Artifice suite
部屋を開ければ何故かこの部屋で感じるはずのない匂いがする。
どこもかしこも、甘い、甘い、甘い。
そんな匂いの中心に、いつの間にか居た彼女がいた。
「むぐ‥むぐ‥。」
「‥何をしている。ニコラ。」
くるりと振り向けば、ぱぁっと明るくなる。どうやら待っていたらしい。
(だが、人の部屋に上がり込んで食べているのはどうだ?)
ニコラの手元には包まれた箱。そして指先で摘まめばもぐもぐと食べる。
どうやら彼女は包みの中に入ってたものを食べていたらしい。
「あ。シュヴァーンさん。貰ったものなのですが‥。」
「‥甘いな。」
「チョコですから。」
チョコ、と言うと黙ってしまった。
まさかとは思ったニコラはぽつりと問いかけた。
「‥。」
「甘いの、駄目ですか?」
「苦手だな‥。」
「そう、ですか。」
香りの時点で言うのだから無理なのだろう。そうわかると少なからずのショックかしゅんとした。
しかしすぐに立ち直ったかのように顔をあげ、何かを摘まんで差し出した。
「あ。じゃ、コレどうぞ!」
「!」
そして否応なしにシュヴァーンの口に放り込んだ。
甘くはない。チョコ。
「大丈夫です。ブラックなので多分、」
平気、と続けようとしたが腕を捕まれた。
そのまま引き寄せては唇に感じる感触。
そして、その正体を理解すると、顔が熱くなった。
(わ、私‥キスされてる――ッ?!)
「!?」
「矢張り甘いな‥。」
やっと離して貰えたと思ったら、ぺろっと唇を舐められ、顔をカァッと赤に染まる。
そうすれば意地悪な笑みが浮かべてきた。静かに、綺麗に。
ブラックでも甘いと言うのかとか
私はブラックは苦手なんですとか
キスの後の意地悪は反則だよとか
言いたいことがあったのに、すべて吹っ飛んでしまったのだ。
静かに笑う彼
(ず、ずるいです!勝手にキスしちゃうなんて)
(勝手に放り込んで、何を言う)