ファーストインパクト


琥珀色の目をした、大太刀を持つ黒髪の男。
もう、忘れようと思っていたんだけど。



「ロクロウ。」
「ん?」



唐突な言葉とともにずいっと手を差し出した。
目の前にいるのは、同じ琥珀色の目をした黒髪の男で。



「手。」
「手?」

「さっさと出す。」
「お、応……。」



そっちじゃないと言って彼の左手を手に取った。
治療術はかけてもらってるけども、つい先ほどまでにはこの手にあの大太刀『號嵐』を素手で受け止めていたのだから恐ろしい。

その怪我具合をどう考えても無事じゃないのに、本人は至って平然な顔をしてまだ刀を握られるんだからこれまた恐ろしい。
(人間だったら絶対安静だ。しばらくは。)

まぁ、治療術をかけてもらっているんだろうけど更に念には念を入れて薬を施して包帯を巻いた。

古典的。クラシックな手段だが、ちゃんとそのあたりはしてもらわなきゃ困る。



「はぁ…本当に無茶してばっか……。」
「あぁ、これぐらいしないといけないからな。」

「だまらっしゃい。」



アンタは無茶しかしてないでしょ、と続けて巻いた包帯を解けないようにしっかりと巻いてやった。
戦闘モードじゃなきゃ穏やかなんだけど、どうしてあそこまで変わってしまうのか。
(あ…、夜叉の業魔なんだからか。そうだった。)

無茶もするし、さっきだってそう。
アイツとは因縁の相手であることは知っていたが、スイッチがはいったらそうそう止まらない点なのは本当自由と言うか……。
思わず、ひとりごちる。



「……はぁ。アイツもアイツだけど、あんたもあんたね。」



彼女のため息混じりの声。
まるで、その口ぶりは知っていたかのようなそぶりで。



「……ニコラ。お前シグレを知っているのか?」
「あんなヤツ知らない。知りたくもない!」



あきらかな、失言。
明らかに動揺したニコラの瞬間を逃さずにロクロウはすかさず聞いた。

考えれば、コイツに取っては初対面のはずなのに何故かアイツ…シグレはニコラを知っていた。
(しかもなんかアイツはコイツをみるなり、また会ったなんて嬉しそうな顔していた。)



「でも、お前。アイツが知って…」
「知らないって言ってるでしょ!」

「あだだ、や、やめろって!」



あぁぁあああ!思いだしたくない!!
その反動で包帯を思いっきり、キツく締めあげた。

あんなことを思い出してしまったために、ただただ動揺するしかなかった。


掘られたくない話なのか?
そうロクロウは思ったが、このニコラが特等対魔士にしてランゲツ家当主の男にどんな因縁があったのか。

コイツは怖いもの知らずというか度胸の据わった女だとは知っていた。
だが俺の知らない部分にアイツが絡んでいると思ったら、いてもたってもいられなくなった。
真剣の表情で、ニコラを見据えた。

よくよく考えれば、初めて俺に会うなり早々に飛び膝蹴りをかましてきたことは覚えている。
(勿論見きって一度も当たることなくかわしたが。)



「それに……、お前。そう言えば初めて俺を見るなり襲い掛かったのも、アイツが絡んでいるのか?」
「………はぁ。話さなきゃだめ?」
「応。」

「仕方ない、話してあげる。」



諦めたわ。
きっとロクロウのことだからシグレが絡んでることに黙ってるはずはない。
(でも、あんまりなー話したくないんだよなー。私の大失態晒すんだから。)

盛大にため息をついて、一言だけ告げた。



「……されたのよ。」
「………は?」

「だから、セクハラ!アイツに会うなり抱きつかれたのよ。」



もう悲鳴挙げるしかなくて、思いっきり裏拳してやったんだよね。
なんでか知らないけどもう驚きで、あの状況のことは覚えていない。
それほどまでに一瞬のことだったのだから。

そういえば、それのせいで反射的に声よりも足が出ていた。
忘れもしない琥珀色の目をした大太刀を持った黒髪の男を見て襲ったんだっけ。

勘違いだったのだが、あながち間違いではなかった相手に思わず蹴りを入れてしまった数日前のことを思い出した。


琥珀色の目をした黒髪の男に、怨敵退散と悲鳴をあげて出会ってそうそう飛び膝蹴りをかました。
それが、ロクロウとのファーストインパクト。





ファーストインパクト
(それなのにまた会ったら覚えていたし、しかもあんな顔されて…本当困ったわ。)
(……お前、怖いもの知らずと言うか…。ある意味すごいな。)