Lurking talent?


唐突な事件。あぁ、大事件だ。
だけど原因な彼女は、その気はまったくないようで。


「シュヴァーンさん。」
「ニコラ?どうした、その格好。」


その格好とは、彼女。ニコラ・ノールのことだ。
いつもの貴族特有の模様を描かれた雅な緋色のドレスではなく、緋色を基調とした非対称の騎士服。

騎士服というと帝国騎士団のそれとは違う、まさに貴族騎士ながらのオリジナル。
両肩は少しのお洒落かフリルを小さくあしらっており、鎖骨に位置する場所にはノール家家紋が小さく記されている。
肩から下は左には少し袖が大きくなり、その下に籠手をちらつかせるが右にはそれがなく、素肌を出さないようにするウォームのような布を纏い、軽量の籠手があるだけだ。
腰のやや上の位置には太いベルトが巻かれており、そこに細身の剣が鞘のなかに収まっている。


「私も貴族と同時に騎士の娘なので。」


今までのドレスでは違和感を覚えるが、騎士風にあしられた服での敬礼には違和感はなかった。
だが彼女の腰に携えた、剣。
そして彼女の言う言葉に、思わず問いをひとつ思い浮かべた。


「‥ニコラ。」
「はい。」
「剣の心得は。」
「少しばかり心得ています。」


別に上司と部下、という関係ではないがあの服の所為か言葉がいつもより丁寧に感じ取れた。


「‥そうか。」
「シュヴァーンさん?」
「少し見てやる。こちらに来なさい。」
「あ‥はい。」


ぺこりと頭を軽く下げると、素直にニコラはシュヴァーンの後を付いていった。
カツカツと廊下が響き、少し広いところに出ては手合わせするには丁度良い場所を見つけた。
振り向き『構えろ。』とだけ聞こえれば思わずピシッと身構えた。


「うぅう‥緊張する。」


そんなのも無理はない。
これから手合わせをすると言ってきたのは、あのシュヴァーン隊長だ。
帝国騎士団のナンバー2。
手合わせ自体は父と何回かしたが、勝ったことなんてない。
そしてそんな父よりも経験も実力があって、何より強いシュヴァーン。

そんな相手が、剣を見てもらえるのはなんて恐れ多いことなんだろうか。
ましてや、高が少ししか心得がないと言う女性に。

ニコラは腰に宛てられた剣を抜く。
剣としては少し細い。だが上物なのかそう簡単に折れないような物だった。
しかし素材は丈夫なものでも軽いようで、彼女は片手で剣を持てていた。


「どれ程出来るのか見せてみろ。」
「‥、お手柔らかに、お願いします。」


いつもの彼女らしくない謙遜な言葉が返る。
ぺこりと軽く頭を下げ、すらりと立つ細剣を携え構える彼女は不思議にも様はなっていた。
その時彼女の右目がぴくりと動くと、彼女は消えた。

彼女には“あの力がある”。
気配を察知しルートを見極める力。
つまり、これを応用すれば敵の不意を突くことは容易。

その力を使えば、すぐさまに背後から攻めるはず。


「そこか。」
「!」


案の定瞬時に後ろを取られたもののすぐの切り返しが何処か甘い。
ワンテンポ遅れた攻めをあっさりと受け流せばシュヴァーン自ら編み出した技を繰り出し反撃をする。


「!」


確かに“鬼ごっこ”ならば彼女の方が強い。未だに誰も捕まらなかった彼女が、シュヴァーンだけに捕まえれたのかはわからないままだ。

だがその力を応用しきれていない彼女は素人よりややましな程度だ。
騎士としての実践はシュヴァーンが圧倒的。今後の隙をどう見るか楽しみなぐらいだ。


しかし彼女は気配を読み取れるからか、何処からか剣撃が来るかは解っているのか防御は的確。
だがニコラの剣にはびりびりと剣圧が電撃のように伝わる。
恐らくシュヴァーンは手加減に重ね更に手を抜いていると言うのに、それでも耐えるのが必死なぐらいだ。


「‥っ、わわ‥。」


とうとう耐えきれなくなり、彼女の手が留守に感じた。
まだこれぐらいが彼女の限界か、と感じたシュヴァーンは深紅の剣で彼女の剣を弾いた。

剣を弾かれてしまうと、思わず流れてしまった剣を切なげに見るも、諦めが着いたのか彼を改めて見る。


「脇が甘いな。返し手も違う。だから切り返しの反応が遅くなる、か。成程な。」
「‥。」


辛辣な感想を述べられる。
これでも彼女なりには必死だった。

隙を狙うのは面白い撃ち方をすると言うのに、彼女の所々が完成していない。
まるで虫食いのようだ。其れほどに半端でムラすらもシュヴァーンは感じていた。

「ニコラ。」
「はい。」
「“あれ”‥使ったか?」


“あれ”というのは恐らく力のこと。
それに触れるとぴくりと反応した。
こくりと小さく頷けば、後ろめたさを感じたかのように小さく言う。


「使ってますが‥あったりなかったりが混ざるみたいで所々が‥。」
「‥成程な。だから時々ムラを感じるのか。」
「‥え?」
「気づいてないのか?回避や隙を狙うのは様になったが、防御から攻撃転じる際の動きが遅れる。
それは力が安定してないからか?」


安定していない、と言われると彼女は少し震えた。安定の話しは多少あっている。
しかし彼女は不安定で戦っていたわけではない。寧ろ清々しいぐらい懸命だった。

そもそもシュヴァーンは、彼女の持つ力は上手く引き出せれば一介の騎士にも勝るかもしれないと踏んだからだ。

それを単純なお遊びで終わらせる。
じゃじゃ馬ではあるもあどけない少女が逸材にもなるというのに。


そして彼の問いかけにひとつの心当たりを口にした。


「それは‥多分、」


“傷つけるのが嫌だったから”と思います。
と脳裏に過り、小さく口にした。
多分この影響が大きかったのではないだろうかと思う。
実際真剣使っているわけだし。

色々考えたもののはしたものの、結論は感情から出たのではないかと悩んだ。


「‥ニコラ?」
「あ、すみません。有難うございます。まだまだ至らない部分が多くて‥。」
「気にするな。」


でも、憧れの人からくしゃくしゃと頭を撫でられるのは少し嬉しかった。
というより、少し恥ずかしくなった。

まだまだ未完成なのに、まるで欠けた月のよう。
それでも、見てくれたことが。
それでも、認めてくれた事が。


「暫くは此処にいた方がいいな。」
「はぁ‥。って、え?」


しかし、彼の言葉に思わず首を傾げた。
今まではニコラが直接訪ねていたために、この場所に留まることはなかったから。

何故か、という問いかけをしようとしたがすぐさまシュヴァーンが答えた。


「後々正式に騎士団にも入って貰おうと思ってな。」
「そ、それは‥私にまだ時期が早すぎて‥。」


彼女は慌てて止めに入った。
そうだ。手加減気味でも負けてしまったのだからそんな中に騎士団入りなんて無理だ。
もっと腕を磨かなければならないし、何より自分が騎士団自体が大っ嫌いで。


「ならば。」
「?」

「俺の秘書にならないか?」


続け様な事は大っ嫌いと言った私に、強烈でストレートな電撃衝撃が走った。
幾らなんでも、それは無理があるということデスヨ?





隠れた才?
(ちょ、何言ってるのですか?!)
(俺は本気だ。お前なら任せても構わないと思ったからだ)
(そ、それは‥その)