ひょっこりと抜け出せば、騒がれる貴族院。
なんせ、理由ははっきりしている。いつものように脱走娘が原因で。
部屋の中での閉じこもりが嫌いであった少女は、例によって隠し通路を使っては貴族院を飛び出す。
お城を通ることができないために、隠し通路に脇道云々を駆使してやっと見つからない場所まで向かうことができた。
ぱたぱたと走り息をゆっくりを吐いては吸っての息を整えつつ、懐から出したのは箱のオルゴール。
大好きなものだったから常に持っていたのだけれど、
両親は余りに古いものだから壊れたら捨てようという魂胆の人。
それを必死に隠してはこっそりと隠れて音を奏でる。
この音が、一番好きだから。
「…あ。また壊れちゃった…。」
暫く心地よく聴いていたのに、音がおかしくなればパタンと閉じて箱を眺める。
大事なオルゴールは、ニコラが小さい頃に亡くなった曾祖父から貰ったもの。
大好きな曾祖父様だったから常に肌身離さずだった。
しかし、余りに古いため、歯車が合わなくなってしまうのもしばしば。
こうなると、またいつものように直してしまうしかない。
彼女がお気に入りのオルゴールを直すには、技術を持ち合わせていないから。
「戻っていつもの修理屋に向かおうかな…。でもバレたら厄介だし…。」
たったひとつの。ひとフレーズが好きだった。
だから、このメロディを大事にしたかった。
ピアノ、バイオリン、ハープ、オカリナ。多くの音でメロディを奏でた。
それでも、私は一番オルゴールの音が好きだった。
切ない音、可愛らしい音の両面を持った 金属がぴーんと音弾く旋律。
だけど、物というのは永遠を形作らない。
そもそも物とも含めて世界には永遠がない。
人の命も、同じように。
「でも参ったわ…直すにしても、両親に知られるワケもいかないし…。」
「…ニコラ様…?」
「…シュヴァーン隊長。丁度良かった。」
『ちょっと来て』と言わんばかりに手を招く。
世間知らずってワケではない。何回か外を出たこともある。貴族院は未だに飛び出せてはいないけど。
…しかし。この帝国・ザーフィアスは巨大な結界が守るが故に束縛される。
だから、本当の意味での外の世界を知らない。
ある意味監禁されてると言っても過言じゃなかった。
彼女。ニコラ・ノールだって年頃だ。
私の生まれはレール上の人生だけど、世界そのものに興味は溢れていた。
ちなみに、彼。シュヴァーン・オルトレインのことを隊長とつけて呼ぶのは、部下たちや騎士団がそう呼んでいるのをよくみかけているのを真似っこしているだけだったりする。
(何回も止めるように言われているが嫌だと拒否しているために、もう諦めたらしい)
「これをいつもの人に直して欲しいようにお願いして欲しいの!ハイ、コレ修理費!」
「また壊したのですか…ニコラ様。」
「壊したんじゃない!もう半世紀も前からあったやつなの。曾祖父さまから貰ったのは大事でしょ!ね?」
肌身離さず持っているが故に箱型のオルゴール内部にある箱を開ければお金が詰まっていた。
それも承知済みのシュヴァーンはため息交じりで大事な箱を受け取る。
よく貴族院を抜け出そうとするときに、大体ニコラを捕まえるのはシュヴァーンと決まっている。
抜けようとしたり隠れようとするときに、大体見つかっては周りの人を困らせるなと説教も入る。
部下には厳しく優しく。まさに慕われる隊長というべき人でもある。
確かに厳しい人だけど、私は好きだった。
困ってるときにはちゃんと助けてくれるし、両親に話せないことは大方彼と話している。
「ねぇ!外の世界ってどんななの?私もいずれは外の世界を知れるのかしら。」
「外の世界に…?」
「あれ?ダメだった…?私は興味あるの。危険もあるだろうけどさ。」
まだまだ幼い子供。とでも思っているような口ぶり。
これでも成人はしてる。だから、それに見合った知識も成長もしたいというのに。
「ニコラ様がいつか…その時が来れば、私めが。」
「…本当?」
一から十まで聞かず、思わずじっと見てしまう。
そう訊けば、小難しい顔がほんの少しだけ柔らかくなる。
(あ…この表情。結構好きかも知れない。)
ぽんぽんと撫でるその手がなんとも子供扱いでむっとはするけど、でも好きだったりする。
大切なオルゴールも、彼だから預けられる。ちゃんと秘密にして、こっそりと返してくれる。
ねぇ。約束。守ってよね?
秘密の約束
(ね!あと、ひとつお願いしていい?)
(…?)
(…二人っきりのときは敬語なしにしてくれる?)
(それは流石に、)
(無理か…じゃ。様付けなしで!)