
「無理して笑うんじゃねェよ、バカシロが」
ローの低い声にシロは目を瞬く。
それから、深く息を吐き出し、俯いた。
「キャプテン…バカって言う方がバカなんだよ…」
「……オイ。誰の真似だそれは」
「シャチ」
「ベポォォォ!おやつ何食べたい!?」
「シャチ……シロの前で汚ねェ言葉使うなって何度言えば分かるんだ」
「いやでもキャプテンも人のこと言えな…すいません!すいませんっした!!」
ペコペコ頭を下げるシャチを横目にペンギンはシロの頭を撫で、ベポは背中に手を添えた。シロはそっと涙をこぼした。
ペンギンもシャチもベポも、ローだって。
シロが無理して笑う顔なんてみたくないのだ。いつもの笑顔がどれだけ可愛いかを知っているからこそ、尚更。笑いたくなければ無理して笑わなくていいし、腹が立ったら怒っていい。泣きたい時は泣いていい。笑顔で取り繕わなくていい。変に遠慮しなくていい。ありのままでいてほしい。
男たちの願いは、そう多くはなかった。
可愛い可愛い女の子が元気に笑っていることと、それなりに幸せになってくれたら、それだけで良かったのだ。
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