目覚めると、知らない部屋にいた。
消毒液の匂いと、花の甘い香りが鼻腔をくすぐる。一体、ここはどこだろうか。
知らぬ間に頬をぬらしていた涙を拭い、身体を起こす。部屋には自分ひとり。ベッドの隣に備え付けられたミニテーブルには綺麗な花と、丁寧に編み込まれた花かんむり。
「……サンジくん?」
無意識のうちに、するりと、その名前が出た。ハッと我に返ったシロは口元をおさえる。何故、彼の名前を呼んでしまったんだろう。
「シロ…?」
名前を呼ばれ顔を上げると、部屋の入り口にシロクマが立っていた。
「ベ、ポ……」
「っシローーーー!」
名前を呼べば、涙を流しながらドスドスと駆け寄ってくる。飛びついてくるのかと思い身構えたが、ベポはベッドのすぐそばで止まった。
「目が覚めたんだね、よかった…!気分は?悪くない?」
「うん……大丈夫。身体はちょっと痛いけど、でも全然平気。それより、みんなは?」
「みんなも無事だよ!」
「よかった……」
安堵のため息を吐きベッドに倒れこむ。あんなめちゃくちゃにされても、あんな毒ガスを撒かれてもみんな無事だったなんて奇跡に違いない。
そこでふと、自分を助けてくれた人物のことを思い出す。あれは夢なんかじゃない。間違いなく、誰かが見つけてくれた。
「ねえベポ。だれが助けてくれたの?」
「麦わらの一味が上陸してきて、おれたちを助けてくれたんだ。シロを助けたのは黒足だって聞いてる」
「黒足……?」
「ええっと確か、名前はサンジだったかな。ほら、手配書が似顔絵だったヤツ!」
サンジ。知っている名前に眉を寄せた。
シロが知っているその名前の子は、金髪で、ぐる眉で、料理が好きな、とても優しい男の子。
ベポのいう手書きの手配書は話に聞いただけでチェックまではしていなかった。自分の船長以外には興味がないから情勢にも疎い。日頃から手配書を見ておけばよかったと頭を抱える。動き始めたばかりの思考回路はショート寸前だ。
「シロ!?やっぱりどっか痛むの?」
「ううん大丈夫……ねえベポ、その黒足さんに会いたい」
「アイアイ!探してくるね!さっきまでここにいたから、すぐ見つかると思う。ついでにペンギンたちと、麦わらのとこの船医にもシロが目覚めたこと伝えてくる!みんなすっごく心配してたんだ」
「ありがとう、ベポ」
元気よく飛び出して行ったベポの背中が見えなくなると、シロは深いため息をついた。
「サンジくん……あなただったの……?」
ずっとずっとあなたに会いたかった。
あなたとの約束を忘れられなくて海へ出た。
忘れられる、訳がなかった。
はじめて恋をした、優しい優しいあの男の子を。
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