賭け事の末路


なんでか興味を持たれてしまって数日がたつ。
私にはなんでこうなったか皆目見当がつかない。

それほどまでにシグレと名乗ったこの男の考えがまるで読めないのだ。

別に治療を受けるような怪我ははないし。
(むしろ、私なんぞ不要とばかりに恐ろしく強いし。)

かといって離れる様子がまるでない。
(逆に私から離れようとしたらシグレに声がかかって離れられないし。)


私は怪我人を治す治療士だ。そんな私の力はまるで不要な状態にも関わらず一緒にいるからむず痒い。
私としては、早く必要である場に行かなければならない。
それにも関わらず、一緒にいると怪我をした者たちが現れない。力を使えないから、なんかもどかしい。



「なぁ、ニコラ。」
「……何。」



そんな中。シグレが私の名前を呼ぶ。



「お前って、武器は使わないんだな。」
「そりゃ…治療士ですし。獲物を使うのは戦いじゃなくて緊急の手当の時くらいよ。
それに、一応私は強いですし。」



息を軽くついて流すつもりだった。
でもその言葉が火をつける元凶だと、気づいたのは少し遅かった。



「ほう?そりゃ面白いな。ニコラ。」
「…今度は何。」



ニヤリ、と響きが似合う笑みを浮かべる。
この笑みは豪快に明るく笑うものよりかは、明らかに異質なものだった。

その違和感に気づくべきだった。すぐにでも逃げだせば、ああはならかったものを。



「ひとつ、賭けでもしようや。」
「……は?」

「なに、負けたほうは命を貰うなんていわねぇよ。ただ、お前の腕前をみたくなっただけだ。」



賭け事の方が盛り上がるだろ?と相変わらずこの男は笑う。
……それにしても、なんだろうか。この違和感は。
すぐに結論は出ず、違和感の正体に気づくことなく、話を続ける。



「変わってるわね…。で、何を賭けるの?」
「そうだな…。負けた奴は勝ったやつの言うことを聞くってどうだ?」

「……一度切りなら。」




あぁ、これで成立だなとまた笑う。
こういった賭け事は定番だが、これを延々とされては私の後々の行動に制限がかかる。
(正直な話、賭け事の内容は決まってる。早くいつもの旅に戻りたい、というのが本音だった。)



「そうだな…お前は今から時間切れになるまでに俺に一撃を与えればいい。それまで俺は一切手を出さない。というのはどうだ?」

「そっちからは手を出さない…そんなことでいいの?」
「あぁ。それだけだ。」

「まぁ、それなら。」



これならまだ勝算はある。
もし戦うことか勝敗を決めるものだったら、無理なのはわかっていたから。
傍目からしかわからないけど、シグレは強いってことは体感的にわかる。
(今まで押されたところなんてみたことなかったし)


この賭けは負けるわけにはいかないと決心していた。
負けてなにか1つを聞かなきゃならないなんてごめんだからだ。


そう、数十分前に思っていた。




「俺の勝ち、だな?ニコラ。」
「う、嘘……?!」



手はすべて出し尽くした。
人の動きには癖が各自あり、完全な型にはまればそれもまた弱点となる。
完璧なスタイルなどない、それは今までより多くのものを視て治療を施したからわかる。

より多くの人間のサンプルを視て、治療を施すことで癖を見抜く。
それが私のスタイル。
故に、数多のサンプルを使いこなす私には、オリジナルが存在しない。
数多のサンプルを混ぜるから、私自身の癖を見抜かれることは、ない。


なのに。それにも関わらず、言われたとおりに一回も反撃はしなかった。
数十分も攻め続けたのにすべてかわされ、最後の一撃は素手で受け止められていた。

これで確信した、これこそ本物の天才なんだと。



「……ッ!?」
「楽しかったな、ニコラ?」



その時に見た笑みに、戦慄する。違和感だと感じた正体は、異質なこの瞬間。
いつも豪快に笑うときの笑みとは異質だったからだ。

その異質の本質は、まだ知らない。





賭け事の末路
(……で、なにをさせるのですか。)
(実は決まっているが、また今度な?)
((早くここから逃げたい……!!))