きっかけは確か、いつも隣り合わせの危険からのささやかな奇跡。
…だった気がする。
少し、昔の話をしよう。
これはニコラ・ノールはひとりで旅に出ている最中の頃。
街から街へ赴く際に、どうしても問題となるのは魔物との遭遇。
しかし、ニコラには雑魚が複数相手なら問題は無かった。
唯、今回は少し運がなかっただけ。たまたま複数が多かった時。
ひとりで相手をしているときに、何処からか弓が飛んできた。
それも複数と隙なく、それも的確に処理されていた。
誰が応援してくれたのだ、とそちらに目線を向ければ。その人物は目立つ格好をしていた。
ひとりの男性だった。
紫色の羽織をだるそうに着て、ざんばらとした髪を後ろに高く結っている。
年はそれ相応で、30半ばは前後しているぐらい。
その男は弓を持って距離を詰める。
弓は遠距離向け。距離を離して一方的に打つからこそ最大の威力を持つというのに。
魔物がその男に近づき、『危ない!』と言おうとした時。
「よ、っと。」
「!弓が…剣に?!」
その男はすかさず弓に付いていたレバーらしきものを引っ張って弓の形が変形し、剣となる。
変形した剣を用いて、襲い掛かる魔物を的確に迎撃する。
思わずぽかんと、ニコラはその男の戦い方を凝視してしまう。
…己の危険をすっかり忘れてしまう程に。
そして、その男が此方を向いて何かを言う。
それで、我に戻る。魔物が此方に向かって突進してきた事に。
「嬢ちゃん…危ない!」
「!」
魔物の突進をするりと避け、その避けた反動を用いて術を唱える。
それに合わせて蹴りを横に喰らわせ、足からの術と共に打つ。
暴発したかのように小さい爆発を起こし、それが連鎖となって魔物が吹っ飛ばされる。
ようやく襲い掛かる魔物の迎撃に成功すれば、安堵の息を吐く。
「ほぉ…。珍しい戦い方するわね。基本は嬢ちゃんが武器って訳?」
「そ。アンクレットに魔導器仕込んでてそれで魔術と合わせる…ってワケ。」
少し緩めのブーツから足をするりと抜いて左足のアンクレットを見せる。
アンクレットには戦う為の必需品・魔導器が埋め込まれていた。
「それも良いけど…気をつけなさいよ?嬢ちゃん。護衛付けてないようだけど?」
「そりゃ、唯の旅人だもの。自分の食費と寝床守るだけで手一杯なのに、護衛付けるだけのお金なんてないわ。」
旅人と自ら名乗るだけあって、彼女の持っていたものは必要最低限なものばかりだった。
どこの方へ向かっているかは分からないものの、結界の外に出るという事はこういった危険が纏わり付く。
まして旅をしている相手は戦えるといえど女性だ。
男が心配する事は、無理も無い話しだ。
「あのねぇ…おっさんが偶々会ったからいいものの…。」
「それに、私はひとりだからこそ見れるものがあるの。少なくとも…“帝国”じゃ見られないものは多く、ね。」
帝国。それは飼い殺しされる鳥かごの様にも感じれた。
平民の身というものは、帝国では生き辛いにも感じてしまうのだ。
しかし、それなりの生活は保障される。
だがこの彼女は少なくとも、安全を保障されている結界から自らの意思で出てこうして旅を出ていた。
「ん?嬢ちゃん帝国の人間?」
「唯の平民よ?ま、市民権は放棄してないから一応“帝国”の人間かしら?」
一応、ということは維持はしつつも勝手に帝国を出た事になるのだろうか。
しかし“一応”という彼女から発した言葉は少なくとも棘を感じた。
帝国に、満足した様子を感じないようにも取れた。
少なくとも、帝国に居た頃の彼女を男は知らないが、今の方が心なしか生き生きしてる。
男は、そう捉えた。
「それにしても…“嬢ちゃん”なんて私には似合わないわ。」
彼女は、クスクスと笑みを浮かべてそう言う。なんだか、くすぐったいような様子。
単純に言われなれていないからなのか、彼はそう捉えて彼女を改めて全身を見つめつつ考える。
「だったらどう呼んだらいい?」
「んー…。ニコラ。そう呼んでくれたらいいかな。」
少し照れくさそうにしながら、ニコラはぽつりとごちる。
彼女の名前を知れたことがよかったの、くるりとその場で軽く宙返りをすれば親指を立てて男は笑う。
「そっか。じゃあ、ニコラちゃんね。」
「ちゃん…。私にそんな女の子らしい呼び方は似合わない・て。」
「でも俺様は女の子は等しく平等よ?」
「…ならいいわ。」
諦めたようにニコラはため息を吐く。
きっと、この男の言うとおりにすべての女性に対しては平等な扱いなのだろう。
旅をするにつれ、どうしても女性らしさを多少掛けてしまう部分もあってどうも恥ずかしい。
話をどうしようとか色々考えたが、彼女はふと気付いて返す。
「…そういえば、私アナタの名前訊いてなかったわ。」
「そうねぇ…レイヴン、って呼んで。」
へらっと笑うおっさんもとい、レイヴンと名乗った男。
これがユーリたちと旅を共にする前のお話である。
運無き頃の出会い噺
(そういえば…あの時に会ったのがある意味運命的だったわねー…)
(おっさんはニコラちゃんに出会えた事は素敵な運命だと思ったわよ)
(…だから、ちゃん付けはくすぐったいんだってば。)