鼓動揺れる視界の中で
昔を懐かしむアナタ。
だけど、今の私はアナタのひとつひとつの仕草にたまらなくドキドキしてしまうのです。
ユリウス兄さんの要望で、今は彼の家でキッチンを借りてはデザートを作成中。
なんでこうなったのかは、未だに判らない。
ただ、成り行きでこうなってしまっただけで。
「ふぅ……。出来たとして、次は、と……。」
新作デザートを作り始めたのは、元々は私が野菜が苦手だったのをキッカケだった。
たまたま食べてみた野菜を用いたケーキで目覚めて、すっかり作ることに夢中になっていた。
一時はパティシェリアを目指してみたが、プロとしてよりも私として作りたかったから今は趣味の段階で留めてる。
それもこれも、食べてくれる人がいてくれたから、の話なんだけど。
ひとり作業を黙々と続けてると、後ろから誰かの気配。
それは勿論、私にデザートを作るように告げたアナタで。
「どうだ、ニコラ。」
「…ユリウス兄さん。あとは仕上げの飾りをつければ出来るよ。」
そうか、と嬉しそうにポンポンと頭を撫でてくる。
大きな手に撫でられたのが、昔は大好きだった。
だけど、今はその大きな手に撫でられると鼓動が煩い。
昔のように、純粋に受け止めることが出来なくなっている。
その正体は知ってるけど、それは決して口には出さない。
出したら最後になってしまう。もどかしい気持ちはあるけど、こうしていたい。
「…ん?ニコラ。クリーム付いてるぞ?」
「え……?」
言われて首だけ振り向こうとすると、アナタの指が頬に触れる。
その瞬間に驚いて感覚が追いつけないのと、それをわかった直後の顔の熱が一気にあがるのが判った。
「…ッ?!!」
「おっと、動くなよ。ニコラ。」
反射だもん、そう言わないでくれと思う。
(しかも熱が上がった顔を見られたじゃない…!すごく恥ずかしい…!)
ドキドキと鼓動がしつこくなるのを、必死に耐えるしかない。
「…う、うぅ……。」
「いい子だ。」
優しい笑みを浮かべては、顔を見られたままの首の角度で、アナタが頬についたクリームを指で拭う。
その仕草も無論、私の視界に入ったままで…。
(あぁもう鼓動がさっきからバクバクと煩い!)
しかも、触れてる手は手袋をしてない右手で、直に肌に触れてくる。
その意識が、私だけならばつらくないのに。
ワタシが、アナタを“幼馴染のお兄さん”という意識下であればこんなに鼓動は煩くないのに。
アナタが、私のことを“弟の幼馴染”と見てくれるなら、こんなに苦しくないのに。
すごく、今が、つらい。
「よし、ニコラ。もういいぞ。」
「……ユリウス、兄さん……。」
もういいと告げられたが、しばらくアナタの顔を見てはすぐに逸らす。
やっぱり、片想いかなんて思って。
「…。」
「あ、…あの……ユリウス兄さ、」
「あの頃のままだよな、ニコラは。」
「…えっ……?」
そう言うや否やに、アナタはそのまま私の腕を引っ張っては、
そのまま背中をアナタに預ける形にされる。
最初何が何だかわからなかったが、私はあのユリウス兄さんに今は抱きしめられているのだと理解すればぼんっと顔を真っ赤にした。
「ああ、ああ、あ、あの、ユリウス兄さん…っ?!」
「本当に、敵わないな。ニコラ。」
なんで?なんで?どうして?
もしかして、バレた?私がユリウス兄さんのことが好きかもなんて思ってたこと。
一回も口には出してないし、下手だけどポーカーフェイスもしたのに…どうして?
「俺が、今までニコラをルドガーの幼馴染として見ていたと思ってたか?」
するりと顎を滑らせてはくいっと顔を上げられる。
『まだ残ってたか』と言えばまた指で掬い取り、ついた指ごとクリームを舐め取る。
その瞬間に、ドキッと一気に顔を赤くさせてしまって。
「アイツには秘密な?」
とだけ一言残してはニヤリを笑みを浮かべるユリウス兄さん。
顔は固定されたままで隠しきれないから、仕方なく目線を泳がせるだけだった。
とんでもないことが、起きたような気がした。
鼓動揺れる視界の中で
(……ユリウス、兄さん…っ。)
(先ずは“兄さん”ってのを止めさせるのが先かな?)