Nocturne tradition


ひとりの気まぐれなお嬢様による、ひとりの騎士隊長の苦悩。
そもそも彼女ニコラ・ノールのゲームで勝者が彼シュヴァーン・オルトレインになったことによる些細なきっかけが事に至った。


「お早うございます。」
「また来たのか、ニコラ。」


親と騎士団が大嫌いなニコラのはずが彼にだけは懐いてしまった事だ。
その結果シュヴァーン隊にニコラの父が所属しているのもあって、隊内では彼女の存在は公になり、また神出鬼没の名も広まっているため知らないものは逆にいなかった。

唯の娘っ子ひとりなら特に問題がないのだが、彼女の覚えようと思えばなんやかんやで吸収してしまう。
鬼ごっこでは神以上の強さでシュヴァーンに負けるまでは騎士にすら捕まらないという無敗伝説を誇っていた。
だが、始まりは単純で下町に身分を隠して忍び込んだ際に子供たちが鬼ごっこをしていたことだ。その際に飛びっきりに逃げるのが上手い子は『コツがある』と言って、その子の動きを“なんとなく”見ていたら出来てしまったという。末恐ろしい。

かつてシュヴァーンが彼女の“逃げの際の機敏”に目をつけた原因の要素だ。
しかし彼女にそれを気づいたのは随分後だと言う。

ただし、そんなことで逃亡絡みでは知らないものはいないと有名なニコラ・ノールはザーフィアス城の中では驚くほど大人しかった。
多分理由は悲しくも父ではなく、彼女がなついたシュヴァーンにあるのだろうが。


「今日は、“シュヴァーン隊長”。」
「あ、あぁ‥ニコラ。」


にっこりと笑っては一騎士の真似っこのように敬礼をする。
明らかに不自然だったために彼女の名を呼んでくるが、肝心の彼女は何故に呼ばれたかまったく判ってない様子で。


「はい?」
「何故にその呼び名だ?」


呼び方。とくれば少し考えればポンと謎が解けたような笑みを浮かべて言う。

だが嬉しさと一緒に違う感情が入り交じったような表情を浮かべた。
その様子では何かあるな、と感じたかポンと彼女の頭に手を置いた。


「あ‥。“シュヴァーン隊長”!」
「そうだ。」

「だって‥‥」



夜想の伝説
(ルブランたちが羨ましいんだもん‥“隊長”って呼び方カッコいいし)
(はぁ‥ニコラは“シュヴァーン”では物足りないのか?)
(‥ちょっとだけ)
(‥だが私が慣れない。ニコラは今までの呼び方が合うからな)
(ほ、本当?!じゃ‥‥時々、ね?)
(‥仕方ないお嬢さんだ。)