サンジが海難事故で亡くなった。
速達で届いたその訃報を、シロは受け入れることができなかった。
この日のために下ろした黒いワンピースを着てサンジの葬式に出席しても、サンジの死を嘆くジェルマ王国の民たちを見ても、シロは何の実感も湧かなかった。
「お前、サンジと仲良くしてたわりには泣いたりしねェんだな。冷てェなァ〜」
にやにや笑いながら肩を組んできたニジを冷たい目で一瞥し、肩を振り払って歩き出す。弟が死んだと言うのによく笑っていられるな。感情を持ってない人間に何を言っても意味がないとよく分かっているし時間の無駄だ。彼らへの恐怖心もなくなっていた。
「どこへ行くんだ」
イチジの問いかけにも答えない。目すら合わせない。ニジとヨンジが苛立ちを露わに睨みつけても反応すらしない。まるで人形のように表情を失ってしまったシロを、レイジュは心配そうに見つめていた。
※
「ここにいたの」
王宮の中庭にシロはいた。手入れのされていない花畑の中心で、膝を抱えて座っている。
「何してるの」
「お花、こんなになっちゃって、かわいそう」
「園芸はお母様の趣味だったから……亡くなってからも手入れをしていたんだけれど、お父様がもういいって」
「そうやって、ソラ様の面影を消していくのね」
ぞっとするぐらい、冷たい声だった。ゆっくりと顔を上げたシロと目が合う。レイジュが好きだった優しい笑顔は、優しいシロは、ここにはいない。
「レイジュちゃん、オールブルーって知ってる?」
「……、知らないわ」
「どこにあるかは分からないけど、そのオールブルーってところには世界中の海の魚が集まっているんだって。そこに行こうねって、サンジくんと約束したの。サンジくん、世界中の魚を使って、美味しい料理を作ってくれるって…約束したのに……」
あふれた涙が白い頬をつたって、枯れた花の上に落ちる。レイジュはそれを黙って見つめていた。
「うそだよ……サンジくんが死んだなんてうそ。いやだよそんなの、サンジくんともう会えないなんていやだ…!」
血の繋がった父親より、同じお腹から生まれた兄弟より、サンジの死を悲しみ泣いている。シロはサンジを本当に大切に想っていた。それを見てきたからこそ、かける言葉がない。
「サンジくんに会いたい……ッ」
これから先、シロはどうなってしまうんだろう。サンジを失った傷が癒えぬまま、イチジと共に過ごさなければいけないのか。光を失った瞳で、この国でただただ生き続けるのか。シロはよく笑いよく泣きよく怒るからこそ、誰よりも美しいのに。サンジもそんなシロを好きになったはずなのに。
サンジ。本当は出来損ないなんかじゃない、母と同じように優しい男の子。きっと自分が思っている以上に大切な、弟。
泣き続けるシロのすぐそばに座り込み、そっと涙を流した。もう、あの子には会えないのだと。
← | →
BACK