ルフィを匿うため“女々島”へ向かうことになったらしい。そう伝えに来たシャチの頬がひどく緩んでいたため、シロは冷たい瞳を向けた。可愛い妹分の氷のように冷たい視線に気付いたシャチは慌てて真面目な表情を取り繕うと、
「麦わらの看病、頼んだぞ!」
などと言ってシロの頭をひと撫でしてから部屋を出ていく。しかし、その足取りは妙に軽い。
「男って本当に……」
「まァ“夢の女人国”だからのう……」
呆れたような表情を見せるシロに、いつの間にか戻ってきていたジンベエが苦笑いをこぼす。シロは形のいい眉を吊り上げるとジンベエに向き直った。
「ジンベエさんも、そうなの!?」
「いや、わしはあんまり興味はないが……」
「確かに海賊女帝さんはお綺麗だったけど……みんな揃いも揃ってデレデレしちゃって」
むすっと頬を膨らせたかと思えば、目を覚ます様子のないルフィを見て泣き出しそうに顔を歪め項垂れる。ころころ表情を変えるシロをジンベエは静かに見つめていた。
「わたしも昔……お兄様を目の前で失ったの……わたしを庇って死んだの。だから、ルフィくんの気持ちが痛いぐらいに分かる……」
「……そうか、お前さんにも兄がいたのか……」
俯いたまま震える声で呟くシロを、ジンベエは痛ましい気持ちで見つめる。シロはルフィの手にそっと自分の手を重ね、続けた。
「でも、気持ちが分かっても何もしてあげられない……頑張れって、祈ることしかできない……」
「それだけで充分じゃろう……いいや、“それだけ”じゃない……お前さんはトラファルガー・ローと共にわしとルフィくんの命を救ってくれたんじゃろう?感謝してもしきれんわい」
「わたしはお手伝いをしただけで、なにも……」
「お嬢さん、名は?」
「シロです」
「シロさん、ありがとう。お前さんは間違いなく、わしらの命の恩人じゃ」
驚いたように顔をあげるシロにジンベエは頭を下げる。やがて、シロのまるい瞳に涙が浮かんでいく。それを隠すように再び俯いて、ジンベエの名を呼んだ。
「……泣いたことはだれにも言わないでください」
「あァ……わしは何も見とらん」
あくまで助けたのはローであって、自分はその手伝いをしただけだ。医術をかじる者として突然のことをしただけだ。友だちを助けたかっただけだ。それだけの理由だったのに、傷付いた人を助けるなんて当たり前のことなのに。頭を下げてお礼を言われるようなことなんてしてないのに。
ルフィを心配し、そして過去を思い出して弱っていた心にジンベエの言葉があたたかく沁み渡った。
※
- 女々島「アマゾン・リリー」-
緊急特例により女々島湾岸への停泊を許可されたハートの海賊団。シロは“女々島”に浮かれる船員たちに冷たい視線を向けつつ、暴れまくるルフィの身を案じていた。
「手に負えねェ!!」
「麦わらァ〜!!止まれ〜!」
亡き兄の名を叫びながら暴れ続けるルフィを仲間たちが止めようとするが誰の声も届かない。もちろん、シロでさえもルフィを止められなかった。
「アレを放っといたらどうなるんじゃ……」
「――……まあ単純な話…傷口がまた開いたら今度は死ぬかもな」
「…………」
「そんな……やっぱり、力づくでも止めないと!」
「やめとけ、お前にはアレは無理だ」
「でも……ルフィくんが苦しんでるのに放っておけないよ!」
立ち上がるシロを、ジンベエが制す。
「シロさん……ここはわしに任せてくれんかのう」
「…うん。ジンベエさん、お願いします」
でも無茶はしないように、と続けたシロに安心させるように笑みを浮かべ、ジンベエは森の中へと入っていく。その大きな背中を心配そうに見つめるシロに、ローがため息をついた。
「お前……いつの間に仲良くなったんだ……」
「ジンベエさんはいい人ですよ」
「それは…否定しないが……」
どこか複雑そうな表情でそう呟き、ルフィの麦わら帽子に視線を落としたローの隣に座る。
ルフィとジンベエがいなくなり、先ほどまでとは打って変わって静かになる。そして暴れまくるルフィを止めようとしていた船員たちの話題はいつの間にか女々島やら九蛇海賊団へと変わり、揃いも揃って浮かれた表情を見せていた。
「夢の女人国のぞいてみてェなァ」
「死ぬぞお前バカだな」
「メスのクマいねェかな」
「「女人国だよ!!!」」
「すいません…」
浮かれまくる兄貴分たちを冷たい目で見つめるシロ。可愛い妹分の冷たすぎる視線に気付いたペンギンとシャチは焦ったような表情で慌てて駆け寄った。
「シロ!シロがいっっちばん可愛いぞ?」
「そうそう!おれたちのシロちゃんが世界一可愛い!」
「意味分かんないうるさいあっち行って」
「そんな……シロ〜〜!!」
「冷てェこと言うなよォ!!」
ご機嫌を取るように話しかけてくる2人を無視していると森の奥からルフィの悲鳴のような泣き声が聞こえてきた。
兄を失った悲しみと、無力に打ちひしがれているのかもしれない。かつてのシロがそうだったように。
今は辛いだろうけど、乗り越えたらきっと、強くなれる。
「がんばれ……ルフィくん、がんばれ」
祈るように呟き、果てしなく続く海を見つめる。
もし次また会えたのなら、
あの屈託のない笑顔を見せてくれますように。
← | →
BACK