怖がらないで、甘えてごらん

頗る機嫌が悪いご主人様。
最初は、唯のからかいだけだった。
なのに、ご主人様は今までもそうだったが、


「なぁ、ニコラ。」
「…なんですか。」

「これ、ちっと厳しくねぇか?」
「厳しくないですよ。」



今の彼女は、頗る期限が悪かった。それもあの宿屋事件が原因だろう。
あれから街は出て街道を歩いているが、回復をさせなかった。

まぁ、此処の敵はそこまで強くないから掠り傷程度で済んでいるだろうが、
アイテムは実費だしで、回復術も扱えるニコラは一切アルヴィンには行わなかった。

一応。お金で契約している二人ではある。
だが、事件の所為でいつも以上にシビアになっているのだ。
それもこれも。全部アルヴィンの所為。



「…なぁ、ニコラ。」
「……なんですか。」

「悪かったって。」
「何がですか。」



絶対怒っている。とアルヴィンはすぐさま察知して、謝るも許してくれる様子は一切ない。
声色もいつも以上に低いし、目付きは当初のときや普段の何気ない会話の時よりもマイナスのオーラが満ちている。

きっと、寝ていた間にされていたことが酷くご立腹の理由。
(というのはからかうだけの嘘だったのだが)
ニコラは疑う事も無く真っ正直に信じてしまうのだから性質が悪い。
…いや、そのまっすぐさが俺が好きな理由でもあるのだが。



「安心しろよ。俺はニコラには何にもしてねぇよ。」
「嘘つき。」



ニコラは一刀両断する。無理もない話しだ。
しなかったを嘘吐いてなら分かるが、逆はありえないとニコラ自身はそう思っていたから。
それに、真っ正直なニコラからの『嘘つき』と言う言葉はアルヴィンには効いたらしく苦笑する。



「嘘つきとはひでぇな。」
「絶対“何かしら”はしてたに違いないもの。」

「“何かしら”ねぇ…。」



さり気なく言ったはずの言葉なのに、何故か繰り返してはニヤリを笑うこの男。
一瞬身構えたが、流石にご立腹な私の様子から何もしてこなだろうと解除した。

だが、それが甘かったのかもしれない。



「なぁ、ニコラ。」
「…なんですか?」

「今からなら“何かしら”はしてやるぜ?」
「……例えば?」



別に取り付くつもりはなかった。彼に振り向くつもりなんて無かった。
それが原因で、自分の愚かさを改めて知るなんて。

後ろから重みを急に感じて、びくりと震えた。
肩も一緒に合わさって、ぎゅっと後ろから抱きしめられた。

傍から見れば、それはコイビト同士のそれのようで。



「こう、とか?」
「っ!せ、せくはら…っ!」

「セクハラ上等だよ。ご主人様?」



この男、開き直ったか!と怒りの感情で奮えるがこの男は一切引く気がしない。
寧ろ、その言葉をきっかけに抱きしめる力が強くなってより密着する。

身長差がある中で、アルヴィンはそっと耳元で囁く。



「機嫌直してくれって。な?」



どくん、とまた鼓動がなる。あの時と同じだ。これは、きっと。
恋、というやつなのか。

いや、これを“恋”と呼ぶにしてはあまりにもおかしい。
ちゃんちゃらおかしいことで、恥ずかしい。

恥ずかしさが限界をきて、ぼそりと聞こえるようにルアは言う。



「だったら…離して、」
「それはダメだ。」



この流れで拒否をされる理由が判らない!
そんなことで一杯になってキッと睨みつければ、くしゃりと大きな手で撫でられて。



「ニコラ。たまには甘えてみろよ。俺は大歓迎だぜ?」



拒否ばかりの私に、とんでもないことを発言されて。
でも、今の私ではそれは許されるのだろうか?





怖がらないで、甘えてごらん
(ぜぜ、絶対無理だって!)
(あー…まずは、俺と一緒に寝ることから始めるか?)
(断固してお断りしますっ!!)



[r e w r i t e]より
[さみしがりな君へ5のお題]:
怖がらないで、甘えてごらん