- 偉大なる航路 ゾウ -

「ここがベポの故郷なんだね」
「うん。って言ってもおれ、あんまり覚えてねェんだけど」

ベポの膝に乗り、寄りかかるように座るシロは興味深そうに森を見渡すも、すぐに視線を足下に落としてしまった。そんなシロの横顔をイッカクは心配そうに見つめる。
ローと離れてから、シロの元気はみるみるなくなっていった。周りに心配をかけまいと笑顔は絶やさないものの、ふとした瞬間に暗い表情を見せたり周りへの関心が薄くなって船員たちと会話することも減った。

このままだとご飯も食べなくなりそうな勢いだ。
……と危惧していたが、とある人物と仲を深めたことによりシロはまたよく笑うようになった。


「ネコちゃんおはよう!今日も可愛いね!」
「ゴロニャーッニャッニャ!人懐っこい娘ぜよ」
「みて!大きい猫じゃらし作ったの!」
「ニャ〜〜!!!?あガラ、センスあるのう!」

“くじらの森の守護神”かつ“夜の王”であるネコマムシと笑顔で戯れるシロに船員たちはホッと息を吐く。
親分肌で面倒見が良いネコマムシは日に日に元気をなくしていくシロを放っておけなかったらしく――何かとシロを気にかけるようになり、シロが元は人懐っこい性格というのもあってあっという間に打ち解け、シロは笑顔を取り戻したのだ。

「ネコマムシの旦那すげェよ……」
「ジンベエの時も思ったけど、シロって大物に懐きやすいし可愛がれやすいよな……」
「まァシロかわいいもんな〜〜」

鼻歌交じりでラザニアを食べるネコマムシと、彼に引っ付くように横に並び同じくラザニアを食べるシロ。やけにご機嫌な2人を見つめるベポたちの目はあたたかい。

キャプテンが帰ってきてこの光景を見たら、またお前は……と呆れながらも、シロの無邪気な笑顔を見て優しい目をするんだろうな、とペンギンは思った。

しかし――ローを待つ彼らに“災害”が降りかかる。







モコモ公国が“百獣海賊団”に襲撃された。
状況を聞いたシロはゆっくりと息を吐き出し、心を落ち着かせる……も、握りしめた手は怒りで震えていた。

「おれ……行くよ。ネコマムシの旦那には止められるだろうけど……故郷を守らなきゃ!」
「うん。わたしも戦うよ、ベポ」

勢いよく立ち上がったベポにシロも続く。
しかしベポは、おれだけでいい!と返し、シロの肩を押して座らせようとする。だけど、シロはそれを許さない。

「ここはベポの故郷だよ!?守るに決まってるよ!」
「シロ……!」
「そうだ!水くせェぞベポ!」
「仲間の故郷だ!守らせてくれ!」
「っみんな……!」

一斉に立ち上がった船員たちを見てベポは目を潤ませる。
頼もしい仲間たちだ。シロは誇らしげな笑みを浮かべながら刀を高々と掲げた。

「ネコマムシの旦那が起きたら、わたしたちも出陣しよう!」
「オォーーー!!!」
「ベポの故郷を守るぞ〜!!!」



――夕方6時

目覚めた“夜の王”の雄叫びに、シロたちもついに動き出した。ネコマムシには予想してた通り預かりの身だから戦う必要はないと言われたが、そう言われて大人しく引き下がるハートの海賊団ではない。

戦うのだ。
故郷のために。大切な仲間の故郷を守るために。


「シロ?」
「ベポ、わたしに行かせて」

一歩踏み出したシロの髪がふわり、と揺れる。
賞金首であるシロだが、トレードマークだったキャスケット帽もサングラスも身につけていなかったため、何者だと言う声や罵声が飛び交う。

「おまえらに名乗る必要はない」

感情を抑えつけたような低い声に、辺りが静まり返った。味方も敵も関係なくシロの圧に呑み込まれ、動けずにいる。
シロはゆっくりと顔をあげる。ジャックたちを睨みつける瞳は、激しい怒りを映していた。


「――絶対許さない」

シロから発せられる肌を刺すような殺気に、百獣海賊団のプレジャーズの面々が倒れていく。

「ゆガラ……まさか……」

ネコマムシが何かを言いかけたがシロはそれに何も答えず、静かに刀を構えた。

脳裏によぎるのは敬愛してやまない船長の姿。
いつも、無茶をするな、力は抑えろ――“正体”がバレたくなきゃ俺の影に隠れとけと言って、本気で戦うことを良しとしてこなかった。でも、今回ばかりはそうもいかなそうだ。

「キャプテン――言うこと聞けない、ごめんね」

命を懸けて、戦わせて。



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