壊れ物を扱うような優しさで


時計の流れる時間が、誰が幸せだと言ったのか。
思い出したくない過去ばかり、私の中を抉っていく。



目を空ければ、どこか判らないくらいに暗い部屋。
昨日は何をしていたっけ、と思い出そうとするもモヤモヤしていたばかりだった。

丁度昨日は夜に帰るところだった、だけど家に到着した記憶はない。
急に後ろから、鈍痛なものがあったような…。

ここまで思い出すもズキっと後ろから痛みが走る。
なんということだ。冷静になって辿りついたのが拉致監禁か。

此処はどこだ?真っ暗の部屋で何もわからない。
なんとかして、連絡したいがGHSも手元にない。取られたか…。

色々考えても、突破口がない。
おそらく、こうした原因は思いつく。



「……はぁ。」



―――あの時にやったことがまだ甘かったのか。
とあることが脳裏に過ぎる。
でも、強いわけじゃない。私はそんなに強さは求めてない。



「私は…ニコラだ、ニコラ・ノールだ。“舞姫”なんか、じゃ…ない。」



最初は、唯の護身術としてかじったのがキッカケだった。
唯の守られる女としている自分がキライでしかたなかったから。

それが段々身体を動かす事が楽しくなってきて、強くなっていくのを実感するようになった。
これで私は守られるだけじゃない、と実感できるのが嬉しさとなった。

それなのに――どこで過ちを犯したのかわからなかった。
知らないうちに知らないところまで強くなってしまったのを、気付くべきだったと後悔する。


気付けば噂の強者を聞いてはあちこちで噂を立てるようなことまで至ってしまって。
あるときは声をかけられ、あるときは戦いを求められて。

そして、この問題は私ひとりでは対処できないレヴェルまで達していた。

だから封印した。日頃は唯の女の子として過ごすために。
この強さを“舞姫”と呼ばれる所以の力を出さないように。


知られたくなかった。


私の強さは決して強さを示すためのものではなかった。
私は、唯守られるだけの存在がイヤだったのに。

守られるだけの存在が厭で、強くなってしまった事はいけなかったのだろうか。

考えれば考えるほど、私の選んだものは間違っていたのかと錯覚してしまいそう。
怖い、怖い怖い怖い怖い怖い。


バンッ!!


私のマイナス思考を一蹴するかのような、大きな音がした。
音のした方を向けば、逆光がシルエットを映し出した。



「ッ…ニコラ!!」
「!…ゆり、うす……?!」

「心配したんだぞ。」



ぎゅうっと力強く抱きしめる貴方の腕が、とってもあったかい。
この人・ユリウスを、ルドガーを、守りたい存在でありたかったのに。

あぁ、なんて私は弱いんだ。



「ユリウス…なん、で…ここが……。」
「俺のこと、覚えてるかい?ミス・ニコラ。」



後ろから赤いコートの男。名前は確か、リドウって言っていたっけ。
コイツの姿を見ればぞわりと粟立つものを感じた。



「ッ!!」
「おっと、俺は偶然君が何者かに拉致られたところを見ただけ。
んで、それをユリウス室長に報告しただけだ。」

「アイツの言っている事は本当だ、ニコラ。」



ユリウスの言葉に漸く納得しては、ぎゅっと白いコートの裾を握る。
怖い、という感情とかじゃない。

これは、不安だ。
不安でしかたなくて、でもそれを素直に吐き出せない自分の弱さだ。



「おいおい、ツレないなぁ。」
「だって…信用しちゃいけない目、してるから。」



完全に警戒しなければならない、じゃないんだ。
だけど、信用はしてないと告げてくる。

それを悟ったのかヤレヤレ、と手を中途半端にあげてはくるりと翻す。



「ユリウス、ひとつ貸しな?」



そういって、リドウはその場を後にした。
今はユリウスに抱きしめられたままの私。
私は、ユリウスに、本音を言うのが怖かったのかもしれない。

“怖かった”だとか“助けてくれて有難う”とか。素直に出なくて。



「あ、あの…そ、の……。」
「言いづらいなら、まだ言わなくてもいい。」



ぴたりと私の言葉を制するように告げてアナタの優しい声がする。
本当に、ユリウスは優しい。優しすぎるほどに。
だから、時々苦しく感じちゃう。

そんな優しいユリウスを、私が苦しめてしまうのではないかって。
そう思った矢先、ユリウスが私に視線を少し外して苦笑する。



「だが、俺はまたダメだったな。
そういって、ニコラの言葉を聞かなかったのだから。」
「…え。…ユリウス……?」



アナタの言葉に首をかしげて名前を呼ぶと、
意を決したかのような顔をしては急に両肩を掴んでは真剣な瞳がこちらを見た。



「俺は、ニコラの本音を聞きたい。辛い事も、悲しいことも、全部。」



多分判っていたつもりだったのだろう。それを敢えてこう告げる。
本当に、アナタは優しい。こんなにも、こんなにも。


私の殻も、すべてを壊して覗こうとするのだから。
決して無理矢理壊すのではなく、ゆっくりと壊れ物を扱うような触れ方で。

気付けば、私の殻は砕かれてて、アナタの胸板に顔を埋めては、大泣きしていた。





壊れ物を扱うような優しさで
(“アナタの優しさは、私を包んでくれていた”)
(本当に、俺ばっかり隠し事をして…)
(だって…迷惑かけちゃうって思ってたから)