憧れから恋の音に移りゆき
元々は幼馴染の兄さん、という見方。
それが、次第に憧れに変わっていった。
だが、更に変化するとは、思いもしなかった。
「あ、あの…ユリウス兄さん。」
「おや、まだ出てこないかい?」
幼馴染のお兄さん・ユリウスはくすりと笑ってこちらを見てきた。
あぁ、本当にあの優しい目ってずるいとことごとく思う。
でも、あの優しい目は時折意地悪を孕むことがあるのも知っている。
そして、そういった眼は私に向けられるってことも。
「折角名前を呼んでくれたんだ。ちゃんと慣れておかないとダメだろ?」
慣れろ、というのも難しいんですお兄さん!
確かに今までは幼馴染のルドガーの兄ということでお兄さんと呼んだ方がしっくりしていたのだけど。
幼いころから言い続けていた分、唐突に呼び方を変えるなんて難しい。
そりゃ憧れというか、こんなお兄さんは素敵だなって思ってたけど。
変わる理由がソレが恋人のソレということになるのだから。
ドキドキが止まらなくて、憧れだった人が恋人になるということは どんなことになるのか。
「で、ですけど…そ、その……ぁ…あ……。」
「“あ”?」
「……あ、憧れ、の…ひと…ですから……。」
憧れの人。
本当に小さい頃から頼りになって優しいお兄さん。
そんな人が私との恋人、といっていいのだろうか。時折不安になる。
憧れの人から恋人という関係に変わるのは、私にとっても大きな意味を持ってて―――。
(私にとっては、大事なところが大きく変化するの。)
「はは、“憧れの人”か。」
「ユリウス兄さん…?」
小さくユリウスが笑うと、そっと近寄ってはするっと頬に指が滑る。
男特有の骨ばっているものの、すっぽりと頬を覆う手に反応が遅れては吃驚したように目を開く。
だって、余りに唐突だったし、ユリウスさんが急に正面から近寄るから。
「俺はもう、とっくにニコラとは恋人同士だと思っていたんだけどな。」
「ゆ、ユリウス兄さん!?」
「こら、ちゃんとこちらを見るんだ。…そう。」
驚いたのと悪戯っぽく笑いつつ告げるユリウスの言葉に唯々頷いてしまい、言われるがままに向いてしまう。
見られている、ということで頬に熱を集めたまま視線を向けて。
「顔が赤いな、ニコラ。」
「……ッ、ユリウスの所為です……。」
「はは、すまない。つい意地悪してしまうなと思ってな。」
また悪戯っぽく笑う彼になんだか翻弄されている気がする。
(いや、紛れもなく翻弄されているんだろうけど)
それでも強く否定する、という選択肢が自分の中では無いのは―――。
(あぁ、やっぱり。私、ユリウスのことが好きなんだ。)
でも片思いだったらどうしよう。
自分から想いを告げるのはすごく苦手だ。
大好き、という言葉を発するのも。
だけど、優しいアナタのために、多分今後しない勇気を振り絞る。
「…ぁ………ぁ、…あ、あの……。」
「?どうかしたんだ、ニコラ。」
「…ぁ…、ぇ、と……そ、その……キス、してくれ、ません、か……。」
恋人ならば、出来るはず。
過去にも何回かされたけど、自分でこういったのは多分、ない。いや、ない。
でもこれっきりだ。やっぱり恥ずかしくなって顔はみるみると赤くなる。
こう言えばしてくれるのか、と不安になった。…が、そんなものは杞憂で終わった。
「あぁ、ニコラが望むなら、幾らでも。」
にこりと微笑んでは、頬を覆ったまま、優しく口付けを落とされた。
相変わらず触れ方は優しいけど、ほんの少し強引で。
それが、なんだか、心地よかった。
憧れから恋の音に移りゆき
(まさかニコラから行ってくれるとはな。)
(!!も、もう言いませんから…!)
(残念だ、ニコラの口からもう一度聞きたかったのだが)
(!!?)