シロから大体の経緯を聞いたローは、深くため息をついた。
「お前は大バカ者で、どうしようもねェお人好しだ。危機感も足りねェんだよバカ。どういう脳みそを持ったら初対面の海賊と遊園地を回ろうっていう考えになるんだ?おれの育て方が悪かったのか?」
ローから発せられる容赦ない言葉たちにシロは床に正座したまま項垂れる。
返す言葉もないし、そもそも反論する権利もない。とはいえ、悪いことをしたとは思っていない。反省はそれなりにしているつもりだが。
「そりゃあ初対面のルフィくんたちと遊園地回ったのは良くなかったかもしれないですけど…」
「けど?」
「ケイミーちゃんを助けに行ったことに関しては、反省してません!!」
2人の様子を見守っていたシャチが「堂々ということじゃねェよ」とケラケラ笑っていたが、ローに睨まれ慌てて口を閉ざす。
そしてそのままの鋭い目でシロを見下ろす。ローに睨まれることなんて滅多にないシロは肩を揺らしたが、すぐに負けじと睨み返した。
「軽率な行動だったってことは分かってる。でも、ケイミーちゃんもハチさんもパッパグさんも友だちだよ。友だち助けようとしてなにが悪いの!」
シロの瞳にはうっすら涙が浮かんでいる。それに気が付いたローは分かりやすく表情を変えた。
さっきまであれほど怖い顔をしていたくせに、シロが泣き出しそうになった途端、焦ったような表情になったのだ。
シロは気が付いていないが周りの船員たちはローの表情の変化に気が付いてしまい、必死に笑いを堪える。
あのローでも、シロの涙には敵わなかった。
「おれが言いたいのは、お前、天竜人が人魚に、」
「人魚じゃない。ケイミーちゃん!」
「……天竜人がケイミーとやらに銃口を向けた時、刀構えて飛び出そうとしただろ。あれの意味、分かってたのか?」
静かな声にシロは唇を噛み締め、頷く。
「分かってたよ。みんなに迷惑かけることも、キャプテンの邪魔をしちゃうってことも。でも、あんなの、放っておけるわけないじゃん……人間も魚人も人魚も同じ血が流れてるのに、どうして、なんで、」
「長く続いた差別はそう簡単になくならない……お前ひとりがどうこう出来る問題じゃない」
今度は諭すような声だった。
分かってる、分かってるよ、と繰り返し呟き、顔を手で覆う。
「お前はお人好しすぎる」
「……うん」
「でも、それが、お前の良いところでもある」
俯くシロの頭に手を乗せ、そっと撫でてやる。
「シロ。お前はそのままでいい」
「怒ったじゃん……」
「まァ確かに危機感はねェし天竜人に斬りかかろうとするバカだが……それがお前だからな」
シロはローの恩人であるロシナンテとどことなく似ていた。バカみたいに優しくお人好しで、慈愛に満ちており、感情性が豊かで他人のために泣けるような心が温かい子。そしてキレたら手を付けられないところも似ている。
とにかくシロは優しい。だから心配なのだ。かつてのロシナンテのように、優しすぎるがゆえに取り返しのつかないことが起きたり、命を落としたりしてしまうんじゃないか、と。
もう誰も失いたくないのだ。
それが大切な仲間であるシロなら、尚更。
「お説教終わったんすか?…って、キャプテン!アンタまたシロのこと泣かせたのかよ!!!」
「ペンギン……“また”とはなんだ、またとは」
「シロちゃんかわいそうに!メシ食おうぜ!」
シャチのように様子を見にきたらしいペンギンがぐすぐす鼻を啜っているシロを慰めつつローを非難する。シャチはシロの肩を抱き寄せ励ますように明るい笑顔を浮かべた。
昔からこの役割は変わっていない。無茶をしがちなシロをローが嗜め、そしてへこんだシロをペンギンとシャチが甘やかす。そしてそこにベポも混ざって、シロがようやく笑う。それはもう、見慣れた光景だった。
「ハァ……お前らがそうやって甘やかすからコイツはこんなじゃじゃ馬娘に育ったんだぞ」
「じゃ…!?ひどいなにそれ!キャプテンの言うことはちゃんと聞いてるよ!!」
信じられない、とでも言いたげな表情で叫ぶシロに、ペンギンとシャチがじゃじゃ馬娘なのは間違いないとケラケラ笑う。ここまできたらシロの味方はもうベポしかいない。頭をぼふぼふ撫でてくれるベポにシロは泣きついた。
ハートの海賊団の末っ子はじゃじゃ馬娘だが、今日も今日とて可愛い。
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