目が覚めると真っ白な部屋にいた。消毒液の濃い匂いが鼻にツンときて思わず顔をしかめる。

「起きた?」
「レイジュちゃん…?」

ベッドのそばにはレイジュがいた。じっと見つめてくるその表情は怒っているようにも、何かを堪えているように見えて申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「だから言ったじゃない…だれにでも容赦しないって。頭から血が出てたのよ、さすがにびっくりしたわ」
「うん…ごめんね」
「あと、首にもひどい痕が残っているからしばらくは包帯を巻いておけってお医者さまが言ってた」
「そっか……ねえ、レイジュちゃんが助けてくれたの?ここはどこ?」
「最後尾の、病棟よ。サンジに呼ばれて、わたしがここまで運んだの。自分もボロボロなくせに、アンタが大変だって大泣きしてうるさかったんだから」
「サンジくんは、どこ?」
「さあ……それよりもお母さまがシロが起きたら会いたいって言ってたの。歩ける?」
「うん」

レイジュの手を借りてベッドを降りる。そしてそのまま手を引かれて向かったのは隣の病室だった。

「お母さま。シロが起きたわ」
「シロちゃん!久しぶりね」
「おひさしぶりです」
「ふふ、また可愛くなったわね。入って」

優しい声にシロは頭を上げ、レイジュとともにベッドのそばに駆け寄る。
前に見た時より痩せているように見えたが、シロに向けられた笑顔はいつものように明るかった。けれどその笑顔はすぐに曇り、申し訳なさそうに眉をたれ下げる。

「レイジュから話は聞いたわ。女の子に傷なんか作らせて…ごめんなさい」
「だっ、だいじょうぶ!です!もう痛くないし、わたしが怒らせちゃったから…」
「シロちゃん…あなたは、優しい子ね」

シロの手をぎゅっと握って、優しく微笑む。その微笑みがあまりにも儚くて、いまにも消えちゃいそうで、不意に泣きそうになった。

「これからも、あの子たちと仲良くしてあげてね」

こくりと頷けば、頭をそっと撫でてくれる。
そのぬくもりを忘れないように、優しい笑顔を忘れないように、瞼を閉じた。

次は、いつ会えるか分からないから。







「わたしのお母さまは、わたしを生んですぐに死んでしまったの」

病棟からの帰り道、シロは突然そう言った。隣を歩くレイジュは驚いたようにシロの横顔を見つめる。
シロに母親がいないことは聞いていたけど、詳しくは知らなかったから。

「だから、お母さまというものが、どういうものかよく分からないけど、」

顔をあげたシロが、レイジュに笑いかける。母のような、包み込んでくれるような優しげなその微笑みに、レイジュは立ち止まった。

「でも、レイジュちゃんのお母さまは、とってもすてきなお母さまだね」

シロが浮かべた微笑みが母の儚い微笑みと重なる。ぜんぜん違うはずなのに、どうして重なって見えたんだろうか。
シロはたまに大人びた表情を見せる。イチジが怖い、サンジがかわいそうだと泣く姿からは想像が出来ないぐらいに落ち着いた表情をするのだ。

「わたしも、あんなひとになりたいなあ」

空を見上げたシロに、ぽつりと呟く。

「……なれる」
「え?」
「アンタなら、シロなら、きっとなれるわ。お母さまのように、優しくて強いひとに、きっとなれる」

きっぱり言い切ったレイジュに、シロは驚いたように目を見開く。でもそれは一瞬で、今度は照れくさそうに笑った。

「ありがとうレイジュちゃん。優しいね」
「優しい?わたしは優しくなんかない」
「そうかな。わたしは優しいと思う」

ほら、やっぱり変に大人びている。何もかもを見透かしたような瞳をして、見守るかのように優しく微笑む。でもレイジュは、その微笑みが嫌いではなかった。

「アンタって本当変よね。サンジとお似合いよ」
「なっ、なななんでサンジくんが出てくるの!?」

分かりやすく頬を赤く染めたシロに、思わず笑ってしまった。シロは隠しているつもりでも、レイジュから見たらバレバレだ。

「本当のことよ、シロに嘘はつきたくないもの」

それは嘘でも、皮肉でもない。母に似て優しいサンジと、同じように優しい心を持つシロは、本当にお似合いだと、心の底からそう思った。

運命に逆らうことは、決して出来ないけれど。



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