目を開ければ、思い出す悪夢。
世界を閉じれば、眠れぬ夢に。
雨に濡れた日々。
雨を見ると別の世界を思い出させる。
雨は、私が捨てられた日の天気だったから。
紅の空から、じわりじわりと雨に変わる幻想的で悲劇の思い出。
思い出したくない、あの無機質な世界から抜け出したくて。
私は、私自身を擲ったのだ。
「…また、あの…。」
目を開けて、必死に冷静を取り戻せばぽつりと呟く。
もう夜も更けているのに、この夢とはタイミングが悪すぎる。
その夢を一度見てしまうと、暫くは眠れなくなる。
忘れたいけど、思いは反比例して寧ろ意識を覚醒させてくる。
ゆっくりと身体を起こし、部屋をあとにする。
そしてゆっくりとした足のまま階段を下りて、ロビーに添えられたソファに座る。
今は、暗闇の中で一人に堕ちたほうがいい。
「眠れねぇのか。お嬢さん?」
「…アルヴィンこそ。」
宿屋のロビーで、寝静まったおぼろげな光以外は闇に埋まっていて。
そんな中で、いつも一緒にいる彼の声を聴けるなんて思いもせず、くすりと笑って誤魔化す。
今は、ひとりになりたかったから。
「なんでもないよ。私はもう、」
「嘘吐くなよ。」
いつもと逆だった。いつもなら、アナタが嘘を吐くのに。
ウソツキさんなのに。だけど、それだからなのかな。
人の嘘を見抜いてしまうのは。
「なんか泣きそうな顔してるぜ?」
「…え?」
何を言っているのか、一瞬分からなかった。
するりと優しく撫でる頬に、おかしな鼓動がなる。
「ニコラ。」
「ん?」
少し低めのトーンまで落として、優しいブラウンの色をした目で此方を見る。
そのまま添えられた手で涙の後を拭われて。
「少しはお前のこと教えろよ。」
「…やだ。」
「何でだ?」
私が否定の言葉をあげるのが意外に思えたようで、ぽかんとした顔をする。
今はひとりになりたい。故に、奥に進めてこないで。
私の心まで読まれてしまう。きっと、わかってしまう。
それもこれも、私だけ読まれるのがイヤだから。
アナタだって、信じていいの?
「アルヴィンはアルヴィンのこと教えてくれないから。」
アナタとはソレほどの付き合いなのに、それがすべて嘘のようで。
ココロにぐっさり届くような事は無くて。
アナタの表情が、仕草が、言葉が。
大きく分厚い何かで覆われているように見えて。
パートナーでいたいけど。
それが、ベスト・パートナーというのは私の我儘なの?
「ならニコラのことを教えたら教えてやるよ。」
「…それ、ズルくない?」
アナタの事、信じていいの?私はずっと、ここにいたのに。
アナタはウソツキさんだから。
私の言葉だって飲み込んで、いずれ捨てられてしまうんじゃないかって。
そう考えると、不安に重しがのしかかる。
それもこれも、あんな夢を見た所為だ。
「俺はニコラを知れれば十分だけどな?」
そういって、アルヴィンもソファに座り、隣に居た私を引き寄せる。
肩を抱いたまま、ぽんぽんとあやすような手の置き方に非常に心地よさを覚えてしまって。
きっと、今なら。
忘れられるかもしれない。ありがとう。
いつでも近くにいるよ
(…ごめん…少し、寝る…よ……。)
(“教えてくれない”か。困ったご主人さまだこと。)
((…お互い様、じゃないの。))
[r e w r i t e]より
[さみしがりな君へ5のお題]:
いつでも近くにいるよ
BGM:シンジテミル/May'n