「あのー。確認にひとつ質問よろしいですか?」
「ニコラちゃんからの質問はおっさん勿論答えちゃうよ?」
「あぁ、構わない。」
コホンと息と入れれば、『えー…』と言いづらそうにしながらも。
第一声を上げた。
「‥“お二人”はどちらさまですか?」
ひとりは派手な紫の羽織り、深い翠の瞳にこげ茶の交る黒髪は乱雑にひとつに結ってはまとめ上げている。
だらんとだらしのない立ち姿をしており、無精髭がちらほらと伺える。
もうひとりは白い甲冑に橙色の隊長服。前者の男とは違く、如何にも隊長の騎士らしく、しゃんとしている。
ひとりの男と髪と眼の色は同じで、違うのは髪は下ろされ左目を隠していた事。
「“どちらさま?”ってニコラちゃん酷いよ!おっさんと愛したこと忘れちゃったの?」
「違うわ違う!何根も葉もないこといってんの!」
根も葉もないことを言いだしたため、プチ制裁(もとい打撃)を与えた。
突発に言いだしたことに頬を僅かに赤らめながら、コホンとまた息をいれた。
「それに確認って言ったでしょ!私の記憶が間違いなければ‥。
アナタが“レイヴン”で。アナタが“シュヴァーン”でしょ?」
「当ったり。」
「正解だ。」
そう。この二人こそ。本当ならば“同一人物”であるはずの人。
帝国騎士団隊長主席のシュヴァーン・オルトレイン。
ギルド“天を射る矢”幹部のレイヴン。
本来ならば同一人物なのに、人物そのものの変わり様は別人まるでだった。
この事実を…忘れ去られた神殿のバクティオン神殿で知った。
その際にレイヴンは…シュヴァーンとして。敵として現れた。
戦っては崩れ去る神殿を最後に、彼を見なかった。
後に…移動要塞で再開したのはレイヴンだった。
彼は言った。“シュヴァーンは神殿で眠った”と。
その筈が。こんな数奇なことが事実として為した。
本来の彼“ら”はまったく別の人間として、私の目の前に現れた。
「じゃあ‥私が“二人”に見えるのは間違いないの‥ね。」
「そうだね。」
「あぁ。」
夢だ、夢。と誤魔化したくなったが、こうも事実を突き付けられている以上無理だと解り、
あっさり諦めることにした。
何故こうなったかも解らず、何故今の事態になったかも解らない。
まさに、不可思議とはこのことだ。
「何がどうなってこうなったか‥不思議よまったく。」
「あぁ、全くだ。」
はぁ、とため息を吐けば、騎士のシュヴァーンは咎めるような眼で見る。
あの鋭い瞳はまさに騎士そのもので、思わず身体が無意識に強張る。
「ま‥いっか。」
「え!良いの?ニコラちゃん!」
「だって分裂しちゃった謎解けないんだもの。」
考えたが、何も答えも出ないままで諦めれば、おっさんもといレイヴンは声を上げる。
結構重要なことなのに、あっさり諦めれば彼はヤレヤレと肩を竦めた。
しかし“分裂しちゃった”とはまたまた無責任すぎる言葉なのだろうか。
「前は人格そのものががまるで別人格だったんだもの。こっちはこっちで解りやすいわ。
どちらが“アナタ”でどちらが“アナタ”だってことがね。」
白鳥の“アナタ”。鴉の“アナタ”。
どちらも、紛れもなく“アナタ”であることには変わりないから。
「お嬢さん…ニコラは気にはならなのか?」
「私は気にしない。でも…周りが気にするかな…知ってるわけだし。特に“アナタ”が。」
“アナタ”と指したのはシュヴァーン。
かつては敵として現れた。そして彼はこうも告げた。自分は“道具”なのだと。
道具、と聞いた時は急に悲しくなった思いがあった。
自分自身の存在がまるで“無”であったと感じたから。
自分は10年前に死んでしまったから。無機質な心臓があったから。
彼は心を無くしてしまったのかとも思えてしまった。だが、まだ信じられなかった。
彼が道化ているのは本当に“心”がないから偽っていたのかと。
私はほんの一瞬だけでも“心”を感じられたというのに。
それがすべて、虚数の塊で虚数の感情だったら。と。
「私は好きよ。レイヴンもシュヴァーンも。だから自分自身を無だって感じて欲しくない。」
「そうか…お嬢さんはそう感じるのか。」
「さっきからお嬢さんはナシ。なんだかくすぐったい。」
そういえば、初めてシュヴァーンとして現れた時も“お嬢さん”って言われたっけ。少し前のことなのに、何だか懐かしくて笑う。
そうすると、横からくいくいと押してくる一人の男。
こんなスキンシップはシュヴァーンなら絶対してこない。なら誰がするかなんてすぐにわかる。
「ねぇ、おっさん仲間外れにしてない?」
「そんなワケないでしょ?レイヴン。」
そうすれば、くるりとレイヴンの正面が向けれるようになれば指を立ててはスッと出す。
その時の彼女はくすりと小さく笑う。
「言ったでしょ?私は“どちらのアナタ”も好きなのよ。」
「もう、そんなニコラちゃん。俺様大好きよぉ。」
「わわ…っ!急に抱きつくな…!」
急に抱きつけられれば恥ずかしさで沈みそうになるので、顎に強烈な一撃。
そういえば痛かったらしく、顎を抑えてる。
「酷いわニコラちゃん。」
「自業自得よ。」
ふぅ。と一息入れればちらりと二人を見ることにする。
この事実がいつ解決するかも分からない。
ならば、と彼女は考えて答えを出した。
「あ。じゃあ、二人と暮らそっか。」
BOMB REMARK!!
(な!何言ってんのニコラちゃん!)
(流石に男二人とニコラだけでは…)
(だって原因知りたいしさ。でもそうなると場所とかどうしよっかなー。)