Overtrump


秘書。それは言わば、助手のようなもの。
そう声をかけたのは、帝国騎士団隊長首席。シュヴァーン・オルトレイン。
そして声をかけられたのは、隊長の部下の娘。ニコラ・ノール。


「シュヴァーンさん?」
「‥どうした?」


改まって聞こうとすると、どこか真剣さを帯びる。
聞くことなんて、今の私にはひとつぐらいだけだ。


「あの‥その。秘書って‥どういう?」
「どういうって‥言ってそのままだが?」
「‥私が‥シュヴァーンさんの?」
「そうだ。」


『秘書?』と聞こうとする前にニコラの前にいるシュヴァーンは肯定する。
あぁ、ニコラは単なる聞き間違いとかではないのだとはやっと理解した。
しかし、彼女には理由がわからない。


「何でまた‥。」
「ニコラの能力を見込んでだ。」


幾ら彼女。ニコラ・ノールであっても流石に突発的なことには沈黙した。
訳がわからない。とグルグルと。

確かに秘書かはどうかは別にしても、騎士団ではなく個人のためにはとらしき仕事はした。
掃除とか、書類整理。その他エトセトラ。
らしきことはしたが、まさか秘書になるなんて。


「でも‥許してくれると思う?」
「誰がだ?」
「‥両親が。」


そう。問題は両親。
私は貴族、私は騎士の娘。
故に、騎士団隊長(ましてやナンバー2の首席)の秘書など、出来るのだろうか不安だったし、何よりそれを許すのだろうか。
母になら誤魔化せても、父は騎士団。更に言えばシュヴァーンの部下のひとりだ。

騎士団に所属する父はよく見かけるだろうし、すぐにバレる恐れもある。
(まぁ、それでも意思なんか受け継ぐつもりは全くと言ってもいいほど無いので気には止めたいのだが、一瞬だけ気になったため。)


「いつも俺の下にいるなら問題はないはずだが?」
「‥黙ってればね。」

「ならこれは秘密の任務だ。俺とニコラの。」


秘密。こんなことは最早プライベートに近いと言っても良いのに。
大事なことなのに公私混同でいいのか?
誰もが憧れる騎士様ですよ?


「‥秘密?そんな事良いのですか‥?」
「何、秘書でなくても今まで通りお手伝いさんと名目打っておけばいいだろう?
それに、今まで通りの範囲でなら問題ない、それならば誰も咎めないだろう?」
「‥‥。」


確かにお手伝いの名目で色々動いた。
書類やら掃除やらエトセトラ。
彼はそれを許していると言うことはつまり、そのまま続けても構わないとでも解釈して良いのだろうか?

しかしシュヴァーンがいいと言うなら、否定する理由は彼女にはない。
寧ろ、家の事をどうでもいいと思っていた彼女にとって、気晴らしには丁度よかった。
形としては騎士団の補助に着くことだが、彼女にとってはシュヴァーンの手伝いなのだから。


「じゃあ‥秘密で。」
「いい子だ、ニコラ。」
「!」


ふっ、と余り見かけない静かな微笑に前に感じた感触が心をよぎる。
どくん、と心臓もなった気もする。


「でもバレたらどうなる事か‥!」
「今まで手を焼かしていたよりかは俺の下で動けば多少はいいだろう?」
「そうですね‥って!からかって‥。」


今までの手を焼かせたこと根に持っているのか!
またどっかでフラフラされるよりはいっその事傍にいた方が良いと?

なんだか保護者に預けられた子供みたいな気分になってムッとした。
が、ぽんと頭に手を置かれくしゃくしゃと撫でては言われたことに。

何も言えなくなった。


「すまないな、だが俺はニコラを傍に置きたいのは本気だぞ?」
「!」


まるで、騙し討ち。
こんな意地悪。他の所じゃ見ないだろう。
だから、知らないはずだ。きっと。
隊長は実はこんなに意地悪なんだって。



切り札の鬼札
(ななな、何を言っているんですか‥!)
(俺は至って本気だ。ニコラは色々と教え甲斐があるしな)
(色々って‥)