「イッカク〜!!早く早く!お買い物行こ!ショッピングしよ!!」
「シロ、島も店も逃げないんだから落ち着きな」
ドタバタしながらペンギンの目の前を通り過ぎて行ったのは、ハートの海賊団女子組のシロとイッカク。
「気を付けろよ〜」
「うん!ペンギンにお土産買ってくるね!」
今回の船番であるペンギンの声に振り返り、無邪気に笑いながら頷く。ペンギンの妹分でハートの海賊団の末っ子なシロは今日も可愛い。
デレデレしすぎたのか通りすがりのローから酷く冷たい目を向けられたがしたが気にならない。
いつまで経っても子どものように無邪気で、
絶えない笑顔でみんなを癒してくれて、
“海賊”の名が似合わないほどに優しく、
とってもとっても可愛いシロ。
島に出かける前はあんなに楽しそうに笑っていたのに。数時間後に血を浴びて船に帰ってくるなど、誰が想像出来ただろうか。
※
夕暮れ前、ポーラータング号に戻ってきたシロが纏う雰囲気は異様だった。
ハートの海賊団お揃いで着ている白ツナギは血に濡れ、シロの頬も血で汚れている。いつだって笑顔を絶やさないというのに重々しい雰囲気を背負い、かたく唇を結んで、ペンギンやほかの船員たちが話しかけても反応しない。シロとは10年の付き合いがあるペンギンからしても、こんなに不機嫌な姿を見るのは初めてだった。
「お、おい、イッカク……」
一体何事だと、シロのすぐ後ろを歩いていたイッカクを捕まえる。こちらもあまり機嫌が良くなさそうに見えるが、話を聞く余裕はあるようで渋々立ち止まってくれた。
「一体何があったんだよ。なんであんな血まみれなんだ?怪我か?返り血か?お前も血ついてるし……どうしたんだ?町で何があった?」
詰め寄るペンギンに、イッカクがため息をつく。
「町中で、他所の海賊団に絡まれた。そんで…そいつらにキャプテンをバカにされたんだよ。で、シロがブチ切れて乱闘騒ぎになったんだ」
「んなっ…なんだよそれ、」
「まァ乱闘と言ってもシロの完全勝利だったけど」
あの血はその際に浴びた返り血だと言い、シロもイッカクも一切怪我をしていないという。
「とりあえず、怪我してねェなら良かったよ」
「シロがブチ切れてるの初めて見た。キレると手をつけられなくなるってのマジだったんだ」
「だろ?とか言って俺もあんま見たことねェけどな……マジ切れしたシロはキャプテンしか止めらねェんだよ」
「それよりも、倒した相手はここらじゃ有名な賞金首らしい。止めようとした海兵も八つ当たりで数人ぶっ飛ばして来たし……とうとうシロにも賞金がかかるかも」
イッカクのぼやきにまさか、と笑ったペンギンだったが、数日後にそのまさかが起こった。
「シロが賞金首になったってマジ!?」
食堂に騒がしく飛び込んできたシャチにペンギンはニヤリと笑い頷いた。
「“疾風の女剣士”だと」
「うっわ、すげェな!んで、シロは?」
「キャプテンに呼び出された。今頃こってり絞られてるだろうよ」
「あァ、カホゴだもんな…」
シロとローの関係をよく知る2人はうんうんと頷き合った。狙われることが増えるだのもっと危機感を持てだの、永遠と小言を言われている光景がなんとなく思い浮かぶ。
「シロに賞金がかかったのって、この前の島で乱闘騒ぎ起こしたからだろ?」
「あァ。んで止めに入ろうとした海兵もぶっ飛ばしたらしくて、それが1番の問題だったみたいだ」
「よほど機嫌悪かったんだろうなァ」
「手配書はキャプテンが持って行っちまったけど、すっげェおっかねェ顔してたぜ?返り血もついてたし」
「ますます見てェんだけど!」
「サングラスはしてなかったみたいだなー。まあ横顔だったし帽子は被ってたからあんま顔分かんねェけど」
シロの手配書の話で盛り上がっていると、誰かがシロの名を呼んだ。どうやらローの説教が終わったらしい。ペンギンが言った通りこってり絞られたのか、入り口にもたれて立っているシロの顔色はあまり良くない。
「“疾風の女剣士”シロちゃん、こってり絞られてきたか〜?」
「“疾風の女剣士”シロちゃん、がっつり怒られてきたか〜?」
ニヤニヤ笑うペンギンとシャチに両側から肩を組まれ、シロは不満そうに頬を膨らませた。
「べつに怒られてはないもん。なんでこんなことになったか説明を求められただけだよ。ていうかその通り名、口に出すのやめて!すごい恥ずかしい!海軍のネーミングセンスを疑うよ」
「いいじゃねェか。今夜は宴だぜ!」
「いいよ、シャチ。宴なんて」
「なんでだよ。賞金がかかるだなんて、海賊としては誇らしいことだぜ?」
ペンギンの言葉にシロは唇を尖らせ何か言いたげな表情を見せるも、やがて諦めたかのようにため息を吐いた。
「もう何でもいいや…」
項垂れたシロの背中を叩く2人は、後にローに呼び出され、密約を交わすことになる。
“シロの手配書は見つけ次第全て回収しろ”
その指示にペンギンもシャチもすぐに了承した。
いくら手配書の写真が横顔で、帽子のおかげで目が隠れているといえど、可愛い可愛い妹分の顔を世界中の人々に晒されていると思うとどうも気に触るからだ。
賞金がかかるのは海賊として喜ばしいことだが、シロの可愛い顔が広まるのは面白くない。男たちは複雑な心境だった。
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