相互依存症



多分。それはきっと。
言葉で発するならば、



「なぁ、ニコラ。」
「はい?」



この男は何故、離れてしまうのだろうか。
私が彼に、不快な思いをさせてしまったのだろうか。

それすらも、言わない。なんて、



「なんで俺に構う訳?俺、裏切り者だぜ?」
「うん。なんでだろうね。」



自分で自分を傷つけるような言葉で言わないでよ。
ねぇ、アルヴィン。
アナタはどうして、いつもいつも。悲しい目をするの。



「また俺居なくなるかもよ?」

「そうだな…そしたら、その度に見つけては全力で殴ってあげるよ。」
「勘弁してくれよ…。」



一回だけ。
重ねに重ねた裏切りを清算するかのように、ニコラはこの男を思いっきり殴った。

何度も何度も殴って、仲間にも止められたけど暴走した思いは止まらなくて。
手に激痛が走りすぎて感覚がなくなるまで、殴っていた。
殴ったあとは、大泣きして目を酷く腫れさせた。

好きだったから、信じていたから。
なのに、裏切りによって何度もココロを傷つけられた。

だけど、何処かの片隅だけでよかったんだ。
アナタも、傷ついていればいいって。

でも、ごめんね。本当は、もっとアナタの方が傷ついていたんだよね。
知ったときに、涙が溢れかえって力強く抱きしめていた。
(普段だったら、絶対自分からなんてやらなかった。)



「でも、ね。ほんのすこしだけでもいいの。」
「?」

「アルヴィンの…本音が聴きたい。」



凛とした瞳で、彼の視線をぶつける。
誠は一厘で、残りの九分九厘は嘘のような男。

いや、捉え方によっては逆なのかもしれないけれど。
そんな彼に本音を聴きたいと願うのは、余りにも無謀な事なのだろうか。



「俺の言葉がすべて本当でなくてもか?」
「そうだな…。でも聴きたいの。知りたいの。」



何も知らないよりは、幾分にもマシだから。とニコラは笑ってみせた。
悲しい目をする理由を知りたくて、少しでも近づきたくて。

それすらも、裏切られるとわかっていても。



「だったら…契約、して?」
「?」



アルヴィンは首を傾げた。name1#はすっ、と手を差し出して。
契約との言葉に、アルヴィンにとっては意味があるか判らないけど。



「アナタの…アルヴィンのすべてを知る代わりに、私のすべてを捧げる。」
「それは…どういう意味かわかってんだよな?お嬢さん。」

「勿論だよ。命も、アナタのものしても構わない。」



すべて、というのは自分の命すらも。
そこまでしなければ、彼は本音を言ってはくれないだろうって思っていたから。




「それだけじゃ足りねぇな。」
「…は?」

「“ココ”も、だろ?」



とんとん、と指すのは心臓の位置。いや、命ではない。
もうひとつの、命。それは、ココロ。

何回も何度も傷つけられて、一度くらいは砕け散ったのではないかと思ったほどの。
酷く自分の心が脆く弱い存在であると思い知らされた。
それも、この男が教えてくれた事なのだけれど。



「そうね。ココロもアナタのものにしても構わない。
だから、すべてを教えてよ。」



痛みも悲しみも、すべて受け入れるから。ねぇ。
お互いに悲しみも痛みも全部全部頂戴よ。分け与えてよ。

それだけが、唯一のネガイなんだから。



「…くくっ、つくづく変わったお嬢さんだよ。ニコラは。」



そのときに浮かべた笑顔は、いつもの作ったかのような笑みではなくて。
ひどく穏やかな笑みを浮かべていた。

多分、それはきっと、依存。





相互依存症
(命だろうと、ココロだろうと。君に依存しているのは知ってたから)