電話と眼鏡越しの音声熱
あの事は、夢だったのではないかと思う。
だって、ただの願望が夢なら有り得たから。
でも、夢オチだとしても。顔を合わせられないよ。
(家近いしそんなの無理なんだけど…!!)
「……ユリウス、兄さん……。」
今はこうして、ひとり悶々と自室のベッドにボディをダイブ。
ダイブしても、思い浮かぶのは幼馴染の兄であるユリウスのこと。
弟の幼馴染として見てないだとか、お兄さんって呼び方を止めさせるだとか。
逃げようにも力強く抱きしめられたりとかして。
それで言われたとおりに呼んだら、……呼んだら……。
あぁもう思い出すだけで顔に火がつく勢いだ。思い出すだけでも顔が真っ赤。
あの時はいっぱいいっぱいだたけど、平常心がなかったのはハッキリ覚えてるぐらい。
それほどまでに、私にとっては異常なことだった。
情けないなぁ、ってつくづく思う。
いざ戦えば、私強いのに。…余り自分で言いたくないけど。
それなのに、アナタの言葉に振り回されてる。
「…夢、じゃ……ない、もんね……。」
うつ伏せにベッドに顔を埋めてたが、コロンと転がって天井を見上げるようにして手を伸ばす。
勿論、ベッドで仰向けの私に天井まで手は届かない。
ピピピ…!
「ッ!」
ひとり考え事をしてると、無機質なGHSが鳴る。
着信音は相変わらず、初期のままだが鳴った音からすれば、メールだった。
「メール…?…誰から、」
GHSを開いてメール画面を開けば、宛先は噂の彼。“ユリウス兄さん”の名前。
ユリウスからだった。
「!ユリウス、兄さん……。」
開くか否か少しだけ迷ったが、開くことにした。
ボタンを押せば、簡単な文章がふたつ。
“ニコラ、今は平気か?”
“これから会いに行ってもいいか?”
まるで、恋人相手のような文章。
恋人と思ってるのは自分だけなんじゃないのかと思ってしまう。
だけどその反面、その願望が真実であって欲しいとも思ってしまう。
――返信すべきか、否か。
――返信するって、なんて返す?
――イエス?ノー?
悶々と考えれば考えるほど、ドキドキしてしまう。
それはボタンすら押せないくらい。
そんな中で臆病な私が出した答えは『少し時間を置いてから考えよう』だった。
本当に、なんでこうも私は弱いのだろうと自己嫌悪に陥ってGHSを閉じようとする。
ナイスなタイミングで、電話の着信音が鳴り出す。
「…!!わわ…っ!」
急になって手放しそうになるGHSを反射で取って。
ついボタンを押して電話に出てしまうと、少し無言になって掛かってきた声の主。
ある意味会いたいようで会いたくない相手だった。
「……ニコラ?」
「!!ゆ、ユリウス……兄さん…。」
電話の主はついさっきメールを送ってきた張本人だった。
反射的に取ってしまったとはいえ、これはちょっと色々ヤバイ。
「ふふ、“兄さん”じゃないだろ?ニコラ。」
「!!」
どこか電話の向こう側で嬉しそうに笑うアナタ。
(嘘…なんで、こんな、急に…?)
「今平気か?」
「…う、うん…平気。…ちょっと、寝てたから…。」
嘘は言ってない。
実際今までベッドの中に沈んでいたんだし、今は平気なのも本当。
私の返信に、優しい声色が帰ってくる。
「そっか。」
「…で、どうか、したの…?ユリウス、兄さん…。」
「ん?あぁ、今ニコラの家の前に居るんだが…メール見てたかなって思ってちょっとな。」
「…え………?」
慌ててドアの方を向いてはバタバタとした足で玄関前まで走る。
確かにドアの向こうに気配がある。
マンションだし、音だってよく耳を澄ませば拾える。
「開けて貰ってもいいか?」
「…ぁ…、う、うん……。」
言われるがままにドアを開ければ、にこりと優しい笑みを浮かべるアナタの姿。
そしてそのまま部屋に入るアナタ。
よくよく考えたら、兄弟が遊びに来る以外でアナタだけ部屋に入れるのって、初めてだった気が……。
とか考えてると、アナタが私の腕をつかんではそのまま壁に追い込まれる。
トン、と優しくだけど壁に追い込まれれば自然と距離も近いためにユリウス兄さんの顔が近い。
「ッ!!?ユリウス…兄、さん?」
「ニコラ。」
先程とは違う、音。
先程とは違う、声。
先程とは違う、熱。
ユリウスの眼鏡越しだが何かが孕む眼差し。
その視線にニコラは、只々ドキドキするしかなかった。
扉には鍵が掛かってて、この先は二人にし知られてない。
電話と眼鏡越しの音声熱
(だから、“兄さん”じゃないだろ?)
(な、何か…変だよ……。)