太陽の光を浴びてきらきら輝く金色の髪。
海を閉じ込めたようなコバルトブルーの瞳、それを縁取る長い睫毛。形の良い薄い唇。陶器のように白く綺麗な肌。

イチジは自分の許嫁であるシロを、精密に作られた人形のように思っていた。
貼り付けられた笑みは気にくわないがイチジに逆らうことはないし、王族らしく気品があるし、それなりに賢い。弱くたってシロは戦闘員ではないから戦争に出なければ良いだけの話であって、排除すべきモノではないと思っている。

シロは顔が良いとニジやヨンジがしょっちゅう話題に出してはいるが“イチジのモノ”だと分かっているので手出しはしない。シロの父親もイチジを認めてくれている。
シロだってジェルマ王国の次期王妃という立場は誇らしいはず。 失敗作を気にする素振りを見せることもあるが、強い男の方が良いに決まっている。そう、自分は成功作なのだから。


イチジが訓練を終え王宮を歩いていると、どこからか歌が聞こえてきた。何故か懐かしさを感じられるその歌に誘われるように歩いていると、小さな中庭に辿り着いた。

窓から顔を覗かせれば、そこにはシロがいるのが見える。どうやらシロが歌っていたらしい。

シロは金色の髪を風に靡かせながら穏やかに微笑んでいる。いつも貼り付けたような下手くそな笑顔しか見せないのに。

一体なにがそんなに楽しいのだと中庭に踏み出そうとして、すぐに足を止めた。

窓から覗いた時は見えなかったが、穏やかに微笑むシロのそばには、あの出来損ないがいた。


「イチジ?どうかしたのか?」
「なんだ、サンジとシロじゃねぇか」

いつの間にかやってきていたニジとヨンジが中庭へ入っていこうとするのを止める。
怪訝そうな表情をする2人を軽く睨みつけ、もう一度シロとサンジへ目を向けた。

しばらくすると歌声がやんだ。
歌いながらもせっせと何かを作っていたらしいシロがサンジに向かって笑いかけた。

「できた!お花のかんむり!」
「すっげェ…上手だな!」
「ありがとう。これ、サンジくんにあげる。王子さまだからちょうどいいね、とっても似合ってる」
「や、やめろよ。男が花なんて似合わねェよ。それにおれは……」
「サンジくんは、とっても素敵な王子さまだよ」

その瞬間、イチジはどうしようもない苛立ちに駆られた。

「オイ、浮かれた失敗作に制裁を与えろ」
「イチジはどうするんだよ」

ニジの問いに答えることなく、イチジは中庭へ飛び出した。
ようやく気が付いたらしいシロが勢いよく立ち上がりサンジの前に立つ。
威勢良く立ち上がったくせに、怯えた表情をしていた。それが更に苛立たせた。サンジを睨みつけ、シロの腕をつかんで中庭から出る。

「いたい、いたいよ!」

震えた声で痛いと繰り返すシロを廊下の壁に叩きつけた。白い頬を涙が滑っていくのをみながら、乱暴に顎をつかむ。

「おれは泣き虫も弱い奴も嫌いだ」

強制的にイチジを見上げる形になったシロは、瞳を恐怖で染めあげる。

「おれの方が強い。あいつは出来損ないだ。失敗作だ。いいか、弱さは悪だ」

顎から細い首へと手をおろす。
このまま、片手で絞め殺せそうだ。
シロは弱い。抵抗も出来ず、苦しさに涙を流している。弱い奴はいらない。排除すべきだ。けれど、シロをそうすることは何故か出来ない。

分からない。出来損ないのサンジを気にかけるのもイチジには理解が出来ないし、サンジだけに向けられた心の底からの笑みを見て腹立たしく思ってしまう理由も分からずにいた。

「…おれはいずれ王になる。王に恥をかかせる王妃なんていらない」

首から手を離せば、シロは崩れ落ちるように床に座り込んだ。咳き込むシロを一瞥してから背を向ける。

シロは出来の良い人形だ。
ただただ自分のそばにいればいい。
余計な感情なんていらない。持たせない。

お前はおれの“モノ”だ。

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