夜露に濡れた仔猫


キライ、じゃない。でもスキでもない。
なのに、なのに、どうして…?



「…どうしよう。身体がダルイ…。」



ニコラが目を覚ませば、酷く身体が重く感じれた。
いや、それよりも非常に寒いし軽快な動きなんてとても無理だ。

何故こうなったかは心当たりはない。
だが、この身体の不調の原因は恐らく、



「…風邪、引いたかも。」



別に急ぎの旅でもないから、風邪を引いたところで困りはしないだろう。
だが、今はひとり旅ではないのだ。

私の傭兵。もとい旅の同行人も一緒なのだ。
散々いじりに弄り倒しては時々セクハラ紛いなこともして。でも、頼りがいがあって。

今は風邪を引いている所為か、酷く寒く感じて。
何でもいい。あたたかいのが欲しい。



「ニコラ、起きてるか?」



トントン、と扉を叩く音が聞こえる。
そして扉越しに聞こえた声に思わず待っていたという感情が浮き出た。
(…え?待って、いた…?)



「あ…アル、ヴィン……。」
「…ニコラ?開けるぜ?」


おそらく、声が聞こえないのだろう。
扉越しで、更に風邪の所為で声も届かなくて。

でも、助かった。それに気付いてくれて、開けてくれた事を。



アルヴィンが扉を開ければ、毛布に包まっているニコラの姿が見つかった。
そして近づけば、心なしか顔が赤い。



「うぅ…さぶい。」
「おいおい、ニコラ。どうしたんだ。」

「…多分、風邪引いた。」



風邪、の言葉にグローブを外して額に手を宛てる。
そうすると、ニコラの額ははっきりと判るほど熱くなっていた。

一発で風邪を引いたとわかれば、薬やら水やらを用意しなければならない。
散々弄り倒したとはいえ、彼女は依頼人なのだ。

手当てなどは後の報酬でどうにでもなる。



「ったく、仕方ねぇな。今日は寝てろ。俺が今…。」



薬を貰ってくる、と続けようとしていたが、咄嗟にニコラはきゅっとコートの裾を掴んでいた。
彼女・ニコラは人に甘えるという事をあまりしなかった。
初めて依頼された時だって、成り行きでOKをしたわけだしで。

そんな彼女が、“離れないで”と目で訴えているように裾を掴んで部屋を出るのを止めるのだ。
きっと、ニコラのことだから自分からは言わないだろう。

…これが、本来の彼女ならば。
だが、本来のニコラなら有り得ない行動に出たことアルヴィンは驚いているのだ。



「ニコラ?」
「……。」

「なんだ?何か言いてぇなら言えよ。」



そうアルヴィンが告げればどこかもじもじとするニコラ。
こんな姿は、正常であれば絶対お目にかかれないものだ。

そして、か細く消えそうな音を。



「………行っちゃやだ。」



やっと彼女の本音が聞けたと、アルヴィンはどこか嬉しそうな笑みを浮かべた。
いや、嬉しそうというよりは…非常に穏やかな表情で。
(多分、あんな顔は初めて見たかも…)



「仕方ねぇな…ご主人さま?」



上等のコートをふわりと着せられて、ニコラの隣に腰がける。
ニコラは手を出して、コートを大事に掴んでは片手でアルヴィンの手を繋いだ。



「これでいいか?ご主人さま?」
「ん、…ありがとう。」



こう甘えてくれるのが、日頃だったらいいのに。
とは口には言わず、代わりに繋いだ手をきゅっと握り返した。

その、求めるような表情はまさに。






夜露に濡れた仔猫
(やれやれ…。普段がこうなら可愛いやつなのにな。)
(すぅ…ん…、アル、ヴィン…。)
(くくっ、今日はこれぐらいでもいいか。)



[r e w r i t e]より
[さみしがりな君へ5のお題]:
夜露に濡れた仔猫