「“雷ぞう”はどこだァ!?」
「だから、知らないってば!だれよ!」

聞こえてきた叫び声にシロは振り返る。
声の主を探していると数メートル先にリスのミンク族と、それを追いかけ回すギフターズの姿が見えた。

「いねェのは“罪”だぞ!大人しく差し出せ!!」
「いないものはいないのに……!」

ギフターズが刀を振りかざした、その瞬間――
ふわり、と風が吹いて髪が揺れる。
おそるおそる目を開けると、敵は地に伏せ気絶していた。そしてそれを隠すように綺麗な金色が飛び込んでくる。

「大丈夫!?」
「ゆティア、ベポ兄の…!」
「わ!腕、怪我してるね……ちょっと来て!」

手を取られて走り出す。
怪我に響かないよう、気を遣いながら走るシロの揺れる髪をじっと見つめていた。

「腕見せて!」
「あ、うん……」

建物の影まで来るとシロは背負っていたポシェットから救急セットを取り出し手際よく応急処置を始める。

「ごめんね、こんなことしかできないけど……!」
「ううん、助けてくれてありがとう……!ゆティア、名前は?」
「シロ!よろしくね。あなたは?」
「わたし、ラリスン。小さかったからあまり覚えてないんだけど、ベポ兄の幼なじみなの」
「そうなんだ!ベポはわたしの命の恩人なんだ」
「えぇ!ベポ兄が?」
「うん。死にかけのところをベポが助けてくれたんだ。ベポがいなかったらきっと死んでた。だから今度はわたしの番。大切な人の故郷を守らせてほしいの」

シロはラリスンの頭をそっと撫で、安心させるように優しい笑みを浮かべる。シロの優しさに触れ、張り詰めていた糸が切れたラリスンは静かに涙を流した。

「怖かったね……でも、もう大丈夫だよ」
「シロ……!」
「ラリスン、あなたはもう戦わなくていい。砦の奥にみんないる。ここはわたしが守るから、ラリスンは奥に隠れてて!あとでゆっくりお話しようね」
「うん、うん……っ!どうか、無事で……!」

ラリスンの背中をそっと押し、立ち上がる。
罪なき住人たちが理由もなく痛めつけられているのを見るたび怒りで狂いそうになる。けれど、怒りに任せたら終わりだ。冷静でいなければ、守りたいものも守れないかもしれない。

「ベポたちは大丈夫かな……」

ベポたちとは逸れてしまった。
仲間たちはもちろん、気にかけてくれたネコマムシや、仲良くなった侠客団、ワンダやキャロット、他のミンク族のことも心配だった。

戦いはいつ終わるのか……こぼれたため息は、遠くから聞こえてきた悲鳴にかき消された。







迎えた5日目――
倒れない2人の王と戦士たちにしびれを切らしたのか、ジャックが毒ガス兵器を持ち出した。一瞬でそれは国中に広がり、そして避けられるわけもなく……皆、倒れてしまった。

そこからが本当の地獄の始まりだった。
強者たちは磔にされて拷問を受けた。
動けなくなった戦士たちも痛め続けられた。

そしてシロも例外ではなかった。


「“疾風の女剣士”シロ、8000万ベリー……」

憎たらしい声に顔をあげる。
“旱害”のジャックが手配書を片手に自分を見下ろしており、シロはぐっと眉を寄せた。

「気安く名前を呼ばないで……」

肩で息をしながらも刀を握る手は降ろさない。
すぐ後ろにいる、磔にされたネコマムシを守るためだ。毒ガスを吸って意識が朦朧とし、血を吐き、血まみれのボロボロになりながらも、立ち向かおうとしていた。


「この国に“雷ぞう”はいるか?」
「この国にはミンク族とハートの海賊団しかいない……みんなずっとそう言ってんだろ、バカか」
「……気の強ェ女だ。オイ、コイツも磔にしろ!」
「ゲホッ……好きにやれよ、クズが」

嘲笑うシロにジャックの重い蹴りが入る。
足元に倒れ込んだシロを見て、ネコマムシが怒りの声を上げた。

「シロ……!オイ、ジャック……こガラはただの客人やき無関係のものをこれ以上巻き込むのは許さんぜよ……!」
「“疾風の女剣士”……こいつにはウチの部下を大量にやられた……もう無関係ではない」

ジャックの部下たちがシロを囲む。
ずっと気張り続けたシロもついに力尽き、手から刀が離れ、抵抗も虚しく磔にされる。

「なぜシロが……!」
「シロは客人だぞ!」
「黙れ」

戦士たちは反論の声を上げるがジャックがそれを黙らせ、部下に拷問を命じ、シロへと歩み寄った。

「“疾風の女剣士”シロ……“死の外科医”の右腕……」

ジャックを恨めしそうに睨み上げるシロの瞳は怒りに燃えており、まだ死んでなどいない。

「お前の暴れっぷりには手を焼かされた……その実力を買ってやろう。オレの部下になるか?部下になり忠誠を誓うのなら、解放して解毒してやっても構わねェが……」

視線がシロに集まる。味方敵関係なく、シロの答えを待っていた。
シロは絶対に屈しない。どんな状況であっても、相手が誰でも。しかし戦士たちの中にはこれ以上傷つけられる前にいっそのことその勧誘を受け入れてくれ、と願う者すらいた。
だかシロは――

「だれがテメェなんかの、カイドウの下に付くんだ、ふざけるな」

悩むそぶりも見せず、バッサリと切り捨てた。
辺りを見回し、今度は軽蔑したような目でジャックを睨む。

「こうやって卑怯な手を使うことでしか優位に立たないくせに、強者ぶってんじゃねェ」
「……」
「それに、わたしのキャプテンはトラファルガー・ロー、ただひとりだ……テメェやカイドウの数億倍かっこいい人だ!なめんな……クソ野郎が」
「…………残念だ」

刀を構えたジャック。真っ直ぐにそれを見つめ、受け入れる様子すら見せているシロにネコマムシや戦士たちがやめろと叫ぶ。

シロの脳裏を過るのは、仲間たちの姿――そして、愛してやまない船長の呆れたような表情だ。

「キャプテン……じゃじゃ馬娘でごめんね……」
「遺言はそれでいいのか」
「遺言じゃない。わたしは死なない」
「減らず口を……」

勢いよく振り下ろされた刀にツナギが赤く染まり、
ネコマムシの怒声が、戦士たちの悲痛じみた叫びが国中に響き渡った。



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