Night helper!



お昼まっ盛りの時間から貴族街やら何やら回り、夕方にまで回れば例のお嬢さんを帰す頃。
しかし。例のお嬢さんが来たのは何ともう少しで夕方。

本来なら、真っ先に帰される。その筈が、今回ばかりは少し違かった。



「シュヴァーンさ…いや、隊長!」
「!ニコラ…いきなりどうしたんだ?」
「いやですね。あの、お仕事手伝おうと思いまして!」



屈託のない笑顔を見せるが…訳が解らない。
そう悩んでいたが、せっかく本人がいるのだから訊いてくると。



「何故だ?お嬢さんは騎士団の人間ではないだろ?」
「だって…ルブランがやけにここ最近一生懸命なの。
その理由聞いたら“いつもいつも隊長は多忙で最近疲れ気味だから”っていうの。」
「…。」



疲れ気味というのは日々任務に追われているのもあり、
更に彼女という悩みの種のようなものも幾つかあるために、疲れてないと言えば嘘になる。

しかし、幾ら知っているとはいえ。そしてシュヴァーンに忠実すぎるといえ。
ルアまで関わると少し困ったものだ。



「最近ちゃんと寝てない気もするし…。だから今日は寝てて下さいまし!」
「私には仕事が残っている。そう休むわけにもいかん。」



気にせずと背中に両手をあて、ずずず、と押すルア。
彼女の力の出し方は至ってシンプルで真っ直ぐだ。返そうとすれば幾らでも出来る。

彼女だって事実上邪魔しているとは解っている。とはいえ、押すのを決して止めはしない。



「だって…隊長に倒れられては部下たちも心配するし…私だって嫌なの。」
「…。」



そう言うと、彼女は泣きそうな声をして言った。
後ろにいるため彼女が実際泣いているかは確認は取れないが、声は震えている。



「…書類の整理だけ頼む。あとはルブランに訊けば判る。」



そういえば、腕の押す力が止まった。
振り向けば、彼女が嬉しそうな顔をしながらも先程までぽろぽろと涙を頬を伝った痕跡が残っていた。
やっぱり泣いていたのか。と思った通りのことをしていた。



「あ、有難うございます!」



そういえば、ゴシゴシと目を擦りぱぁっと明るくなった。
もう無理やり押すようなことはせず、『では少し眠って下さいね!』と明るい声をしては敬礼の真似をした。
恐らく騎士団の様子を見て真似をしたのだろうけど、そのまま部屋をぱたぱたと後にした。



彼女。ニコラ・ノールとは些細なことで出会ったのだが、彼女を見かけない日は任務以外には余りなかった。
トラブルメーカーでもムードメーカーとも言い難い彼女。

それでも、彼女の笑顔を見るのは不思議な気持ちになれた。
誰もいない私室の中、ふ、と小さく笑い、そっと左胸に手を添えた。

無機質な心臓の事実は、ただ一人を除いて知らない。否。知らせる必要はない。
しかし、彼女を見ていれば不思議とかつてあった場所が疼く。

“知る筈のないトコロ”“知らせなくてもよいモノ”
ぐるぐると回ったまま、動こうともしない。

考えれば考えるほど、解らなくなっていった。



言われたとおりにシュヴァーンが眠った頃、“彼女”らしい癖のある足音が小さく廊下に響く。
そして言われたとおりに“仕事”をこなし始めた。




少し眠りすっと目が覚めた。仮眠には少々長い時間を眠ったのは久しぶりかもしれない。
そうシュヴァーンが思えば、彼女のことが気になったか起き上がっては執務室を見た。

―――きっちり仕事をしていた。

少々乱れていた書類の山はちゃんと整理されてたのだ。
言われたことを覚えているのか。解らないことを聞いたのか。それを効率よく進めている彼女。
書類にも簡単に目を通し、どうすればシュヴァーンがやりやすくなるかとも。

更に驚いたのは最近は多忙故に簡易で済ませていた部屋の掃除も、完璧に施されていた。
窓まで綺麗に拭かれ、月明かりが透明に透かされていた夜の景色は綺麗に映されてた。


色んな意味で完璧、だった。
眠ったものの、こんなところまでやっていたのかとルアを思い出す。
しかし、肝心のニコラがいなかったため、帰ったのかと思った… が。


こてん。


何かが倒れる音がした。
その音のする方を向くと…扉付近に、ニコラが横になって眠っていた。



「ニコラ?」
「すー…。」



起きる気配は全くと言っていいほどなかった。
疲れて眠るほど彼女は仕事を熱心にやっていたのかと柄になく微笑を浮かべた。



「ニコラ…。」



後で褒美のひとつでも考えねばな。とか思いながら、眠る彼女の額にひとつ。
意識を夢の中に落としている彼女に内緒の、褒美のキス。
起きている間では、出来ないこと。
シュヴァーン自身も柄ではなし、何より?ニコラが恥ずかしがるから。

キスを額に落とせば嬉しそうに笑みを浮かべ、先程まで眠っていたベッドに彼女を寝かせた。
幾らなんでも床で一夜を過ごすのは、仕事疲れまでしたニコラに悪い。


そして、睡眠も取ったシュヴァーンは彼女が揃えた書類に手をつけ始めるのだ。





夜のお手伝いさん
(ふぁ…アレ?…寝ちゃった…?)
(よく眠れたか?ニコラ)
(あ…あぁぁあ…!お、お早うございます…)